002-053
練った奇策を躱されたダインであったが、その事を全く悔しがってはいなかった、むしろ自分の攻撃を読み切ったロベリエに驚き、賞賛を送っていた、そしてダインの悪い欲望に火が灯っていた、そう、ダインはロベリエが欲しくなっていたのだ。
ダイン 「今の攻撃を躱しましたか、あれで決まると思っていましたが」
ロベリエ 「だってダインさん直前に微笑んだじゃ無いですか、あの微笑みは悪い事考えてる人の顔でしたよ」
ダイン 「なるほど、通信盤で見た私の表情が危機を知らせた訳ですね、そういうところも注意すべきなんですね」
ロベリエ 「そこはマギガント戦の経験だと思います」
ダイン 「勉強になりました、で、どうします、このまま熱い抱擁を続けますか?」
ロベリエ 「まさか」
ロベリエのウウルは両手でダインのゾッフォを押すと、同時に後ろに大きく飛んで距離を取る、ダインもその隙に寄せた大槌を右の逆手で拾うと両手で構えて、何か仕掛ける準備に入った様だ。
ロベリエ 「また変な事考えてますね、変な笑みが漏れてますよ」
ダイン 「微笑んでいるのはロベリエも同じですよ、私同様に戦いを楽しんでますね」
この時ロベリエは、ダインに呼び捨てにされた事を嬉しく感じていた、ダインは呼び捨てにするぐらいに自分を好んでくれていると感じたからだ、そしてダインを好ましく思っているのはロベリエも同様で有った。
ロベリエ 「はい、ダインさんとの戦いは刺激に満ちていてとっても楽しいです、こんなに楽しい勝負は人生で初めてです、女性がダインさんの側に居たがる理由も少し解った気がします」
ダイン 「そう感じてくれるのは嬉しいですね、私も思い掛け無い邂逅でした、マギガントの通信盤は有意義ですね」
ロベリエ 「私もそう思います、エルルリーカは邪魔って言ってますけど」
実は、エルルリーカはまだウウル・ジーから降りる事が出来ておらず二人のやり取りを見聞きしているのだが、ロベリエは敢えて話題に出して自己の考えの正しさを証明したいのだ。
ダイン 「人生楽しまないと損しますからね、そしてこの楽しい一時もそろそろ終わりにしたいと思います」
ダインはゾッフォの左手に大槌を持つと、右腕に連結された綱の根元の結合部分を外す、すると分銅が付いた綱の端が垂れ下がって新しい武器へと変化する。
ロベリエ 「また新しい攻撃をして来るんですね、ダインさんは芸達者ですよ」
ダイン 「思い付いた事は試してみたくなるんですよ、私の国の武器を参考にして作ってみたんですけど、実際使うのは初めてですのでどうなるか解りませんよ」
その武器は、鎖鎌を参考にダインが産み出した武器だが、分銅を避けた敵に大槌を見舞う事を考えて作った物だ、そしてこの世界で出会った柔魔鋼という素材はダインに新しい攻撃の発想を与えていた。
ゾッフォの右手を器用に使って綱分銅を回転させるダインは、分銅を上手く投撃する事でロベリエを狙う。
ロベリエは上手くそれを躱すが、地面に弾かれた分銅は有り得ない角度で弾かれてロベリエに襲い掛かる、その変則的な攻撃を躱す事は不可能で、初めてダインの攻撃がロベリエを捉える。
だが、その攻撃は有効打とはならならなかった、分銅はウウルの右肩を捕らえらがその部分は鎧が厚めでフレームへの損傷は無い、だが、分銅の威力は高く厚めの鋼板が大きく凹んでいる。
ロベリエ 「何ですか今の攻撃、弾かれた先端が追い掛けて来ました」
ダイン 「この綱は魔鋼ですよ、魔力を使って普通と違う変化を与える事も可能なんですよ」
ロベリエ 「いいんですか、秘密バラしちゃって」
ダイン 「その方が楽しめますよね、私は奇策を好みますが楽しめる相手とは戦いを楽しみたいんです」
ダインは攻撃のネタばらしをしてくれたが、それにはちゃんと意図がある、遠隔攻撃を披露した事で、ロベリエの近接攻撃を誘発しているのだ、そして待ち受ける戦法はダインが得意としているのだ。
ロベリエ 「そう来ますか、確かに踏み込まなければ私が不利ですよね、でも、左の大槌が控えてますよね」
ダイン 「ご名答です、大槌は盾にもなりますし、打撃も可能ですよ」
ロベリエが自分が追い詰められている事を自覚していたが、全く悲観していなかった、むしろ強敵ダインとの邂逅は人生でもっとも有意義な時間を与えていたし、その相手が男性である事がロベリエに新しい道を教えてくれていたのだ。
ロベリエ思考 『ダインさんはなんて凄い人なんでしょう、この私が男に負けるなんて考えた事も無かったです、そして、私を倒した男性は私を従える器が有りますよね』
この思考はロベリエも全く考えていなかった事だ、ダインはロベリエを窮地に追い込んだ事でその心を掴む事に成功しつつあるのだ、そして最後の条件はダインの勝利に他ならない。
大きな呼吸で思考を整えたロベリエは決断を下す、自分の全てをダインにぶつけてみてその器を測るつもりなのだ、そしてこの決断の先の勝利など意識に無く、伴侶としてのダインを見極める事が最大の目的でも有る。
ダインにゾッフォの分銅が放たれた瞬間、ロベリエは最大限の低さでダインに迫る。
それに対応したダインは上から大槌を振り下すが、ロベリエが低さを求めた理由は腕を使って軌道を変化させる事に有った、地面に接した右腕が砕ける感触を感じながら大槌の一撃を避けたウウル・ジーは、両脚を上に踏み込んでゾッフォの腹部を狙う、この機体重量を乗せた体当たりならゾッフォ毎後方に吹き飛ばして勝利を掴み取る事が可能だろう。
渾身のロベリエの攻撃はゾッフォの腹部を捉えてそのまま跳ね飛ばす筈で有った、だが、ロベリエの思惑は外れて、攻撃が僅かに逸れてゾッフォの真芯を外していた、その結果、身を翻したゾッフォはウウルを受ける事無く持ち堪え、勢いを殺す事が不可能だったウウルは突き抜けて上体が地に落ちそうになる。
ロベリエは残された右腕を差し出して抵抗を試みるが分銅が変な軌道で右肩を直撃して軌道が変わり背面から地面へと激突してしまう。
その後、決着を知らせる銅鑼が鳴り響いて、闇に包まれた夜空を見つめながらロベリエは敗北を悟った。
ダイン 「大丈夫ですか、情熱的な抱擁を避けてしまって申し訳ありません」
ロベリエ 「はい、本来のウウルの戦いでは無かったですが、ああしないとダインさんには届かないと思ったんです、でも、最後の横からの一撃は読めませんでした」
ダイン 「普通ではあり得ない軌道ですからね、ですが私にはそれを可能とする技が有るんですよ」
ロベリエ 「異世界の技術というわけですね」
ダイン 「いえ、この世界の魔導技術ですよ、魔術には大きな可能性があって面白いですよ」
ロベリエ 「ダインさんは騎士だけで無く魔術士でも有るんですか?」
ダイン 「どうでしょうね、マギガントには乗ってますが正式な騎士ではありません、魔術士は魔術の行使が可能ならば魔術士なんでしょうか」
ロベリエ 「そういう考えも有りますが、普通はちゃんと修練を積んだ人ですね、魔術士ギルドの認定が有った筈です」
ダイン 「ならば私はどちらの資格も有りませんね、まぁ出来る事が重要だと思いますけど」
主審 「あの、そろそろ勝者の宣言を行いたいんですが」
ダイン 「すみませんね、ロベリエとは何かと気が合う様なんですよ」
主審 「お二人は変わってますからね、あんなに語り合いながら激しく戦った騎士は私も初めてです、ですが勝者の宣言の後でお願いします」
主審のゾッフォはダインのゾッフォの右手を高く掲げる、既に勝敗は明白なのだが改めての宣言に会場は歓声に包まれて止む事がない。
その後、ダインは自力でゾッフォを歩かせて裏手に戻るのだが、ロベリエとエルルリーカを交えて話す機会を得た、二人の今後を心配したダインは二人に有る提案を提示して別れる事となった。
ゾッフォを櫓に預けて機体から降りたダインを待っていたのは、ティアス、プルル、リレッタの三名で、先に戦い終えたラフェメは頭部に傷を負った為に治療を行っているらしい。
ティアス 「ハラハラする試合でした、相手のロベリエは中々の騎士でしたね」
ダイン 「はい、私が戦った騎士の中で頭一つ戦技が上だったと思います、リレッタは素直過ぎますからね」
リレッタ 「ダイン様の感想なら正しいんでしょうけど、なんだかモヤモヤしますわ」
ティアス 「確かにロベリエは強かったですね、以前のティアスじゃ勝てなかったと思います、今はポナリアの障壁で勝てると思いますけど、ゾッフォじゃ絶対無理ですね」
ダイン 「まぁ私もロベリエも楽しいひと時を過ごせました、ですがロベリエ達の今後が心配です、私に関わらなければ大成する騎士でしたでしょうに、ですからティアスも気を使って上げて下さい」
ティアス 「ダイン様の言葉なら出来る限りの事はして上げたいと思いますけど、先を越されそうで複雑な気分です」
ティアスはダインが二人を遊魔に加えようと考えていると思い、杞憂を口に出す。
ダイン 「私が囲うかは別にして、敵の優れた騎士を味方にする事は大きな利益が有るでしょう、私の居た国の戦国時代には調略と言って多く用いられてましたよ、まぁ根底の文化の違いはあるでしょうが」
ティアス 「土地有っての貴族の地位ですから余りそういう話は聞きませんね、ですが実力が有る騎士であれば土地を奪ばって貴族にもなれます、エディケスの二人ならばそれも可能でしょうがマギガントを用意してくれる勢力の後楯が必要ですよね、ですがダイン様はそれが可能ですよね」
リレッタ 「はい、今回の報酬についてはご希望通りのジノ・ゾッフォ二機で国元と話が付いています、王宮騎士団の二機をティアス派に移譲して、王宮騎士団には新しいジノを送る手筈になってます、ダイン様がエポポ・ゾッフォを出してくれるのならもっと良い条件も可能ですが」
ダイン 「リレッタまでその名前を使うんですか」
ティアス 「エディケスの声明で一気に広まりましたので、それにあのゾッフォの動きはエポポがピッタリなんですよ、跳ねないのに動きが速いとかエポポそのものです」
ダイン 「私はエポポを知りませんからよく解りませんが、エポポはマギガントの名前として可愛く有りませんか?」
プルル 「それは大丈夫ですよ、エポポは凶暴な事でも知られてますからね、一度噛み付いたら離してくれなくて、指を噛みちぎられたという話も聞いた事有ります、プルルの同僚にもエポポの噛み跡が有る娘もいますよ、あれ、王都の名物料理でも有りますからね、エディケスも祝勝会用に手配してたみたいです」
ダイン 「なるほど、私もエポポに興味が出て来ました、この世界のスッポンは見てみたいですね」
ティアス 「え、脱ぐんですか、ダイン様の命令なら従いますけど」
ティアスはスッポンという言葉に勘違いして妙な反応で返した、それは遊魔としてダインの美意識が反映され身体に自信を持った為でもある。
ダイン 「ああ、スッポンというのは私の世界の亀の名前です、ティアスの裸はいずれかの機会に堪能させて貰いますよ、で、生きたエポポは見れますかね」
プルル 「名物だけ有って王宮の池で飼ってますから大丈夫ですよ、でも、普段は潜ってますから捕まえるところを見せて貰いましょう」
リレッタ 「まさか生きたエポポに興味を示されるとは、ダイン様って変わってますよね」
ダイン 「私は生物が大好きなんですよ、何故そういう風に進化したのかを考えると新しい発想が産まれて来るんです」
プルル 「ダイン様は図鑑と歴史書がお好きでしたからね」
ダイン 「生きた実物を観察するのはもっと好きですよ、捕まえて食べるのにも興味有りますね」
ティアス 「捕まえた生き物を食べるんですか、毒とか有るかも知れませんよ」
ダイン 「それには裏技が有るんですよ、生を尻尾で食べて確認すればいいだけなんですよ、生物のDNAも採取出来て新しい遊魔を産み出す礎にもなるんですよ」
流石にダインも小声で話し掛ける、距離は離れているとはいえ、工房内には工員もたくさんいるからだ。
プルル 「という事は、ダイン様はイタチも捕まえて食べたんですか?」
ダイン 「流石に捕まえてはいませんね、私の世界の道には自動車という機械が往来していて、野生生物がよく轢かれて死んでいるんですよ、その死体の一部を尻尾に取り込んだだけで口で食した訳じゃ有りませんね」
ティアス 「よくは解りませんが、道に動物が死んでいる訳ですか怖い世界ですね」
ダイン 「はい、馬が引かない馬車が物凄い速度で往来している様な物ですから、人間だって被害に有ってますよ」
リレッタ 「まさかダイン様は人間も食しているのですか」
ダイン 「交わった牝の一部は取り込んでますよ、リッタを解析してプルルやティアスが産まれています、そして、新しく産まれ変わったプルルやティアスも解析して次の遊魔に生かされるんですよ」
遊魔達はダインの話を聴いて、その偉大さを改めて感じていた、遊魔の創造主たるダインは日々新しいモノを求めて理解して進歩しているのだ、そしてその進歩は眷属で有る遊魔達にも反映されて、遊魔という種族は日々進歩しているのだ。
おまけ
柔魔鋼と柔魔鋼 一般的に魔鋼と言えばマギガントのフレームに使われる、軽量で強度の高い金属の事だが、異なる性質を持つ魔鋼も存在している。
その中でも比較的よく用いられているのが柔魔鋼と重魔鋼で、柔魔鋼は柔らかい魔鋼で有る、魔鋼としての強度を持ち柔軟な金属でもある柔魔鋼は、マギガントの着る鎧を固定させる綱として多く用いられており、別段特別な物では無い。
ダインはこの柔魔鋼の綱を分銅を繋げる為に使い、相手の意表を突く武器として戦いに用いた。
もう一方の重魔鋼はとても重い魔鋼で、単に重量が重い訳では無く、金属自体で重力魔術が発動状態にある為に重い金属でもある。
通常重いだけの重魔鋼ではあるが、流す魔力によって引力や斥力を発動させる事が可能で、ダインはその能力を用いて新兵器の開発を模索していた為に武器の分銅として用いていた。