008-001
混沌大陸北部人類圏を新しい遊魔国家の候補地と定めてダインは本格的に行動を開始する、新たに遊魔に加えた面々を耳長屋敷の食堂に集めたダインは各々の今日からやるべき事を指示していく。
第一班はダイン自ら指揮するディーラル王国攻略班で、ダインと三天人と言われる耳長遊魔三名がメンバーだ、人材を確保しつつ戦力を増強し、ディーラルに工作を行う事が仕事で、三天人は早速王城に途上してダインに嫁ぐ事を宣言して、ディーラル支配層を混乱に貶める算段だ。
第二班は北部の守護者の対策班でリリルカとレ・ミュウがこの任に当たる、実際の交渉役はリリルカでレ・ミュウは護衛という立場だ。
第三班の任務はユーマ共栄国との接触を行う事で、可能で有ればユーマ共栄国の戦力をディーラルに派兵させる事が目的で、これにはメファティが任に当たる。
ダイン 「私達以外は如何なる危険があるか解りませんので注意して下さい、リリルカは私への報告を十分に行って下さい」
リリルカ 「はい、未知の存在と交渉する栄誉を与えて頂き感謝します」
ダイン 「メティはくれぐれも無理はしない様に、特に砂漠の先の地域には何が潜んでいるか解りませんので立ち入らないで下さい」
メファティ 「心しております、必ずやお味方を連れ帰りましょう」
ダイン 「期待してますよ」
リリルカ 「ダイン様、これがリリルカが知る遊魔候補のリストです、僅か数名ですがお役立て下さい」
ダイン 「ありがたく思います、ディセルト達三人は王城を頼みます、私は王都を散策して遊魔候補を探しますから」
ディセルト 「ルトが王城で候補を探しても良いですよね、今地位がある女性の方が色々やり易いと思いますので」
ダイン 「勿論です、適任の王族などが居た方が良いですね、確か心当たりがあると聞きましたが・・・」
ディーティル 「歳の離れた王妹が立場と美しさで候補です、ですが処女かは解りません」
ディーティエ 「余計な虫が付いてなければいいんですが・・・女としても遊魔以上の幸せなど考えられませんし」
ダイン 「まぁ他の王族も物色してみて下さい、私は街の方を探してみます、情報伝達効果の高い者から探してみます、以前薬師を遊魔にして成功しましたからね」
ディセルト 「確かに腕の良い薬師は人々から信頼されてますけど、技量を持つ者は年齢も重ねてますよ」
ダイン 「確かにツェリは人類大陸だからこそ存在し得たのかも知れません、男性優位のここの社会で影響力の有る女性を探すのは苦労しそうですね」
リリルカ 「リリルカは馴染み有りませんが、女性だけの集まりも有りますよ、針子組合なんか特に強い力が有るそうです」
ダイン 「針子とは個々の商店に雇われるものじゃ無いんですか?」
メファティ 「ディーラルでは服は重要な財産ですから・・・冬に寒く無くて綺麗な服の作り方って女系の一族で受け継がれているんですよ、あの分野だけは男性の力が及んでませんね」
ダイン 「それは良い突破口かも知れません、幸い南部で狩って来た珍しく毛皮も有りましたね」
メファティ 「あの縞々の毛皮とかですね、あれは高値が付くと思います、あんなの見た事有りませんから」
ダインは良い情報を手に入れて上機嫌だ、実際針子組合がどういう組織なのかは解らないが、優れた技術を持つ者は遊魔の利益となるのは間違いない。
ダイン 「では、行動に移りましょうか、メファティとリリルカは特に気を付けて行動して下さい」
ダインの言葉で話し合いが終わると各々が自分のやるべき事を始める。
ダインは暫く会えなくなるメファティを伴って街へ繰り出すと、その城門の外までメファティを送る。
ダイン 「私直筆の手紙をレブナン島の遊魔に渡して下さい、私の国の文字で記述してますので私が書いた物だと解る筈です」
メファティ 「解りました、では行きますね、ダイン様も街にお戻り下さい、見送られる方が辛いですから」
ダイン 「なら、そうします、次に会える日を楽しみにしてますよ」
メファティ 「はい、必ずや任を全うして此処に戻って来ます」
別れの言葉を交わして、ダインとメファティは各々の目的地に向かって歩み始める。
実はメファティはこの旅に胸躍っており、王都に留まるダインの方がメファティの旅を不安を感じているのだ、だが、ダインも振り返る事無くメファティを送り出して、自身は教えて貰った針子組合を目指して歩き出す。
一方その頃、耳長屋敷では王城からの迎えの馬車が到着していた、耳長三人が揃って王城に登城するなど数年ぶりで、突然起こった不可解な出来事にディーラル王城では様々な憶測が飛び交っている。
そして数時間後、会談のテーブルに着いたディーラル現国王ヒーソフは想定した最悪な事態が進行している事に心を痛めていた。
ヒーソフ 「その話は本当なのですか、賢人様は昨日御屋敷に入られたと聞いておりますが・・・」
ディセルト 「なまじ齢を重ねると、人の本質は直ぐに見抜けるモノなのです、ダイン様の勝る男性など、この世の何処を探しても居るとは思えませんね」
ヒーソフ 「ですが御三方は人間など相手にせぬと」
にわかに信じられないヒーソフは再び尋ねてみる。
ディーティエ 「確かにこの国の男ならそうでしょうね、ですがダイン様は既にレ・ミュウさんに認められてます、私達がそれに続いてもおかしくは無いでしょう」
ヒーソフ 「では、予言が実現したという事ですか・・・」
ディセルト 「この国を欲するかはダイン様の意思によります、ですが現状を考えると民はダイン様を望むかも知れませんね」
王族の権力が衰えているディーラルでは地方豪族の小競り合いが後を経たない、中央王権ではそれらを完全に抑えるに至っておらず、むしろ各王族の思惑と相まって激化しているという意見も有るぐらいだ。
ヒーソフ 「確かに人としても魅力は有る様ですが、素直に従う者など殆どいないでしょうな」
ヒーソフも三天人を立ててダインに敵意を表す事は無い、だが、内心では不安で爆発しそうでもある。
ディセルト 「私達は今後ダイン様に付き従うだけです、立ちはだかる者には容赦しません、予言など当てにはしませんがダイン様は既に王なのですよ」
ヒーソフはディセルトの言葉の意味が解らない、王など自分と伝承の地の王ぐらいしか聞いた事がないのだ。
ヒーソフ 「ダイン殿が伝承の地の王なのでしょうか?」
ディセルト 「それではかつて私達が戦った事が無意味でしょう、ダイン様は海を越えた先に有る国の王なのです、私達も昨日その存在を知ったばかりですが、揺るがない確証を抱いています」
ヒーソフ 「海を越えた先の国の王とは、天人様達の同胞の国の王という事ですか?」
ディセルト 「いえ、耳長の同胞達の国では無く、人の国の王だと聞き及んでおります、そしてその国には私達が失った翼を多く持つとも」
ヒーソフ 「人が天人様の力を持つのですか・・・信じられません」
ディセルト 「いずれそれは解るとダイン様は仰ってました、私としては無駄な抵抗などしない事をお勧めします、幾ら武勇に優れようとも人ではクフィカールに勝てません」
ヒーソフ 「伝承では空飛ぶ天人様の巨人兵の事は伝えられておりますが・・・」
ディセルト 「その巨人兵クフィカールもダイン様が直してくれると言ってくれてますから・・・それを見れば服従する事の正しさを理解して貰えるでしょう、ですが、ダイン様は愚か者には容赦しないと思いますよ」
ディセルトの言葉にヒーソフは背筋を凍らせるが、同時にディーラルの支配層が従わない事も認識している。
ヒーソフ 「なら、天人様達は王都から引き払って貰った方が賢明ですね、情け無い話ですが私に豪族達は抑えられません、そして彼等は短絡的ですから根本の排除を企むでしょうな」
ディーティエ 「確かにそうなるでしょう、ですが行動を遅らせる事は可能ですよね、ヒーソフ王が先ず口を噤めばいいだけです」
ヒーソフ 「我々しかいない今の状況では有効でしょうが、時間が解決する類でもありますまい」
ディセルト 「そうでは有りませんよ、ダイン様は自らの軍勢を手配されましたから、嘘か真かはその目で確認するしか有りませんが、空を飛ぶ船もお持ちだとか・・・そういった物を見せられればこちらに服従したい者達も現れるでしょう」
ヒーソフ 「では何故、私に内密に事を進めなかったのですか、軍勢の到着と共に宣言すれば良かったでしょうに・・・」
ディセルト 「それは私達のヒーソフ王に対するけじめです、良くして下さった方に真実を隠しては友好関係の維持は難しいですよね」
ヒーソフ 「その言葉だと私は新しい国でそれなりの立場を得られるという事ですか?」
ディセルト 「ダイン様は有能な人物を排除するつもりは有りません、ですがこの国には権力から排除されるべき者も多いという事です」
ディセルトの言葉にヒーソフは安堵していた、自分が上に立つ器で無い事は十分に承知しており、各勢力の調整役としての能力に優れているからこそ持ち上げられている事も理解している、もっとも王族の中には実力を伴った王位を模索している者も存在しているが。
ヒーソフ 「このタイミングで三天人様が登城された事にいろいろな憶測が伴っております、それらしい理由を考えた方が良さそうですね」
ディセルト 「なら地の王に動き有りとでもしておきましょう、南方砂漠を越えたと伝わるダイン様の情報としては信憑性が有りますから」
ヒーソフ 「それはそれで各勢力の動きを刺激しそうですが・・・ですが天人様への期待が高まるのは確かですね」
ディーティル 「ダイン様もクフィカールの修理をすると言ってますので、好都合です王城の飾りも返して貰いますね」
ディーラル王城にも動かないクフィカールが飾られており、ダインはその機体も修理するつもりらしい。
ディーティエ 「アレを持ち出すだけで説得力が出ますからね、そしてダイン様が害される可能性も減りますし」
ディセルト 「適当に考えたんですけど、いろいろ行けそうですね、何よりダイン様の御身の安全が保証されるところがいいですね」
ヒーソフ 「全てを計算された上での言葉では無かったのですね」
ディセルト 「私達にとっても急な事だったんです、策を練らずに訪問した意味を十分に理解して欲しいですね」
ヒーソフはディセルトの言葉の正直さに感銘を受けた様だ、幾らこの国の王とはいっても、生ける古の英雄を前にしては尊敬が勝るのだ。
ヒーソフ 「ありがたいお言葉です、その信頼に応えられる様に全力を尽くします」
ディセルト 「よろしく頼みますね、ダイン様は恩を忘れないお方ですので必ずや報われる事でしょう」
今後の方針が示された会談は遊魔にとって益の有るものであった、ディセルトの読み通りヒーソフは協力的な様で、ダインの行いは黙認どころか現国王の支援まで受けられるだろう。
地の王に対するディーラルの警戒心は百年以上経過した現在でも強く残っている様で、その侵攻の兆候が伝えられれば協力的になるのは道理だ。
そして、耳長の三人は早々に王城を後にする、国王であるヒーソフだけと接する事によって、ヒーソフ王の権力基盤を強固にしたいのだ、実はディーラル支配層内部では好ましく無い動きも噂されており、三天人が認めているのはヒーソフ王のみだという印象を与える為である。
ディセルト 「二人が居て助かりました、良い口実を思い付きましたよね」
ディーティエ 「どうでしょう、あながち嘘だとも言えないと思います、ディーラルの勢力の中には地の王と通じている者もいるでしょうから、昔しの大戦のおりにこちらの動きが露見してと思われる事が何度も有りましたから」
ディセルト 「確かにダイン様の存在が知れ渡ればなんらかの動きが考えられますね、増援が間に合えばいいんですが・・・」
ディーティル 「岩喰い達が姿を見せればダイン様は負けないと思います、マギメイルもマギガマイナーも乗ってるのは処女ですから」
ディーティエ 「幾らダイン様でも殻を剥かないと駄目でしょう?」
ディーティル 「何時も殻を着けてるわけじゃないですよね、生身同士でダイン様の敗北なんて想像出来ませんけど・・・なにせ魔龍でも遊魔にしちゃってますから」
ディセルト 「まぁ地の王は仮定の話ですよ、確かにティの言葉には説得力が有りますが、ルト達は出来る事をやるだけです」
ディーティル 「ダイン様は何をするか読めないですからね、屋敷に帰ると処女を何人か連れ込んでそうです」
ディーティエ 「流石に尻尾は一本なので一人でしょう」
三天人は大袈裟にダインの行動を予測して微笑んでいたが、実際のダインは彼女等が盛った以上の事をこの時既に計画していた。
ディーラルを遊魔の国にすると決めたダインの行動力は、かなり大袈裟な三天人の予測よりも上を行っていたのだ。
おまけ
ディーラル王国の優位性 ダインがディーラル王国を乗っ取って遊魔国家建設を企む背景には、ディーラル王国が混沌大陸唯一の人間国家である事が大きい。
ダインは人類大陸でユーマ共栄国を建国したが、他の人類国家の干渉を受けて思い通りの行動が出来ていない、ユーマ共栄国は高い技術力を有しているが、その技術力も魔鋼がないと上手く使う事ができずにいる。
その点、ディーラル王国には地の王が狙う程の魔鋼鉱山の存在が予想され、廃棄マギマイナーの所在を掴めた事から、鉱山開発も人類大陸よりも容易に行えると思える、何より他の人間国家の干渉が無い事が一番の利点で、ディーラルを掌握したダインはやりたい放題出来るとの期待を抱いている。
また、安定した遊魔国家の存続の為にはアーグル世界の探索は必要不可欠で、混沌大陸に存在するディーラルは探索拠点としても適している、そして何よりディーラルには古代文明の遺跡も存在しており、ダインの探究心も満足させている。