嫉妬と本能

  「っ……」

  何だ、この重苦しい空気は。

  家に帰ると、千秋さんが笑って出迎えてくれたんだけど…

  この重さは、、俺が嘘ついて塾サボった時並み…。

  なんか怒られる事したっけ…。

  普通に怖い…💦

  「…ぁの、、千秋さん…」

  「ん?」

  「怖いです……」

  「?何が?」

  無意識なの?それとも分かってんだろ自分で言え的なヤツ!?

  怖いよぉ、Glare出てるよぉ。

  「ぁ、の……教えて頂けると…」

  「…?どうしたの?」

  いや、こっちの台詞!

  帰って来ていきなり混乱させられる身にもなって!?

  「……怒、ってますか…?」

  「……嫉妬、かな」

  嫉妬、嫉妬かぁ。

  ……は!?

  「なっぇ?は?」

  「ハハ、面白い笑」

  いやいやいや笑い事じゃないよ。

  千秋さんが嫉妬?

  いつも優しくて滅多に怒らない千秋さんが?

  分からない…。

  何に対して?

  「……ぇ、あの…」

  「…今日一緒に帰ってた子と、距離近くなかった?」

  ……あー、宮崎かな。

  「彼は友達?」

  「…はい、仲の良いクラスメイトです」

  「……」

  「……」

  気まず…。何か言ってよ。

  ぁーでも宮崎距離近いかもなー。

  あんま意識してなかったけど、千秋さんからしたら防衛本能働きかけるのかも。

  守らなきゃって思っちゃったのかもな。

  申し訳ないな…。

  「すいませんでした。心配、掛けちゃって…」

  「…いや、こっちこそ、帰って来て早々ごめんね」

  千秋さんが謝った事で、部屋の空気が軽くなり、その件はそれで終わったように思えた。

  ─2日後。

  …何でこーなった…。

  俺の横に座る千秋さんと、正面の床に正座する宮崎を見て、俺は途方に暮れていた。

  あの後千秋さんはご機嫌で、Playもして一緒に寝れて、俺も幸せだったんだけど…。

  次の日のお風呂で、千秋さんが言ったんだ。

  「その、宮崎って子連れて来てくれない?」

  その時こそ嘘の時と同じ顔で、微笑みながらも目は笑ってない表情で俺を見つめた。

  断れない状況だし、何より風呂だし、断ったら沈められそう。

  という理由で、宮崎を家に呼ぶことになった。

  宮崎はそういうことに慣れているのか、大して驚かず、普通に付いてきた。

  だが…家に入れば分かる、肌が粟立つ感覚。

  半ば怯えながら宮崎を千秋さんの元へ連れて行くと、千秋さんは営業スマイルで宮崎を迎えた。

  「初めまして。千秋です。」

  簡潔な自己紹介の後に、千秋さんは少し話があると言い、俺達をリビングに案内した。

  そして何故か今に至る。

  何で宮崎が床なんだ…。

  気まずい…。

  先に沈黙を破ったのは千秋さんだった。

  「…宮崎君、だっけ。」

  「っはい」

  「君は、Dom?何ランク?」

  「そう、です。Bで…」

  宮崎は千秋さんのGlareに話しにくそうに答える。

  「…法律で、パートナーのいるSubに単体の他のDomが近付いちゃいけないの知ってる?」

  「ぇっ」

  「え」

  何だその法律。

  俺も今知ったんだけど。

  「…し、知らなかったです」

  「そもそも、貴和にパートナーがいるって理解してた?」

  「ぁ、それは、首のネックレス、で…てか、タカが俺に、話してくれて…」

  「……そう」

  千秋さんは静かに答える。

  その静かさが、逆に宮崎に恐怖を与えているが…。

  「…貴和に、不用意に近付かないでくれる?

  無防備だから、狙いやすいのは分かるけど。」

  「なっ…酷くないですか。」

  「事実でしょ。」

  「…分かりました。明日から、別々の登校で。」

  「宮崎…」

  「ご心配お掛けして、申し訳ありませんでした。」

  「……話は以上だよ。貴和、仕事に戻るね。」

  「っ千秋さん」

  これは…酷くないか。

  だって、宮崎は俺のクラスメイトだ。

  俺の友人でもある。

  なのにそれを無理矢理…。

  「待てよ宮崎。ごめん…千秋さんが…」

  「いいんだ。お前、愛されてるよ。

  学校とかでも、なるべく距離置こう。」

  「っ……そ、んな…」

  「…お前の友達辞めた訳じゃねぇからな。

  また話そうな。じゃ。」

  「み、宮崎…」

  バタン。

  ドアの向こうに消えた宮崎に、俺は何を思えばいいのか。

  モヤモヤしたままぼーっとしていたら、いつの間にか6時を過ぎていた。

  「…」

  千秋さんに声を掛ける気にもなれず、俺一人食事を摂る。

  また暫くして、俺は千秋さんの書斎のドアをノックした。

  コンコン。

  「……どうぞ。」

  幾分か柔らかい千秋さんの声音に、ほっとすると同時に怒りが湧く。

  「どうしたの?貴和」

  「…宮崎に、あそこまで言わせる必要あったの」

  イライラして敬語も忘れている俺に、千秋さんは少し眉をしかめる。

  何でそんな顔をするのか、されなきゃいけないのか分からず、更にイライラしてしまう。

  「何でそんな顔されなきゃいけないの?

  千秋さんがあんな風に脅すから、明日から一人で登校なんだけど。」

  俺の言葉に、千秋さんは静かに立ち上がり、俺の目の前に歩いて来て止まる。

  「っ…」

  パーソナルスペースに入られたことで居心地が悪く感じ、下がろうとした俺は千秋さんに両手首を掴まれ、頭の上で固定された。

  「っ…千秋さ…「貴和が他の男に触られて、黙って見てろって言うの?」

  「は……?」

  「宮崎って男、貴和の事気に入ってるよ。

  私が近付くなと警告した時、眼の奥が睨んでた。

  彼も所詮はDomだし、一人の男だよ。

  貴和は自分の美しさを自覚しなさすぎ。」

  「っどういう…」

  「宮崎の前で、虐めて見せ付けてあげても良かったけど、恥ずかしいだろうから我慢したの。

  見せ付けた方が分かるからね、相手は。

  どれだけSubがDomに溺愛されているかを。」

  そう言って千秋さんは、制服のシャツの上から俺の乳首を舐めた。

  「っん……」

  小さく声を漏らす俺に、千秋さんは嬉しそうに視線を向ける。

  これが嫉妬か。

  まるで子供だ。

  恥ずかしいと思わないのか。

  どこかでそう思いながらも、千秋さんの愛撫にちゃんと感じ、声を出し、虐められることにSubの本能で悦びを覚えてしまう俺は、千秋さんにお似合いだと思った。

  「は、ぁ……んんっ…」

  シャツ越しだけど、指で摘まれたり、ピンッと弾かれたり、くるくると円を描くように愛撫されたり、軽く噛まれたりする度に、俺の身体はビクリと反応する。

  静かな書斎に俺の声だけが響いて、恥ずかしさに顔が熱くなる。

  でもきっと、顔の火照りは恥じらいだけじゃない。

  俺の胸の、更に奥底で、Subとしての本能が悦んでいる。

  千秋さんの熱を持つ瞳に捉えられ、こうやって、嫉妬心から虐められる事に、悦んでいる。

  「ぁあ……!」

  一際強く噛まれた時、ビクンと腰が跳ね、力が抜けた。

  「…フフ、気持ちいい?」

  「っ……みや、ざきは…」

  「…その口から、他の男の名前出さないで」

  千秋さんの低い声に、俺は首を竦める。

  だけど…「わ、るいやつ、じゃ…」

  「…言うこと聞けないんだー」

  名前、出てないのに…理不尽…。

  「貴和、“Kneel”」

  「ひ、ぁ…」

  ガクンと膝が折れる。

  Glareに支配されたままのCommand。

  身体の奥が疼く。

  もどかしい。

  「はっん……」

  “Kneel”は、俺が大好きなCommand。

  わざわざ使うのは、お仕置き前のアメだろうか…。

  「っぁ……」

  千秋さん…千秋さん…。

  「フフ、物欲しそうな顔をして。

  アイツにも、そんな顔したの?」

  「そ、な訳……っな……んっふ……」

  言い訳する間も与えられず、グズグズに溶かされていく。

  おかしくなっちゃう…。

  「…お仕置き、だよ。」

  あ、あぁ……。

  意地悪くつり上がった口角に、俺の身体がふるりと震えた。

  パン!

  「ひゃん!」

  バチン!パァン!

  「ぃ……や、ぁ…」

  パシン!バチィン!

  「ぃだぃ……や、らっ」

  どんなに身を捩っても、逃がしてくれない。

  お尻が燃えたように熱い。

  「ごぇ、さ……ごめ、なさぃ……」

  必死に千秋さんの膝にしがみつく。

  「フフ、可愛いお尻。

  桃のようだね。

  こんな風に、あの子にもお尻を振ったの?」

  バチィン!パン!

  「っぅ"…あぁ"……ち、が……」

  「そう、良かった。」

  パァン!バチン!

  「っひ……うぅ"っ……」

  バチィン!パァン!!

  「あぁ"あ"っもう、やらぁあ!」

  きつい平手打ちに堪らず身を捩って逃げ出そうともがくと、咎めるように太ももを叩かれる。

  お尻を庇おうと回した手は背中に縫い付けられ、暴れたせいか息が上がる。

  「っも、許してぇっ……」

  泣きじゃくってそう叫んでも、千秋さんは冷たい笑みを浮かべたまま平手を振り下ろした。

  「っう…ごべ、なざ……も、、」

  苦しい。

  物理的にもう無理。

  お尻、、壊れる…。

  てかなんなら吐きそう…。

  咳き込みすぎて…。

  「…反省出来た?」

  そんな言葉と共に抱き上げ、膝の上に乗せられる。

  「っひ…ひっく…で、でき、た…!した、から…だからっ」

  もう叩かれたくなくて、必死にしゃくり上げながら言うと、千秋さんはちょっと笑った。

  その瞳は、いつも通りの優しい瞳だった。

  「うん、分かった。

  …あんまり他の男とイチャイチャしないでね?」

  「っひ…ぅ、ん…うんっ」

  首を振って頷くと、千秋さんは優しく笑って、いっぱい頭を撫でてくれた。

  「よしよし。

  痛かったね、怖かったね。

  もうペンしないからね。

  良い子良い子。」

  それが嬉しくて、俺は千秋さんの首元に顔を埋めた。

  「っぅ……わぁああぁんっ……ぃ、たかった……怖かっ、たぁあ!」

  「うんうん。

  良い子になれたね。」

  トントンと背中を叩くリズムに、段々と瞼が重くなってくる。

  「っひっく……ちあ、きさ……」

  「うん?」

  「んぅっひっく、ひっく……ね、るまでっ」

  「うん」

  「そばに、いて…?」

  「フフ、もちろん。

  お仕置き頑張った貴和には、そのくらいのご褒美あげなきゃね?」

  「っん(コクン)」

  俺は小さく頷くと、千秋さんのワイシャツの袖を握ったまま、眠りに落ちた。

  夢の中で、沢山の男や友人に会った。

  けれど、どこかしっくり来ない。

  歩いていって辿り着いた場所に、千秋さんがいた。

  周りの多くの顔に惑わされることも無く、何度も追いかけたその背中に、俺は勢いよく抱きついた。

  『どうしたの?貴和。』

  不思議そうにする千秋さんに、俺は何も言わずしがみついていた。

  気が付けば周りの知り合いも友人も男達も消え、白い世界に二人きり。

  あぁ、ずっとこのままでいられたなら。

  そんな願いが叶うはずもなく、周りがぼやけて、消えていった。

  「…かず、貴和。」

  千秋さんの声に、俺は重い瞼を上げた。

  「…ち……」

  声が掠れすぎて出ない…。

  「昨日散々泣いたもんね💦」

  千秋さんは焦ったようによく冷えた水を入れてくれた。

  「…千秋さん、」

  「うん?」

  「……っこ」

  「ん?」

  「……抱っこ…」

  恥ずかしいから小さい声でそう言って、控えめに手を伸ばせば、千秋さんは嬉しそうに俺を抱き上げた。

  「っぃた!」

  お尻が痛み、慌てて腰を浮かせようとする。

  「ちょ、貴和暴れないで…」

  「っだって…お尻…」

  「冷やしてあげるから」

  ね?そう微笑まれて、大人しくする。

  お尻にクリームを塗られて、湿布を貼ってもらって抱き上げられる。

  「……」

  「フフ、甘えんぼさん」

  ぎゅっと首にしがみつく俺に、千秋さんは嬉しそうに言った。

  「…千秋さん、」

  「なぁに〜?」

  「……大好き」

  俺の言葉に、千秋さんは一瞬固まった後、嬉々として俺にCommandを出した。

  「っ〜!貴和、“Kiss”」

  「っん……ふぁ……」

  「ちゅっ………」

  深く、甘いキスに、俺が蕩けそうになりながら聞いたのは、決して幻聴ではない。

  「私も大好き♡」

  END