夢の中

  「…夢を、見ていたんです。

  貴方と、笑っている夢を…」

  俺と千秋さんは、草原にいた。

  周囲は木に囲まれていて、木は4色に分かれていた。

  1つはピンク。春を表す色だ。

  もう1つは緑。夏を表す。

  もう1つはオレンジ。秋の象徴。

  最後の木は葉がついていなかった。冬である証。

  四季の木々に囲まれた中央の広い草原で、俺と千秋さんは笑っていた。

  何かをしている訳でもない。

  そこではお腹も空かないし、喉も乾かない。

  何かをしたいという欲求がない、不思議な空間。

  そんな場所で、俺と千秋さんは笑っていた。

  ただただ抱き合って、肩を寄せて座り、額を擦り寄せて、幸せを感じていた。

  それだけを、感じていた。

  ずっとこのままでいたいと、俺はそう思った。

  その瞬間、端から景色が消えて、やがて俺の横にいる千秋さんも、戸惑った表情のまま消えてしまった。

  俺は混乱し、焦った。

  『千秋さん!千秋さん!』

  『どこ!?どこにいるの!?』

  探していると、遠くで、俺の名前を呼ぶ声が聞こえた気がした。

  何故だか無視出来なくて振り返ると、そこには、俺の大切な人達がいた。

  五年前に事故で死んだレイラさん。

  四年前に、自殺した妹。

  つい最近戦死した、フランスの仲間達。

  俺が硬直していると、今度はまた反対から、探し求めていた声が聞こえた。

  『…貴和。』

  大好きな、千秋さんの声。

  忘れもしない、愛する人の声。

  俺は千秋さんの方へ行こうとした。

  すると、今まで微動だにしなかった、死んだ彼らが、切なそうに、寂しそうに、悲しそうに俺を呼んだ。

  『…貴和』

  『お兄ちゃん』

  『エリック』

  嫌だ。やめてくれ。

  俺は、惑わされない。

  惑わされちゃいけない。

  惑わされたくない!

  戻らなきゃ。千秋さんの元に。

  だって、今大切なのは、彼との関係なんだから。

  〔本当にそうか?〕

  …ぇ、?

  〔お前が大切にすべきなのは、本当にそっちか?〕

  何、言ってるの。

  分からない。分からない、

  だって、、千秋さんを愛してる…。

  〔だから?あいつらには、もう会えないんだぞ?

  ここでしか、会えない。

  目が覚めれば、消えてしまう儚い存在だ。〕

  っ…。

  だけ、ど……俺、は……

  〔レイラは、かつてのお前の大切な恋人だった。

  ソラは、お前の唯一の、大事な大事な妹だ。

  軍学校の仲間達は?大切ではないか。

  やつらが死のうと、どうでもいいか?〕

  やめろ!侮辱するな!!

  あいつらは、死を持って戦争の残酷さを伝えたんだ!

  俺の大切な仲間を、馬鹿にするな!

  〔そこまで大切で、何故切り捨てる?

  なぜ手を離す。

  握って行けばお前は、ずっとやつらと居られるんだぞ?〕

  っ分かってる…!

  だけどそうしたら、千秋さんが今度は一人になる!

  〔ほう。葛藤か。

  ガキらしい。だが、よく聞け。

  その回らん、混乱しきった脳を回転させてよく考えろ。

  どちらが大切で、どちらが優先か。〕

  し、らない。、分からない!

  分かるもんか!

  〔…分かるさ。お前ならば、必ずな。〕

  っうるさい!

  何も知らない癖に、知ったような口を聞くな!

  〔何も知らない、だと?

  ふん、ガキめ。

  俺は全て知っている。

  お前の身に起こったことも、お前の周囲に起きたことも、全てをな。〕

  要らないんだよ!

  余計な詮索するな。

  踏み込むな入って来るな!

  …後悔するぞ。

  〔ふ、はは。

  後悔な。

  もうしてる。

  この身に生まれた時から今まで、ずっとな。

  そしてそれはこれからも変わらない。

  俺の存在が塵のように消えてなくなるまで、この気持ちは続く。

  だけどな、前世、いや、もっと前か。

  俺はろくな生き方をしなかった。

  全てを無駄にした。

  人の好意も、差し伸べられた手も、全てを振り払い、行き着いた先は死だった。〕

  …俺は、、大事な人と……

  〔それが誰かと聞いている。

  学習能力が無いな、ガキ。

  お前にとって大切な人は、誰だ。

  優先すべきは、本当にあやつか?〕

  …話し方、独特だな。

  俺は、千秋さん以外を愛さない。

  〔ほう?ではレイラは愛していないと言うか。〕

  っ違う…!

  な、いや、違っ

  〔ふっはは!

  からかいがいのある。

  落ち着け。

  …お前があやつを選ぶ。

  その意味を、お前は本当に理解しているか?〕

  …あぁ。

  俺は、今はまだ生きることを諦めてない。

  だから、千秋さんの手を取る。

  何度転んでも、千秋さんが手を伸ばしてくれるなら、俺はその手を取り続ける。

  それが共に生きるってことだ。

  千秋さんの為なら、俺は命を賭けられる。

  それが、俺の覚悟だ。

  〔…何の、覚悟だ。〕

  …亡くなった大切な人を、此処に置いていく覚悟だ。

  …愛する人の手を取って生きる、覚悟だ。

  〔…もしも生きるのが嫌になったら、また会ってやろう。

  暫しの別れだ。

  せいぜい、この世界の醜さに絶望し、苦しみ足掻くが良い。

  俺はそれを、天から笑って見ていてやろう。〕

  性格悪いな。

  …アンタ、誰なんだ。

  〔…お前の、心だ。〕

  …なら何故天から。

  〔…鈍いのう。

  …私はお前の心だが、神だ。〕

  …訳分かんない。

  でも、もう行くよ。

  千秋さんが心配するから。

  〔なら、最後に伝えていけ。

  今まで溜めておいたのだろう?

  そいつらは、ずっと待っていた。

  お前が会いに来るのを。〕

  ……そっか、。

  ………レイラ、さん。

  目の前でこんな、残酷なこと言ってごめんなさい。

  だけど、レイラさんの事、愛してなかった訳じゃないよ。

  ちゃんと愛してた。

  好きだった。

  ずっと、ずっと一緒にいたいって、、そう、思ってたのに……っっ何で!何で逝っちゃったの!?

  一人にっしないでって言ったのに…っ!

  愛してたのに!

  好きだったのにっこんなの、、こんなの残酷すぎだよ!!

  ……ごめんね、ずっと心に遺しておけなくて……

  ごめんね、、新しい人見つけて……俺だけ幸せになった…。

  ごめんなさい…ごめんなさい、レイラさん……。

  あの時…俺がスマホなんて出さなかったらっレイラさんが俺を庇って死ぬ事なんて、なかったんだ。

  俺のせいなんだ…俺のせいで貴女は……

  本当に……ごめんなさい……。

  『…貴和…。

  貴方が生きていて、私は本当に良かったと思っているの。

  貴方を助けられて良かったと。

  あの時貴方にはまだ人生があった。

  私は、ある程度の経験はしてきていたから。

  何より、貴方を愛していたの。

  愛していたから、庇ったの。

  これさえもね、貴和。

  運命だったのよ。

  クス、ロマンチックすぎるかしら?

  だけれどね、運命だったの。

  貴方が幸せだと知って、安心したわ。

  貴方が新しい人を愛せたことは、決して残酷なんかじゃない。

  むしろ喜ばしいことなのよ。

  何時までも私を心に遺して先に進めないのは、私が望まないことだから。

  貴方が前を向けて、新しい幸せを、自分の居場所を作れて嬉しいわ。

  ……さようなら。貴和。』

  っっ!

  嫌だ、嫌だよ…レイラさん!

  わがままだけど、、それでも!

  いかないで!

  離れないでよ!

  一緒にっ………

  『……』

  はっきりと振られた首に、俺は悟る。

  もう戻れないのだと。

  こうして皆、またいってしまうのだと。

  それが、千秋さんを選ぶということで、それが、、生きるということだと。

  『…立派に、なったわね。

  愛してるわ。

  これからも、愛してる。

  例え貴方が誰かを愛そうと。

  ……さようなら、貴和。』

  そう言うと、レイラさんは透き通って、、消えた。

  っあ、ぁ……

  いってしまった。

  レイラさんとは、もう会えない…。

  …想いを伝えられて、良かったな…。

  寂しいけど、また、頑張る。

  『…お兄ちゃん』

  ……ソラ…。

  お前も…?

  『お兄ちゃん、ありがとう。

  ソラの誕生日、わざわざケーキ作ってくれたり、ハンバーグ作ってくれて、ありがとう。

  プレゼントも毎年、ありがとう。

  お兄ちゃん、大好き。』

  っソラ…。

  お前、逝くの早すぎるんだよ…。

  小2だよ?

  まだ、あんなに…あんなに幼かったのにっ……

  ごめんな、ソラが何か言いたそうにしてるの気付いてたのに、知らないフリして…ソラが自殺したって聞いた時、俺、、凄いびっくりして……

  ……ソラ…。

  何で…何で死んじゃったんだよっ………。

  『…ごめんね。

  ごめんね、お兄ちゃん。

  でも、自分を責めないで。

  お兄ちゃん、ソラが死んだの、お兄ちゃんのせいじゃないよ。

  ……ソラがね、自分で選んだ事なんだよ。』

  っソラ……大好きだよ。

  大好き。

  忘れない。これからも毎年、プレゼント買うしケーキも作るし、必ず、必ず……お墓参り行くし…それに、、

  『…うん。

  分かってるよ。

  …そろそろいかなくちゃ。

  お兄ちゃん、、また、ね。』

  ソラも、光って、透き通って、ゆっくり、ゆっくりと消えてしまう。

  っう、あぁ"……

  ソラ……ソラぁ……ソラぁっ……

  ア『…昔から変わんないな、お前は。』

  リ『ほんと、感情に素直って言うか、』

  ル『天然っつーか』

  っ……ルイ、リュカ、、……アルマン……。

  皆、、皆、本当に……

  ア『…あぁ。悪いな、1人置いてっちまった。』

  リ『でも、エリックが死んでなくて良かったよ。

  戦地だと誰が誰とか、もはや分かんないもんね。』

  ル『…あぁ。

  仲間同士の誤殺もよくある話だ。

  …みんな思ってるぞ、お前が死ななくて、良かったって』

  そ、んな……皆は、もういないのに。

  俺だけ置いてかれたのに…?

  何で、何が……

  ル『分かってる。混乱してんのも、怒りがあんのも。

  だけどそれでも俺達は、お前があの惨状を見て、それがトラウマになっちまう事のが心配だったんだよ。』

  リ『エリックは、傷付きやすいからね〜!』

  ア『…エリック、ゆっくりでいいだろ?

  世界は、軍学校じゃないんだ。

  戦場でもない。

  ゆっくり、ゆっくり俺らのとこに来いよ。

  待っててやるから。

  んでもって、一番に迎えてやるよ。

  よく来たなって。そしたらお前は、俺達に、どんな物を食って、見て、触って、感じたか、沢山話すんだ。

  俺らはそれを聞きながら、色んなもんを想像する。

  そん時には、レイラって人も、お前の妹も一緒になって聞いてるさ。

  そして、皆で笑い合うんだ。

  良いだろ?楽しそうだろ。

  その楽しさは、お前が早く来たらなくなっちまう。

  だから、出来るだけゆっくり、楽しんで生きてこい。

  俺らのとこに来る時には、ヨボヨボのじいさんになって来いよ笑

  ……そろそろ時間だ。

  良いか、エリック。

  お前は強い。

  俺らの中の誰よりも。

  だから、その強さを武器に生きろ。

  誰より強くあれ。心を、強く、生きていけ。』

  リ『えへへ、話すこといっぱいあったのに、実際に会ったら忘れちゃったよ〜。

  取り敢えず、弱くていいからさ、優しくいなよ。

  元々エリックは優しいけどさ、どんなものより柔らかくて優しく、生きなよ。

  時々酷いこと言われるかもしれないけどさ、それもそれじゃん?

  だから、弱く柔らかく生きてなよ。

  それが、エリックであるようにさ。

  …僕はね、エリックの底なしの優しさに、憧れてたよ。

  自分より周りを優先して、後輩のミスは全部自分に回して、良いとこだけ後輩に渡してさ。

  はたから見れば馬鹿だよ。

  とんだ大馬鹿。

  …だけど、僕から見たら、ヒーローだったよ。

  そのままでいて欲しいんだ。

  ……もうお別れだけどさ、悲しまないでよ。

  僕らはいつも、エリックの心の中にいるからさ。

  寂しくなったら呼んでよ。

  話だけなら聞けるよ?笑

  …エリックが幸せなのが、1番だよ。』

  ル『…特に言うことはない。』

  ア『本当にないんだっけか?ルイ』

  ル『…チッ…

  前だけ向け。

  振り返るな、引き返すな。

  後悔しないように生きろ。

  失敗はしろ。

  嫌というほど転べ。

  迷惑もかけろ。

  心配はかけるな。

  人一倍笑って、泣いて、輝いて生きろ。

  お前の人生はお前だけのものだ。

  他の誰にも譲るな、渡すな。

  操られるな、逆に操れるようになれ。

  ……やりたい事をやって生きろ。

  悩んだら、自分に聞け。

  これで正しいのかと。

  自分から動け。人に言われるな。

  ……自由でいいんだ。

  信じてる。』

  リ『…何だかんだ、ルイが一番長いんじゃん?』

  ル『…うるせぇ。』

  ア『…俺らはそろそろいく。

  頼れ。どんな時だって、お前の味方だ。』

  ……皆……ありが、とう…。

  さようなら。

  ル『ふん。やっとさよならが出来るようになったか。』

  リ『またすぐ会う気がするなぁ』

  ア『元気でな、エリック。』

  皆が消えた後、俺の隣に、千秋さんが立っていた。

  俺を抱き締めて、千秋さんは言った。

  『選んでくれてありがとう』と。

  「……って夢を見て。」

  「凄い長い夢だね…💦」

  「…俺、思ったんです。

  皆は、俺に本当に最後のお別れをさせてくれたんだって。

  そして、あの神様は、俺を試したんだと思います。

  俺が自分の意思で、あいつらじゃなくて千秋さんの手を取れるかを。

  …正しい判断が出来て良かった。」

  「…そうだね。」

  千秋さんは、胸がキュンとするほど優しく笑い、俺の頭を撫でた。

  「…貴和、“Kiss”」

  「っん、ふ、は……ぁ……」

  濃厚なキスで、頭がふわふわしてくる中、俺は声を聞いた気がした。

  懐かしく、暖かく、優しい声を。

  〔ふん、ガキが。

  人前で接吻など、気色の悪い。〕

  『…あまり見たいものでは無いわね…』

  『…お兄ちゃん、男の人とキスしてる…』

  ア『あんま見ない方がいいぜ、お嬢さん』

  リ『ヒュ〜!エローい』

  ル『…くだらん』

  例え身体はなくなっても。

  俺の心の中に、彼らはいる。

  そう思うだけで、凄く安心出来た。

  皆と生きていられている。

  それは俺が望んでいたことだ。

  いつか崩れるかもしれないけど…。

  …今だけはもう少し、幸せに浸らせて。

  END