銀狼獣人フェンランと赤半竜ガーネット

  ●

  「くぅー……っ」

  無防備な気の緩んだ声を発しながら、雄の狼獣人が森を歩いていた。

  武器から手を離し、背を伸ばしながら歩く様は、とても街の外の自然地帯を歩く冒険者のものとは思えない。

  だが、それは緩く尾を振りながら歩く狼獣人が向かうのは、魔湧泉だ。

  モンスターと呼ばれる存在は、大気中に広がる魔力が停滞し澱むことで発生したり、その魔力に侵された生物が凶暴化し変異する。

  だが、この魔湧泉の近くは常に魔力が巡る為にモンスターが発生せず、近づくこともなくなる。だからこそ魔湧泉は冒険者達の間では休息所として重宝されているのだ。

  まあ、それでもそんな油断した冒険者を狙う盗賊もいないわけではない。この狼獣人自身が生来索敵能力が高く、弓使いとしてそれを鍛えているが故だ。

  明確に油断している相手を奇襲しようとする時は、襲撃者もまた油断しやすい。僅かな足音、呼吸の乱れ、衣擦れ。そこに僅かな害意があれば、即座に矢を返すことができる程だ。

  故に。

  「……なんだ、先客がいやがるのか」

  その敏感な狼獣人の三角耳が、未だ視界には映らない魔湧泉から聞こえる水音を確かに聞き取っていた。

  街から遠い事もあり、人気の無いスポットだ。彼自身殆ど人に話した事も無いだけに落胆を覚えざるを得ないが、仕方がないだろう。

  「しかもこりゃ、……間が悪すぎるか」

  口を啄み合う音。ここの水質ではない、やや粘りついたような水音。男女の喘ぎ声。

  どうやら、ご相伴にあずかろう、なんて言って出ていける雰囲気でも無いらしい。

  男としても、他人の睦事を覗き見する趣味はないわけで。普段であれば、そそくさと踵を返す。

  の、だが。

  「んで、アイツ何やってんだ……?」

  呆れるように呟いた。

  男が感じ取っていた気配はその水音の主達だけではない。

  魔湧泉の傍の茂み。そこになにやら見覚えのある赤い胴体が見えている。竜体人胴、腰から下がドラゴンの四肢となっているその珍しい姿は見紛うはずもなく、男の知り合いのものだった。

  タウロス形態の竜人である彼女は、狼の行きつけのアイテム屋だ。休日は冒険者の依頼をこなしていることは知っていたが、今日は活動範囲が噛み合っていたらしい。

  (……まあ、別に会えて嬉しいとか、そういうんじゃねえけど)

  と自分に言い訳するように声に出さず独り言ちている狼だったが、そんな淡い健全な思いは瞬く間に消え去っていく。

  窮屈そうに伏せた身体から胴体を伸ばし、まじまじと男女が交わっているであろう魔湧泉を覗き込んでいる。その額から伸びる二本角だけでなく、最早頭すら隠せていない。夢中になっているらしく潜伏のせの字すら出来てないのだ。

  その上、更に徐々に彼女の顔は茂みから伸び上がっていき――。

  「ガーネット」

  「――ッ!?」

  こっそりと男が声をかけると、彼女はその場で数センチ程跳ね上がった。その驚きように肝を冷やしたのは寧ろ狼の方だった。

  「バレんだろ、バカ……ッ! こっち来い、こっちの茂み……っ」

  「ぁ、う……」

  もし見物客がいるなんてバレたら、気まずいなんてものじゃない。

  とはいえ、あまりのリアクションに物音も立っていたのにも関わらず、自分たちの世界に浸っている件の二人は気づいていないようだ。ともかく、バレバレな覗きをしていた彼女――ガーネットを呼び寄せる。

  「こ、こんな所で……何してるの?」

  「普通に温泉に入りに来ただけだ。まあ、先客がいたから帰ろうとしたんだが――」

  とフェンランが視線を向ければ、ガーネットは視線を逸して畳んだ前肢を所在なさげに撫でている。地面を尾の先が擦る音を止めろと言いたいが、温泉の中の二人はその程度の音を気にしないだろうと諦めておいた。

  「私も」

  「……」

  嘘をつけ。

  喉元まで出かかった言葉をフェンランは辛うじて抑え込んでいた。少なくとも帰ろうとする意思は欠片も見えなかった。というか、今もチラチラと温泉の方へと視線を向けている。

  フェンランは一つため息を吐き出すと、その場に尻を下ろした。

  「帰らないの?」

  とガーネットが首を傾げた。正直彼女をここに置いていけばいい、とも思うが、あまり気は進まなかった。

  「ここまで来て下手に動けば、逆にバレる――別にお前に付き合ってやるわけじゃねえぞ」

  「……ふうん、まあそういう事にしておいてあげようかな」

  とガーネットは身を隠しながら、その視線を温泉へと向ける。自然、することも他にないフェンランもそちらへと目を向けることになっていた。

  温泉にいるのはやはり、男女一組。見覚えはあるが、特段、関わりがある冒険者ではなかった。

  華奢な山羊人。その細長い雄がたくましくも女性的な柔らかさを持つ熊獣人の秘裂に精を注いでいく。それも、一度二度ならず、何度も繰り返して溢れんばかりに迸りを重ねるのだ。

  それだけならば、ただの交尾だ。せいぜいがその精力に驚くだけであるはずなのだが、傍らの女が「わ……」だとか「ぇ、ぁ……あんなに」と一々反応を示すもので、フェンランもその接合に充てられてか次第に欲の漲りを感じ始めていた。

  フェンランとて男だ。あの熱い交接を見れば興奮の一つは起きる。隣にいる女が魅力的だという話ではない。ツヤのある紅鱗。艶めかしく動く竜体。柔らかそうな曲線。決して大きくはないが形の良い胸。その口はお淑やかで歯内にせよ悪くはない顔立ち。溌剌とした眼。それらを総合的に鑑みて、悪くはないという程度だ。

  自分の知らない間に冒険者としてもこの辺りの依頼を受ける程に成長している事に対しては何も感じない。見知らぬ装備にガーネットの趣味ではないがよく似合う意匠があることに妙な焦りを浮かべることも無い。

  ただ、温泉から漂う愛欲の雰囲気に流されて、フェンランの手がゆっくりとガーネットの身体に伸ばされんとした、その時。

  ガサ、と。

  草を割る音が広がり、フェンランは伸ばしかけた手を慌てて引き込めた。音の正体は、今まで温泉を二人占めしていたあの恋人達だった。少しのぼせたような様子であの二人が帰り支度を始めていた。

  いつの間にか彼らは事を終えて、湯から上がっていたらしい。

  「……あいつ、気付いてやがるな」

  フェンランは熊獣人の女の動きから微かにこちらに向けられる意識を目敏く見抜く。まあ、原因は傍らの赤竜であることは明白だろう。

  それはそれでありがたい。騒ぎ立てる事もなく退散してくれるのなら、こちらも動きやすくて助かる。息を潜めたまま、彼らが帰りゆくのを見送った数分後。

  「ふう……変に疲れたな」

  気配が完全に消えたのを確認したフェンランは立ち上がり、しゃがみ続けて凝った腰を叩く。

  「さ、俺らも帰ろうぜ。急いで鉢合わせも勘弁だけど……なんだよ?」

  とフェンランは、ついと服の裾を引かれる感覚にガーネットを見れば。

  「……せ、せっかくだから入ろうよ」

  ガーネットはそうつぶやきながら、その顔を真っ赤に染めていた。

  

  

  ●

  なんでお前なんかと入らねえといけないんだ。そんな言葉は「恥ずかしいんだ?」の一言で封殺された。

  そう言われてしまえば、断る理由がなくなってしまう。

  「なんでこうなったかな」

  さっきまで見知らぬ男女が愛を交わしていた湯にフェンランとガーネットは浸かっていた。当然服も着ていない。互いに男女の身体だけを持って入浴している。そんな状況だ。正直、誘っているのだろうかと勘ぐったフェンランではあるが。

  「……なあ、先に上がっていいぞ」

  そう、少し離れた場所にいるガーネットへと声をかけた。

  端的に言えば、何もなかった。ただ互いに短く声を交わすばかりで、手を伸ばしても触れ合いすらしない距離を保って、ただ肉体疲労の回復だけを試みているような状態だったのだ。

  「フェンランから上がったら?」

  「オレは、……後で良い」

  少し湯だった頭で言えば、少し考えるような間があってからガーネットが返事を返してきた。

  「分かった、さては私とお風呂に入ってるからってコーフンしちゃったんだ」

  と、からかい甲斐がある玩具を見つけたとでも言うような笑みを浮かべて、ガーネットは少しずつ距離を詰めてくる。

  竜体分、歩こうとすればその瑞々しい胸部を露わにするのだが、ガーネットはまるで気にしていないような顔をしている事に無性に不機嫌が募る。

  「は、別に……お前なんか」

  「『オンナとしてなんか見てねえ』なんていつも言ってるもんねー」

  と、フェンランの眼前にまで迫ったガーネットはそこで初めて、床に着けたフェンランの腰へと視線を落とした。

  半透明な湯の中。そこには、確かに怒張する狼の男根が波に揺れている。

  「おっきく、なってる……」

  「……、仕方ねえだろ。男なんだから」

  呟きに、フェンランは苦虫を潰したように答えた。出来れば知られないまま、この場をやり過ごしたかった。どうせ、からかわれるに決まっているのだから。

  「ふうん……そ、そう、なんだ」

  そう考えたフェンランは、しかし、次に続いたガーネットの言葉にその予想を裏切られてしまう。

  「わ、私の方がお姉さんなんだから私がしてあげるね?」

  「……は? お前、はぁ?」

  とフェンランは声を裏返しながら、ザパン、と飛沫を立てた。仰け反るように、ガーネットの身体をじっと見つめた。

  「絶対お前、そういうの下手くそだろ。それとも、ヤりまくってたりか?」

  「……はじめて」

  冗談のようにからかい返したフェンランは、その熱にふれる寸前の水中で手を戸惑わせるガーネットの答えに笑いを凍りつかせた。その言葉に商売女がセールストークで使う『純潔』などとは似てもつかない本心を感じ、驚きとともに、――他ならぬ安堵を感じていた。

  「そ、そうかよ。じゃあ……」

  やってみても良いんじゃねえの。と。

  フェンランは、湯の中でその滾りが脈を打ち始めるのを自覚していた。

  

  

  ●

  チャプチャプ、と小さな波の音が反芻する。

  「……っ、く、ぁ」

  小波の音に合わせて、雄の声がくぐもって響く。

  脚を広げ岩舟の縁に腰掛けたフェンランは、露わにした男根をガーネットの拙い指に託していた。

  「こう、だよね?」

  「ぁ、ああ……っ」

  拙い、とは言ったもののその手管は瞬く間に成長していく。アイテムを取り扱う商人ではあるが、自作のものも幾つかある。元々手先が器用な彼女がフェンランの指導の元、男を喜ばせる術を身に着けていくのに苦は無かった。

  あるとすれば、フェンランだろう。指示などしていないのにも関わらず、犬科獣人の特徴とも言える亀頭球が弱い事を探り当てられ、責められる快感に打ち震えている。

  「ぅ、お……ぁっ」

  くち、くちゅ、と先走りを擦り付けるように肉竿を扱かれ、その違う手で亀頭球を撫でる。ビクビクと震える脚を女々しく閉じることも矜持が許さず、ただ射精への欲求を急速に高められていくフェンランは、その限界を近く感じていた。

  「ぁ、ぐ……っ」

  「……あ」

  とガーネットが、手の中の感触が変わった事を感じ取ったその瞬間。木の根の如く熱り立つその棍棒の先端から溢れる白濁をその手に受け止めていた。

  ボタボタとその手から溢れた雫が水面を叩く。

  掌から指を伝う白濁。射精後の放心めいた虚脱に苛まれながらフェンランはそれを目で追っていると。

  「ねえ、フェンラン」

  不意に、ガーネットがフェンランの名を呼んだ。

  「私の事、オンナとして見てる?」

  「……は?」

  困惑の声を出す。それが問への答えではないことはガーネットも分かっただろうけれど、しかし、気にせず彼女は自分の言葉を続けて放った。

  それがフェンランの理解を超えた言葉だったことは言うまでもないだろう。

  「私は見てるよ。フェンランの事……オトコとして」

  いや、それは嘘だ。フェンランはその言葉をはっきりと理解していた。

  ガーネットはその竜の身体を立ち上がらせる。胴体を半ばに湯から出したような状態でガーネットは柔軟に腰を回した。緩やかに捻るようにしながらフェンランの雄種が残る手をゆっくりとその後肢の方へと伸ばしていく。

  フェンランは自分の喉が無意識にゴクリとなるのが聞こえた。ガーネットの細い指は彼女の貞淑に閉じた柔鱗の筋を撫でる。そこは、まるでガーネットが女であることを示すかのように、透明な液体が染み出している。温泉のそれとは違う、微かに酸い香りがマズルの先端の鼻頭をひくつかせる。

  クチ、と桃の果実に指を沈ませたような甘い音が立つ。

  「ん、……ぅ」

  フェンランの白濁が絡む指がその中へと沈み込んでいく。鱗を滑らかな布で磨くような快感にガーネットが淫靡に震える声を漏らす。

  フェンランは反射的に立ち上がっていた。ザバン、と波が立つ。急に立ち上がった狼、その腰にガーネットの視線が突き刺さるが、彼はそんな事言ったことかと再び昂りをみせる獣根をそのままに波を割るようにガーネットへと近づいて。

  「――っ、ん……っ!?」

  ガーネットの唇を奪っていた。獣のマズルの先がガーネットの薄紅色に触れる。そして、数秒抵抗が見えないと知ったフェンランは、その口先から舌を伸ばして閉じた唇を開けさせた。

  「……ん、ぁ」

  零距離で短い呼吸が重なる。熱い舌を絡め合い、その実感を確かめ合うようにキスを繰り返す。フェンランがガーネットの肩を掴み、逃さぬようにと男らしい力強さで繋ぎ止める。そんな僅かな痛みすら心地良いと、ガーネットは溶け合うような暖かさに微睡みにすら似た陶酔を覚え。

  そして。

  「好きだよ、悪いか」

  どちらともなく互いの呼吸を開放した後にフェンランが呟いた。ぶっきらぼうではあるが、その目はしっかりとガーネットを見つめ、そしてその彼女はといえば。

  「す、……好き、って……っ」

  その肌が、鱗と見紛うが如く赤く染まり上がっていた。予想外の反応に思わず硬直したフェンランの腕を振り払ったガーネットは、その頬を隠すように両手で口元を覆って顔を逸らす。

  そのまま背を向けだしたガーネットに、フェンランは水を差されたような心地で憮然と彼女を睨みつけた。

  「な、なんだよ。んなエロい誘い方しといて好きだって言ったくらいで……」

  「そうだけど、……そういうことじゃないっていうか、ほら、こういう時は結局お姉さんである私がリードしてあげる事になってみたいな、そういう――いきなりの告白は予想外っていう、か、……ぁっ、ん……っ」

  うだうだと良く分からない自己弁護を連ね始めたガーネットの声が、その途中で奇妙に跳ねて止まる。

  いや、奇妙というのはおかしいか。なにせその原因はフェンラン自身の行動によるものだ。彼は、ガーネットの後肢の

  間、尾を持ち上げて覗く花弁にその獣欲の滾りを宛てがっていた。

  つい先程、手で絶頂へと導いたものだ。その熱は分かっているはずだというのに、先程よりも熱いような感触がその敏感な場所に触れている。

  「待っ、て……っ今……」

  フェンランは、今から犯すその秘部を目に焼き付けるように睨みつけた。

  見たいと、思っていた。

  そうだ、いつだって望んでいた。

  ガーネットが欲しい。他の誰にも取られたくない。ガーネットの店に通い、店員と客という軽薄ながら確固とした繋がりを演じていた。その理由は紛れもなく、恋だ。

  「うるさい、お前から誘ったんじゃねえか」

  「ひゃ……ッ、う……っ」

  ぐ、と力が込められる。と同時に、フェンランの手がガーネットの背中を宥めるように優しげに撫で付ける。

  傷つけたくはないという意思が掌を通してガーネットに伝わった。

  ガーネットの静止は聞かず、それでもガーネットに苦しんでほしくないという矛盾を内包した熱が、熱く火照った肉筒へと押し込まれていく。それは決して容易い侵入ではなかった。

  「ぁあ、ッ……中、入って……痛、ぁ……!」

  「……っ」

  ともすれば即座に精を吐き出してしまいそうな興奮と締め付けの中。フェンランは己を槍と変えるようにして、肉を押し割いていく。細かい襞が雄欲を苛む。鱗に覆われたその内部は、柔らかく、そして燃えるような熱に満ちている。

  激しい交合ではない。

  ジワリ、ジワリとガーネットの身体を作り変えていくような性交は、始めは違和感と痛覚ばかりであった穿ちに少しずつ快楽を齎し始めている。

  「はあっ……あっ、フェンラン……っ」

  名前を呼ぶ。熱い。苦しい。それでも、その存在が自分の中に進みたがっている。

  純粋で、純朴な欲望。男の子のそう言った馬鹿らしいほどの健気さは理解出来はしないけれど、フェンランに限っていうのであれば、それすら好ましいと思えてしまう。

  私を好きにしたいのだ。

  その目がまっすぐに自分を見ている。今日だけじゃない。いつも、いつも彼は私を見つめている。その獣の瞳で獲物を射抜くような鋭く、それでいて優しい視線で。

  押し広げられる感覚が拡張していく。フェンランの吐息が近い。最後の一押しとばかりに、グ、と腰が押し付けられる。

  腰が触れ合う。フェンランの全てを飲み込んだのだとガーネットは、先程の温泉を浸かっていた二人の仕草を思い返していた。力強く、激しく。私は屈服させられるのだろうか。

  それは少し怖い。じんじんと疼くような快感の中で不安を募らせるガーネットだが。

  「挿入った――な」

  だが、その不安が的中することは無かった。いや、それ以上の出来事がガーネットの、そしてフェンランの肉体に起こる。

  「や、これ……ナカで、膨らんで……っ?」

  フェンランにほど近いその境目を超えた辺りで起こっていた。それをガーネットは確かに見ている。そして、触れてもいたはずだ。

  膨らみ、更にガーネットの中で亀頭球が逃すまいと栓をする。

  逃げられないという不安と、つながっているという享楽。その間に揺れながら縋る紐をたぐるようにして、快楽を共有する狼の姿を探し出す。

  「ガーネット……っ」

  上半身を振り返らせるガーネットに、フェンランは唇を重ねた。これは決して欲望が齎した肉欲ばかりの性交ではないのだと誓うがごとく、慈しむように舌が繋がりあう。

  「ん、……ぅ」

  亀頭球で塞がれ、固定されたフェンランの雄茎。そこから子種が身体の中に注ぎ込まれていくのをガーネットは感じていた。

  熱い迸りが、ガーネットの身体を逆上していく。蠢く襞が雌の機能を達成させようとして活発に蠕動する。その微かな変化ですら、ガーネット自身が彼に決めたのだという感情を補強していく。

  心地よさに目を細めるガーネットに、フェンランは一度唇を離して、小さく問いかける。

  「良いんだな」

  「……言うのが遅いよ」

  「悪い」

  今更な問に困ったように笑い合い、再び吐息を混ぜあっていく。

  穏やかで、濃密な繋がりは誰に邪魔されること無く、空洞を満たすまで続くのだった。

  

  

  ●

  「いいの? 悪いね奢ってもらっちゃって」

  山と盛られた料理を前に、ガーネットは満面の笑みを浮かべていた。

  対するフェンランの目の前には、煎茶と団子が置かれているばかり。

  二人は街へと帰還し、そのまま同じ店へと入店していた。何か話し合いがあったわけではない。なんとなくその看板が目に止まり、丁度互いに腹の虫が鳴いた為そこに決めたという理由だ。

  振り返れば、純潔を奪うという重大な事を犯した自覚があったフェンランが食事代は出すと言い出したのだ。それを、ガーネットは貰えるものは貰う、とフェンランの財布を圧迫するような豪遊を行っているのが、今の状況だ。

  いそいそと肉料理の串を掴むガーネットを呆れたように眺めるフェンランが煎茶をすする。

  「……私ね」

  その時を狙い済ませたように、ガーネットは程よく響くその声でこう言った。

  「子供、欲しいなあ」

  瞬間。

  バフ、と勢いよく噴霧となった煎茶がフェンランの口から放たれた。その様子にカラカラとした笑い声が眼前の席から聞こえてくる。周囲からの好奇に満ちた視線が向けられるのをフェンランは機敏に感じ取る。目の前の女は鈍感なのか気にした様子はない。

  「お前な……っ」

  場所を考えろよ。と小言を言おうとしながら、喉に引っかかる茶を更に煎茶で押し流して、器の底を机でカンと鳴らす。

  そして、数度自分を落ち着かせるように深呼吸をしてから、食事を口に運ぶガーネットをにらみつける。

  悔しいかな。

  その笑顔は憎らしいほどに、可愛らしく見えた。