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メソングを出てフォーゼリアを目指すアルベルト達
草原を歩いているがだんだんと雪原へと変わっていく
〈シーン:フォーゼリア地方・雪原の入り口〉
粉雪が視界を霞ませ、風が吹くたびに防寒着の隙間から冷気が忍び込む。
カラスト(羽を丸めながら)
「さ、寒いね……羽が凍りそうだよ……」
メルディス(マントをギュッと締め)
「同感です。雪の上は足も取られますし、体温が奪われていく……」
マリーナ(歯をカチカチさせながら)
「えっ……防寒着着てもこの寒さなの? フェルドニアの冬よりずっと厳しいわ……」
シーフェ(落ち着いた表情で)
「空気が薄いし、冷たい……火傷より凍傷の方が厄介なのよ。気をつけて」
ホルスター(手編みの手袋を子どもたちに配りながら)
「これ、私が昔孤児たちに作ったものと同じ。少しでも暖かくなるようにね」
グランジャス(息を白く吐きながら)
「ここから先は“人と自然の戦い”ってやつだな。舐めてかかると命を落とす。
……でもこの厳しさが、ここに住む人々の芯の強さを育ててるのさ」
シシオ(フードを深くかぶりながら)
「雪と風で足元も見えねぇ。スノーシューがなけりゃすぐ転ぶぞ。
道具が足りなきゃ、現地調達だ」
アルベルト(肩を張りながらも内心は震えて)
「俺が体を張って先導する……さっき菓子パン三つも食ったし、まだ持つ!」
マル(寒さで鼻が赤い)
「なぁ、凍え死ぬ前に温泉とかあったりしないっすか? ねぇ……? ねぇ⁉︎」
カリン(鼻をすする)
「ご主人様、私の手、冷たくなっちゃった……握ってもらってもいいですか……♡」
メルディス(ちゃっかり反対側の手を握り)
「ダーリン、私の手も……温めてほしいな♡」
〈シーン:フォーゼリア地方・吹雪の雪原〉
風が唸り声を上げ、全身を斬るような雪が叩きつける。視界は白一色。歩くたびに、膝まで雪に沈む。
アルベルト(マントを必死に押さえながら)
「くそっ……ここどこだ!? 吹雪で全然見えねぇ……ッ!」
シシオ(顔をしかめながら前方を睨む)
「……これは完全に見誤ったな。天気の崩れが想像以上だった……」
マリーナ(肩を寄せながら)
「寒い……足の感覚が……! だめ、凍傷になるかも……」
カラスト(震える声)
「魔法も届かない……空気が重い……」
ホルスター(必死に子供たちのコートを整えながら)
「このままだと……みんな……!」
グランジャス(歯を食いしばりながら前を見据える)
「くそっ……このまま止まれば……凍るしかない……! 誰か、地形の記憶あるか⁉」
ティミス(雪をかき分けて進みながら)
「くっ……どっちに行けばいいかも分かんない! このままじゃ……!」
カリン(涙をこらえつつ)
「ご主人様……っ、寒いよ……怖い……!」
メルディス(震えながらも必死に笑顔を作る)
「大丈夫、ダーリンがいれば……きっと大丈夫よ……!」
シーフェ(冷静に)
「ダメ、ここで止まったら死ぬわ。誰か、風の向きか、雪の吹き溜まりの様子……見て……!」
〈シーン:雪原/視界ゼロ〉
吹雪の音だけが響き続ける中、ひとり、またひとりと倒れていく。
カラスト「……さむ……い……」
小さな体が雪に沈む。
ホルスター「ダメ……子どもたちを……」
最後の力でアルベルトの背中を押し、彼女もまた膝をつく。
アルベルト「くそ……ここで……終わる、のか……」
雪が視界を覆い、意識が闇に落ちていく――。
⸻
〈場面転換:雪の中の避難小屋・夜明け前〉
薪が燃えるぱちぱちという音が静かに響いている。
薄暗い木造の小屋。囲炉裏のようなストーブが中央で赤く灯り、全員が毛布に包まれて横たわっている。
???(静かな男の声)
「全員、まだ息はある……よかった。もう少し遅れていたら……」
その男は、毛皮をまとった大柄な人物。背中に大きな弓を背負い、顔の半分をスカーフで覆っている。瞳は優しく、どこか哀しげでもある。
???「吹雪に巻かれてた旅人だって聞いた時は、もう手遅れかと……」
彼が振り向くと、毛布の中で小さく呻き声が。
グランジャス「……ここは……?」
???「動かないで。君たち、雪原で倒れてたんだ。俺が運んできたんだよ、ソリでな」
アルベルト(目を開け、咳き込みながら)
「……誰だ……あんた……」
ルプス「俺はルプス・レイン この雪原の小屋で一人暮らしをしている医師だ」
避難小屋の中、暖炉に火が灯り、蒸気の立ち上る湯が置かれている。
ルプス・レイン(低く静かな声)
「ようやく目を覚ましたか。全員無事で何よりだ……ここは山の避難小屋だ。吹雪で道を塞がれていたお前たちを見つけた」
アルベルト
「……助けてくれたのは、あんたか。命の恩人だな」
ルプス
「礼はいらん。山の中で倒れていれば、助けるのが当たり前だ。だが……何の目的でこんな場所に来た?」
グランジャス
「おっさん、助けてくれた礼はちゃんと言うが、俺らは道中だ。フォーゼリア王に会いに行くところでな」
ルプス(少し目を細める)
「……フォーゼリア王に? あの塔には近づくな。シンズタワー――いや、“エビルタワー”の気配が濃くなっている」
ルプス・レイン(薪をくべながら)
「この辺りは“銀狼の谷”と呼ばれている。まともな旅人なら、冬に近づくような場所じゃない。……よほどの理由があるんだろうな?」
アルベルト(手を温めながら)
「ああ。俺たちはフォーゼリア王に会いに行く。……伝えるべきことがあるんだ。ローレスやフェルドニアの混乱を越えて、ようやくここまで来たんだよ」
ルプス(焚き火の火をじっと見つめながら)
「王は今、“塔”に魅入られている。――シンズタワー。“七つの大罪の悪魔”が封じられていると言われる忌まわしい塔だ。あれは……人の心を蝕む。お前たちも、塔に近づくな」
ティミス(静かに)
「でも……私たちの道は、避けて通れないような気がするわ」
ルプス
「ならばせめて、山を越える手助けをしよう。俺が案内する」
カリン(毛布にくるまりながら)
「……ご主人様、狼さんと一緒なら安心だよね」
マル(ふくれた頬で)
「なんだか頼りになるけど、ちょっとズルいくらいイケメンだな……動物系モフ枠ってやつか」
ルプス(苦笑い)
「……動物系モフ枠、か。初めて言われたな」
⸻
外では吹雪がやや収まり始め、朝の光が雪雲の隙間から覗く。
ルプス
「今日中に山を越えるのは無理だが、途中の猟師小屋までなら案内できる。そこで装備も整えよう」
シシオ(ようやく目覚め)
「……へぇ、また面白い奴と出会ったな。俺はシシオ。斧の使い手でな、武器の話ができる奴なら大歓迎だ」
ルプス(頷き)
「斧か……俺も昔は使っていた。今は弓が主だが、道具の手入れなら任せろ」
ホルスター(微笑んで)
「心強い味方が増えたわね」
ルプスが今更ながら元雇い主のグランジャスを見て驚く
ルプスぐ グランジャス!?
ルプスは跪く
グランジャス 久しぶりだなルプス
アルベルト おっさん、知り合い?
グランジャス ああ、屋敷に常駐してくれた医師さ もちろん家族のように接してたよ
ティミス たしか故郷であるフォーゼリアが大変だと聞いて グランジャスに断りをいれて行ったんだよね?
ルプス(まだ跪いたまま、目を伏せながら)
「まさか…こんな吹雪の中で再び主と会えるとは……。
グランジャス様、お元気で……本当に…!」
グランジャス(優しく微笑み)
「立て、ルプス。昔と変わらず、俺はお前を“家族”だと思ってる。
今さら礼儀はいらねぇよ」
ルプス(静かに立ち上がり、感極まったような声で)
「……ありがとうございます。
この身に再び温もりが戻ってきた気がします……」
アルベルト(驚いた表情で)
「医者だったのか、お前。狼系の外見にしちゃ意外だな」
ルプス(笑って)
「はは、よく言われます。
ですがこの牙は、人を守るためにも使えるのです。
怪我を負った者には、時に“牙を抜く”覚悟も必要なのですよ」
マリーナ
「素敵な言葉……まさに献身の医師ね」
ティミス(頷きながら)
「たしか、あなたの故郷フォーゼリアで病が広がってると聞いて、
グランジャスにしっかり頭を下げて旅立ったんだよね」
グランジャス(懐かしむように)
「ああ、立派だったよ。
“必ず戻ります”って言葉を、今でも覚えてる。
まさかこうして旅先で再会するとはな」
カリン(小声で)
「ご主人様の知り合いってだけで、ちょっと……嫉妬しちゃうかも」
メルディス(くすっと笑いながら)
「ダーリンの知人は、どこか温かさを持っているのね。
だからこそ惹かれるのよ」
ルプス(皆を見渡しながら)
「……皆さんが主のそばにいるのも、よく分かります。
よければ、ここで暖を取ってください。
薬草茶とスープも作ってありますので」
ルプス(マントを整えながら)
「まずは近くのスノータウンまで行くぞ。あそこには避難所兼診療所があってな。
俺は今でも、ドルセニアと同じように定期診療をしてるんだ。みんな、少し手伝ってくれ」
シーフェ(即答して)
「もちろんよ。医療の手が足りない時は、私に任せて」
アルベルト
「診療所か……戦いとは違うけど、こういうのも旅の大事な一面だな」
マリーナ(頷きながら)
「吹雪の中じゃ、体調を崩す人も多いでしょうしね。私も手伝うわ」
シシオ
「よし、俺は雪かきとか力仕事を任せてくれ。こう見えて雪には慣れてるんだ」
ホルスター
「私は子どもの面倒を見るわ。防寒着の調整や、スープ作りもできるし」
グランジャス
「ルプス、お前がやってることは立派だ。
俺たちも、世話になった礼も込めて、協力させてもらうよ」
ルプス(少し照れながらも嬉しそうに)
「……感謝するよ。本当に、いい仲間に恵まれてるな、グランジャス様は」
メルディス
「ダーリンが惹きつけるのよ。ね?」
カリン
「当然だよね♡ ご主人様だもん」
カラスト(吐く息が白く凍りながら)
「それより寒いよぉ〜! 早く行こうよ〜!」
グランジャス 「この街静かだな」
街に行くと家々の窓は締まり 街の中心に紫色のモヤが現れる
シーフェ「あれは!病魔サルモエンザス!なんでこんな雪国に」
アルベルト「あの病魔の弱点、分かるか? シーフェ、ルプス」
シーフェ「……うん、少しだけ。でも厄介だよ。サルモエンザスは寒冷地に適応してる。普通の熱や抗体じゃ効かない」
ルプス「ああ、それに奴は“霧”として拡散する。人の気管に入った瞬間、体内で活性化するんだ。弱点は“高熱”だが、逆に宿主が死ぬまで暴れるからな」
グランジャス「つまり、共倒れ狙いってことか。ふざけた真似を……!」
メルディス「じゃあ、温めればいいの? 焚き火とか?」
シーフェ「それじゃ足りない。体温より高い、50度以上の環境で“霧”の構成粒子が崩れる。特殊な加熱薬か魔術で焼くしかない」
ルプス「それともう一つ。奴には“意志”がある。拡散だけじゃない。時折、意思疎通を図ろうとする“核”のような塊が動いてる」
アルベルト「つまり、“本体”がどこかに……?」
ルプス「ああ。今は霧に紛れているが、必ず現れる。そこが奴の急所だ」
シーフェ「見つけ出せば勝機はある。けど、動き出す前に仕留めないと、村が一晩で全滅する」
アルベルト「カラスト、広範囲に焦熱系の呪文、できるか?」
カラスト(マントの袖をぶんぶん振りながら)「できるよっ!……うん、できるけどね、ちょっとだけ大変なの!」
メルディス「大変って、どれくらい?」
カラスト「えっとね、すごーく魔力使っちゃうから、僕はポンコツになっちゃうかも。あと、まちがってみんな焼いちゃったらごめん……」
グランジャス「そこは気をつけろよ……」
シーフェ「でも、霧だけ焼いても、本体を逃したら意味ないよね?」
カラスト「そこはしっかりとやるよ」
カラスト「えへへ……《熱霧解放(ネブラ・イグナス)》って言う呪文だよ!」
アルベルト「わかった。俺とグランジャスが先に動いて、核を探す。霧が晴れた瞬間、見逃すな」
アルベルト「時間がかかってもいい……この病魔を、焼き尽くせ」
カラスト(にやっと笑って)「へっ、任せとけよ。こいつは派手に燃やさなきゃ意味ねぇからな」
シーフェ「発動中は無防備になる。護衛を頼むわ」
ルプス「霧が晴れた直後……“核”が動くのはその瞬間だ。狙うならそこだな」
グランジャス「つまり、“炙り出し”と“始末屋”が必要ってことだ。わかりやすい」
メルディス「あたしが道を見てる。風向き、霧の厚さ……全部伝えるから」
アルベルト「俺とグランジャスが前に出る。“核”が出てきたら一気に仕留める。
カラスト、お前は……派手にやれ」
カラスト「了解。20秒、目ぇ離すなよ? 一発で決めてやる!」
地面に魔法陣が走り、カラストの足元から熱が噴き上がる。
彼は杖を肩に担ぎながら、片手で複雑な印を描きはじめた。
カラスト「──《熱霧解放(ネブラ・イグナス)》、展開開始。ターゲット:全域。
霧ごと全部、灰にしてやる……!」
霧がざわつき、周囲の空気がピリピリと震える。異変を察知したかのように、霧の中で“何か”が動いた。
シーフェ「反応あり……核が動き出してる」
ルプス「こっちに来るぞ。カラストを狙ってる」
グランジャス「やれやれ……派手な餌にはデカい魚が来るってことか」
アルベルト(剣を抜いて前に出ながら)「……上等。“まだまだ”俺たちの出番だ」
轟音とともに霧が弾け飛んだ。
《熱霧解放(ネブラ・イグナス)》が放たれ、雪に閉ざされた町の空が一瞬、真夏の陽炎のように歪んだ。
核と思しき黒い塊が現れ、グランジャスとアルベルトの連携によって斬り裂かれる。
サルモエンザス──撃破。
静けさが戻った中で、カラストがふらつく。
カラスト「ゴホッ……ごほっ、ごめん……僕、倒したのはいいけど……ちょっと……具合、悪い……」
彼の唇はわずかに青白く、額には玉のような汗が滲んでいた。
魔力の流れが暴走しかけている。無理をした反動だ。
シーフェ(すぐに駆け寄り)「大丈夫、話さなくていい。今すぐ宿屋に行こう、すぐ!」
ルプス(眉をひそめて)「魔力が熱に引きずられてる。限界まで力を使ったな……急いでくれ」
メルディス(慌てて荷物を探りながら)「水、ある! あと毛布!」
アルベルト(背を向けて立ったまま)「……悪いな、カラスト。助かった。後は任せる」
グランジャス(肩で息をしながら)「本当に“まだまだ”だな、俺たち……こんなガキに頭上がらねえや」
カラストは力なく笑おうとしたが、それより早く目を閉じ、シーフェの腕に体を預けた。
雪の残る地面が、今だけは少し暖かかった。
ルプス(カラストを背負いながら、宿屋の扉を力強く叩く)
「ドンドンドンッ! 開けてくれ、頼む! 病人がいる!
治療させる部屋が……部屋が必要なんだ!」
内側から声が返る。
宿屋の主人(荒れた声)「帰んな! 冗談じゃねぇ、病人なんざ入れられるか!
いくらあんたの頼みでもな、こっちにまで感染しちまったらどうすんだよ!」
扉越しに聞こえる足音、何人かが内側で押さえている気配。
ルプス(ぐっと歯を食いしばり、沈んだ声で)
「俺は、命乞いしに来たんじゃない。頼む……
この子は、お前らの町を救ったんだ……命をかけて!」
一瞬、内側が静まる。しかし──
宿屋の主人「……わかってるさ。でもな、それとこれとは話が別だ。
悪いが、こっちだって家族がいる。ガキが倒れたのは気の毒だが──」
シーフェ(扉に近づき、鋭い声で)
「感染の心配があるのはわかる。でも、私が見る限りこれは熱疲労と魔力の暴走。
病魔の毒じゃない! 私の顔、覚えてるでしょ? 私が判断するって言ってるの!」
中で囁き合うような声、揺れる足音。
ルプス(静かに、だが重く)
「俺はこの町のこと、好きだった。だから助けに来た……
今、あんたらが扉を開けなきゃ、俺は二度とこの町には来ない」
──長い沈黙。
やがて、ギィ……と重い扉がわずかに開く。
宿屋の主人「……二階の奥、空いてる部屋だ。誰にも見られねぇように運びな」
ルプス(一礼しながら)「感謝する。必ず、何も残さない」
二階の奥の部屋。窓は布で覆われ、外の冷気を遮っている。
カラストは布団の上に横たわり、額に汗を浮かべて苦しげに呼吸していた。
シーフェ(脈と瞳を確認しながら)
「……やっぱり。病原体と魔力が合わさって、身体の中で暴走してるわね」
ルプス(額の汗を拭いながら)
「魔法で焼き払った時に、外からの熱と内からの魔力が重なったんだ……変質型だ。
免疫じゃ追いつかない」
シーフェ「最悪ね。抗魔性の処置をしたいけど、いま手持ちに薬がない。
せめて魔力の流れを落ち着かせて、自然治癒力を働かせないと……」
ルプス(振り向いて)「グラン様、お灸って持ってます?」
グランジャス(即答)「もちろんあるぞ。レジナの婆さんに教わったやつだ、効くぞ」
すぐに鞄から木箱を取り出し、布団の脇に置く。
古風な香の匂いが部屋に立ちこめる。
シーフェ(頷き)「熱刺激で身体の“気”を動かす……なるほど、やれるかもしれない」
ルプス「背中の肩甲骨と、腰の仙骨の間に。気脈を通せば、発熱と咳は治まる」
グランジャス(手を洗いながら)「ああ、火加減は俺に任せな。焦がしはしない」
小さな火をつけ、お灸を据える。
カラスト「ん……ぐ、うぅ……」
シーフェ(やさしく声をかけながら)「大丈夫よ、意識は保たせて。あとちょっと……」
ルプス(手際よくタオルで汗を拭い)「よし、こっちは任せて。シーフェ、魔力制御の術式、頼める?」
シーフェ「任されてる」
布団の下、微かな魔法陣が浮かび上がる。
カラストの暴走していた魔力が、静かに落ち着き始めた──
治療を続ける中、カラストの顔色はわずかに和らいだが、呼吸はまだ浅く、胸の動きが乱れていた。
その様子を見ていたグランジャスが、ふっと息を吐き、決意を込めた声を出す。
グランジャス「……仕方ねぇな。ルプス、シーフェ──ひとつ試してみてぇ手がある」
ルプス「手?」
シーフェ「何を考えてるの?」
グランジャス(懐から、銀色の粉薬の小瓶を取り出し)
「これは解熱と抗霊毒に効く複合剤。だが口から入れるには強すぎる。
そこで提案だ──俺の魔力にこの構成物質を混ぜて、媒介にして流す。
直接、カラストの魔力回路に届ける」
ルプス「……魔力を通じて投与? 危険すぎる。下手すればカラストの回路が拒絶を起こして壊れるぞ」
シーフェ「でも……逆に言えば、それが通れば治療は一気に進む。
カラストの魔力はまだ流動性が高い。いまなら……!」
グランジャス(腕まくりしながら)
「できるかできねぇかじゃねぇ。やるしかねぇって状況だ。
シーフェ、ルプス……あんたらが俺の魔力を制御してくれ。流しすぎたらアウトだ」
ルプス(苦笑しながら)「まったく……昔っから無茶なことばかり言う」
シーフェ「いいわ。やると決めたなら、私たちも本気で合わせる」
三人は床に魔力制御の印を刻み、グランジャスの手をカラストの額に添えた。
グランジャス「いくぞ……“俺の力を、こいつに預ける──!”」
ルプス「魔力安定、流入開始」
シーフェ「構成変換、導入完了。今、薬が回り始めてる……!」
カラストの体がびくんと震え、次の瞬間──
カラスト「……っ、あつ……? でも……楽、に……」
その表情から、苦悶がすっと引いていった。
ルプス「成功だ。体温が下がってきてる」
シーフェ(肩から力を抜いて)「ふぅ……生き延びたわね、天才魔導少年」
グランジャス「……まだまだ、だな。俺の無茶もなかなか衰えねぇや」
魔力の導入が終わった直後、部屋に重苦しい沈黙が落ちた。
カラストの顔色は明らかに回復しつつある──しかしその隣で、グランジャスの様子が急変する。
グランジャス「っ……クッ……!」
彼は額を押さえ、身体を支えられずに片膝をついた。
肌がほんのり青白く、呼吸が荒い。
グランジャス「……クソ、やっぱ……無理しすぎたか……
アルベルト、急いで! 俺の鞄から注射器を──魔力阻害剤が入ってる!」
アルベルト(驚きながらもすぐさま)「わかった!」
すぐにグランジャスの革鞄を探り、中から金属製のケースを取り出す。
中には一本の注射器──そして小さな青い薬剤のアンプル。
カリン(走り寄り、グランジャスの肩に手をかけながら)「しっかりして……! 暴れるな、押さえてる!」
グランジャス「すまん……魔力、逆流して……身体が……勝手に暴れそうになる」
メルディス(手早く水筒を抱え、カラストの口元へ)「カラスト、少しだけ飲んで! 意識があるうちに……!」
ルプス(グランジャスの魔力の流れを見ながら)
「熱が残ってる……魔力の伝導率が跳ね上がってるんだ!体内の均衡が崩れた!」
シーフェ(注射器を受け取り、即座に薬剤を装填)
「こっちでやる! グランジャス、動かないで、すぐに鎮める!」
グランジャス(うっすら笑って)「……ったく、俺も“まだまだ”だな……」
プスッ──と細く鋭い音がして、薬剤が筋肉に入る。
数秒後、グランジャスの呼吸が整い、震えがゆっくりと収まっていった。
アルベルト「……無理をしすぎるな。誰かが倒れてちゃ、意味がない」
グランジャス「……すまん。でも、間に合ったなら……それでいい」
カリン「もう……無理したら、ただじゃおかないんだから」
ルプス「カラストも落ち着いてる。あとは休ませるだけだ」
カラストは微かに目を開け、皆の様子をぼんやりと見ていた。
カラスト「……ん、なんか……にぎやかだなぁ……」
メルディス「……バカ、寝てなさい!」
静まり返った部屋。
カラストは眠りに入り、皆がほっと息をついたそのとき──
グランジャスはゆっくりと立ち上がり、フラつく足で扉のほうへ向かおうとした。
グランジャス「……俺は、ちょっと外に出てる」
シーフェ(振り返って)「え? まだ身体、落ち着いてないのに──」
グランジャス(片手を軽く上げて)
「平気だ。……ちょっと、風を浴びてくるだけさ」
その背中に、どこか張りつめた気配が漂っていた。
誰もが、その無理を察しながらも、止めることができなかった。
廊下に出たグランジャスの足取りは重く、壁にそっと手をつく。
扉の隙間から覗いたカリンが、その様子を見て思わずつぶやいた。
カリン「……その顔……辛そうじゃない」
遠ざかる背中。
グランジャスは誰にも顔を見せぬよう、静かに夜の階段を下りていった。
雪混じりの夜気が、肌に冷たく張りつく。
宿の裏手、誰もいない石畳の広場に立ち尽くしながら、グランジャスは無言で銃剣を構えた。
魔力の逆流は完全には収まっていない。
静かに、しかし確実に暴れている。魔力核が疼き、血液が熱を帯びる。
グランジャス「……チクショウ。まだ残ってやがる」
銃剣の銃身を空へと斜めに持ち上げ、マガジンを叩き込む。
ただの弾ではない。魔力の奔流そのものを弾頭に凝縮させた即席の《魔弾》。
グランジャス「……っらぁぁああ!!」
ズドォン!!
夜空に火柱のような一閃。
撃ち出された弾丸が、遠くの空を貫いて閃光を残す。
だがまだ足りない。
二発目、三発目──魔力を込めて、撃つ。
暴れ狂うエネルギーを封じ込めて、ただ撃ち出す。まるで自分自身を解き放つかのように。
息が荒くなり、額から汗が伝う。
グランジャス「……あのガキ、カラスト。とんでもねぇ魔力を秘めてやがったんだな」
グランジャス(苦笑混じりに)
「……ちっと力を貸しただけで、俺の魔力回路まで焼き焦げるとこだった。
あいつ、普通の術師じゃねぇ……“なにか”がある」
そしてもう一発、弾丸を空へ──
今度は先ほどよりも、少しだけ落ち着いた手つきで。
魔力のうねりが静かになっていく。
彼の手から立ち上る火煙が、夜空の星に吸い込まれていった。
弾丸を空へ放った直後だった。
グランジャスの足元に、黒紫の靄が渦を巻く。
「……ん?」
次の瞬間、魔力の残滓が意思を持ったかのように、空間を裂くように盛り上がり──
ズズズ……ズズン……
それは人の形に似た、だが完全に人ではないものへと姿を変えた。
体は霧と炎、眼光は虚無。
まるでグランジャス自身の怒りや焦燥が具現化したかのような魔物だった。
魔物「グランジャス……オマエ……ナゼ、止メナカッタ……?」
グランジャス(構えながら)
「……お前が、俺の魔力の塊か」
銃剣を肩に担ぎ上げ、目の奥に野性の光が戻っていく。
グランジャス「なら──一発殴り合って、黙らせるだけだ!!」
魔物が咆哮を上げて飛びかかる。
拳が炎を巻き、周囲の雪を蒸発させる勢い。
ガキィィン!!
グランジャスは銃剣の刃でそれを弾き、即座にカウンター。
引き金を引きながら斬る、銃剣ならではの連撃。
グランジャス「魔力ってのはな……手にした奴が何を想って撃つかで変わるんだよッ!」
魔物の腕が削がれる。しかし再生し、さらに大きくなって反撃。
衝撃波で地面が抉れる。
グランジャス(舌打ち)
「……ちっ、こいつ、俺の“未練”まで力に変えてやがるのか」
だが怯まない。
彼は魔物の腹に銃剣を突き立て、魔力を直接流し込んだ。
グランジャス「じゃあ俺の想い、全部ぶち込んでやる──!」
爆発のような衝撃とともに、魔物が大きく後退する。
だがまだ、決着はついていない──!
夜空を裂く爆音。
宿の裏手から、雷のような轟きと揺れが伝わってくる。
カリン「この音──ご主人様!?」
メルディス「まさか、外……! ダーリンに何かあったのっ!?」
二人は慌てて飛び出した。
宿の裏手の広場では、赤紫の光がうねり、魔力の塊が形を持って暴れていた。
その前に立ち塞がっていたのは、グランジャス。
息を荒くしながら、銃剣を構えて魔物と対峙している。
メルディス「ダーリン!! 大丈夫!?」
カリン「ご主人様! ご無事ですかっ!?」
彼は後ろを一瞥し、苦笑を浮かべながら言った。
グランジャス「ああ、無事だ……。だけど──」
銃剣を再び前に構える。
瞳に灯った光は、まっすぐ敵だけを見据えていた。
グランジャス「手は出すな。こいつは、俺が殺らないとダメなんだ」
魔物が再び咆哮し、周囲の魔力を吸い上げて膨張していく。
メルディス(唇を噛みながら)「……ダーリン……」
カリン(じっとその背中を見つめながら)
「……ご主人様……やり遂げてください」
二人は言葉を呑み、剣士の背に力を託す。
グランジャス「来い……俺の中の“澱み”よ」
爆煙の向こう、黒紫の魔力を纏った魔物が、再生しながら笑った。
魔物「フフフ……なぜだ、グランジャス……」
「お前には、傍にいる女どもがいる……命を張る者も、想いを告げる者も、尽くす者もいる……」
その体の輪郭が、徐々に人間のように歪んでいく。
──ティミス、カリン、メルディス、そしてかつて失った誰かの面影が、一瞬その中に混ざる。
魔物「なぜ、愛さない? 受け入れれば楽になるのに。
お前がずっと背負ってきた“責任”も、“過去の痛み”も──」
グランジャス「……」
銃剣の銃口を、はっきりと魔物に向ける。
グランジャス(静かに)
「関係ねぇ」
魔物の顔が揺らぐ。
グランジャス「“誰かを守る”“誰かに頼られる”……そいつが重いなんて一度も思っちゃいねぇ。
けどよ、俺は……俺自身が、そういうもんを……“受け取る資格がねぇ”って思ってんだよ」
一瞬、風が止まる。
グランジャス「だから関係ねぇ。あいつらが俺に何をくれようと──
それを受け取るかどうかは、“俺の”話だ」
銃剣を下段に構え、踏み込む。
グランジャス「てめぇみてぇな“魔力の残りカス”に、俺の人間関係を語られんのが一番ムカつくんだよッ!!」
咆哮とともに、銃剣が閃く。
魔物の中心部に突き刺さる蒼白い一撃。魔力を貫く純粋な意志の刃。
魔物の叫びが夜空に溶け、形が崩れていく──
グランジャス まだ倒れねぇのか
魔物の身体が再び再構成される。
今度は銃弾も刃も受け流す、拳一つの“原型”へと戻っていく。
魔物「よかろう……言葉はもう要らぬ。
拳で語れ、グランジャス」
グランジャスは銃剣を地に突き立てた。
呼吸を整え、ゴリリと両拳を鳴らす。
グランジャス「お前が俺の内側の魔だってんなら……
俺の“生き方”を、その顔面で感じろッ!!」
ズドォォン!!!
拳と拳がぶつかる瞬間、周囲の空気が爆ぜた。
魔力と闘気が混じり合い、地面がひび割れる。
魔物「クク……重いな、その拳は……!」
グランジャス「当たり前だッ!
過去も、仲間も、背負ってるもん全部載せてんだよ!」
魔物の腹に一撃、背中へ肘打ち。
逆に顔面を殴られ、血がにじむが──一歩も引かない。
魔物「ならばこちらも応えよう……! “お前の弱さ”ごと打ち砕く!!」
拳の雨が降る。しかしグランジャスは全てを受け、全てを返す。
肉を打つ音と共に、魂がぶつかり合う。
──やがて。
膝をついたのは、魔物だった。
魔物(揺らぐ声で)
「……何故だ……なぜ、そんなに……立ち上がれる……?」
グランジャス(鼻血を拭いながら)
「決まってんだろ……
俺は、あいつらの“ご主人様”だからな」
拳を最後に一発──
ドグォッ!!!
魔物の顔面にめり込み、そして光となって砕け散った。
拳を受けて、魔物の体がぼろぼろと崩れていく。
だが──その瞳だけは、まだ燃えていた。
魔物(低く、静かに)
「……お前の考え、伝わった」
魔物の声に怒気はなかった。
ただ……どこか寂しげな響きが宿っていた。
魔物「だが──忘れるな、グランジャス」
崩れゆく腕で、指を空に向ける。
魔物「お前はいずれ、“決断”を迫られる。
その時、もし迷えば……周りの者を巻き込む」
グランジャス「……」
魔物の言葉に、グランジャスは黙したまま、ただ拳を握りしめた。
魔物(微笑みながら)
「俺は──“シンズタワー”にて待つ。
お前が、答えを出すその時を……」
そして、闇に溶けるように魔物は霧散した。
夜空の下には、静かに立ち尽くすグランジャスの姿だけが残る。
魔物が霧散した夜空。
冷たい風が広場を吹き抜ける中、グランジャスは拳を握ったまま立っていた。
だが──
どさっ……
その膝が音を立てて崩れた。
全身を走る激痛と、今までの疲労が一気に押し寄せる。
身体から、魔力も気力も抜けていく。
グランジャス「……チッ、くそ……こんな時に……」
彼の体が、地面へと沈もうとした瞬間──
カリン「ご主人様!!」
メルディス「ダーリンっ!!」
二人の腕が、同時に彼を抱きとめた。
カリンはその額に冷たい手を添え、
メルディスは震える声で彼の名を呼び続ける。
カリン「熱い……! ご主人様、ひどい怪我……!」
メルディス「ひとりで抱え込んで……ばか、ダーリンのバカ……!!」
グランジャスの目は半分閉じられ、意識は遠のいていく。
だが、腕の中のぬくもりと、名前を呼ぶ声だけは──
最後まで、しっかりと耳に届いていた。
⸻
夜はまだ明けない。
だがその場には、確かな絆の温もりがあった。
朝焼けがかすかに空を染め始めた頃。
静けさを取り戻した宿屋の裏、まだ傷が癒えきらぬグランジャスが腰かけていた。
その前に、無言で歩いてきたのは──
アルベルト
ゆっくりと近づいてきて、立ち止まる。
アルベルト「……おっさん。少しツラ貸せ。街の外に行くぞ」
グランジャス「わかった」
二人は街の外の雪原に立つ
グランジャス「で、何のような__」
言い終わるより早く、アルベルトの拳が横から飛んだ。
バッ!!
グランジャスの顔が揺れる。
一瞬、静寂。
アルベルト(叫ぶように)
「馬鹿野郎!! なんで……なんでも一人で背負う!!
いつもそうだ! 自分の思いは、二の次かよ!!」
ぐらついたグランジャスの目に、怒りと焦りを混ぜた涙が見える。
グランジャス(睨み返して)
「てめぇに……てめぇに何が分かるッ!!」
ドカッ!!
今度はグランジャスの拳が返された。
互いに距離を取り、荒く息を吐きながらにらみ合う。
グランジャス「誰かに頼ったせいで失ったもんがある奴にしか、分かんねぇことがあるんだよ……!!」
アルベルト「それでも俺は! 仲間を信じた!
信じることでしか、前に進めねぇって分かってたからだ!!」
拳と拳が、再びぶつかる。
──ドゴォッ!!
二人とも地面に転がり、肩で息をする。
アルベルト「……チッ……加減しろよ、ジジイ」
グランジャス「言うな……お前の拳こそ骨に響いたわ……」
しばらくの沈黙。
やがて、グランジャスがぽつりと呟く。
グランジャス「……悪ぃ」
アルベルト「いいんだよ。殴った分だけ、お前の本音が見えた」
そして、笑う。
雪がしんしんと降り積もる中。
拳を交えたふたりは、背中を雪に預けたまま空を見上げていた。
アルベルト(少し息を整えながら)
「……いい加減、話せよ。おっさん」
沈黙。
雪が顔に落ちては、溶けて消える。
しばらくして、グランジャスが口を開いた。
グランジャス(ぽつりと)
「……俺は、いずれ爵位が上がる。
もっと多くの民を導いていく立場になる。
その時、あいつら──お前ら──は、俺についてきてくれるのか……本当に」
その言葉には、確かな不安と孤独がにじんでいた。
グランジャス「それにな……カリンやメルディス……。
どっちも、俺に好意を寄せてくれてるのは、分かってる」
グランジャス(目を閉じながら)
「でも、俺は……どっちかにだけ答えを出すなんて、今はできねぇ。
選んだ瞬間に、もう一方を傷つけちまう。
どっちかを失うのが、怖ぇんだ……」
白い吐息が空に消えていく。
グランジャス「導く者が、私情で誰かを選んでいいのか……
それすらも、まだ俺には分かんねぇんだよ」
静かだった。
その沈黙を破るように、アルベルトが静かに笑った。
アルベルト「……バカだな」
グランジャス「……は?」
アルベルト「怖くて当然だろ。誰だって迷う。
でもよ、おっさん──そんなこと、後で殴られりゃ済むんだよ」
グランジャスが少しだけ笑った。
アルベルト「てめぇの心ん中、やっと聞けてスッキリしたわ。
殴ってよかった」
グランジャス「……クソガキが」
ふたりの背中を包む雪は冷たい。
だが今、心の中はほんの少しだけ温かくなっていた。
静かに雪が舞い落ちるなか、ふたりの会話は続いていた。
アルベルト(ぽつりと)
「……そういや、聞くが。お前の国って……一夫多妻制は、認められてんのか?」
グランジャスは思わず吹き出した。
グランジャス「……一応、はな。
だが俺は、それに見合う器じゃねぇ。
民の前に立つ人間が、私情で何人も抱えるようじゃ示しがつかねぇよ」
そのとき──
「いやいやいや!」
後ろから陽気な声が割って入った。
マルが手をひらひら振りながら、雪を踏みしめてやって来た。
マル「情けないですな、ご主人!
いつも人に“堂々と立て”だの“覚悟を持て”だの言ってるくせに、
自分のことになるととたんにヘタレですか」
グランジャス(苦笑しながら)
「……さすがだな、マル。
こういう時に限ってズケズケ言ってくる」
マル「当然です。ボクは道化、真実を言って笑われてナンボですから。
でも──本当に大事なときくらい、自分の想いくらい、堂々としなきゃ。
女の子たち、ずっと見てますよ」
アルベルトはそれを聞きながらニヤニヤと笑い、煙草を咥えた。
アルベルト「こいつが言うとムカつくけど、間違っちゃいねぇな」
グランジャスは雪の空を仰いだ。
グランジャス「……分かってる。だが今はまだ、答えが出ねぇ。
もう少しだけ……もう少しだけ時間をくれ」
マルは微笑み、くるっと踊るようにターンした。
マル「時間くらい好きなだけ。
でもお早めに──女の子の気持ちの賞味期限は案外短いですよ?」
雪の上で話を終え、グランジャスがふと横目でアルベルトを見る。
グランジャス(ニヤリと)
「……そういや、アルベルト。
お前もだぞ。ティミスに想い、伝えてねぇだろ?」
その言葉に、アルベルトの肩がピクッと跳ねた。
アルベルト「……な、なにを言ってやがる……俺は、その、あれだ……」
急にうろたえ始め、目をそらして頬をかく。
アルベルト「……そ、その、ゴニョゴニョ……」
グランジャスが腕を組んで笑う。
グランジャス「おいおい、剣の腕前は最強でも、
口ではティミスに勝てねぇのか?」
マルがここぞとばかりに茶化す。
マル「いやぁ~これは貴重ですね!
“ラート村最強の剣士”の弱点が“恋愛”だったとは!」
アルベルト(顔を赤らめながら)
「ち、違ぇよ……あいつが鈍感なんだ。
そもそも俺のことなんて、ただの兄貴分くらいにしか思ってねぇんだ……多分」
マル「うわ~それ言い訳するやつの典型じゃないですか!
そのうち他の男に取られちゃいますよ?」
グランジャス「なぁに心配すんな、もしそうなったら……俺らが全力で笑ってやる」
アルベルト「ふざけんなコラァ!!!」
──雪原に響き渡る、久々に明るい笑い声。
まだ問題は山積みだ。
だが今この時だけは、仲間とのぬくもりが雪よりもあたたかかった。
冷たい雪道を歩きながら、グランジャス・アルベルト・マルの三人は、静かに村の中心部へ戻っていく。
夜明け前の薄明かりが空を染め始め、白銀の世界に少しだけ色を差す。
先に見えてきたのは、暖かく灯りのついた宿の一室。
そこには、心配そうに待っていた仲間たちの姿があった。
扉が開くと同時に、空気が変わる。
ティミス「あ、戻ってきた」
メルディス「ダーリン……」
カリン「ご主人様……その顔……」
グランジャスは深く息をつきながら、凛とした目で皆を見渡す。
グランジャス「……すまなかった。
もう、大丈夫だ。迷いも、不安も、少しずつ前に進めそうだ」
アルベルトも照れくさそうに頭をかきながら加わる。
アルベルト「ま、いろいろあったが……
悪ぃ、心配かけたな。俺も腹、くくった」
そしてマルは、いつもの軽やかな笑顔で一礼。
マル「皆さん、お待たせしました♪
暗い顔はもう卒業! 今日から我々、前向きパーティです!」
その瞬間、皆の表情に安堵の色が広がった。
誰もが感じた──
この旅は、まだまだ続く。
けれど、確かに「一歩進んだ」のだと。
一息ついた室内。
安堵と静けさが広がるなか、ルプスがふと微笑みながら口を開く。
ルプス(苦笑しながら)
「……変わりませんね、グラン様。
ご自身の思いをなかなか打ち明けず、なんでも自分ひとりで解決しようとするところ」
それを受けて、シーフェが小さく吹き出す。
シーフェ「ほんとほんと。
普段はエロおやじみたいに下ネタ飛ばしてるくせに、
こういう時は……こんにゃくみたいにふにゃふにゃしてるんですから」
グランジャス(即座に)
「こんにゃくってなんだこんにゃくって!
おい、ちょっとは言い方選べ!」
みんながクスクスと笑い出す。
マリーナ「でも、そういうところもグランらしいよね」
メルディス「ダーリンが真面目すぎるのは昔からだし」
カリン「ご主人様、無理はしないでくださいね?
ちゃんと、私たちに頼ってください」
グランジャスは少し顔を赤らめ、喉を鳴らしながらも静かにうなずく。
グランジャス「……ああ。
ちょっとだけ、肩の力、抜くとするよ」
──
こうして空気はやわらぎ、
仲間たちの絆がまた一段と深まっていった。
翌朝。
街に仄かに陽が差しはじめ、積もった雪を反射して辺りが白銀に染まる。
カラストは宿の窓辺に立ち、ぼんやりと外を眺めていた。
そのとき、ふと目に映った──
白い雪の中で、ゆっくりと雪をかき分ける小さな影。
まるで芋虫のようなフォルム。
だが、どこか人の形をしていて、顔にはやさしい微笑みが浮かんでいた。
カラスト(小声で)
「……誰だろう、あの子……?」
気になって外に出ると、ルプスも静かに彼の横に立つ。
ルプス「……あの子は、カイコのシルクーちゃんだな」
カラスト「シルクー……?」
ルプスは頷いた。
ルプス「昔からこのあたりに住んでいる、雪と繭の精。
人にはあまり姿を見せないけど、吹雪で埋もれた道を、こっそり除雪してくれてるんだ。
黙々と……誰の見返りも求めずにな」
カラストはその背中を見つめながら、ふわりとため息をつく。
カラスト「……なんか、ぼくと似てるな。
静かに、誰にも気づかれずに、でも誰かのために動いてる」
ルプス「ああ。だからこそ……忘れちゃいけない存在だ」
そのとき、シルクーちゃんがふとこちらに気づいたように、ちらりと顔を向けて微笑む。
口元は動かないのに、不思議と「おはよう」と聞こえたような気がした。
──そしてまた、静かに雪をかき分けていく。
白い芋虫の少女──シルクーは、除雪の手を一度止めると、
そっと両手を合わせ、天に向かって深く息を吸い込んだ。
そして次の瞬間。
ふわり──
彼女の口元から、銀色の糸が静かに吐き出された。
それは空気に溶けるように舞い、風に揺れながら地面に降りていく。
そして、吐き出された糸はシルクー自身の周囲をくるくると巻き始めた。
カラスト「あ……!」
その場にいた誰もが、声を出せずに見つめていた。
糸は滑らかに、優しく、まるで愛情のように彼女を包んでいく。
やがて姿は見えなくなり、そこにはひとつの真っ白な繭だけが残されていた。
繭の前で足を止めていた一同。
ふと、グランジャスが腕を組みながら呟く。
グランジャス「……カイコか。
なら、成虫になる準備だな。あれは」
それを聞いたシーフェが目を輝かせる。
シーフェ「へぇ〜……
成虫になったあとに残る繭の糸、私ほしいわね。
手術用の縫合糸にしても最高だし、服にしたら軽くて丈夫で──」
グランジャス「バカタレ!」
シーフェ「!?」
グランジャス(真顔で)
「あれはな……彼女の衣服になるんだ。
成虫になった時、最初にまとう“肌着”みたいなもんだ。
外からもらったり、売ったりできるもんじゃねぇ。身体の一部なんだよ」
シーフェは一瞬黙ってから、唇をとがらせる。
シーフェ「……はーい、分かりましたよお父さん」
マル(横からニヤニヤ)
「グランジャスさん、ちょっと熱くなりすぎでは?
でもまぁ、“肌着”って響きがエロ──」
ティミス「なんか言った?」
マル「すいませんでしたッ!」
繭の前に静かにしゃがみ込んだグランジャスは、
コートの内ポケットから、小ぶりだが光沢のある赤い木の実を取り出した。
カナルの木の実──
雪山でもわずかに実る栄養価の高い果実で、甘味と滋養に優れ、
野生動物や精霊たちにも愛される果実だ。
グランジャスは、その実をそっと繭の前に置いた。
グランジャス「……カナルの実だ。
目が覚めた時、腹が減ってるかもしれねぇからな。
食えるかわかんねぇが……念のためってやつだ」
静かに立ち上がり、繭に背を向けながらも、ひとこと。
グランジャス「さてと──」
雪が静かに舞い降りる。
グランジャス「……そろそろ、仲間が欲しいな」
その呟きには、孤独に耐えてきた男の静かな決意と、
これからの旅に必要な“誰か”への呼びかけのような響きがあった。
遠くで吹雪の切れ間から、青空が一筋だけ覗いた。
グランジャスが繭に木の実を供えたあと、
その背を追うようにアルベルトが近づいてくる。
彼は静かにその繭を見つめ、ポツリと呟いた。
アルベルト「……出来れば、カラストと近い年齢の子がいいな」
グランジャスは横目でちらりと見る。
グランジャス「年齢合わせてどうすんだよ。
弟分でも作るつもりか?」
アルベルトは照れくさそうに頭をかいた。
アルベルト「あいつ、ああ見えて無茶も頑張りすぎもするからな。
背中預けられる相手がもう一人くらいいても……ちょうどいいと思っただけだ」
グランジャスは短く笑う。
グランジャス「……へぇ、成長したな」
アルベルト「なんだよ、それ。
おっさんこそ人に背中預ける気になってきたんじゃねぇか?」
グランジャス「言ってろ」
雪の中で、ふたりはしばし繭を見つめ続けた。
未来へとつながる静かな時間だった。
繭の前で静かに語らうグランジャスとアルベルト。
そこに、のそのそとシシオが現れる。
シシオ「ふむ……確かにな。青春は必要だ」
アルベルト「お前が言うか?」
シシオ(ニヤリ)「いやいや、こう見えてワシも昔は恋の一つや二つ……」
マリーナも姿を見せ、肩をすくめる。
マリーナ「そうね、春は必要だわ」
グランジャス(怪訝な顔)「……話がずれてないか?」
マル(横からひょこっと)
「いやいや、“青春”も“春”もだいたい同じですって!
要するに、“トキメキ”と“エネルギー”が要るってことでしょ?」
カラスト(ぼんやりと聞きながら)「……ときめき……?」
シーフェ「ふふ、カラストくんにはまだちょっと早いわね〜」
ルプスが真面目な顔でうなずく。
ルプス「でも春の気配が近づくと、生き物は変わるんだよね。
もしかしたら、シルクーちゃんが目覚める頃には──
新しい何かが始まるのかも」
グランジャス 「この環境なら羽化は早いだろう」
その言葉に、一同はしばし黙り込む。
雪は静かに舞っていたが、どこか遠くに、春の匂いが感じられた。
一行は宿屋の暖炉の温まる
焚き火が小さくパチパチと音を立てる夜。
空には星が瞬き、静かな時間が流れていた。
その焚き火のそばで、ルプスがぽつりと口を開いた。
ルプス「……アルベルト、ひとつ聞いていいかな」
アルベルト「ん?なんだ」
ルプス「君は、どうして旅をしてるの?
何か目的があって?」
アルベルトは少し考える素振りを見せたが、すぐに肩をすくめた。
アルベルト「……特に理由はない」
ルプスは少し目を丸くする。
アルベルト「ただ──
どこ行っても理不尽や差別があるだろ。
偉いだけで人を踏みつける奴とか、
見た目や出自だけで扱いが変わる世の中とか」
焚き火の火が彼の目を照らす。
その瞳には静かな怒りと、強い決意が揺れていた。
アルベルト「そういうのが……嫌いなんだよ。心底な。
だから、ちょっとずつでもマシにしたくて──
世の中を**“直す”ために旅してる**。
ま、そんなたいそうなもんでもねぇけどな」
ルプスは静かにうなずいた。
医師である彼には、その言葉が深く刺さるものだったのだろう。
ルプス「……ありがとう。
君の目には、まっすぐな炎がある。
それを見られてよかった」
アルベルトはちょっと照れくさそうに鼻をこすった。
アルベルト「……照れるだろ、そう言われると。
まだまだなんだよ、俺は」
そして、またパチ…と焚き火が弾けた。
その音が、彼の「まだまだ」の続きを物語っているかのようだった。
焚き火の炎が静かに揺れる中、
ルプスは両手を膝に置いて、まっすぐにアルベルトを見る。
ルプス「……俺も、旅に加わりたい」
その声に迷いはなかった。
アルベルトは、即座ににっこりと笑って言った。
アルベルト「もちろん歓迎だよ。
お前みたいな頼れる奴がいてくれりゃ、百人力だ」
ルプスは微かに照れ笑いを浮かべながら、焚き火の炎に手をかざす。
そこにグランジャスが近づいてきて、肩を軽くすくめた。
グランジャス「ふっ……なんだか、昔の屋敷を思い出すな」
ルプス「グランジャス様は若い頃から怪我してばかりでしたね」
グランジャス「確かに日常茶飯事だったな」
アルベルトはニカッと笑って、焚き火の枝を突きながら言った。
アルベルト「よし、じゃあルプス。
これからは仲間としてよろしく頼むぜ。」
焚き火の周囲で笑いが弾けた直後、
どこか冷ややかで澄んだ声が後ろから響いた。
リセリナ「……まずは、街の人たちを助けるんでしょ?」
ふわりとした布のような足音とともに、
リセリナが焚き火の輪に入ってくる。
その背後には、月明かりを受けた細くうねる触手が、静かに揺れていた。
一同がその言葉にハッとして、互いに顔を見合わせる。
グランジャス「……そうだったな。
こっちはすっかり“自分たち”のことにばかり気を取られてた」
ルプス「……スノータウンの人たちは、まだ病魔の不安を抱えたままです」
シーフェ「モヤもまだ完全には晴れてないし……再発もあるかもしれないわ」
アルベルト「よし、じゃあまずは街を回って安心させるのが先決だな。
できれば治療や対策の知識も広めておきたい」
リセリナはうなずき、そっと一歩前へ出る。
リセリナ「助けを待ってる人がいるなら、
“旅の仲間”として、放っておけないわ」
その言葉に、誰もが頷いた。
そして──
それぞれが立ち上がり、背筋を伸ばした。
マル「よーし!じゃあ今日は“ヒーローごっこ”だな!」
カラスト「ごっこじゃなくて、本物のヒーローになろうよ」
グランジャス「ふっ、悪くない目標だ。
──行くぞ、みんな。俺たちのやることは、まだまだある」
そして朝日が昇りかけた雪の街へ、
一行は再び歩き出すのだった。
冷たい朝の風が雪を巻き上げる中、
スノータウンの広場に集まった一行を見渡し、アルベルトが手を挙げて声を張る。
アルベルト「よし、シーフェとルプスは診療を頼む!
体調が悪い住人を順に見てやってくれ。
治療と不安の解消、両方だ」
シーフェ「任されたわ。
あの病魔、まだ油断できないからね。抗体の確認もしておく」
ルプス「了解。住人の状態を記録して、魔力耐性の有無も調べておくよ」
アルベルトはそれを見てうなずき、雪かき用のスコップを肩に担ぐ。
アルベルト「俺らは除雪だ!
荷車も通れねぇし、生活の足が止まっちまってる。
力仕事は俺らの出番ってわけだな!」
ホルスター「おう、まかせとけ。このスコップがあれば雪もスパーンよ」
シシオ「俺は大型スコップでやるか……まぁいけるか」
マル「道化でも、雪かきくらいはできますよ~ん。
この姿で除雪してたら、子どもが喜ぶかも?」
カリン「私も手伝うっ!ガンガンいくよ!」
ティミス「カリンばっかり目立つのずるい。私も除雪する」
グランジャスは黙ってコートの襟を立て、銃剣を背に回しながら呟く。
グランジャス「……除雪か。
まぁ、雪をどかすのも、民を守る道の一つってやつだな」
リセリナが静かに一歩引き、シーフェとルプスの後に着いていく。
リセリナ「私は診療組に同行するわ。
触手なら、ある程度の作業もできるし……感染者が暴れても止められる」
マリーナ「ふふ、分担完了ね。じゃあ、私は外壁沿いの雪を処理してくるわ」
カラストは帽子を目深にかぶりながら言う。
カラスト「僕も……できる範囲でがんばる。
街の人が少しでも安心してくれるなら」
⸻
こうして、冒険者たちは再び力を合わせてスノータウンの復旧に取り掛かった。
除雪、診療、住民対応。
それぞれの役割の中に、彼らなりの「やさしさ」と「決意」が光っていた。
除雪班は、広場から街道まで手分けして作業を進めていた。
雪は固く凍りついていたが、男たちの掛け声がそれを吹き飛ばす。
シシオ「おっ母さんのためなら──エイコーラッ!」
振りかぶったスコップが、ガツンと雪の山を裂く!
グランジャス「もいっちょおまけに──エイコーラ!」
スコップで雪を押し分けながら、ノリノリだ。
マル(手拍子しながら)
「エイコラヨイコラ! さーのーよいよい♪
雪は消えても この熱気は冷めぬ~」
カリン「ご主人様何それ、変な歌!」
グランジャス「昔母が歌って歌さ耳から離れなくてね」
ティミス「でも、ちょっと楽しいかも……エイコーラ!」
ホルスター「その掛け声良いわね」
アルベルト(笑いながら)
「馬鹿やってるようで、進みが早いな。
よし、この調子で街の外れまで一気に片付けるぞ!」
冷たい空気の中、笑い声と雪かきの音が響く。
まるで、春の足音が少しずつ近づいてくるようだった──
除雪が一段落し始めたころ、
シシオがふとスコップを止め、雪の山を見つめた。
シシオ「……おい、もしかしてこの雪……使えそうだな」
そう呟くやいなや、シシオは手際よくスコップを振るい始めた。
除けていた雪を固め、積み上げ、壁のような形を作っていく。
グランジャス「なんだ、今度は何始めた?」
シシオ「へへっ、見てろ。こうして雪で壁を作って──ほれ、こっち曲がって──」
どんどん雪が整形されていき、徐々に白い迷路のような形が現れる。
マル「おおっ、なにこれ!? めっちゃ面白そう!」
ティミス「わ、これ絶対子どもたち喜ぶよ!」
カリン「カラストくんも一緒にやろっ!」
カラスト(少し照れながら)「う、うん……迷子になりそうだけど、ちょっと楽しそう……」
シシオ「こういうのはな、観光客呼べるぞ?
『冬限定・雪の迷宮ツアー』ってな!
夜にはランタンでも灯して幻想的にすりゃ──この街の目玉になるぞ!」
グランジャス「なるほどな……。
どうやらお前、道具だけじゃなくて、町の“未来”も鍛えられるらしいな」
アルベルト(にやり)「たまには頭使うじゃねぇか。いつも力任せかと思ってたぜ」
シシオ「ふん、素材はなんでも使い道があるんだよ。人間もな!」
街の人々も少しずつ集まり、遠巻きに笑いながら様子を見ていた。
やがて、子どもたちが駆け出して、迷路の中を走り始める。
街の少年「すげー!これ、全部作ったの!?」
街の少女「もっと大きくして!出口ふやして!」
シシオ「任せとけ!よーし、拡張すっか!」
──
こうして、「スノータウン雪の迷宮」は、その日から街の小さな希望の象徴となっていった。
迷路の建設で盛り上がる中、
グランジャスが不敵な笑みを浮かべて、アルベルトの肩をバンッと叩いた。
グランジャス「アルベルト……俺らは滑り台でも作るか」
アルベルト「……おっさん、今俺も同じこと考えてた」
二人はガッと握手し、即座にスコップを手に取り、雪山に取りかかる。
グランジャス「まずは高さだ。あんまり急すぎると骨が折れる」
アルベルト「でも、緩すぎてもスピード出ねぇ。
下はちょっと跳ねさせて、終点でクッションな。雪のクッション」
シーフェ(呆れながらも笑って)「あなたたち、子供か……いや、むしろ子供より全力ですね」
ティミス「こういう時のグランジャスさん、やたらキラキラしてるよね……」
マリーナ「これが“男のロマン”ってやつなのね」
雪を詰め、高く積み上げ、スコップで表面を整える。
ルートは曲線を描きながらぐるりと回り込むロングコース。
アルベルト「仕上げは──バケツで水をかけて、凍らせる! これで滑りが違う!」
グランジャス「ふははっ、最高速で滑れるぞこいつは! 名付けて──」
二人同時に叫ぶ。
「スノー・グレート・滑り台!!」
あまりのくだらなさに、子どもたちは大喜びで拍手。
街の大人たちも、苦笑しながら拍手。
そして……
カラスト「ぼ、僕……滑ってみたい……!」
アルベルト「よし、トップバッターはカラストだ!」
カラストが勢いよく滑り降り──
風を切りながら滑るその表情は、どこまでも輝いていた。
カラスト「うわああああぁぁぁっ!!……たのしいっ!!」
それを見た街の子供たちが一斉に滑り台に駆け寄る。
グランジャス(満足げに腕を組んで)
「……子供の笑顔ってのは、最高のご褒美だな」
アルベルト「ま、俺らもあとで滑ろうぜ。もちろん競争でな」
グランジャス「受けて立つぜ!! 俺の膝が砕けねぇ限りな!!」
⸻
街は少しずつ、雪と笑顔で満たされていく。
冷たい冬の中に、小さな春のような温もりが灯りはじめていた──
子供たちの笑い声が響く中、
マルは帽子のつばをくいっと上げながら、皆の様子を見回した。
マル「……フフ。子供たちには滑り台、街の人々には診療。
ならば私は、心の癒しのステージを作らねばなりませんな」
そう言うと、マルはスッと腰の短剣で地面に印を刻み始めた。
次に手に持った吹き矢の筒で、地面の雪をトントンと突いて形を整えていく。
マル「ステージは高さが大事。
正面は陽がよく差し込む南向き……背景は雪の壁を使って──あとは音の反響も考えないと」
通りかかったホルスターが斧を肩に乗せながら声をかける。
ホルスター「何作ってるんですか?マル。滑り台作りには加わらないのですか?」
マル「これはホルスター嬢、道化には“ステージ”が命。
私はそこで笑いと希望を届ける者。これは私にしかできない役目です」
ホルスター「……へえ。
あなた、ふざけてるようで本気なんですね。ちょっと見直したわよ」
マルはにやりと笑い、帽子を取って一礼する。
マル「それは光栄。
さあ、ここを観客席にして──飾りはシルクーちゃんの繭から出た糸で……」
そこへシーフェが現れる。
シーフェ「マル、舞台道具にこの布使いなさいよ。街の人が譲ってくれたわ」
マル「おぉ、これは……! シーフェ嬢、あなたは天使ですか?」
シーフェ「違うわよ看護師よ」
街の若者たちも自然と手伝い始め、
ステージは雪と布、そして笑顔で彩られた幻想的な舞台へと完成していく。
マル「さあて……明日は**“雪の道化ショー”**の初演ですな。
泣いて笑って、みんなの心を溶かしてみせましょう」
彼の目は、普段のふざけた色を消して、静かに燃えていた。
数日後――
雪が止み、空は澄んだ青に包まれた朝。
旅の仲間と街の人々が力を合わせて作り上げた――
雪の遊び場とスノーステージが、ついに完成した。
⸻
氷の滑り台、白銀の迷路、雪玉投げのコーナー、雪像アート展示。
子供たちは目を輝かせて走り回り、大人たちも笑顔でそれを見守る。
グランジャス「ふっ……まるで夢の国だな。
雪がこれほど笑顔を運ぶとは思わなかったぜ」
アルベルト「ああ、街に“音”が戻った。……笑い声って、こんなに大きいんだな」
⸻
雪遊びエリアの一角、ステージ前には人が集まり始めていた。
飾り付けられた雪のステージ。白い幕がふわりと揺れる。
音もなく、マルがステージに現れる。
帽子を取って、深くお辞儀。
マル「ようこそ、皆様。
ここは寒き冬の中に灯る、一夜の夢の舞台。
涙も苦しみも、笑いで少しでも溶かせたなら、それが道化の誇りです」
拍手と笑いの中、
マルは吹き矢でリンゴを撃ち落とし、帽子から花を出し、言葉の魔術で人の心を揺さぶる。
メルディス「マルって、やればできるのね……」
シシオ「いやー、なんか……泣き笑いだなこりゃ」
ルプス(そっと医療所から出てきて)
「患者たちも、少しだけ笑顔が増えたよ。……このステージの効果かな」
シーフェ「バカみたいにふざけてても、ちゃんと人の心に届くのよね。……あの人らしいわ」
その目には、輝くステージと笑顔が映っていた。
⸻
何もなかった雪の街に、
いま、夢と希望が確かに息づき始めていた。
◆ 雪明かりの中の羽化
夜。
雪は静かに止み、空には満月が凍ったように澄んでいた。
スノーステージの裏手、小高い雪丘にて。
白い繭が、ほんのりと光を帯びていた。
グランジャスが気付き、皆を呼び集める。
グランジャス「来い、始まるぞ。シルクーの“羽化”のときだ」
仲間たちは寒さを忘れて見守った。
繭はまるで命を持つように、静かに、ゆっくりと脈打っていた。
やがて──
パァァ……ッと白い光が溢れ、
繭の表面に裂け目が走る。
中から、ひときわ繊細な、絹糸のような触角と、透き通る羽が覗いた。
カラストが目を見開く。
カラスト「……天使、みたいだ」
繭が完全に裂け、中から現れたのは──
白い肌に柔らかな桃色の頬、背に大きな蝶のような絹の羽をもつ少女。
シルクー「……さむっ……でも、やっと……羽化出来ました……」
まだふらつきながらも、彼女はまっすぐ立ち、皆の方を見た。
シーフェ「無事に羽化したのね。すごい……絹が光ってる……」
ルプス「繭にいたときとは別人のようだ……生命の神秘だな」
マリーナは感嘆を漏らす。
マリーナ「これはもう神話の域ね……」
そのとき、繭の残骸が雪に崩れ落ち、
シルクーの羽がふわりと光の粉を舞わせた。
風が吹き、彼女の髪と羽がなびく。
シルクー「わたし……お礼が言いたいの。
寒い中、実をくれたり……繭のそばにいてくれて、ありがとう……」
グランジャスは小さく笑って帽子を取る。
グランジャス「礼なんていらねぇ。これから仲間になる奴に礼言われるのも、なんか照れくさいな」
アルベルトも肩をすくめる。
グランが咳払いをしてシルクーに彼女自身の状態を知らせる
グランジャス「ご、ゴホン(赤面)」
シルクー「きゃっ……!!」
ふと、自分が衣服を身につけていないことに気づいたシルクーは、
顔を真っ赤にして、慌てて繭の残骸に身を沈める。
シルクー「う、うそ……!なんで……!!」
絹の羽で必死に身体を隠しながら、目だけキョロキョロと泳がせている。
その様子を見て、マルがにっこり。
マル「ふふふ、これぞ若さ! ウブこその初々しい反応。眼福、眼福ですなぁ……!」
グランジャス(マルの後頭部を軽くどつきながら)
「感想は心の中に留めとけ。……紳士としてな」
ルプス(白衣をそっと差し出しながら)
「シルクー、これ。ひとまずこれを羽織ってくれ。サイズは合わないけど」
シーフェ「ほんとにもう……男子って、こういう時わたわたしすぎなのよ。
私が適当な服持ってくるから、待っててね」
カラスト(顔を真っ赤にしながら)
「ご、ごめん……ぼく、見てないから!たぶん……見てない……かも……」
メルディス(苦笑しながら)
「見てても怒らないわよ。見るのと“凝視”は別だから」
⸻
しばらくして、
シルクーはシーフェの持ってきたゆったりした旅用のローブを身にまとい、ようやくほっとした表情になる。
シルクー「……ふぅ。ありがと、シーフェさん……もう、はずかしすぎる……」
シーフェ「大丈夫。あれが“成虫になった時のあるある”だから」
⸻
ほのぼのとした笑いと、ちょっぴり甘酸っぱい空気が、雪の中に静かに広がった。
服を羽織ったシルクーが、まだ頬を赤らめたまま俯いていると、
ルプスが優しく語りかける。
ルプス「シルクーちゃん、ほら。カイコのすること、ちゃんと覚えてる?」
シルクー「……え?」
ルプス「この繭の残骸――これはね、君が身にまとうための**“儀式の衣”**になるんだ。
カイコの種族では、羽化のあとにこの絹から自分用の衣服を作るのが通例でしょ?」
シルクーはハッと目を見開く。
シルクー「……あっ、そっか……! 教わったのに……忘れてた……」
ルプス「羽化のショックと寒さで少し混乱してたんだね。大丈夫、少しずつ思い出していけばいい」
グランジャス(腕を組みながら頷く)
「そういうことだ。お前が生み出したその繭こそが、お前の旅の衣だ」
マル「つまり、世界に一着しかない“カスタム衣装”ってことですな!芸術は身体から始まる――まさに道化の極意!」
シーフェ「言ってることは正しいけど……なんかイヤな言い方ね」
カラスト「じゃ、じゃあ、シルクーの服って、手作り……?」
シルクー「うん……。あの、みんな、ちょっとだけ待ってて。
今から、この繭の糸で――ちゃんと、自分の服、作ってくる!」
雪の奥へ走っていくシルクー。
彼女の背には、絹の羽がふわりと揺れ、
そのあとにほんのり桃色の光の粒が残った。
シルクーが雪の奥で衣を紡ぎ始めようとしたとき、グランジャスが皆に呼びかける。
グランジャス「よし、俺ら男性陣は後ろ向いてるぞ。ああいうのは見ちゃいけねぇ」
言いながら、ばっちり斜め後ろに体を向けて腕を組む。
アルベルト(コクリとうなずき、背を向ける)
「当然だ。女の子の大事な儀式だからな」
シシオ(少し未練ありげに)
「まあ……うちのおっ母さんにもしつけられたしな。ここは我慢だ」
だが、ひとりだけ不満げな者がいた。
マル「……勿体ない!!
一生に一度の、初々しき羽化の装い作成!
それを背中で過ごすなど、道化としてどうかと……!」
その瞬間――
ティミス(バシッ!とマルの後頭部に手刀)
「紳士になりなさいよ、マル!」
マル「ひでぶっ!」
カリン(ニコッと笑いながら)
「女の子を大切にするのが、本当のかっこよさよ」
リセリナ(ぬるりと触手を揺らしつつ)
「……後ろ向いてなかったら、捕食袋に入れて栄養にするわよ」
マル「かしこまりましたあああ……っ!」
⸻
こうして、男性陣はきちんと後ろを向き、
女性陣がシルクーの着替えと衣作りのサポートに向かう。
やがて――雪の光がわずかに虹色に染まり、
繭糸で織られた新しい衣が、彼女の体にふわりと舞い降りる。
シルクーは繭から姿を現したばかり。
慣れない衣に身を包み、羽を少し揺らしながら、もじもじと一歩踏み出す。
シルクー「あの…わ、私……」
(ぎゅっと胸元を押さえ、言葉を絞り出す)
シルクー「成虫になるために旅してたんです。
それが、さっき……かなって。だから……その、旅は終わったんですけど……」
一度下を向き、羽をしぼませるように小さくなりかけるが、
ぐっと顔を上げて――
シルクー「でも、まだ……旅を続けたくて。
もし……良ければ、私も旅に加わりたいです……!」
その言葉に、一瞬の沈黙。
だがすぐに、優しい笑みで答える声が届く。
アルベルト(穏やかにうなずいて)
「歓迎するよ、シルクー。」
カラスト(ぱっと明るい顔で)
「やった!年の近い仲間だ!」
シーフェ(やや意地悪な笑顔で)
「繭のときと違って、言うときは言えるのね~」
シルクー「ひゃっ……そ、そんなこと……///」
マル「旅は人生そのもの、始まりに理由は不要ですぞ。
ようこそ、新たな道化……いえ、シルクー殿」
グランジャス(ふっと笑って)
「仲間が増えるってのは、いいもんだな。心強くなる」
⸻
こうして、雪国の空に新たな旅人が加わった。
その羽根はまだ小さく、声も震えているけれど、
確かにその瞳には、冒険を望む光が宿っていた──。
グランジャス「なんか……気づけば大所帯だな。団体って感じだ。いや、旅団って言った方がいいか?」
アルベルト「確かにな。そろそろ名前でもつけてみるか? 旅団名ってやつ」
カラスト「えっ!かっこいいのがいい!ぼく“ドラゴンなんとか”とか好き!」
メルディス「“ナイフの閃光”とかどうかしら?ちょっと中二っぽいけど好きよ」
マリーナ「うーん、氷の街から出たんだし、“スノー・スターズ”とか?」
ルプス「“銀の医師団”……あ、いや今は戦闘もするし違うか」
シシオ「“熱血旅団・炎コラ”はどうじゃ?」
全員「……却下」
マル(笑いながら)
「道化的には“運命のピエロたち”などいかがでしょう?」
カリン「だったら“グランジャス様親衛隊”とか♡」
グランジャス「おいおい、それはただの俺贔屓だろ」
シーフェ「じゃあ“未定団”でいいんじゃない?まだ決まってないし、案外クセになるよ」
カラスト(雪を踏みながらぽつりと)
「なんかさ……こういうの、物語にできそうだね。ぼくたちの旅って」
シシオ(重たいスコップを肩に担いで)
「ああ。雪かきしてたと思ったら、魔物と戦ったり、仲間が増えたり……濃い旅だ」
リセリナ(静かに、でも確かに口を開く)
「それなら……こういう名前はどうかしら?」
リセリナ「ロードストーリーズ」
仲間たちがその言葉に耳を傾け、一瞬の静寂が流れる。
グランジャス(ふっと笑いながら)
「……なんか、しっくりくるな」
アルベルト(頷いて)
「道を歩む者たちの物語――まさに、俺たちにぴったりかもな」
マル「詩的でよろしい。“ロードストーリーズ”……名乗るのが楽しみですぞ」
カリン「わあ、素敵な名前♡」
メルディス「物語の主人公みたいね、ふふ」
シルクー(小さく微笑んで)
「すごく……素敵です」
カラスト(目を輝かせて)
「本当にぼくたちの物語になってきた……!」
⸻
こうして、「ロードストーリーズ」の名のもとに、旅団はひとつとなった。
それはまだ始まったばかりの物語。
寒さの中で芽吹いた仲間たちの絆は、やがて世界を変える力へと変わっていく──。
グランジャス(腕を組みながら小さく呟く)
「……もしかして、旅団の本部って、俺の屋敷か?」
アルベルト(即答で)
「**当たり前だろ。**あんな広くて立派な場所、他にないしな」
マル(茶化すように)
「さすがはグラン様。懐も心も、屋敷もデカい!」
シーフェ(ニヤニヤしながら)
「でもちゃんと掃除してる?男所帯の館ってホコリすごそうよ」
グランジャス「掃除くらいちゃんとしてるわ!」
カラスト(わくわくしながら)
「ねぇねぇ、訓練場とか図書室とかあるの?あと、おやつはある?」
グランジャス(少し照れながら)
「……一応全部あるぞ。おやつは無いがな」
シシオ「じゃあ、旅団の旗でも作って屋敷に掲げるか」
マリーナ「いいわね。立派な“本部”になるじゃない」
リセリナ「その時は、私が紋章を考えてあげるわ」
⸻
こうして、「ロードストーリーズ旅団」はグランジャス邸を本部とし、
本格的な拠点を持つに至った。
旅団の拡大と冒険の広がりは、これからさらに加速していく──。
グランジャス(空を仰ぎ、静かに)
「……そろそろ、覚悟決める時だ。
俺は――シンズタワーに用がある」
仲間たちがざわめく中、
アルベルトが一歩前に出て、力強く答える。
アルベルト
「なら、**みんなで行くぞ。**お前一人じゃない」
グランジャス(驚いたように眉を上げる)
「……これは俺個人のことなのに……いいのか?」
その問いに、仲間たちは次々と声を重ねていく。
⸻
マル「旅団でしょ?“ロードストーリーズ”は仲間の物語。誰か一人の話は、皆の話ですぞ」
シーフェ「グラン様ってほんと、こういう時だけ頑固よね」
ルプス「あなたが困ってるなら、助ける。医者だって同じ理屈です」
ティミス「あたし、グランジャスが一人で抱え込むの見るのもうイヤ!」
カリン「ご主人様を一人にしません♡」
メルディス「ダーリン、ちゃんと頼って?」
シシオ「誰かの戦いは、皆の戦い。そんだけの話だ」
カラスト「ぼくも行くよ。何があるか分からないけど、仲間なんだから」
リセリナ「自分の問題だと突き放すのは、優しさの仮面をかぶった逃げよ?」
シルクー(おずおずと)
「わ、私も……いきます……こ、怖いけど……こ、この旅団で、強くなりたいです……!」
⸻
グランジャス(少し黙ったあと、鼻で笑う)
「……ははっ、バカ野郎どもめ。
……ありがとう。なら、みんなで行こう。シンズタワーへ。」
そう言ってアルベルトたちはシンズタワーへ向かうのだった
道物語(ロードストーリー)スノータウン編 [完]
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