獣人ヒーロー、悪に堕つ 第3話「鷹と虎と熊と」

  「疾風てめぇ!俺様のやり方が気に入らねえっていうのか?」

  「リーダーは俺だ。なぜ俺の指示に従わなかった?」

  「はぁはぁ……そんなことよりオマエら、なんでそんな元気なんだよ。お、おえぇぇ…」

  ヒーロー組織「ティア・ガーディアンズ」の秘密基地。そのトレーニングルームにて3人のヒーロー達が激しい言い争いをしていた。

  筋骨隆々な鷹獣人、鷹野翔真が変身する炎のヒーロー・ファイアレッドは、細くしなやかな虎獣人、虎淵疾風が変身する風のヒーロー・ブルーウインドと対峙する形で立っていた。もう1人、床に倒れ込んでいるずんぐりむっくりとした熊獣人、熊江武蔵が変身するランドイエローは顔を青くして胃の内容物を床に嘔吐している。

  トレーニングルームの外から3人の連携を見守っていたヒーロー部隊長・鮫島海蔵は大きな溜め息をついて頭を抱えていた。

  ほら、見たことか…鷹野翔真の経歴を聞いた時点でこうなることは予想通りであった。

  しかし、あの夜ブルーウインドとランドイエローが連れてきた鷹野翔真は良い意味と悪い意味の両方で想定以上であった。良い意味で想定以上だったのは翔真の「ガイア」への適正であった。

  土佐司令官が感知する前から炎のガイアに覚醒していた彼はその力を遺憾なく発揮してヒーローとして初陣で怪人を単独撃破したという。これは「天才」と称される疾風をも超える、もはや「鬼才」と呼ぶ他ない才能であった。

  しかし、悪い意味で想定以上だったのは協調性のなさが問題であった。

  正式にティア・ガーディアンズ所属のヒーローとなった後も独断で出撃したり、他のヒーローとの連携を取らずに作戦をめちゃくちゃにしたり、と入隊1ヶ月にして起こした問題は100を越えた。

  冷静かつ合理的な性格ゆえに周りの隊員と衝突も多い疾風とウマが合わないのも道理であった。

  「なるほどのぅ…なら、翔真、疾風、武蔵の3人1組のチームを組ませてみてはどうかのぅ?」

  海蔵からの諫言にも耳を貸さず我が道を行く翔真。最近の若者の考えていることはわからん、と土佐司令官に相談した海蔵は思わぬ提案を受けることになった。

  「は?いや、それは……どのような意図で?」

  土佐司令官とは長い付き合いであり、彼の言うことであれば基本的に二つ返事で承諾する海蔵が思わず質問返しをしてしまうほど虚を突かれていた。

  「疾風と武蔵も普段はいがみ合っているが、作戦中はなんだかんだ息を合わせているじゃろ?」

  「たしかにそうじゃが……」

  「2人でできるのであれば、3人でもできるじゃろ?」

  『……それだけ?』

  あまりに根拠のない発言に司令室に思わず海蔵の心の声が漏れそうになる。

  言っている土佐司令官は大真面目なのが性質が悪い。

  『どう返したもんかのう……しかし、この人の勘には何度も助けられてきた。当てずっぽうで言っているように見えるが、実は何か根拠があるのやもしれん』

  しばしの熟考の末、海蔵は重い口を開いた。

  「わかりました、土佐司令官。ファイアレッド、ブルーウインド、ランドイエローの3名で小隊を編成して以後は3人1組で作戦行動に従事させます」

  満足気に頷く土佐司令官に敬礼をした海蔵は司令室を後にする。だが、海蔵がこの決断を後悔するまで そう時間はかからなかった。

  [newpage]

  海蔵は即日で3人に小隊編成を命じ、疾風をリーダーに任命した。

  反応は三者三様で、疾風は黙って頷き、武蔵は不安そうな顔を浮かべながらも承諾したのに対して、翔真が「足手まといを抱えて戦うのはゴメンだぜ」などと言うものだから、武蔵が過剰に反応し取っ組み合いの喧嘩にまで発展した。

  バラバラの方向を向いたまま始動した部隊であるが、作戦行動の中で3人のそれぞれの実力は見えてきた。

  まず、ランドイエローこと熊江武蔵は着実にヒーローとしての実力を身に着けてきており、タイラントの戦闘員数人程度であれば遅れを取ることはなくなっていた。

  しかし、単体での怪人撃退の実績はなくファイアレッド、ウインドブルーのサポートの役割を務めることがほとんどであった。

  気さくな性格もあって、元々チームを組むことが多かったブルーウインドとはもちろん、初っ端で喧嘩をしたことが功を奏したのかファイアレッドとも作戦を共にする内に意気投合していった。

  次にブルーウインドこと虎淵疾風は3人の中でヒーローとしての歴も最も長く実践経験も豊富であった。単独での怪人撃破だけでなく、潜入捜査や人質救出などの作戦も着実にこなす実力を持っていた。

  しかし、スピードに優れているが故にパワーは他のヒーローよりも劣っているため防御力に特化した怪人に対しては決め手に欠け、苦戦を強いられる場面も見られた。そして何よりリーダーという任務を全うしようとするあまり、どこか高圧的な物言いになり他の2人からの反発を招くことも多かった。

  最後にファイアレッドこと鷹野翔真はヒーロー歴は最も短いものの、戦闘センスにおいては歴代ヒーローの中でもトップクラスに優れていた。初陣で怪人単独撃破を果たした彼は、その後も単独での怪人撃破や敵拠点破壊などの任務で頭角を露にしていった。

  しかし、協調性が乏しく他のヒーローとの連携が取れないという致命的な弱点があった。

  ランドイエローは彼のサポートに徹することでうまくやっていたが、リーダーのブルーウインドとは全くソリが合わず、結果的に作戦行動はファイアレッドとランドイエロー、もしくはブルーウインドとランドイエローの2人体制で任務に当たることがほとんどであった。

  海蔵は突如発生した海難事故の救助任務にヘリで向かいながら、疾風が書いた小隊の活動レポートを読んでため息をついた。

  「しかし、あの疾風がムキになるのも珍しいのう……もう少し理性的にやってくれると思ったんじゃが」

  翔真の言動というよりも思想の部分で何か気に食わない様子だと推測しているが、言葉少なな疾風はそのことを海蔵に相談して来る様子もないため、その心中も計りかねていた。

  「やっぱり若いもんの考えてることはわからんわい。ガイアチェンジ」

  ちょうど海難事故現場に現着したため、気持ちを切り替えてヒーロー、アクアマスターに変身し単独任務を開始するのであった。

  ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

  「なあ、おまえらよぉ……もうちょっと仲良くできねえの?」

  海蔵が救助任務に赴いている頃、若者3人は食堂で黙って昼食を食べていた。

  つい先ほどまで珍しく3人で市街地に出現した戦闘員の撃退任務に当たったが、ファイアレッドとブルーウインドの連携が全く取れておらず想定以上に被害を出してしまった。

  作戦終了後、基地に戻った彼らは不機嫌そうに口も聞かず昼食を食べていたが、重い雰囲気に耐えかねた武蔵が意を決して切り出した。

  「おいら達、同じ目的で戦ってるんだからよ、もうちょっとこう……」

  「本当に同じ目的で戦っているのか?」

  黙って聞いていた疾風は視線すら寄越さずにピシャリと言い放つ。

  「え、違うのかよ?」

  「武蔵、おまえは何のためにタイラントと戦っている?」

  疾風に問いかけられた武蔵は天井を仰ぎながら何かを思い出すような表情を浮かべる。

  「そりゃ、皆を守るために決まってるだろ。おまえらは違うのか?」

  「俺は復讐だ。奴らは俺の家族の命を奪った。その復讐のために俺は軍に入ったし、ヒーローにもなった」

  普段の調子で淡々と話す疾風であったが、その言葉が含む凄みに重かった雰囲気がさらにズシリと重くなる。しかし、そんな空気を嘲笑うように翔真は鼻を鳴らした。

  「へっ、おまえらそんな大層な理由で戦ってるのかよ?これだから真面目ちゃん共は嫌になるぜ」

  「おい、ショーマ……!」

  「なら、おまえは何のために戦っている?おまえもタイラントとの戦争で家族を失っていると聞いているが?」

  プレートに載った人工肉にフォークを突き立てた翔真は挑発するような笑みを浮かべながら2人を見返した。

  「戦いだ。強い奴との戦いの場に身を投じることが俺様にとっての存在意義だ!皆のためだ、復讐のためだ、そんなのくだらねぇ!」

  直情的な翔真の発言に唖然とする武蔵だったが、疾風は苛立たしげにテーブルを叩くと怜悧な瞳で翔真を睨みつけながら席を立った。

  「こんな大義もない奴と俺達がチームを組むことが甚だおかしいんだ。鷹野翔真、おまえはヒーロー失格だ」

  「ハヤテ、ちょっと待てって……」

  その場を後にする疾風の背中を追った武蔵は途中で踵を返して翔真に顔を迫らせる。

  「おい、ショーマ。おまえがどんな理由で戦おうとおいらは何にも思わねぇ。だけどな、人の信念を踏みつけるようなことは2度と言うんじゃねえぞ」

  それだけ言い捨てると、武蔵は今度こそ疾風を追って食堂を出ていった。

  「けたくそ悪い……こんなしょうもないところ、こっちから願い下げだぜ」

  悪態をついた翔真もまた席を立ち、食堂を後にする。食べ残された3つのプレートだけがテーブルの上に残されていた。

  [newpage]

  基地を出た翔真は市街地を歩いていた。

  最近タイラントの戦闘員が突如現れ一般市民を襲撃する事件が増えているため、パトロールという名目で外出許可を得た。

  しかし、その実は鬱憤を発散するため裏路地にたむろするゴロツキを殴りたい気持ちが先行していた。

  タイラントの侵略戦争で家族を失った翔真は幼くして天涯孤独の身となった。学校で十分な教育や集団生活を学んで来なかった彼にとっては「仲間」や「チーム」という感覚がわからなかったのだ。

  『やっぱりこうなっちまうんだ。それなら1人の方が気楽でいい』

  そんなことを考えながら広い公園を歩いていると、そこは昨日タイラント戦闘員が出現した場所であった。

  幼稚園児と思しき幼い獣人達が遊ぶ砂場を横切ろうとした時、1人のミニチュアダックスフンド獣人が翔真の顔を見てパッと顔を明るくさせた。

  「あ、鷹のヒーローのお兄ちゃんだ」

  「あぁ?」

  その声に公園で遊んでいた他の園児たちも翔真の周りに集まってくる。ティア・ガーディアンズのヒーロー達はいわば公人であり、一般市民にもその正体を隠していない。

  どうやら昨日戦闘員を退治した際に駆けつけた翔真と武蔵は園児たちに顔を見られていたようだ。

  「昨日はありがとう!」

  「あの炎のアレ、また出してよ!」

  「今日は熊のお兄ちゃんはいないの?」

  わらわらと集まる園児たちに取り囲まれた翔真は面倒くさそうな表情を浮かべるが、力づくでかき分けて怪我をさせる訳にもいかない。

  「うるせえぞガキ共、俺は今いそいでるんだよ!」

  「ひぐっ!ひっく……ぐすっ……うわあぁぁぁぁん!!」

  翔真の大声に驚いた園児たちは騒ぐのをやめた……と思いきや、今度は大声で泣き出してしまう。これには翔真も困り果てて大きく溜め息を吐いた。

  「ガキの扱いがうまい武蔵がいてくれりゃあよ……って、なんで俺があんな野郎に頼らなきゃいけねえんだよ」

  と、腕に装着しているガイアチェンジャーの着信音が鳴る。発信主は基地にいる疾風であった。バツが悪そうに通信機をオンにする翔真。

  「なんだよ?さっきのことなら俺は謝らねえからな……」

  「そんなこと言ってる場合じゃない。翔真、今すぐそこから離れろ!おまえのいる公園で巨大な次元の裂け目がっ……ガガ!」

  ティア・ガーディアンズの基地にはタイラントが出現する際の次元の裂け目を感知するレーダーが設置されている。

  スタッフが次元の裂け目の予兆を検知し、翔真の位置情報の近くであることに気づいた疾風が翔真に連絡したようだが、突如音声が不明瞭になっていく。

  「いいっ…ガ…おまっガ……1人…するな……お…ガガ達が行くまで…まって……ブツッ」

  そこで通信が切れる。それと同時に空が暗くなり公園中央の空間が突如裂け始めた。タイラントの次元ワープの前兆であった。

  「来やがった!ガキ共、さっさとこの場から逃げやがれっ。ガイアチェンジ!」

  泣き喚く園児達は公園の出口に向けて一目散に駆け出す。

  公園に取り残された翔真はガイアチェンジャーを天に掲げてヒーロースーツを身にまとい、ファイアレッドへと変身する。

  「おい、なんだこの裂け目……いつもよりデケェじゃねえか」

  レーダーの開発により事前にタイラントの出現エリアを検知できるようになったティア・ガーディアンズであったが、ファイアレッドの眼前の裂け目はこれまで見たこともない程の大きさであった。

  裂け目の向こう側に見える紫色のおどろおどろしい空間から現れたのは……この惑星ティアースに生息する生命体ではなかった。

  大きな三角形の頭に、額からは2本の大きな角と1本の小さな鼻角を生やし、首は緑色の鱗状の装甲に覆われていた。

  その頭部はいわゆる恐竜トリケラトプスのそれであり、錨型の肩や太い手足、出張った腹といった頭部以外の全てを重い鉄の鎧で覆っていた巨人であった。

  「グワハハハハ!下界に降りるのは久しぶりだが、相変わらず何もかもスケールが小せえな!」

  「てめえ何者だ?」

  炎の翼を向けながら鎧の巨人に対峙するファイアレッド。巨人はゆっくりと首を動かしファイアレッドを見下ろした。

  「貴様、イビルフロッグが話していた最近出現した新たなヒーローだな!それならオレのことを知らぬのも仕方がないな」

  「俺様のことを知ってやがるのか……?もったいぶらないで早く名乗りやがれ、怪人野郎!」

  ファイアレッドのその発言に巨人は明らかに気を悪くしたようで大きい顔に不釣り合いなそのつぶらな瞳でファイアレッドをジロリと睨んだ。

  「おれは怪人などという下賤な存在ではない!タイラント三将軍が1人、武力将軍アイアントプス……それがオレの名だ」

  「武力将軍……だとぉ!?」

  「いかにも。オレは貴様ら獣人、そしてそのなれの果てである怪人を支配する異世界人類……レプタイルだ。貴様なぞ一捻りで潰してやるわ!」

  必要以上に大きな声で語りかけるアイアントプスは見ようによっては間が抜けた様子ですらあるが、全身からは得体の知れない威圧を放っていた。

  その威圧はファイアレッドの生物としての本能を刺激し、彼に初めての恐怖を覚えさせた。

  「ガーハハハ!震えておるぞ?」

  「これは武者震いだ……てめぇなんざ簡単にぶちのめしてやるぜ」

  「貴様ごときがオレの相手になるはずないだろう。三将軍が1人、スパイラルリヴァイアサンを討ち取った忌々しいヒーロ……アクアマスターを呼べ!」

  「なに!?ふざけんじゃねえぇぇ!」

  自分を過小評価しているアイアントプスの態度に怒りを燃やしたファイアレッドは炎の翼を広げて上空に飛び上がる。

  「そんな重い鎧をまとってたら、ここまで攻撃する手段はな……んだと!?」

  上空から公園を見下ろそうとしたファイアレッドの眼前には金属パイプの骨組み……「ジャングルジム」が迫ってきていた。慌てて回避したファイアレッドを次に襲ったのは長方形の木の板……「シーソー」だった。

  「あの野郎、なんて馬鹿力だ。公園の遊具を引っこ抜いて空にぶん投げてるのか?」

  驚異的な膂力で公園に設置されている遊具を投げつけてくるアイアントプスであったが、さすがに空中を飛ぶファイアレッドには分が悪いかと思われた。しかしーーー

  「ぐおっ!これは体に巻き付いてきてっ…ブランコだと!?うわぁぁぁ!」

  アイアントプスが投げた「ブランコ」をかろうじて避けたファイアレッドであったが、支柱と座板を繋ぐ鎖が空中でランダムに動き回りファイアレッドの翼に絡みついてしまった。翼に絡みついたブランコの重みでファイアレッドは地面に墜落していった。

  「うっ…ううぅ…うごっ!」

  墜落し公園の砂場に体を打ちつけたファイアレッドはなんとか体を起こそうとするが、重い足音と共に近づいてきたアイアントプスは彼の頭を太い足で無慈悲に踏みつけた。

  「ふん、だから言ったであろう!貴様ではオレの相手にならないと!」

  「う、うるせぇ……!ファイアウイング!」

  自由な片翼を羽撃かせて、炎をまとまった羽根をアイアントプスの全身に飛ばすが鉄の鎧と厚い鱗には翼は刺さらず炎の熱さも遮断してしまう。

  「小癪な手を使いおって。このまま貴様の頭を潰してやろうか!」

  「ぐあぁぁぁぁあああああ!」

  ファイアレッドの頭部に装着されたバイザーが割れ、ミシミシと頭蓋骨が軋む音が聞こえる。片側の翼にはブランコの鎖が巻き付いており、苦痛に叫べば砂場の砂利が口の中に入ってくる。ファイアレッドは絶体絶命の状況に陥っていた。

  『こんなところでっ……ちくしょう、俺様の実力もこんなもんだったっていうのかよ』

  自らの力不足を嘆きながら苦しみに耐える翔真てあったが、次第に走馬灯のように記憶が脳裏に浮かんでは消えていく。

  幼い頃の家族との記憶、タイラントの攻撃により目の前で家族を失った記憶、生きるために身を鍛え地下闘技場に身を投じた記憶、戦いの中で「生」を感じ生きてきた記憶……

  そして、最後に浮かんできたのは、疾風と武蔵の顔であった。

  『こんな大義もない奴と俺達がチームを組むことが甚だおかしいんだ。鷹野翔真、おまえはヒーロー失格だ』

  『おい、ショーマ。おまえがどんな理由で戦おうとおいらは何にも思わねぇ。だけどな、人の信念を踏みつけるようなことは2度と言うんじゃねえぞ』

  疾風と武蔵に最後に投げかけられた言葉が蘇ってくる。

  『あいつらに悪いこと言っちまったな……俺、友達とか仲間とかいなかったから、どう接していいのかわからなくって……さっきちゃんと伝えときゃ良かったな……』

  「すまねえ……疾風、武蔵……」

  ファイアレッドの口から思わず言葉が漏れた時、突然頭を踏みつけていたアイアントプスの足が宙に浮いた。正確にはバランスを崩したアイアントプスが砂場で倒れていた。

  「ウオォォォォ!なんだオレの足場だけ急に砂が崩れて?」

  「うがぁぁぁああ!ハヤテ、今のうちにショーマを助けろ」

  「まったく世話が焼ける……!」

  ランドイエローが砂場の地面に手を着き叫ぶとアイアントプスの砂場に着いていた足の方だけに流砂を起こしたのだ。

  それによりバランスを崩されたアイアントプスはひっくり返って背中から転倒してしまった。

  その隙にブルーウインドが風の刃でブランコの鎖を切ると、砂場からファイアレッドの体を引き戻した。

  「よう、ショーマ。ずいぶんボロボロじゃねえか」

  「独断専行のツケが回ってきたようだな。これを機に反省しろ」

  「ゲホッ……!ゴホッ……!おまえら、どうして……?」

  口の中に入った砂利を吐き出しながら2人に問いかけるファイアレッド。その問いかけにブルーウインドとランドイエローが顔を見合わせた。

  「俺達がチームだからだ。それ以外の理由はない」

  「こんなこと言ってるけどハヤテのやつ、ショーマへの態度を反省してたんだぜ。大人気なかったってさ」

  「余計なこと言うな、ランドイエロー。それから作戦中はコードネームで呼べと何度言えば……」

  「わりぃわりぃ……おいら達は仲間なんだからよ。助けに来るのは当たり前だろうよ」

  ここに来てファイアレッドは自分がチームとして……仲間として迎えられていたことに気づいた。

  それは天涯孤独の身であった彼にとって初めて覚えた気持ちであった。

  「すまねえな、2人共……」

  「ショーマ。こういう時は謝罪じゃなくて、御礼だろ?」

  「……助けてくれてありがとな」

  「ふん、素直に言えるじゃないか。さて、敵はタイラントの幹部だ。これまで戦ってきた怪人より圧倒的に強い。どうやって倒すか?」

  冷静に現状を分析し始めるウインドブルー。

  砂場から起き上がったアイアントプスがヒーロー達を怒りに顔を赤くしてヒーロー達を睨みつけており、今にも攻撃を仕掛けて来そうな状況だ。

  「ランドイエロー、もう一度足場を崩せるか?」

  「できるけど、あんな不意打ち2度も喰らってくれねえだろ?」

  ブルーウインドからの問いかけに答えるランドイエロー。

  「いや、一瞬でも気を反らせれば十分だ」

  「……わかった、やってみらぁ」

  「頼んだ。ファイアレッド、この作戦の要はおまえだ。頼んだぞ」

  「……おう」

  この時、小隊を組んでから初めて3人のヒーローがお互いの目を見て頷き合い、互いを信じた。

  ーーーーーーーーーーーーーーーー

  「雑魚どもめ!この武力将軍アイアントプスをコケにしおって。許さんぞ!」

  鱗に覆われた顔を真っ赤にしたアイアントプスが四つ足の態勢になり後ろ足で地面を蹴ると、重い鎧を身にまとっているは思えないスピードでヒーロー達に突進してきた。

  散開して間一髪で回避する3人。

  傷ついたファイアレッドは回避した先で態勢を崩して着地に失敗し倒れてしまう。

  「くそっ、さっきの墜落で内蔵がやられちまった……!」

  「ククッ、まずは貴様だ。ファイアレッド……!」

  砂場を挟んでアイアントプスとファイアレッドが対峙する形になった。

  先ほどの戦闘で弱ったファイアレッドを最初の獲物と見定めたのだ。

  「その傷では満足に飛べんだろう。くらえぇぇぇ!」

  アイアントプスが再び四つ足となりファイアレッド目がけて突進したのを確認したランドイエローは再び地面に手を着いた。そしてーーー

  「間に合え、アリジゴク!」

  そう叫ぶと砂場の砂が、まるで蟻地獄のような地底に引きずり込む渦巻きを作っていき、アイアントプスの前足が砂の渦に巻き込まれていく。

  「うおぉぉぉおお、またこの手か!なんのこれしき……!」

  アイアントプスは蟻地獄から抜け出そうと必死で両足を動かす。

  「ぐぐっ……ぐおぉぉぉぉぉ!」

  今のランドイエローにとって大地のガイアを駆使した1番の大技であり、体力の消耗も激しい。しかし、ここで敵を逃してしまえばファイアレッドの命が危ない。歯を食いしばり、力を込めて地面に送る力を強くしていく。

  「ははっ、イビルフロッグの情報通りあの黄色いのは力が弱いようだな。渦の勢いも弱まってきておる。このまま一気に渦から抜けて…なんだこの風は?」

  蟻地獄を抜け出そうと藻掻くアイアントプスの顔面に突風が吹きかけられる。

  ファイアレッドの背後でブルーウインドが手を前に翳して、突風を起こしているのだ。

  「あの青いヒーローの力だな!?こんなものではオレの硬い鎧を突き破れんぞ」

  「だろうな?だから……おまえの出番だ」

  ブルーウインドがそう言うと、倒れていたファイアレッドがふらふらと立ち上がった。

  「気持ちいい風だぜ、疾風。この風、乗らせてもらうぜ!」

  ファイアレッドは炎の翼を大きく広げて地面を蹴った。突風を背後から翼で受けたファイアレッドの体はその勢いに乗って、蟻地獄に嵌まるアイアントプスに突進していく。

  「突進には突進だ!喰らいやがれ、ファイァァァアアア!タックル!」

  炎のガイアを振り絞り、全身に火を纏ったファイアレッドが火の玉となり、アイアントプスの顔面に突っ込んだ。

  「うおぉぉぉぉおおおお!」

  「翔真ぁぁぁああ!決めろぉぉぉ!」

  「いけえぇぇぇえええ!ショーマァァァ!」

  3人のヒーローの叫びがこだまする中、火の玉はアイアントプスの顔面を貫いたーーー!

  [newpage]

  バキッ

  鈍い音と共にアイアントプスの額から生えていた2本の角の内、左の1本が折れた。それが限界だった。

  「オレの自慢の角が……!許さん……許さんぞ、雑魚ども!」

  それは致命傷には繋がっていなかった。

  角を折られた怒りでアイアントプスは瞳を赤くしてヒーロー達を睨みつける。

  しかし、すでにヒーロー達は満身創痍の状態に陥っていた。ガイアの力を使い果たしたファイアレッドとランドイエローは地面に倒れ伏し、ブルーウインドも立っているのがやっとの状態であった。

  「はぁ、はぁ……くそっ、ここまでか?」

  ズシンズシンと重い足音と共にアイアントプスがブルーウインドに迫り来る。挑戦的に睨みつけたまま対峙するブルーウインドの細い体にアイアントプスの角が突き立てられた、その時ーーー

  「[[rb:水砲> すいほう]]」

  遠くから野太い声が聞こえた。アイアントプスの角が飛んできた水の球に弾かれるのは声が届くのと同時であった。

  「この水……貴様がアクアマスターか?」

  音速で飛んできた水の球の打ち手……黒と水色のヒーロースーツを身に纏った鮫獣人にして最初のヒーロー、アクアマスターであった。

  「呆れたのう……タイラントの幹部ともあろう者が若者をいたぶるなど……大人げないではないか?」

  「貴様、いつの間に?」

  先ほど遠距離から水の球を放ったアクアマスターはいつの間にか公園の中央に佇んでいた。その足下にはファイアレッド、ウインドブルー、ランドイエローの横たわっていた。

  「おぬしら、ここまでよくやったのう。後はわしに任せておけ」

  アクアマスターが手を広げると気を失った3人のヒーローをバリア代わりの水泡が包み込んでいく。その隙を見て、アイアントプスが四つ足になり再び突進の態勢を取った。

  「油断大敵だぞ、アクアマスター!」

  「少し黙っておれ、[[rb:水壁 > すいへき]]」

  突進するアイアントプスの1本角がアクアマスターに届くかと思われた瞬間、地面から水の壁がせり上がってきて角の軌道を変え、勢いを殺していく。

  そして、右手に水を纏わせると角の根本を目がけて勢いよく振り落とした

  「[[rb:水刀 > すいとう]]」

  スパッ

  あまりに一瞬の出来事で技を受けたアイアントプス自身も何が起きたのか理解できていなかった。地面に落ちた自身のもう1本の角が目に入り、やっと何が起きたのかを理解した。

  「オレの……オレの角がぁぁぁああああ!」

  額を両手で触るが、そこに生えていた自慢の角はなくなっていた。その場に崩れ落ちるアイアントプスを、アクアマスターは冷たい視線で見下ろした

  「のう、アイアントプスよ。今日のところはここで手打ちにせぬか?」

  「貴様……!この角の恨みを晴らすまで撤退などせん!」

  「自惚れるでない……!おまえさんを倒すなど造作もない。だが、おまえさんに痛みつけられた小童どもを早く基地に帰したい。その角が生え変わったら、いつでも相手をしてやる……だから、今日のところは手打ちじゃ」

  しばしの睨み合いの後、アイアントプスは次元ホールを開き、この場から消え去っていった。

  「やれやれ、幹部クラスを前にして無理しおって。しかし、さすが土佐司令官、どうやら小隊編成は功を奏したようじゃのう」

  水泡から取り出した3人を公園の地面に横たえると、ガイアチェンジャーを介して本部に救助車を要請する。

  寝顔は三者三様であったが、全員どこか満足げで誇らしげな表情を浮かべていた。

  「しかし、気になるのはタイラントの動きじゃのう……なぜこのタイミングで幹部クラスを繰り出してきた。何が目的じゃ……?」

  タイラントの不穏な動きに一抹の不安を覚えながらも、3人の若者達の傷だらけの寝顔を眺めてアクアマスターを笑みを浮かべるのであった。

  ーーーーーーーーーーーーーーーーー

  「ゲーロゲロゲロゲロ!アイアントプスのヤツ、ヒーロー共にコケにされていい様ゲロ」

  誰もいない夜の公園に下卑た笑い声が響く。タイラントもう1人の幹部、イビルフロッグが公園の草むらから大きな腹を揺らしながら現れた。

  どうやら一連の戦闘を記録した撮影機器を回収しに来たようだ。

  「しかし、おかげでだいぶヒーロー達の力も記録できたゲロ。戦闘員を放っただけではガイアの力を使われないこともあるからなぁ」

  多発するタイラントの襲撃事件。それはイビルフロッグがヒーローのガイアの力を記録し、調査するために企てたデータ採取作戦であった。

  「ガイアの力を使う時、ヒーローの体内で気の流れが伴うようゲコ。なら、その流れを滞らせれば……」

  独り言を呟きながらレポートに何かを記入していくイビルフロッグ。その瞳は冷徹な研究者そのものであった。

  「ということはガス状にして吸わせることができれば……ゲココ!最近、捕まえたあの獣人が役に立ちそうゲコ!ゲココ……そろそろワシも動き始めるか……ゲコ♡」

  第4話「イビルフロッグの実験 〜怪人化改造〜」に続く