小説ガンダムとドラゴンクエスト

  彼女は、子供の頃からゲームに熱中してゐた。

  親に好きなゲームを全て購ひ與へられ、ゲームに没頭する日々を送つてゐた。

  最初は「ドラゴンクエスト モンスターズ」、次に「スーパーマリオブラザーズ」。

  「マリオカートDS」と「Wii」、「大乱闘スマッシュブラザーズ」、それから「マインクラフト」と、「パズル&ドラゴンズ」、「つむつむ」、「ウマ娘」、「Cytus」、「Deemo」、「Cytus II」など。

  又、オンラインゲームの、剣と魔法の世界に熱中し、一日二十四時間位プレイした。

  學校には全く行かなかつたし、親もそれを良しとしてゐた。

  友達はゐなかつたけど、彼女はゲームの世界で多くの人間と交流することができた。

  そのため、彼女はゲームの知識や技能に關して、驚異的な成果を出すことができた。

  彼女の言葉は全てゲーム由來だつた。何故なら、記憶容量のほとんど全てをゲームに費やすことができたからだ。

  親相手にも、呪文の樣な言葉を並び立ててゐたが、両親はそんな彼女を見て、「自慢の娘だ」と誇つてゐた。完全に狂つてゐた。

  然し、彼女も自身が誇らしかつたし、又、両親のことをも誇らしく思つてゐた。

  ゲームに没頭する一方で、彼女は矢張り、社會との接触や經驗が少なかつた。そのため、彼女にはコミュニケーション能力や社會的スキルに欠ける部分があつた。

  それでも、彼女は何かしら自分自身を証明したいと思つてゐた。

  そしてある日、彼女は、小説版の『機動戦士ガンダム』に出逢つた。

  彼女はそれを読みながら、自分自身に挑戦するやうになつた。巨大ロボットを駆つて戰ひ、自分自身を成長させるといふストーリーに魅了され、自分もアムロのように自分がやれることを証明したいと思ふようになつた。

  彼女は自分自身に新たな挑戰を与えた。

  14歳にして、高認を受けることにしたのである。

  高認は、高校卒業程度の學力があることを認定する試験であり、學校に行つた事の無い彼女には非常に高い壁だつた。

  然し、彼女はアムロのやうに、自分自身を成長させ、試験に合格したいと思つた。

  最初の登録から始め、家庭教師を頼んで勉強をした。

  そして僅か三箇月後、知識とスキルを身に着けた彼女は、見事高認に合格した。

  そんなばかな。

  彼女は、ゲームの世界で得た知識を實生活に応用し、社會的なスキルも徐々に身に着けていつた。

  

  ゲームとガンダムから學んだものを自分自身で結實させ、社會に貢献することを夢見て、新たなスタートラインに立つたのである。

  彼女は、名門の藝夢大學に入学した。

  そこで、天才ゲームクリエイターの杉山弘一(すきやま・ひろかず)と出會つた。

  杉山は、彼女の天才的なゲームプレイと、独創的な世界観に惹かれ、付き合ひ始めた。

  そして二人の間に、子供が生まれた。

  彼女は、その子に知育パズルや積み木など、とにかく沢山の玩具を購ひ與へた。

  夫のひろかずは、流石に辟易した。

  彼には、息子を自分と同じ、天才ゲームクリエイターにしたいといふ野望があつた。

  だが、玩具を與へる程度なら、未だクリエイターとしての道を閉ざすことにはならない。

  むしろ、あらゆる可能性は開かれてゐる。

  さうして、無理矢理自身を納得させてゐた。

  息子が小学校入學の年齢になり、夫婦は衝突した。

  妻は、「ゲームだけやつてゐれば良い。學校は洗脳機關だから危ない。決して行つてはいけない」と頑固に主張した。

  夫は夫で、同年代の友人と触れ合ふ事で、社交性や好奇心、一般的な感性を持つ事ができるのではないか、と考へてゐた。

  ひろかずは、ここに来て、妻の破天荒つぷりが邪魔に感じてゐた。

  最終的に彼は折れた。

  息子の博太(ひろた)には、家庭教師を付けることにした。

  ひろかずは、ゲーム制作に役立つ樣な人材を教師に選び、音楽制作やプログラミング、脚本などのノウハウを息子に教へさせた。

  これはかえつて、後の博太の成功へとつながつたのであふ。

  杉山夫人は、芸夢大学院で博士号を取得し、ゲーム専門学校の非常勤講師となつた。

  彼女は、博太になるべくゲームを買ひ與へてやつた。

  然し、博太自身は、鉄道やはんだ付け、工作等が好きであつた。

  母は内心がつかりしたが、第二子の恵子と、第三子の京子に期待をかけていくこととなつた。

  杉山博太(すぎやま・ひろた)は、不世出のゲームクリエイターとして成功した。

  父の二世とか、親の七光などといはれる事は殆ど無かつた。

  彼は、高校生くらゐの年にはもう、自作PCを組み立てゐた。

  そして、母が教へる「ゲーム専門学校」(通称・ゲムセン)に入り、首席で卒業した。

  彼の作品は、コミカライズ・ノベライズ・ドラマ化、舞台化、実写映画化とアニメ化がなされ、経済効果は200兆円といはれた。

  これは全世界で、グッズの売り上げなども含む。

  彼の密かな夢は、ゲーム専門学校の講師か、理事長であつた。

  然し、むしろ彼は、藝夢大学の教授として名前を残した。

  杉山京子はプロゲーマーとなり、數々の大會で優勝した。そして、人気ストリーマーとなつた。

  姉の恵子は、市役所勤務の男性と結婚し、幸せな家庭を築いた。

  彼女は後年、二流専門学校で、しがない非常勤講師を務めたり、イベントやワークショップで、「ゲーム塾」等をやつて余生を過ごした。

  杉山夫人は、還暦を迎へると、「おばあちやんだけど、ゲーム実況はじめてみた」といふ動画をアップロードした。

  これは、「ドラゴンクエスト8」のプレイ動画で、実況には不向きであつた。

  しかし毎日投稿をつづけ、二年後に何とか百萬囘再生を達成した。

  その後は、「モンスターハンター」や「モンスターファーム」、「初代ドラゴンクエスト」などの実況動画を制作したのであつた。

  [chapter:そして伝説へ・・・]

  琴乃派蒼井(ことのは・あおい)は、漁師の子として育つた。

  最終學歷は小学校卒業であり、以降は家業のマグロ漁を手伝つてゐた。

  そんな彼には、一つだけ心残りがあつた。

  それは、ファミコンを買つてもらへなかつた事である。

  自分の子供にはそんな思ひをさせたくない。

  そんな風に思つてゐた。

  彼は、同じく漁師の娘である、米光茂(よねみつ・しげ)と結婚した。

  そして、二人の間には、八人の子寶に恵まれた。

  生活は苦しかつたが、長男が小学校にも行かずに、漁に出て呉れた。

  次男は小卒、三男は中卒、娘は高卒、そして末つ子が地方大学に進学した。

  末の琴乃派漆(ことのは・うるし)は、一人暮らしで、セガサターンやスーファミ、プレステ、ロクヨン等をプレイした。

  ゆるい時代だつたので、大学は卒業できたし、何となく就職もして、何となく結婚する事もできた。

  妻の名は、宮本成三(みやもと・なるみ)である。

  琴乃派漆夫婦の間に、やがて娘が生まれた。

  名前を、琴乃派綱(ことのは・あみ)といつた。

  彼女は、両親と祖父とおじ・おば達に可愛がられ、とにかくゲームが與へられて育つた。

  そんな環境で、何となく學校には行かなかつた。

  家でずつとゲームをやつてゐても怒られなかつたし、おじいちやん家でもゲームをさせてもらへた。とても、居心地がよかつた。

  おじいちやんは、網が小さい頃から、「お前の伯父の浩二はな、小学校にも行かんと漁に出たんやぞ。」と繰り返し語つた。

  今際の際にも同じ事を言つてゐた。

  遺言には、「網は漁師の子の何々と結婚させる事」と書いてあつた。

  それは流石に嫌だつた。

  漁や市場の手伝ひ、朝早く起きてごはんを作つて夫を送り出す。それは、おじいちやん家で見知つてゐた生活サイクルであつた。

  だつて、ゲームできひんやん。

  彼女は高認を受けて、父みたく大学に入る事にした。

  父に頼んで家庭教師をつけてもらひ、試験までの三ヶ月間、猛勉強した。

  そしてその甲斐あつて、見事高認に合格したのであつた。

  彼女はその後、オンラインゲーム漬けになる時もあつたが、約四年間豫備校と塾に通つた。

  そして、見事私立大学に合格したのであつた。

  それが藝夢大であり、未来の夫、外山恒一(とやま・つねかず)と出會ふ場でもある。