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【57】家族からの信頼。

  天の光が重なるこの季節。

  冷たい食品は長く持たないということもあり、異世界の菓子はあっというまに兄姉たちの腹に収まった。

  今は3人とも満足そうに茶の入ったカップを傾けている。

  「どの菓子も素晴らしく美味だったな・・」

  「本当に。俺は特に最初の黒い菓子が気に入りました」

  「あたくしは白いクリームが気に入りましたわ!」

  「楽しんで頂けたようで良かったです。届けただけの私も、何だか嬉しい気持ちです」

  菓子を食す兄姉たちは、見ているこちらの心が弾む大変良い笑顔だった。

  彼女にも3人が喜んでいた事、しっかりと伝えよう。

  きっと嬉しく思うだろうから。

  「ふむ・・以前の焼き菓子も美味だったな・・「かれーるー」に次ぐ取引は菓子が良いかもしれんな」

  「賛成ですわっ!」

  「俺も賛成です」

  「よし。では決まりだ。アディ、魔女殿に取引によさそうな菓子を見繕うよう依頼を頼めるか?」

  「わかりました。相談してみます」

  異世界の菓子にすっかり魅了されたらしい兄姉たちは、満場一致で次の取引の品を決めた。

  菓子か・・自分も良い案だと思う。

  貴族たちの茶会で出すだけでも、王族の権威も相まって良い交渉材料になるだろう。

  「それで?他にも話があるのだろう?」

  「はい。報告と、相談が2つほど・・」

  心配していた彼女の様子は今の所落ち着いているとの報告を伝え、続いて報復をするつもりであること、それに必要な対価として上級の竜種の魔石が必要だと語る。

  「自分の手で狩る事も考えましたが、今は時間が惜しいので冒険者組合と商業組合に在庫があるか問い合わせようかと・・」

  「ふむ・・アディの個人資産だと少し厳しいか?まぁ、これからは増える見込みであるし・・よし。ここは俺の資産から立て替えて・・」

  「待ってください。必要なのは上級の竜種の魔石ですよね?」

  長兄が魔石の代金の立て替えを申し出た所で、次兄がそれを遮った。

  弟に頼ってもらう機会だと張り切っていた長兄は、やや不満そうにしながらも大人しく口を閉ざす。

  「はい。呪詛師の「梟の黒」に対価として指定されました」

  「あぁ成程。彼なら使い道は幾らでもあるでしょうからね。その魔石ですが、手持ちがあるので譲りましょうか?」

  にこりと微笑む次兄からの申し出に、青年は驚き「本当ですか?!」と大きな声を上げた。

  「あらフィル。あの魔石、まだ加工してなかったのですね」

  「えぇ、まぁ。なんとなく、そのままにしていました」

  「あれか。学生の時に討伐したやつか?」

  「そうです。あの時の魔石です」

  「懐かしいな」と楽し気に話す兄姉らの様子から、青年はその魔石の経緯に思い至り声を上げる。

  「それは!まさかあの|屍竜《ドラゴンゾンビ》の討伐で得た魔石ですか?!」

  次兄と姉が学園に在籍していた時に起きた出来事の中でも特に有名な話だ。

  2人が中心となり討伐した屍竜の素材は褒美として分配されたと記憶していたが・・まさかその屍竜の魔石を?

  「ええ、そのまさかですよ。是非アディの役に立ててください」

  「っ?!・・・ありがとうございます。その、正直とても助かります・・ですが、本当に宜しいのですか?それに、お恥ずかしい話ですが支払いに時間が掛かるかと・・」

  上級の中でも特級に近いであろう魔石だ。

  当然、価格も相当だろう。

  魔法が使える様になったとはいえ、この身一つでは買い取り資金を稼ぐのにどれだけ時が必要な事か・・

  有難さと申し訳さなに眉根を寄せていると、次兄はこちらが安心するような優しい笑みを浮かべて言った。

  「あぁ。勿論支払いはその内で大丈夫ですよ?大事な弟の為です。期限も利子も付けませんので、資金に余裕が出来たらお願いしていいですか?」

  気楽な様子の次兄に言葉が出てこない。

  ただ、自分を信頼しての発言だとは理解出来た。

  ならば、その思いには誠意をもって応えなければ。

  「フィル兄上・・ありがとうございます。必ず魔石の対価を自分の手で用意してみせます」

  「分かりました。待ってますね?」

  「はいっ!」

  力強く応える青年の視界の端で、長兄が「俺がアディを助けるつもりが・・」と肩を落としている。

  そこに姉も「フィル・・大人げないですわ」と呆れ顔で扇を広げた。

  よし!

  これで呪具が手に入る。彼女の防備も一段と硬くなり、一安心といったところだ。

  さて、次は隣国での活動の件だ。

  上手い事許可を得られれば良いのだが・・兄上たちは心配性で過保護だからな・・

  青年は懸念が1つ消えた事で緩みかけた気持ちを引き締め、隣国の遺跡調査に参加するべく口を開いた。

  〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇

  文明の利器と、利便性の高い社会に感謝!

  カレールーがぎっしりと詰まった箱を前にして、天使の梯子が降り注ぐ場景を思い浮かべ両手を高く掲げて喜ぶ。

  翌日配送ありがたしっ!

  そうそうカレールーと言えば、朝タブレットとカメラを持って来た友人からは「換金OK」とありがたい返事を貰えた。

  これで夜に取引が出来るね!

  そういえば現在の金の相場って如何なものでしょう?

  調べてみますかな~

  部屋の隅にカレールーの段ボール箱を置いてゲーミングチェアに座り、早速スマホで検索する。

  さてさて、どんな感じ・・

  え。ちょっとこれ・・シャレにならない金額ですがな!

  最近値が上がってるとは聞いてたけどさ。今こんな高いの?

  嬉しいって気持ちより恐怖が勝つんですけど。

  ・・・うん。

  やっぱ手数料取られても換金頼んで正解。

  怪しい金貨を大量に持ち込む勇気は私には無いっス。

  作業机の前でガクブルしていると、風鈴がチリンチリンと鳴った。

  驚いて、斜め後方を振り返ると、カーテンレールにぶら下げた鉄製の風鈴が鏡から伸びた紐に引かれて音を立てている。

  こちら側にも呼び鈴があった方が便利かと思い立ち取り付けたのだが、早速役に立ってくれたようだ。

  「はいはーい」と返事をしながらベッドに投げていた足首まで隠れるロングのスカートを短パンの上から穿いて、鏡台へ移動すると目隠しのバスタオルをたくし上げる。

  「おや、こんにちはアド君。予定は夜だったと思うけど、どした?」

  「あぁすまない。思っていたより用事が早く片付いてな。時間が空いたので顔を見に来たのだが・・邪魔したか?」

  「いんや?暇してたから問題ないよ~」

  鏡台の椅子を引き、座りながら答える。

  と、青年は「それは良かった」と笑って言った。

  その笑顔が本当に嬉しそうで、なんだか微笑ましい。

  どうやら新しい友人に、私はそれなりに好かれている様だ。

  やや幼さを感じる笑顔に、こちらも嬉しくなって言った。

  「部屋に引き籠ってるからさ、ちょっと暇を持て余してたんだよね。アド君とお話し出来るの嬉しいよ」

  「そ、そうか。それは・・なにより」

  「何か飲む?」と訊ねながら席を立とうとしたが、逆に「それならこれを」と視界の外からピッチャーを引き寄せて示された。

  「お?何かな何かな?」

  「先日の果実水を気に入った様子だったのでな。今日はまた違う果実の物を用意してみた」

  「ありがと!早速グラスに入れよう!」

  ピッチャーを受け取り、台所で氷を入れたグラスに注ぐ。

  現れた今回の果実水の色は紫。

  透明度がそこそこあるので、あまり濃くはなさそうだ。

  氷と氷の隙間部分は色が薄く見え、上と下とで二色のグラデーションになって面白い。

  マドラーで2、3回混ぜて「はい、どうぞ」とグラスを差し出す。

  礼を言った青年とほぼ同時に、自分もグラスを傾けた。

  ・・・うん。これコーラだ。

  しかも炭酸の抜けた砂糖味の状態のヤツ。

  個人的には嫌いじゃないけど・・欲を言えば少しだけ炭酸が残っている方が好きかな。

  無言でうんうんと頷きながら味わう私に、青年は不安そうに口を開いた。

  「すまん・・その、気に入らなかったか?」

  「え?あぁ、違う違う!こっちにも似た味の飲み物があってね。驚いただけ」

  「そうか」

  ほっと息を吐いた後「その似ているという飲み物、気になるな」と言うので、近い内に用意することを約束する。

  その後は果実水片手に、二人で気楽な雑談タイムとなった。

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