PR
【75】役立たずの王族と暗部所属のハーフエルフ。【閑話】
大陸の中央付近に位置するオレグラント王国は、[[rb:数多 > あまた]]ある国々の中でも大国と呼ばれる規模を誇っている。
王国は先々代の頃より他種族との共存、共栄を目指し、積極的に受け入れていた。
当時、敵対国に囲まれていた王国はそうでもしなければ生き残れなかったのだろう。
お陰で、現在の王国は雑多な種族の[[rb:坩堝 > るつぼ]]と化している。
まだまだ貴族に人以外の種族は少ない一方で、その貴族に仕える使用人などには他種族が起用されることが増えていた。
現国王の二番目の弟である第二王弟、アディード・オレグラントに仕える者の種族はハーフエルフ。
名をジャスパーという。
このジャスパーという名は、王弟に仕えた時に賜った名であり、本名である「魂名」はエルフであるジャスパーの父以外、誰も、本人すらも知らなかった。
母は物心ついた時から居らず、ずっと父と子、二人で生きてきた。
父からは「息子」と呼ばれており、それで事足りていたのだが、戦争に巻き込まれ父を失い一人になると、名無しは不便だという事に気付かされる。
王国の暗部に拾われ、与えられた「[[rb:鷹 > たか]]の[[rb:錆 > さび]]」の名と共に長い時を過ごし・・
ある日、王弟のアディードに出会う。
護衛の任務が与えられ、陰ながら彼を見守る内・・
心底仕えたいと思ったのだ。
当時、王子であった王弟が五つの頃の話であった。
〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇
オレグラント王国の王家一族の一人であるアディード。
彼は不遇であった。
家族である王家は彼を大事にしていたが、周囲はそうでは無かった。
結束の強い王家に食い込もうと、貴族連中はこぞって彼を取り込もうとしたのだ。
物で、人で、薬で、ありとあらゆる手段で彼に近づこうと躍起になった。
彼が普通であったなら、それらの策の内一つでも成功した・・かもしれない。
だが、彼は「魔力保有量が桁違いに多い体質」かつ「魔力を吸収し続ける能力」持ちだった。
前者だけならば問題は何もなかっただろう。どころか、将来は強大な魔法を操る優秀な魔法使いになるだろうと期待されたに違いない。
だが、後者の能力はいただけなかった。
そこに居るだけで、周囲の魔力を吸収する体質は、迷惑以外の何ものでもない。
周囲に漂う魔力を使うのは彼だけではないのだから。
彼がいるだけで、魔法は軒並み不発。
構築する傍から魔力が彼に吸収されてしまうからだ。
だから魔法使いからは嫌われた。
身体能力を強化するのにも、周囲の魔力は補助として使われる。
だから騎士からは嫌われた。
溢れ凝る魔力を宿した体で魔道具に触れれば、即座に魔道具は壊れた。
だから使用人と、魔道具職人にも嫌われた。
どうにかして彼を懐柔したい、性根の腐った者しか寄り付かない状況に、家族は彼を隔離することで守るしかなかった。
王家の弱点となったアディードは、否が応でも狙われる。
故に、暗部の中でも武の力を誇る「鷹」を。
その中でも特に優秀であった「錆」が護衛に付けられた。
また「鷹の錆」が自身の魔力制御を緻密に行えるのも、選ばれた理由であった。
普通であれば呼吸等により体内の魔力は少しずつ周囲に漂う魔力と入れ替わり、循環する。
だが「鷹の錆」・・ジャスパーはそれを意識して切り替え、制御する事が出来た。
更に、他人の魔力との親和性が高い彼は、非常に難しいとされる他人の体内の魔力操作もある程度行える能力があった。
アディードの無意識に周囲の魔力を取り込んでしまう力とは、ある意味相性が良かったのだ。
護衛に指名した王家も、アディードの魔力中毒の症状が少しでも楽に、軽くなるようにと期待しての配置であったのは確かだが、誰もが予想外だったのはアディードと、ジャスパーの魔力の相性が最悪だった事だろう。
これにより、ジャスパーによるアディードの体内の魔力を直接制御し症状を和らげるという目論見は潰えた。
周囲は落胆し、ジャスパー自身も「役立たず」と言われたようで自尊心を傷つけられた。
「だがしかし」である。
魔力中毒に苦しむアディード本人は、何も変わらなかった。
治療できるかもしれないという期待も、駄目だったという落胆も、どちらもあって当然の反応だが、若干五つの幼子だったにも関わらず、自身に対して達観していた彼は淡々と日々を過ごした。
ただただ優しく接してくれる家族に感謝し、その家族のお荷物になるのだけは嫌だと自分を鍛える事に専念した。
身体を少しでも丈夫にするため、無理に食べては吐き、少しずつではあるが栄養を、体力をつける。
多すぎる魔力に僅かに慣れ、身体が動かせるようになってからは肉体的にも鍛え始めた。
その一途に努力する姿に、影から護衛として見守っていたジャスパーは絆されたのだ。
気付けば、直接「アディードに仕えたい」と上司に訴え出ていた。
自分の忠誠心を捧げ、満たすのは彼以外にないと。切実に語った。
魔力の相性が悪い為、魔力中毒の治療では役に立てないが、生活の手助けは出来る。
自己の魔力制御が完璧な自分なら、傍に居てもアディードへの魔力の影響は他の者より何倍もマシだろうと。そう訴え出たのだ。
事実、その通りであった。
魔力中毒の症状緩和の為には、他人は近くに居ない方が良い。
幼いながらも最低限自分の世話を出来るようになったアディードの傍には・・その時、誰も居なかった。
独り起きて、身支度を整え、用意された食事を摂り、運動して、身を清め、食事をして、寝る。
ほぼ全て、たった独りでこなしていた。
彼自身の為とはいえ、孤独な生活を送る彼を家族は心苦しく思い、心配していた・・
そんな状況に、ジャスパーの申し出は渡りに船だったのだ。
アディードも、こんな自分に仕える事を真摯に望む彼を無下にする理由はなく、初めての傍仕えを喜んで迎え入れた。
斯くして、暗部でも実力者と名高い「鷹の錆」は王族アディード・オレグラントの専属傍仕え兼護衛として、傍に侍り仕えることになった。
直接顔を合わせ、主従契約を結んだ時に「ジャスパー」の名を与えられた「鷹の錆」は、以来、主であるアディードを影に日向に、支え続けて来たのだった。
PR