野望編 第二十五話 勇者対勇者

  002-025

  アーキアの衝撃的な告白にリエルは暫く呆然としていたが、魚のから揚げを摘んで咀嚼しながら考え込むと再度口を開いた。

  リエル 「フーティアが故障でもしたんですよね、それで戻って来れなかった訳ですね」

  アーキア 「そこは素直に認めて欲しいな、アキはダインさんに抱かれたから天翔ける処女が使えなくなっちゃったんだよ、だからここから離れたく無いし、フーティアも飛べないわけ」

  ここまではっきり言われてしまうとリエルも現実逃避は不可能だ、顔が見る見る赤くなってその意味を理解している。

  リエル 「ダインさんとエッチしちゃったんですか、リィに相談も無しに」

  アーキア 「そこはアキの自由じゃん、アキがダインさんが欲しかったからお願いしたんだよ、既成事実を作っちゃえば一緒に居られるじゃん」

  フェカト 「アーキアがダイン様と交わった事はフェカト達も確認してます、ダイン様は自分の牝に隠し事しませんから」

  リエル 「エッチしてるところ見せてるんですか?」

  アーキア 「ダイン様の牝同士なら当たり前の事だしね、ダイン様としてない時は牝同士で慰め合うし、皆んなアキの身体を知ってるよ」

  リエル 「リィはそんなの事知りませんけど」

  アーキア 「リィは親友だけど、家族じゃ無いからね、ダイン様の牝は皆んな家族なんだよ」

  リエル 「つまり親友より肉欲って事なんですか、寂しい時に二人で慰め合ったのに」

  

  アーキア 「リィはダイン様を知らないから解るわけないよ」

  リエル 「解りたく有りません、リィのフーティアの押し込んでもここから連れ帰ります、ここはやっぱり変ですよ」

  フェカト 「そう言う無理矢理は認められませんね、納得する条件同士の勝負で決めるべきですよ」

  真夏 「郷に入りては郷に従えというヤツですね、この国の正式なルールに従うのならリエルさんの意見も認められる訳ですか」

  フェカト 「はい、正式な文書を交わした勝負なら、フェカト達も従うしか有りません、そしてそれが唯一のリエルさんがアーキアを連れ帰る方法ですね」

  フェカトの真剣な表情にリエルもそれが一番最適な方法だと理解した様だ、この世界の習わしに従うなら、立場有るフェカトは従わざるを得ないのであろう、わざわざ自分からそれを言い出した事は気になるが、リエルは運動でも勉強でもアーキアに負けた事が無いのでむしろ好都合だ。

  リエル 「具体的に勝負ってどういう事ですか?」

  フェカト 「国家の争いだと、マギガント戦が常識なんですけど、個人同士だと生身の決闘が多いですね、武器有りや素手での戦いとか色々有りますけど」

  リエル 「リィはどっちでもいいですよ、でも、武器ってどういう物なんですか?」

  フェカト 「ああ、武器使うのは主にお互いの殺害を願う時ですよ、殺す気が無ければ素手ですね」

  リエル 「フェカトさんはこう言ってますけど、アキはどうします、痛い思いする前に負けを認めてリィと帰るのを薦めるけど」

  アーキア 「何さ、すごく上から目線だよね、確かにアキはリィに勝った事無いけど、いつも負けるとは限らないじゃん、でも、条件対等ってのはちょっと嫌だよ、アキが勝てばリィを自由に出来るぐらいの条件が欲しいよ」

  リエル 「いいですよ、リィが勝てばアキをクガトに連れ帰って、アキが勝てばリィを自由にして下さい」

  フェカト 「交渉成立ですね、屋敷の地下に訓練所が有りますのでそこで勝負しましょう、正式な書面はフェカトが作成しますので、食事続けましょうか」

  ニア 「全くだにゃ、食事は美味しく食べろとダイン様も言ってるにゃ、まぁ、二人は動くから控えればいいにゃ」

  アーキア 「そんな、アキは負ければ食べられなくなるんだよ」

  愛耶 「食べ過ぎて動け無くなる方が不利ですよ、ちゃんと愛耶がおみあげ用意しますので」

  アーキア 「愛耶さん酷いよ」

  七実 「なら取り敢えず糖分ですよ、糖分は直ぐにエネルギーに変換されますから有利に戦えますよ」

  七実は冗談で言ったつもりだが、アーキアは間に受けた様で、食事はそこで取り止めてデザートに移行する、それは見ようによっては終焉を見据えた食べ納めにも見えたが、実は遊魔達の思惑通りの成り行きだった。

  あれから少量口にしただけでデザートに移ったリエルも準備を整えつつあった、アーキアが五個も食べたモンブランを、リエルは一つで我慢して食べ終わった後は静かに目を閉じていた。

  その異様な存在感に遊魔達も押し黙ったまま食事を終えると、片付けられたテーブルの上に用紙と筆が用意されて、フェカトがアーグルの文字で文書を認めて行く。

  フェカト 「内容は読めますか、同意すればここに血判を押して下さい、それで結果には誰も逆らえなくなります」

  リエルは前に置かれた書面を読んでから、容易されたナイフで指を切って血を滲ませると親指に拡げて判を押す、すると魔力が発光して何かの術が発動した様だ。

  リエル 「これで良いよね、次はアキの番だよ、読めないなら読んであげようか?」

  アキ 「敵の情けは受けないよ、アキもここでアーグルの文字も魔術も習ったんだから、そういえば魔術って使ってもいいの?」

  フェカト 「構いませんよ、魔術も人が持つ力ですからね」

  リエル 「え、それは聞いてないけど」

  フェカト 「ちゃんと条件読んで納得したという血判ですから、今更無効には出来ませんね」

  アーキア 「怖くなっちゃった、リィの知らないところでアキは成長したからね」

  リエル 「大丈夫です、魔力を防御に回す事ぐらいリィにも出来ますから」

  七実 「なら、いよいよ異世界人同士の戦いが見られる訳ですね、可愛い娘同士の戦いっていいですよね」

  真夏 「七実は変なところでダイン様と似てるからね、でも、真夏も興味あるよ」

  ファービ 「そうですよね、二人の世界には魔術も存在していたんですよね」

  リエル 「特権みたいなモノでしたけど、魔導書が受け継がれていない家系には無縁ですよ、でも、障壁や人体強化は魔導書が無くても慣れますね」

  ポーカ 「それでマギガントも直ぐに動かせたと言ってましたね」

  リエル 「はい、感覚似てますよ、いや、マギガントの感覚が上手く伝わるですかね」

  ポーカ 「それは楽しみですね、リエルさんの動きはポーカの知るマギガントの動きで無かったのは、実際の動きを参考にしていたわけですね」

  リエル 「どうでしょう、リィにもよく解りません、でも、思った通りには動いてます」

  ポーカ 「なら記録して解析したいですね、魔術で戦いを記録してもいいですよね」

  リエル 「いいですよ、ちゃんとした証拠になりますし」

  アーキア 「流石リィ、負けるつもりは無い様だね、でも、アキも負けないよ」

  そのアーキアの凄味にリエルも何か違和感を感じている様だが、男を愛した事による内面の変化だと勘違いしていた。

  リエルとしてもアーキアと好きな男と一緒に居させてあげたいのは本心だが、問題はその男の方に有るので仕方がない。

  愛耶 「愛耶はお片付けが有るのでご一緒出来ませんが、アーキアさん頑張って下さい、美味しく食べてくれる人が居ると作り甲斐有りますから」

  アーキア 「愛耶さんありがとね、大丈夫、欲求は人を強くするってダイン様も言ってたから、それにアキが勝てばリィをダイン様に献上出来るし」

  リエル 「え、そんな事も有りなんですか、アキが何か出来るだけじゃ無いんですか?」

  フェカト 「好きに出来るってそういう事ですよ、リエルさんが勝てばいいだけですよ」

  フェカトのその言葉にリエルは不安を覚える、アーキアだけで無く他の人間にも注意すべきだろう。

  ポーカ 「さて、そろそろ地下に移動しましょうか、勇者リエルの生身の戦いには興味有りますから」

  七実 「ポーカさんって争い事好きですよね、闘技場の外れ賭け札結構集めてましたよね」

  七実はサラッとポーカをからかってみるが、大人のポーカは軽く受け流す、これが一流の騎士という者だ。

  ポーカ 「あれは騎士として必要な事なんですよ、見た目で強さを見極め無いと」

  七実 「アレだけ外してると説得力有りませんけど、で、今回はどっちだと思います」

  ポーカ 「断然アーキアですよ、闘技場なら五倍は堅いですね」

  ニア 「欲に惑わされているだけにゃ」

  ニアの言葉にポーカ以外は納得すると、部屋を出て地下へと向かう、秘密の通路を使って移動する屋敷の地下室は、何の意図で作られた空間かは解らないが、勇者同士争いという公にしたくない行為を隠すには好都合だ。

  フェカト 「描かれた円から身体が出ても負けにしますよ、勝敗の条件は多い方が良いですから、ギブアップ、昏睡、闘技場からの離脱が敗北条件ですから遠慮せずにやって下さい」

  リエル 「ルールはシンプルですね」

  フェカト 「はい、基本お互いを傷付ける気は無いと思いますから、開始の合図はコイン地面に落ちる事でいいですよね」

  直径七メートルぐらいの円を三等分したところに二本の直線が引かれており、リエルとアーキアはその線の外側に位置して相手の出方を疑っている、両者の間には2メートルぐらいの距離が有るので初めの戦略が勝敗を大きく握るかも知れない。

  真夏 「相撲とプロレスを合わせた様な勝負ですよね、相撲だと立会いが重要だといいますけど」

  ファービ 「根本ルールが違いますからね、いきなり寝転ぶのもアリですし」

  真夏 「流石、ファービは狡いですね、顎のプロレスラーみたいです」

  ポーカ 「本当ですよ、騎士のポーカにはそんな無様な戦法思い付きませんでした」

  七実 「でも良いですよね、いきなり寝技で組んず解れつとか」

  フェカト 「皆んな黙って下さい、余計な情報で混乱しちゃいますよ」

  ニア 「そうにゃ、これは真剣勝負にゃ」

  同じ遊魔でも、観戦態度に違いが有る様だ、フェカトはその性格から公正な勝負を望み、ニアは単純に勝負を楽しんでいる、だが、残りの面子は楽しい事を望んでいる様だ。

  だが、フェカトの静止はちゃんと効いている様で、エンジョイ勢は静かに観戦する様だ。

  フェカト 「では行きますよ、下は石畳なんで音を聴いて下さい」

  フェカトが指で金の硬貨を弾くと、組み付く構えで向かい合った両者はコインの落ちる音に耳を傾ける、そしてコンと落ちる音がすると各々が考えた初動が披露される。

  横に避けたリエルと、動かないアーキア、出会い頭の衝突は起きずに両者共に長期戦を狙っている様だ、そしてじわじわと両者は歩よると、お互いに手を繰り出して弾き始める。

  それはプロレスの初手によく有る光景に見えるのだが、大技は自爆の可能性が高いこのルールならば、お互い組み合う方が安心出来るのだろう。

  そして、リエルが上手くアーキアの腕を掴むと、上手く引き寄せて抱え込む事に成功する。

  アーキア 「リィやるね、でもこれはどうかな?」

  アーキアは抱え込むリエルの片腕を、両手で掴んで捻ろうとすると、危機を感じたリエルが振り払って距離を取る。

  リエル 「アキの力って、こんなに強かったんですか、なんかこうもっと弱かった筈なのに」

  アーキア 「それはリィの思い込みだよ、アキの本気はまだまだだよ」

  アーキアはそう言ったが、実際は遊魔化の影響が大きい、人間形態でも腕力は上げっており、アーキアを人間だと思い込んでいるリエルの想定を超える事は当然の結果だ。

  だが、感の優れたリエルは直ぐに戦略を練り直して、身体能力を活かした打撃攻撃にシフトして行く。

  リエル 「では、これはどうでしょう」

  リエルの一撃がアーキアのボディを捕えるが、アーキアに変化は無い、遊魔化でボディの強度も上がっており、尚且つ痛みにも強くなっている。

  アーキア 「良い一撃だよ、でも、今のアキには効かないね」

  アーキアの挑発に、リエルは更に踏み込んでの一撃を見舞う、アーキアには強過ぎる打撃だが、アーグル人の癒しの魔術が有れば痛みは直ぐに消え去るだろう。

  力を込めた一撃に手答えを感じたリエルだったが、アーキアの忍耐はそれを上回った、深く入り込んだリエルの肩を力強く掴むと自分共々押し倒す、センスの良いリエルはその衝撃に対して障壁を展開して防御して、一先ず最小限のダメージで抑えたが、肩から締め上げてくるアーキアの力は強く抜け出せない。

  リエル 「アキおかしいよ、何でこんなに力あるの」

  アーキア 「アキはこっちで特別な事したからね、どうせ勝てばリィを自由に出来るからバラしてもいいかな」

  アーキアは両脚も使ってリエルの身体を完全に封じるのだが、リエルにはその意図が解らない、確かにリエルが逃げ出せ無いほどの力では有るが、決定打になる程の締め付けでもない。

  だが、リエルの推測は完全に裏切られる、この状況で何故だかアーキアの力が増して来ているのだ、腕を締め付ける力が強くなって痛みが増していき、何故だか背中に当たっているアーキアの胸の弾力が増えて来た感じもする、リエルはこの状況を奇怪に思いつつも逃れる術を見出せ無かった。

  おまけ

  闘技協定戦 人対人の協定戦の事、誓約書に従って行われ誓約が実行されない場合は人類圏からの追放処分となるぐらい重い罰を受ける。

  一般的には直径7メートルぐらいの円形決闘場で試合が行われる、様々な理由で行われるが賭け試合となる事も多い、これは証人を増やす意味と商売を両立させたアーグル人的な合理的思考の産物でもある。

  専門の闘技場に試合自体を取り仕切って貰う事が一般的で、単なる勝敗だけでなく勝者と決着時間が掛けの対象になっている、諸経費を除いた賭けの勝者達の分配方式で、諸経費の中には対戦者達へのファイトマネーなども含まれている。

  全てを明らかにした明瞭な賭け事で、胴元が一方的に儲けるわけでは無く、賭け金の八割がちゃんと分配されている。

  リエル対アーキアの様な非公開の闘技協定戦も行われているが、誓約書はアーグル世界に置いて絶対である為に敵だらけの中でもリエルは勝敗を受ける事にした。