X01-004
ルゥが目を覚ましたのは、既にお昼に近い時間だった、魔族化の負担は大きかった様で身体にはまだ気怠さも残っていたが、新たに得た魔王ザキトスの力を試したくて仕方無い。
不思議な事に昨夜から食事を取っていなかったが空腹は余り感じ無かったので、ルゥは寝衣から部屋着に着替えて自室を出ると、また魔王ザキトスの隠し部屋に向かった。
新たな主を得た部屋は、脈動を取り戻していたが、殉死したカプセルの女性達が居た部屋は、カプセル自体が開いて空になっており、その遺骸の姿は見当たらない。
だが、魔王の力を受け継いだルゥには、液体に溶けた女性達がルゥの為に新たなる眷属の揺り籠を譲ってくれた事を理解している。
ルゥ思考 『サッパリ無くなってしまいましたね、ザキトスとしてもあの娘達は失敗作だったので残したく無かったのでしょう、しかし、胸の大きさで失敗作って可哀想ですよね』
ルゥは自分の胸に手を当ててそれが、消えてしまった女性達よりも小振りだと感じ不安を覚えるのだが、魔王ザキトスの後継者として求められた素質が魔力の質である事を理解していたので、ザキトスが完全な後継者を得られ無かった事を少し憐れんだ。
ルゥ思考 『だからこそ、リレッタの魔改造計画があるんですね、確かにリレッタは性格はともかく身体は男好きしますからね』
ルゥは最初の獲物に思いを馳せると、リレッタを釣る餌の準備を始める為に保管部屋を後にする。
そして、次に訪れた魔王の書庫は、ククジア王宮の書庫よりも質、量とも上回っている。
現在では失われてしまった、旧時代の歴史書や、数々の秘術を示した魔術書、他にもあらゆる種類の書物が収められており、この世界以外の異世界について記された物すら存在するのだ。
ルゥ思考 『リレッタが興味を持ちそうなのは魔術書ですよね、先ず一冊持ち出して興味を煽って、在処を教えると言って研究室にご招待しましょう』
ルゥは如何にも古そうな一冊を手に取ると自室へと戻ると、リレッタを誘い出す為の手紙を古い魔導書に挟んで丁度ルゥの昼食を運んで来たメイドへと託す。
それからルゥは運ばれて来た昼食を軽く平らげるとリレッタが罠に掛かるのを待つ、それから一刻はたっただろう頃にルゥの自室がノックされて、リレッタが来訪して来る。
ルゥは以前に比べて素早くベットから飛び起きると、入り口に向かうとリレッタを中へと招き入れる。
リレッタ 「この書物と手紙は本当の事ですの、ルーフィン様が魔王ザキトスの隠し部屋を見つけたいう事ですが」
ルゥ 「嘘じゃないのは、その魔術書を見れば解りますよね」
リレッタ 「ですが、ワタクシに知らせるのが不可解ですわ、ワタクシがルーフィン様を恨んでいる事は理解なさっているでしょうに」
ルゥ 「はい、ですがそれは成り行きでそうなっただけですよね、私もこの世界に召喚されてからクガト家の方々と触れ合って来ましたが、リレッタ様が一番公正で話が解る方だと確信しています、ですから関係を修復したいと思い、一番にお知らせしたんです」
リレッタもルゥの言葉に納得出来るところが有ったのだろう、纏わせていた警戒感が和らいだ様だ。
リレッタ 「確かに、ワタクシのフーティアの件はルーフィン様のせいでは有りませんわ、ワタクシの魔力が及ばなかっただけですわね」
ルゥ 「その聡明さも、リレッタ様を選ぶ理由です」
リレッタ 「素直に褒め言葉として受け取りますわ、で、ワタクシを味方にしてルーフィン様はどうなされるつもりなんですの?」
ルゥ 「まだそこまでは考えていませんね、ですが、魔王ザキトスの書庫は私達二人で調べた方が解る事が多いと思います」
リレッタ 「確かにそうですわ、見つけたきっかけもルーフィン様の世界の言語という事ですから、二人の関係改善と発展を考えるならば共同作業が効果的ですわね」
ルゥ 「はい、ですから準備が整い次第、リレッタ様を隠し部屋へと案内したいと思います、無論他の者達には内密に」
リレッタは真意を探る為にルゥの顔をマジマジと見つめるが、そこに不信感は見出せ無かった様だ。
リレッタ 「解りましたわ、ルーフィン様の言葉を信じますわ」
ルゥ 「はい、ならば私の事はルゥと呼んで下さい、呼び方を変えるのが関係を改善する近道だと思います」
リレッタ 「はい、ルゥの世界の風習ですわね、リエル様とアーキア様もそうなさってますし」
ルゥ 「はい、ですからリレッタ様も愛称でお呼びしたいんですが」
リレッタ 「そうですわね、リエル様は縮めるのが一般的と仰ってましたのでリッタでどうでしょう」
ルゥ 「リッタですかいいですね、ならこれからはリッタと呼ばせて貰います」
リレッタ 「はい、ワタクシはルゥとお呼びしますわ」
ルゥ 「では、リッタ、何時案内致しましょうか、ルゥはこれからは行くつもりですけど」
リレッタ 「早いですわ、でも、ワタクシも直ぐにも見てみたいのでお供しますわ」
ルゥ 「なら、なるべく人目に付かない様に移動しましょう、ちょっと衝撃的なところも有りますので」
ルゥの言葉にリレッタの表情が少し曇るが、好奇心や利得を得ようとする気持ちが勝った様だ、部屋を出て地下を目指す二人は人の少ない外周の通路を使って移動する、途中すれ違った使用人はその珍しい組み合わせに違和感を感じたが、二人に何ら険悪な雰囲気が無かったのでそのまま見送った。
そして、一人の使用人に見られただけでルゥとリレッタは地下王座の広間へと辿り着き、ルゥが王座の後ろの装飾を調べ始める。
リレッタ 「クガトが手に入れてからかなり調べたと聞いてましたが、この装飾に入口があるのですか?」
ルゥ 「はい、実はこれ、ここの牙を折ると回るんですよ」
ルゥは言葉通りに実践して見せると、回転した装飾の裏から下へと続く隠し通路が現れる、その状況にリレッタも興奮している様だ。
リレッタ 「こんな仕掛けがあったとは驚きですわ、でも何故ルゥには分かったのですか?」
ルゥ 「ルゥ達だけが読める仕掛けが有ったんです、ザキトスはルゥと同じ世界から来た様で、ルゥの国の文字で通路の事が記されていたんですよ」
リレッタ 「なるほど、納得ですわ、確かにザキトスの書物には読めない文字が有ると聞いていましたから、確かにルゥ達勇者にしか解らない仕掛けですわ」
ルゥ 「でも、ルゥの知識だけじゃ無理なんです、ザキトスはアーグルで生きていましたから、アーグルの知識も必要なんです、そしてルゥが利益を共有出来ると思えたのはリッタだけなんですよ」
リレッタ 「ワタクシが言うのもおかしいですが、クガトの一族は身内でも気が許せませんから」
ルゥ 「でもリッタは違うと思います、欲はあるんでしょうけど、他の人とは何か違うんですよね、フーティアの事だって損得じゃない執着が有りますよね?」
リレッタはそのルゥの言葉に大きく頷くと話始める。
リレッタ 「あの子は友達との約束を果たす為にどうしてもワタクシの手元に置いておきたいのですわ、他にも慣れ親しんだ愛着もありますから」
ルゥ 「大事な物なんですよね、リエルやアーキアと違ってルゥには使えこなせないのに」
リレッタ 「こうしてルゥと話してみると、ワタクシの怒りの矛先が間違っていたと感じます、そもそもルゥは戦いに出る様な娘じゃありませんわ」
ルゥ 「解ってくれてありがたいです、ですから魔王ザキトスの研究で功績を上げて、戦わなくていい様にしたいと思います」
リレッタ 「勿論、ワタクシも協力しますわ、フーティアの事も有りますから」
ルゥ 「やっぱりリッタを選んで正解でした、だから二人で手柄を立てましょうね」
ルゥはリレッタの手を取ると隠し通路を降って行く、リレッタもそれにおとなしく従っていたが、途中で入口が閉じた時は流石に不安だった様で、強くリレッタの手を握ってくる。
ルゥ 「大丈夫ですよ、魔術の灯が灯るという事はルゥ達が歓迎されている証拠何ですよ、嫌なら灯りは付けませんよね」
根拠のある言葉とは思えないが、今のリレッタにはそれで十分だった、現にルゥは魔王の叡智の断片をリレッタに示しているので、根拠は無くても信じられるのだ。
そして、しばらく降りると金属の扉が現れて、リレッタはその扉に興味を持った様だ。
リレッタ 「これは凄いですわ、ワタクシも初めてみる程上質な魔鋼の扉ですわね、聖剣と呼ばれた王家の秘宝よりも上質な魔鋼に見えますわ」
ルゥは一目見ただけでこういう事が解るリレッタを頼もしく感じていた、アーグルに来てもう数ヶ月経つが、ルゥにはまだ解らない事だらけなのだ。
ルゥ 「それで軽いんですね、見た目はとても重そうなのに」
リレッタ 「はい、マギガントのフレームと同じで上質な物ほど丈夫で軽くなるんですよ」
ルゥ 「この扉がそんなに凄い物だったとは、確かに文献から得た情報によると魔王ザキトスの力の源だと思いますし」
ルゥがそう言って扉に手を延ばすと扉の方が迎え入れる様に開いて行く、既にこの施設はルゥを主として認めている様だ。
リレッタ 「凄いですわ、扉が勝手に開いていきます、魔鋼と魔導の組み合わせでしょうけどこんな事も可能になるのですね」
ルゥ 「望まぬ者を通さない事も有ると思います、流石、魔王の遺産ですよね」
リレッタ 「はい、この扉だけでも根本的な魔導技術の高さが解りますわ、三百年は放置されているのに綺麗なままで動いています」
ルゥ 「じゃあ行きますよ、始めの部屋は普通ですから安心して下さい」
リレッタ 「そう言う事は奥が怖いって事ですわね、魔王ザキトスの伝承は有りますから覚悟は出来てますけど」
そのまま踏み込んだルゥの後に続いたリレッタも扉の奥が普通の部屋で安堵している様だ、そしてそこから繋がる三つの扉が目に入ると覚悟を決めた様だ。
リレッタ 「書庫と書かれた部屋からあの魔導書を持ち出したんですね、あと研究室と保管室と有りますが、やはりお目当ては研究室ですわね」
ルゥ 「はい、見て貰えば解ると思いますので行きますね」
そう言って、ルゥが魔鋼の扉に手を翳すと、扉が内に開いて行く、だが、その様相は扉が開くという感覚よりも巨大な生き物が横に口を開いた様だった。
部屋一面に張り巡らされた肉壁はまるで生き物の口の様で、確かに踏み込むには勇気がいる、だが、ルゥは気にせず前に進んでリレッタを手招きしている。
リレッタ 「本当に大丈夫ですの」
ルゥ 「先駆けする者が戦功を上げるですよ、ちょっと不気味ですけど嫌な匂いはしないんですよ」
リレッタ 「解りましたわ、匂いって大事ですから、変な匂いが服に付くのは嫌ですわ」
リレッタも覚悟を決めて異質な部屋へと踏み込んだ行く、全体が肉壁に包まれた異様な光景の部屋だが、中央には金属とガラス、そして濃いピンクの肉が有機的に結合した怪しげな装置がある。
ルゥ 「これ、近くで見て下さい、魔王技術の中枢がこの装置だと思うんですよ、ルゥが近付いても何も起きないので、ちゃんとした操作が必要みたいです」
ルゥの言葉にリレッタの興味を掻き立てられる、魔王の力の根源に触れた人間は既にこの世界には存在していない、かつては居たかも知れないが触れた人間は全て魔族に魔改造されている事だろう、だが、魔王ザキトスが消滅している今なら安全に調べる事が出来そうだ、何よりルゥが近付いても大丈夫なのがその証明だろう。
だが、リレッタには思いもしない事実が有った、リレッタの知る限りの情報では人間の姿が出来る魔族など存在せず、ルゥを人間だと完全に思い込んでいた事だ、そして今現在もルゥが大丈夫なので大丈夫だと思い込んでしまっているのだ。
おまけ
ルゥの変容能力 元々魔王ザキトスが生み出した魔族には変容能力など持っていなかった、魔族はその優れた身体能力が自慢であり、わざわざ人に擬態する意味など無かったからだ。
だが、ザキトス残滓は移り変わった現状を考慮して元の人間の姿へと戻れる事を組み込む事にした、魔族が如何に優れた能力を持っていようとも、人間文化で姿が露見してしまえば討伐される事が解りきっていたからで有る。
現に変容能力で人間の姿に戻ったルゥの事をリレッタは微塵も疑っておらず、魔族とは己の肉体美(力強い肉体の事)を誇る物という過去の認識や、流刑地で有る混沌大陸で現存している魔族の伝承などリレッタが知っていた常識が、新種のルゥには全く通用していなかった為で有る、それはザキトス残滓の想定通りの結果だが。
また、同じ認識はダイン達にもプラスに働いており、アーグルの常識では人の姿をした魔族など存在しないと思われている。