009-006
休息カプセルから目覚めたペーテはその清々しい気分に驚いていた、普段から悩み事が多く寝不足気味のペーテがこれほど清々しい目覚めをしたのはかなり久しぶりの事で、以前はいつの事だったのかも覚えていないぐらいだ。
ダイン 「目覚めの気分はどうですか、脳がちゃんと休息さえすれば短期間の睡眠でも爽快感は十分に得られます」
ペーテ 「こんな気分の目覚めは久しぶりです、もしかするとラールカとまだ親しかった頃以来かも」
実際にペーテが寝不足気味になった原因は、同じ歳の叔母ラールカとの関係が悪くなった時ぐらいからだ、ペーテはラールカを悪く思っていなかった以上、関係が悪くなったのは思いもよらない事で有り、その負担は想像以上に大きかった。
ダイン 「二人にも親しい時があったのですか、意外ですね」
ペーテ 「まだ祖父が王位にあった時の事です、その祖父の死去から関係が悪くなりました」
ダイン 「兄が王位に就くのは当然だと思いますが・・・」
ペーテ 「そうでもないんですよ、父には同じ正妻から産まれた歳上の兄弟がいたんですよ、そしてラールカはもっとも愛されていた寵姫の娘で、その事に優越感があったと思います、今思えば私よりも良い衣装を纏ってましたから」
ダイン 「なるほど、それでもペーテは嫌いじゃなかったんですね」
ペーテ 「なんていうかその時分から、私には華が無い事を自覚してましたから・・・自分が着るよりもラールカが華やかな方が楽しめましたし」
ダイン 「自分よりもラールカを推していたんですね、ですが嫌われて嫌になったんですね、自分を嫌う者を好きにはなれませんからね」
ペーテ 「そうなんですよ、まぁ王女という立場でそれ以前よりも立場は良くなりましたし」
ダイン 「その立場の変化もラールカ嬢には辛かったのかもしれませんね、下に思っていた者に逆転されたわけですから・・・」
ペーテ 「私は変わってないんですけどね、ですが本人の意思とは関係無く立場って変わっちゃうんですよ」
ペーテは昔を思い出して悲しそうな表情をしている、だが、今から起こる事はその時とは比較にならない程にペーテを変えてしまうのだ。
ダイン 「変化の事ですが・・・自発的な変化には大きな覚悟を必要としますからね、だからこそ私は私の意志でペーテを変えて上げましょう」
ペーテ 「恐怖は感じます、ですが生きる事を楽しんでいなかった三天人様達を、あの様に楽しそうにさせた賢人様なら、私の悩みなど消し去ってくれるかもしれません」
ダイン 「悩みは消えないかも知れません、ですが悩みを忘れる程の充実を与えられるでしょう」
ダインの知る限り遊魔と成って楽しそうに生きていない者などいない、遊魔達が絶対的にダインを信奉しているのは、普段の生活が楽しく充実しているのも大きな要因である、つまり思考を変化させる事で遊魔社会を安定させているのだ。
ペーテ 「私にはその様な楽しみを見出す事が出来ませんでした、でも望んでいないわけじゃないんですよ」
ダイン 「なら、私にその身を捧げて下さい、後悔はしないと約束しましょう」
ペーテ 「凄い自信ですよね、でもそれが事実である事を私は実際に目撃してますから、それに自分で勝ち取った地位なら私も納得出来ますし」
ダイン 「まぁ人に選ばれるという事は確かに価値の有る事ですが、それ程大袈裟じゃないと思います」
ペーテ 「三天人様と同じ立場ってだけで、この国では大きな意味を持ちます」
今し方、パイリィとシリィを魔進化させたダインとペーテの間にはかなり認識のズレがある様だが、ペーテの立場がもたらす有用性は大きいので、ダインは敢えて深くは掘り下げ無い様にする、騙すつもりは無いが確かにペーテが持つ認識も間違いでは無いかも知れない。
ダイン 「別にディセルト達は特別じゃありませんけどね、私の中ではメファティやリリルカも同じ様に大切です、ただ、ディセルト達やペーテは私が新しい国を作るのに正当性を与えてくれます」
ペーテ 「やはりディーラルを狙っているんですよね、予言にはそう示されてましたし」
ダイン 「王女として認められませんか・・・なら抵抗してみますか?」
ペーテ 「知恵と力を兼ね備えた者が上に立つのは当然です、ディーラルの歴史には賢人様の様な傑物が居ませんでした、基本的に野蛮な男性が多いですから・・・なので穏やかな私の父が王位を任されたんだと思います」
ダイン 「ディーラルの歴史ですか・・・」
ダインはそう言って遊魔知識の情報を調べてみると、確かにヒーソフ王の即位に先立って、粗暴な性格と言われていた第一王子が毒殺されている、この時期は前国王在命の時期なので、後継者争いが起こらない様に前国王が行った事だろう。
ディーティエの人物評価では、ヒーソフは暗殺などをしてまで王位など望まない性格の様で、むしろ王位を得た事を喜んではおらず、ディーラルの争いを防ぐ為にその地位に留まっている様だ。
ダイン 「なるほど、英傑の不在で国が纏まっていないわけですか、確かに天人の誰かが女王になった方が良さそうですね、まぁ人間の王族を押し退けて女王には成れないでしょうが・・・あ、それであの予言なんですか」
ペーテ 「私の考えでもディーラルの王位には天人ディーティル様が最適任だったと思います、幾ら武勇に秀でた者が現れてもディーティル様に勝てるとは思いませんし」
ダイン 「私は勝ってますけどね、いや、勝ったというより勝負をさせなかったが正解ですが」
ペーテ 「賢人様は戦闘術も優れているんですか?」
ダイン 「いや、戦えない状況に追い込んだだけです、私とディーティルが戦えば勝つのはディーティルですから」
この言葉は嘘である、確かに戦闘技術はディーティルが格段に上だが、そもそも生身ではダインの障壁は破れ無い、攻撃が通らなければ勝てる道理は無く、ダインには身に危険が及ばない方法でディーティルを倒す方法を幾つも保有しているのだ。
ペーテ 「本当でしょうか、賢人様には魔術という手段が有りますよね?」
ダイン 「魔術は調整が難しいので個人戦闘には向いてませんよ、そろそろ話は止めにして、次に移りましょうか、ペーテが抱く様々な疑問も次の段階に至れば解決すると思います」
ペーテ 「最大の疑問はこの場所なんですけど」
ダイン 「それも解りますよ、多分薄々気付いている私の正体も」
ペーテ 「怖い筈なんですけど、好奇心の方が優ってます、あの尻尾や翼も賢人様がやった事なんですよね?」
ダイン 「そうですよ、皆んな人を超える力と永劫の美しさを獲得してます、もっとも実際に時間が経たないと永劫の美しさが維持出来ているのかは解りませんけどね」
ペーテ 「私はそんなに美しくはありませんよ・・・」
ダイン 「その謙遜は間違ってますね、派手な叔母と比較しているんでしょうが、派手な花だけが美しいわけじゃありません、今の場合は私がどう思うかで、ペーテは十分に魅力的です」
ダインが認めてくれた事はペーテにとって嬉しい事だった、本来この少女は素材が悪いわけでは無いが、幼少期に仲の良かった叔母との仲が拗れたせいで、人付き合いが苦手になっているのだ、その為に本来なら周りから大事に扱われる社交界に出る事など無く、自身の価値を低く見積もっているのだ。
ダインは思った事を正直に語る人間なので、その言葉に不自然さは無い、そう下手なお世辞などは観察眼が高いペーテには直ぐに解ってしまうのだ。
ペーテ 「その言葉、本当に嬉しく思います、私は賢人様に好まれる以上は望んでませんので」
そう、ペーテはダインに懐いているのだ、これは狭い世界で他人との関わりを避けてきたペーテにとって初めての感情で本人はこの感情を愛情だと錯覚している。
ダイン 「なら、態度で示して貰いましょうか、口付けは拒みませんよね」
ダインはペーテの肩に手を延ばすとそのまま抱き寄せる、自身に依存させる様に身体を斜めに倒してから顔を近付ける、ペーテも倒れる不安感からダインの首に手を回して力を込め、よりダインを近くに感じて赤面してしまう、そう、ペーテは他人とこれ程近付いた事などないのだ。
ペーテ 「胸の鼓動が早くなってます、いろいろと考えが巡って不安になります」
その気持ちを打ち消す様に、ダインは唇を寄せてペーテに口付けをする、元より拒む気などないペーテは素直に受け入れ、その従順さにダインは次の行動に移る。
空いていた手をペーテの胸に当てると、人差し指を動かして乳首を探ると、それを軽く弾いたのだ。
性知識の少ないペーテにはその意図が分からないが、胸の鼓動は更に大きくなってダインの次の行動を期待してしまう。
そして遂にダインの唇がペーテの唇に触れる、その感触は想像より遥かに柔らかく、ペーテの初めての口付けは甘いイチゴの様な香りがした、その上で唇から少し出してダインの唇に触れた舌は本当に野苺の様な甘酸っぱい味がして、ペーテの初めての口付けは想像よりも遥かに心地良いモノだった。
ペーテの少し大胆な行動はダインの次なる行動を誘発する、ダイン側も唇を開いて舌を出して来たのだ、そしてダインの長い舌はペーテの舌を絡め取る様に侵入して来て、ペーテの口内を這い回して行く。
だが、ペーテはその行為が不思議と嫌では無かった、ダインの舌は一段と甘酸っぱく口付けなのに美味しい、それはペーテの想像を遥かに上回る心地の良い行為で、ずっと続けていられそうだ。
しかし、その行為に邪悪な意図を含ませているのがダインだ、ダインの長い舌はペーテの舌を絡め取って拘束すると、その舌先は更に奥を目指す、年月を重ねて人格を作り上げた人間は、087や遊花達の様に素直では無く嘘をつくのだ、そこでダインはより安全な方法を実行する。
ダインの唾液の効果によってペーテの思考は麻痺状態にある、ただそれは多幸感を伴う麻痺でもあり、ペーテの頭はフワフワした状態で、ダインの為すがままにされている。
ダイン思考 『ディーラル人はやはり効きがいいですね、私の唾液も一種の魔導に近いので、やはり魔術に対する抵抗が低いのでしょうね、遊花リリルカは魔術抵抗の高かったですが・・・』
ダインはディーラル人から生み出された遊花リリルカとペーテの能力を比較してみる、遊魔因子を組み込まれた遊花リリルカは遊魔が必要とする全ての能力でペーテを上回っており、ダインは大いに満足する。
ダイン思考 『問題は今生産中の遊花ペーテの方ですね、身体能力はそれ程の差が出ないでしょうが、精神面がどう成長してくれるか・・・』
遊花の思考形成に関して遊魔技術は殆ど関与していない、知的好奇心の高かったリリルカベースの遊花にはリリルカの資質がちゃんと受け継がれて、精神面の完成度が高かったが、引き篭もりがちなペーテがベースの遊花には社交性に不安が残る。
ダインが思考している間にも、身体はペーテを堕とす準備を続けている、喉の奥から鼻腔に侵入したダインの舌先は一番脳に近いところを定めてダインチューブを射出する、この脳に直接堕液を送り込む器官を使って、ペーテの思考を遊魔に相応しいモノへと変えてしまうのだ。
ダイン思考 『遊花ペーテが期待に応えられなかった場合に備えて、ペーテの完成度を高める必要が有りますね、最悪、二人の思考を同調させれば修正も可能でしょう』
人の心が脳の働きだと断じているダインは、基本知識の導入で遊魔価値観の同調に成功している、最悪遊花ペーテがダインの期待以下であっても、魔進化した遊花ペーテは遊魔の基本知識を同調させる事でダインの求める存在となる事は確定しているのだ。
おまけ
人間用マギガメイル ラールカ派が急速に勢力を拡大した背景に、人間用マギガメイルの供給が有った、これは巨人魔導具の名に恥じない見た目を持つ魔導機だが、乗り手が主に男性を想定している為に大した性能ではない。
だが、低魔力で動かせる技術力はさすが岩喰い製の魔導機で、人類大陸のマギガントでもこれ程低魔力で動かせる機体はない。
機体自体の構造はマギガント以前の魔導機ゾゥティとほぼ同じで、一機ごとに組み上げられて部品の規格化などは行われておらず、戦いには不向きな機体だ。
それでも対人戦闘では無敵の力を発揮する物で、ディーラルの戦争を一変させる潜在能力を有している。
また、勢力の権力者に送られる為に派手な装飾を纏っており、戦闘よりも鑑賞で人々を楽しませる機体でもある。