戦乱編 第七話 特別なチクルカ

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  ダインチューブの侵入を許したペーテの脳は徐々に堕液の侵蝕が始まって意識を失ってしまっている、最早こうなってしまうとダイン悪行を止める事は出来ない、直ぐに遊魔の姿に変異したダインは四本の腕を使って浮かせたままペーテを全裸に剥くと、その身体を調べ始める。

  ダイン思考 『籠りがちな生活と聞いていましたが、不健康では無い様ですね、別に太っている事も有りませんし、むしろ痩せ気味ですね』

  剥いたペーテの身体は肋骨が見える程で肉付きは良く無い、もっともダインは太っているよりも痩せ型の方が好みなので問題は無い、何より遊魔の能力を使えば幾らでも好きに肉は盛れるので気に食わなければ盛ればいいのだ。

  ダイン思考 『さて、遊魔ペーテは余り体型を弄れませんね、象徴として表に立って貰う必要も有りますしね』

  ディーラル民衆に安心感を与える為には現状民の不満が少ない、現王ヒーソフの血族に高い地位を与える事は有効だとダインは考えている、ペーテは目立つ存在では無いが着飾らない王女として民衆に知られている、そのペーテを取り込む事でダインは派手さを好まないという印象を与える事に繋がるかも知れない。

  もっとも、これはそれ程重要視しているわけでは無く、リデウム階層国との戦いに勝利したという実績さえ有れば、武勇を重んじる傾向にあるディーラルでは十分だともダインは考えている。

  ダイン思考 『結局、なる様にしかなりませんよね、ペーテを盛り上げて下手に民衆の戦意を煽れば、余計な抵抗で被害を増やすかも知れません、そもそも現時点での王都の防衛計画では民の被害まで考えてませんから』

  クステーシャを主力に置く現在の防衛計画では、王都の近くで戦う程被害が予想される、これは単純にクステーシャに遠距離戦闘能力が無く、リデウム階層国の巨人魔導具との接近戦が予測されている為で、仮に王都から離れて戦うとなると数に勝るリデウム側の多方面の攻撃に対する対処が遅れて更に重大な被害を受ける可能性もある。

  つまり、遊魔側は王都ディグランの東西南北の城門の近くで戦った方が、より効果的に戦力を使う事が出来る。

  だからこそ今のダインは遊魔を増やして、直接の指揮下に置けるクステーシャ戦力を増やしたいのだ。

  高度な無意識下の行動を行う事が出来るダインの能力が有れば、人間の魔進化は考えなくても行う事が出来る、現にペーテの準備は着実に進んでおり、既に脳への堕液は十分に足りている。

  これ以上の堕液はむしろ脳への負担にもなりかねない為に、ダインチューブは抜かれて、ダインは口の自由を取り戻した。

  そんなダインは何かに気付いた様に振り返ると、後ろに一人の少女が近付いていた。

  ダイン 「貴女がラグム・デムの三つの思考を融合させた存在なんですね」

  三思考統合体 「そうなります、目覚めて直ぐに遊魔の王と話せるとは運が良いですね」

  ダイン 「この様な状態で申し訳ありませんが、このまま続けさせて貰います、私には慣れた作業ですので会話も十分に可能ですので、知っていると思いますが私がダインです、遊魔達の創造者で指導者です」

  三思考統合体 「私はラグム・デムの三つの無機知性を有機体の身体に統合した存在です、チクルカとお呼び下さい」

  ダイン 「チクルカですか、どういった意味を持つのですか?」

  チクルカ 「ラグム・デムを生み出した文明で統率者という意味です、最も統率すべき者達は全て遊魔へと変えられてしまいましたが・・・」

  ダイン 「087達は優秀ですからね、私は優秀な者達を取り込む事で遊魔の勢力を急拡大させているんですよ、今、行っているディーラル王女の魔進化もその資質と地位を認めて行っています」

  チクルカ 「ダイン様の意識はチクルカに向いていると思いますが、脳とは別に思考する器官を持つのですね、私は人の限界で一つの思考しか持ちませんが・・・」

  ダイン 「知識を蓄えればそれは思考へと繋がりますからね、それで私が思考せずとも魔進化を行ってくれる器官を作っています、まぁ私の世界では人間以外の知性を恐れて電子計算機では演算処理を行う所とデータを蓄積する所を別々にしてましたけどね」

  チクルカ 「貴方は自身の中の別思考を容認しているんですか・・・自己の脅威になるかも知れないのに・・・」

  ダイン 「便利ですからね、私の意識がこうして話している間にも、この娘ペーテの魔進化は進んでいます、時間の無い現状ではそれはとても役立ってますよ、何せ貴女、ラグム・デムの代弁者は無視出来ないですし」

  チクルカ 「確かにそうですね、貴方は私の予測以上にラグム・デムを上手く利用してます、ラグム・デムは此処を拠点として王都から撤退すると思ってましたから」

  ダイン 「撤退して人の住む街をまた攻めるのは大変ですから、特に征服者が現在の統治者より寛容だった場合は味方だった筈の民衆を敵に回すかも知れません、だったら取られない方がいいですよね」

  チクルカ 「その為の魔導機の戦力ですか、クステーシャを短期間で復旧させれるとは思いませんでした、確かにクステーシャも生物の構造を模倣させた魔導で駆動していましたが・・・」

  ダイン 「巨人魔導具は人類大陸に居た頃から、色々と弄ってましたからね、大きさとは質量を伴ってますから、動くだけで人には脅威となりますので、人類大陸ではこの遊魔の姿を見られると排除の対象となるでしょうから、その意味では巨人魔導具マギガントは都合が良かったんですよ、私も人型兵器が好きでしたし」

  チクルカ 「三百年前の魔王ザキトスの影響が今でも残っているのですね、大陸南部には魔族の国も存在してますが、リデウム階層国とは同盟関係にある様です」

  ダイン 「そこまでの情報を得ているのですか、まぁこの施設の規模を考えればこの大陸中に監視施設を作ってそうですが・・・ディセルトも声に導かれたと言ってましたね」

  チクルカ 「情報収集の設備は多く設置して有りました、ですが殆どが機能を失ってます、ラグム・デム自体の能力が衰えてますから」

  ダイン 「無機質な創作物は経年劣化するものですからね、だから私は生きた創造物を生み出しているんですよ、自己浄化作用などを付与する事で不老化を実現させている筈です」

  チクルカ 「人は世代を繋いで文明を維持させますが、遊魔は別の道を模索しているわけですか・・・」

  ダイン 「人は年月を経て多くを学びますが、精神的に発達しても死からは逃れられません、書物で知を残す事も出来ますが全ては残りませんから」

  チクルカ 「衰退を経験しているラグム・デムならばこそ同感出来ます、栄光の時も生み出した存在があっての事です、本人でなければ理解出来ない事も多いですから、チクルカは三思考を統合してますが、チクルカの思考と三思考個別の思考は別ですからね、今、チクルカは貴方の考えが正しいと思いますが、ラグム・デムの2/3は否定しています」

  ラグム・デム三思考はダインとの接触を恐れた為にチクルカを生み出したが、あろう事かそのチクルカはダインの共感しつつあった、人の生を受けてチクルカには期限が生じて、その期限を永遠に出来るのがダインなのだ。

  人の身体の枷を与えられたチクルカは、ラグム・デム三思考が考えた様な完璧さを持つ事が叶わなかった、この結果はラグム・デムの描いた未来に大きな影を落として行く。

  ダイン 「チクルカに認めて貰えた事は光栄に感じます、チクルカの知性には087には無い高みを感じますからね、見た目はオハナⅢですけど」

  チクルカ 「より高度な知性を発現させやすい素体としてラグム・デムに認知されていますから、遊魔との交渉役に087-03が選ばれたのも素体の優秀さを認められた結果です」

  ダイン 「多数の素体を用意して、適任の個体を生み出しているわけですか、やり方としては効率的ですが、人を使い捨てにしている様で好ましくは思いませんね」

  チクルカ 「貴方は自分が生み出した遊魔に幸福を与える事を重視している様ですから、ラグム・デムのやり方には抵抗が有るでしょう、ですが知性体とは自身以外に傲慢が有るものですから」

  ダイン 「それも十分理解してますよ、だから上に立つ者の寛容さ必要です」

  チクルカ 「けど、それはラグム・デムとは折り合わないでしょう、虫の立場を主張する人間がいないのと同じですね」

  ダイン 「ラグム・デムは人間を虫程度に思っているわけですか・・・ならチクルカの存在はどう感じているのでしょう」

  この言葉はダインがチクルカに放った毒である、チクルカはラグム・デムそのものという意識を持っているが、本来のラグム・デム三思考がチクルカを同列とは考えていないだろう。

  チクルカは暫し黙り込んでしまう、ダインをよく知る為のチクルカはラグム・デムにとっての道具に過ぎない、だが、ラグム・デム三思考統合体としての誇りは存在し、チクルカ的には三思考の単体よりも自身の方が優れているという自負もある。

  チクルカ 「チクルカは三思考全てを統合した存在です、個々の三思考よりも優れた存在である筈です」

  ダイン 「そうなのですか、ならばラグム・デムはチクルカを直ぐに生み出せますよね」

  ダインはチクルカの自尊心を破壊する問いを投げ掛ける、チクルカが正確に自身の立場を理解して折れた時がダインにとっての好機でもある、ダインは087達を解析して得られた情報から、ラグム・デム三思考はあくまで意思決定の装置であって、物理的にラグム・デムを動かす事が出来ない事を知っているのだ。

  その事はラグム・デムを作り出した文明も、ラグム・デムを全面的に信頼していない事の証だともいえ、創造者と創造物が完全に心を通わしていない現れでもあった。

  ダイン思考 『チクルカをこちら側に取り込んでしまえば、よりこのラグム・デムを扱える事になるでしょう、087は10段階の半分ぐらいまでしか権限が有りませんでしたが、チクルカなら087の上の段階にあるでしょうから』

  遊魔とラグム・デムは協力関係を結んだと言っても当然それぞれの思惑はある、ダインとしてはラグム・デムを利用する為により高い権限の行使を望んでいる。

  ダイン 「まぁ人間知性には限界も有るという事ですね、だからこそ私は人間知性以外を育てる事も行っているというわけです、そしてちゃんと芽吹きつつありますから、この娘の魔進化をこれ以上進める為には私が必要です、ですから暫く自分を考えて見てはどうですか?」

  チクルカの思考に干渉する三思考達は現状の危険性を警告している、だが、その警告がチクルカに更なる疑惑を生む要因となってしまう。

  ダインはチクルカのそんな葛藤状態を敢えて放置してペーテに構う事にする、ダインに愛されずして魔進化を遂げた遊魔など存在しては行けないのだ。

  チクルカはラグム・デムの警告に乱されながらも自分の存在について深く考え込んで行く、そもそも人の思考とは外部からの影響を受けても、内部からの干渉などをない、しかし、チクルカの思考はラグム・デム三思考からの警告が駆け巡っており、ちゃんと自身を見直す事すら出来ない。

  チクルカ 「チクルカはどうすれば・・・」

  その声が余りにも悲壮感に満ちていたのでダインも気になってしまう、なんだかんだでダインは美少女に弱いのだ。

  ダイン 「三思考の干渉を防ぐ方法なら遊魔は既に生み出してますよ、087で色々実験しましたから魔力の波長を遮断する事で可能となりますが、遊魔でない者に効果を及ぼすには尻尾で呑み込むしか有りませんね、チクルカがもし望むのであれば提供も可能ですが・・・」

  ダインは尻尾を振ってその存在を示す、ドラゴンの様なその尻尾は外観から優しさを感じる事はないが、脳内に満ちる警告から逃れる為に選択肢が示された事は救いでもある。

  チクルカ 「お願いします、今の状態では冷静な思考など不可能ですから、他者の干渉を受けていては自分の本心など導き出せません」

  別にこの懇願をチクルカはラグム・デムに対する裏切りだとは思っていない、チクルカ自身もラグム・デムの思考であり、三思考から干渉を受ける謂れもないのだ。

  ダイン 「では遠慮なく行きますよ、呼吸を安定させる為にマスクを装着させますね、あと目は瞑っていた方が賢明です、人間、食べられる事は恐怖ですから」

  ダインはなるべくチクルカに負担を与えない様に配慮する、チクルカを取り込む為には良い印象を与えた方が有効的であるからだ。

  そしてチクルカはダインの指示を忠実に実行している、人として生きた経験の無いチクルカは正直なのだ。

  チクルカの後ろで鎌首をもたげたダインの尻尾は、先端が二つに割れて中から舌の様に触手が伸び出してくる、そして触手はチクルカの口と鼻を覆うとダインが問い掛ける。

  ダイン 「嫌で無ければ頷いて下さい、次に進みますので、全身が生暖かい感覚に包まれると思いますが、ラグム・デムの魔力波長を阻害するにはそれしか手が有りません」

  チクルカはダインの言葉に大きく頷くとダインの次が始まる、更に大きく拡げられた尻尾の穴が頭からチクルカに被さり、下に落ちて呑み込んで行くのだ、だが、チクルカは微動だにせずにそれを受け入れ、僅かな時間で完全に呑み込まれてしまった。

  おまけ

  リデウム製魔導機 リデウム製魔導機の最大の特徴が低魔力稼働能力で有る、元々岩喰いは人間や耳長に比べて魔力が低い為に、低魔力でも高い性能を発揮出来る魔導機が必要とされたのだ。

  低魔力でも高い性能を引き出せる魔導機の開発で、リデウムの機士に求める資質は大きく下がり、その事で多数の魔導機戦力を運用可能となったのだ。

  ただ、機体は職人による個別生産で規格概念が導入されていない為に、整備には多くの手間を要する、だが、優れた技術を持つ岩喰い職人は例え他人が作った機体で有っても日数さえ掛ければ稼働状態に復帰させる事が可能で、数百年前に作られた古い機体でも現在の技術を取り入れて、第一線で使える機体となっている。

  ただ、地の王達が運用するマギガマイナーだけは他の魔導機とは違い規格概念を持っており、ほぼ変わらない性能と構造を持っているが、マギガマイナーを誰が作っているのかはリデウム内部でも謎とされている。

  マギガマイナー自体、少なく見積もっても三百機は稼働しており、リデウム国内の何処かにマギガマイナーを専門に製造する大規模な施設が存在し、そこでほぼ同一の存在で有る地の王も生み出されていると考えられる。