⚠️注意⚠️
今回はかなり厳しい表現のスパになっています!
きついかも、と感じたらUターンすることをおすすめします。
どうか皆さんの理想のスパが守られますように。
「っひぅ……グズ……ふうぅ……」
「………いつまで持つかな、楽しみだね。」
リビングで、赤く腫れ上がっているであろう尻を出したまま声を漏らして泣く俺と、そんな俺を椅子に座って静かに見ている千秋さん。
何でこうなったのかと言うと……
友達に誘われて放課後、カラオケに出掛けたのだが、一人大人びた体型の友達がお酒を頼み、酔った友達の一人に襲われかけ……軽く蹴っ飛ばして帰ってきたものの、何かあったと千秋さんは気付いたようで、こうして夕飯が終わったあと(約1時間前)からずっと、パドルでお尻を叩かれている。
最初から道具だし、Glareは出まくってるし、もう本当に抑える気ないだろって思うけど、俺も俺で罪悪感があるから強く反抗出来ず……でも、話す勇気なんてなかった。
いつかされた嫉妬のお仕置きを思い出す。
どうせまた暴走しちゃうんでしょ?
つまり、気付かれた時点で詰んでる訳だ。
でもなんだか話したくはなくて…。
「…そろそろ、また始めようかな。
次は、、40回。」
千秋さんの言葉と共に気配が動き、腰を押えられてお尻にパドルが当てられる。
その感覚に涙が浮かび、スーッと頬を滑り落ちた。
「進めていくけどさ、貴和?
そろそろお口開かないと、辛いよ?」
一瞬優しく頭を撫でられ、目を見開いた。
千秋さんの“辛い”は、俺もなんだろうけど、千秋さんも辛いんだろうなって、少し思う。
それでも言えないのは…何でかな…
バチィン!パン!バチン!
「っ、ぁ"……ひぃっ……ぁぁっっ……」
バチン!パァン!パシン!
「んっく……ぃぁぁっ……ふ、ううぅ……」
「貴和、姿勢!3回目」
バチィン!
「ひ……っっ……う、うぇぇぇ……」
もう何回叩かれたか分からない。
ただ淡々と、回数を増やされて叩かれる。
ねぇ、千秋さん。
どうして?
どうして、Command使わないの、?
簡単じゃん…
“Say”って、たった一言で全部聞き出せるのに、どうしてそうしないの?
俺が話せばいいだけって分かってる。
だけど……どうしても、今日は話したくないんだ…
俺の困った所。
意地を張ったり頑固だったり……
結局余計に痛い思いをするだけなのに…。
バチン!パン!パシィン!
「はい、40回。」
「ふっ……く、ぅぇぇ……」
涙が止まらない。
膝が笑う。
もう、1回でも叩かれたくない。
それでも、壁に爪を突き立てて、必死に立つ。
「……貴和、」
千秋さんの低い声が鼓膜を揺らす。
泣きすぎてぼーっとする頭でも、千秋さんの声だけはしっかり聞こえて…。
「…まだ話さないつもりなの?」
「っうぅ……ひ、ん……(フルフル)」
弱く首を振ると、千秋さんは溜め息を吐いてどこかへ行ってしまった。
呆れたかな。
そうだろうな。
どうして話せないんだろう。
どうして……
ぼんやり考えていて気付く。
俺は怖いのかもしれない。
俺はお酒を飲んでないけれど。
無防備に酔ったやつのそばにいたのは事実で。
襲って下さいって状態だと、言われれば否定は出来ない。自分の身も守れないのかと、呆れられて、もし千秋さんに、脅しだとしても「そんな子は私の恋人じゃない」なんて言われたら……俺は…どこに行けばいいの、?
この世界に俺の居場所なんてない。
俺の居場所は、ここしかないんだ…。
俺がずっと話せないのは…嫉妬されてお仕置きされることより、捨てられる不安があるからだってことに、今更ながら気が付く。
そう考えたら余計話せなくなった…。
どうすればいいんだろう…
色々ごちゃごちゃと考えていたら、千秋さんが戻ってきた。
思わずそっちを見て、絶句する。
千秋さんの手には見たことがない道具が沢山握られていて、俺が知らないだけで持ってたやつなんだろうけど…まだ、叩くの、?
その事実に涙が溢れた。
もう叩かないで。
これ以上叩いたら壊れちゃう。
痛いから。怖いから。
……ごめんなさい。
臆病でごめんなさい。
弱くてごめんなさい。
…信じられなくて、ごめんなさぃ……。
千秋さんを完全に信じていないことに、自分が弱いことに、逃げていることに罪悪感が膨れ上がる。
話さなきゃ、ちゃんと説明して、それで、それで……──
苦しむ俺を他所に、千秋さんはテーブルの上に綺麗に道具を並べると、そのうちの一つ…細長い棒状のものを持って、軽く素振りをした。
ビュンッ!
風を切る音に身が竦む。
ベルトは太い方より細い方が痛みが鋭いそうだ。
あの道具も同じなら、どれ程の痛みを感じるのだろうか…。
「っふ……も、、もぅいやぁ……もぅおしりやだぁぁ……」
思わず泣きながらお尻を庇い、動いて後ずさった俺に、千秋さんは静かな視線を向けた。
目を直視出来なくて、とにかく道具を見る。
本当は見たくなんてないけど、貴方の瞳に浮かぶ感情を理解するのが怖い。
もしも呆れていたら、?
そのまま捨てられてしまうんじゃないかって、不安がまた大きくなってしまう。
そうしたら、さらに貴方を信じられなくなってしまうんじゃないか…。
それが一番、苦しいから…。
ごめんなさい、千秋さん。
弱くて、卑怯でごめんなさぃ………。
「…貴和、まず体勢を元に戻しなさい。」
「いやぁぁ……泣」
「嫌じゃない。
最初に言ったよね?
話すまで終わらせないって。
手も止めないって。
私は言ったことはきちんとやる。
壁に手をついて、お尻を突き出しなさい。」
千秋さんの言葉に、身体がピクリとも動かなくなる。
だって……こんなに痛いのに、?
まだ終わらないの、?
何回、何時間叩かれたかもう分からないのに…?
「貴和。」
「ゃ、、だ、て……いたぃ……いたいぃ……!」
何が伝えたいか、自分でもよく分からなくなる。
それでも嫌ってことは伝えたくて、必死に首を振った。
「痛いのは、貴和が話そうとしないからでしょう?
何があったのか、何かされたのか、私の質問に貴和が答えれば、きちんと話してくれればお尻は叩かない。
貴和が話さないから叩いてるんでしょう。
自分が招いてる状況なんだから、逃げるな。」
千秋さんの言葉にビクッとし、身体から血の気が引いた。
千秋さんはいつも丁寧だ。
怒ると怖いけど、怒鳴りつけることも稀で、いつも静かに叱られる。
だから、、逃げるなって、ほんの少し乱暴な言葉遣いに驚いたと同時に、それだけ待たせているのかもしれないと思った…。
頭の中で謝るんじゃなく、口に出すべきだって分かってる。
きちんと話すべきだって理解はしてるのに、怖くて話せないんだ……。
「姿勢を、直しなさい。」
少し苛立ったように言われ、気持ちだけが焦る。
動けない。動かない。
まるで石にされたかのように、指先ひとつ動かせず、ただただ涙だけが頬を滑る。
何分経ったか、何秒だったのかもしれない。
千秋さんが動いた。
固まる俺に手を伸ばすと、片手で押さえ込み、俺のお尻に道具を振るう。
ピシ!ビシ!ピシッ!
「っぁぁぁつっいや、ひっやぁぁぁいだいぃっ、!」
「まだ話せないなら、テーブルの上の道具全部使って話させる。
それでも話せないなら、お仕置き部屋で朝まで付き合ってあげるよ。」
「うぁぁ"ぁ"っっひ……もぅいやぁぁっごめ、なさぃぃ……ごめんなさいぃっ」
「何がごめんなさいなの?
どうして話せない!」
苛立ったように肩を掴まれ、視線を合わせられる。
怖くて俯いたら少し乱暴に顎を掴み上げられた。
その力の強さに、怖くて身体がガタガタと震え、俺は床にへたり込む。
「つっ……ひぅ、うえええぇぇぇっっ……ごめ、なさぃ……ごめ、なさぁ……ぁ、っぅぁぁぁ……」
床についたお尻の激痛よりも、貴方を信じられない自分がいることが、貴方をここまで悲しませていることが、辛かった。
ごめんなさい千秋さん。
謝ることしか出来なくてごめんなさい。
俺が話さないと埒はあかないし、この問題も解決しないって分かってる…。
どうすればいい…俺はどうすればいいの……。、
上から千秋さんの溜め息が聞こえて、ビクンと肩が震える。
千秋さんの気配が動いて、俺の目の前に千秋さんもお尻をついて座った。
「………」
「っひうぅ……っくうぇぇ……」
リビングには、俺の嗚咽だけが響く。
そのまま時間は過ぎ、何分経ったのかも分からなくなった頃、千秋さんが俺の頭を撫でながら、口を開いた。
「……追い詰めてごめん。
余裕が無いからってするべき事じゃなかった。
Glareも抑えなくてごめんね…負担大きかったでしょ…
意地悪な言い方してごめん……」
俺はびっくりして、思わず顔を上げてしまった。
まさか謝られると思っていなかったから。
それが、不味かったのかもしれない。
顔を上げた先で、千秋さんは泣きそうな顔をしていた。
凄く、凄く苦しそうで……手を伸ばしたけれど、頬に触れる前に理性で止めてしまった。
中途半端な位置にある手は、恐怖からか、緊張からか、酷く震えている。
千秋さんの頬に触れるのを躊躇ったのは……その資格が今の俺にあるのか分からなかったから…。
……千秋さん……俺は、貴方に触れてもいいんでしょうか…。
貴方をここまで苦しめたのは、俺なのに、?
貴方を抱き締める資格なんて、俺に無いんじゃないかな…。
そんな俺の考えを蹴飛ばすかのように、千秋さんは迷っていた俺の手を掴むと、俺を腕の中に閉じ込めた。
「貴和……ごめんね……
傷付けてごめん……
こんなやり方するべきじゃないのに……ごめん……ごめんなさい………」
千秋さんがごめんなさい、と謝ったことに、俺は驚いてしまう。
なんとなく、、叩いてる人がそう謝るのはイメージ出来なかった……。
「ふ、ぅ……ちあ、きさ、ん……俺こそ……俺こそごめんなさいっごめんなさいぃ……ぅぁぁぁんっ……」
俺が声を上げて泣くと、千秋さんは俺の背中や頭を沢山撫でてくれた。
沢山泣いて、少し落ち着くと、ようやく心が軽くなったように感じて、少しずつ、少しずつ何があったのかを話し始めた。
「ふ、グズ……ぁの、……」
「……うん?」
「……がっこ、おわって……ともだち、にあそび、さそわれて……」
「うん」
「からおけ、行ってぇ……それで、歌ってたんだけど……──」
あったことを説明すると、千秋さんは暫く片手で顔を覆い、絶句?していた。
やがて溜め息が聞こえ、またビクリと肩が跳ねる。
「……想像してたより、酷い事じゃなくて良かった…」
ホッとしたようにそう言い、千秋さんは俺の頭を優しく撫でる。
「最悪、どっかのDomに襲われたとか考えてた」
ブンブンと首を振り、否定する。
あの嫉妬事件から、俺は友達の中でも信用出来るSubと一緒に行動したり遊んだりするようにしているから、もしもDomに襲われたりするのなら、それは常識もクソもない赤の他人だ。
学校にCollarは付けて行けてないけれど、抑制剤も使用しているし、何より自分からDomに近付くことは絶対にしていない。
それはいつも俺のそばにいる千秋さんなら分かる事だと思う。
Subは、別のDomに近付かれたり触られたりすると匂いが移る。
その為パートナーがいると、匂いで接触が分かるのだ。
Sub同士ではあまり匂いは映らないけれど、Domに触られた場合は凄まじいらしい。
「……何があったかは、分かった。
でも、じゃぁどうして貴和は、こんなに話すのを拒んでたの?」
千秋さんの質問に、俺は千秋さんから視線を逸らしてしまう。
「こら、ちゃんと目見て。
話してごらん?
否定も拒絶もしない。約束する。」
真っ直ぐな千秋さんの視線と言葉に、俺は1つ深呼吸をすると、心の中の不安を吐き出した。
「っグズ……呆れられるんじゃないかって…
捨てられたらって……怖かった……」
千秋さんは僅かに目を見開いたけど、すぐに静かな瞳に戻る。
「…そっか……
私の愛は中々伝わってないのかな?笑」
フフッと笑う千秋さんは、傷付いてるようには見えなくて、でも本当は傷付いてるはずだ。
こんな事言うのは、貴方のことを信じられてませんって伝えてるのと同じなんだから……。
唇を噛んで俯いた俺に、千秋さんは顔を上げさせ、頬を手で撫でた。
「貴和、聞いて。
私は不器用だから、貴和を上手に愛せないかもしれない。
でも、誰より貴方を想っているのは確かだよ。
覚えてる?
一緒に歩いてくださいと、貴和の手を取った日を。」
千秋さんの言葉に、新しい涙が浮かぶ。
5年前のあの日、俺が絶望に染まり、死を望んだ日。
馬鹿みたいに土砂降りだったあの日……傷だらけの俺を見つけて、見つめて、心に話し掛けてくれたのは、貴方だけだった。
かっこいいスーツ着てるのにさ、折角傘持ってたのにさ、びしょ濡れになって、俺を助けてくれたよね。
生きろと、その言葉で、俺の世界に色が戻ったことを、今でも覚えてるよ…。
そう、あの日、あの場所で、千秋さんは俺に手を伸ばしたんだ。
一緒に、君と歩いていきたいって。
出会った瞬間から運命を感じてて、俺は身体が痛むのも構わずにKneelの姿勢を取っていたし、貴方は無意識にGlareを出していたよね。
忘れる訳、ないよ。
「っ〜〜………ふ、うぅ……」
「…愛してる。愛してるよ、貴和。
誰よりも、何よりも、貴和だけを。」
「っふううぅぅっ……お、れ……おれ……」
伝えたいことも、謝らなきゃいけないことも、沢山たくさん浮かんで、それでも、その全てを嗚咽が邪魔して…一人で困り果てる。
この身体、どうにもならないのか。
「ゆっくりでいい。
ちゃんと聞いてる」
千秋さんは全部理解して、全てを許してくれる。
どうして、どうして貴方は、そんなに優しいの……。
その貴方の優しさに、俺は何を返せるのかな。
「…ちあ、きさん……」
「うん?」
「っく……おしおき……してくださ……泣」
貴和が、しゃくり上げて泣きながら言った言葉に、私は思わず聞き返してしまった。
「…ぇ?」
「ぉれ……ちあきさんの、こと……きず、つけた、からぁ……だから、、ひっ……おし、おぎ……っうぇぇ……」
貴和が、無理をして言っているのはすぐに理解出来た。
元々痛いことが凄く苦手な貴和が、自分からお仕置きを頼むこと自体ある意味凄いことだ。
傷付いてないと言えば、嘘になるけれど、そんなの気にならないくらい、私も苦しかったし、罪悪感を感じた。
いくら焦ったからって、いくら、心配だったとしても、ここまで追い詰め、怯えさせる理由にはなり得なかった。
さっき抱き締めた時点で、もうお仕置きはしないと思っていたのに。
きっと、貴和も罪悪感があるのだろう。
酷いことを伝えたと思っているのかもしれない。
貴和はこれ以上叩かれたくないはず、私もこれ以上叩きたくない。
(……両方への罰、か……)
なんだか、物事は上手くできてるものだななんて、こんな時だけど思ってしまう。
ずっと厳しくできる自信はないので、先に妥協しておこう。
「……分かった…。
折角だし、お仕置き部屋でしようか。」
私の言葉に、貴和は小さく声を漏らして涙を零す。
私はまだ、貴和にお仕置き部屋を見せたことがない。
いつも私の部屋か、リビングのソファーなどでお仕置きを行っていたから。
でも、今回そこでお仕置きすることで、貴和が悪いことをしなくなるなら、上手く使わせてもらおう。
「…貴和、」
「ふぇぇ……は、ぃ……」
「ぎゅーって抱き着いて」
私の要望に、貴和は戸惑いながらも抱き着いてくる。
私はそっと貴和を包むように抱き締めた。
あの部屋に入ったら、優しい私は一切出せない。
だから、今だけは、優しい私でいさせて欲しい。
何度も頭や背中を撫でて、でも寝かしつけないように気を付けて、しばらく経った時──
「……そろそろ、行こうか。」
腕の中でビクリと身を竦めた貴和を感じながら、私はゆっくりお仕置き部屋へと歩き始めた。
「ふ、うぅぇぇ……」
涙が止まらない。
お仕置き部屋って、どんな所なんだ…。
怖くて怖くて、必死に千秋さんに抱き着くしかない。
家の奥へどんどん進んでいって、やがて千秋さんが立ち止まった。
お仕置き部屋に着いたのだろう。
「う、うぇぇぇ……ひっく、……ごめ、なさぃ……」
小さく謝ると、千秋さんは優しく言った。
「……うん、そうね。
貴和、中に入ったら、優しくしない。
きっと貴和が震え上がるほど、怖くて痛い思いをさせると思う。
もしかしたら、鬼って思うかもしれない。
どう思われてもいい。
ただ、一つだけ。
忘れないで欲しい。
私は、どんな時も貴和を愛してる。
嫌うことも、捨てることも、呆れることも、絶対にない。
私は何時までだって、貴和のそばにいる。
例え貴和が嫌がろうがなんだろうが、絶対に、離れない。
……伝わった?」
「っ、っ〜ぅ、ぅぇぇ………ちあ、きさ……」
「……うん」
「大好きぃ……」
「…………うん」
「あい、してるっっごめ、なさいぃ……」
「……うん、私も愛してる。
いっぱい泣いて、反省しようね。」
千秋さんに降ろされ、部屋の扉が開く。
中を見た俺は……硬直した。
壁も床も黒をメインにした全体的に暗い部屋。
天井から薄暗いライトがいくつか設置されていて、四方の壁には何かしら掛けてある。
部屋の中にいくつもある拘束台。
奥の方にあるのはシャワー室とトイレか。
一瞬、目で見て情報を集めつつ、俺は直感的に思う。
この部屋、やばい。
入ったら二度と出られないような威圧感と恐怖。
入口で固まった俺を、後ろから千秋さんがそっと押して中に入れる。
後ろで、ガチャリと鍵の閉まる音がして、もう逃げることは許されないんだと悟った。
中に入ると、千秋さんは俺を中央の拘束台に乗せた。
それは足と身体を乗せる部分の高さが違い、お尻を突き出す形になる台だった。
だいぶ前にフランスの学校でチラッと見た気がしなくもない。
それでも、拘束されるのも怖い俺を、今まで千秋さんは一度も縛らなかった。
今回この部屋に連れてこられて、怖い思いも嫌な思いもしなきゃいけないことが、自分がどれほどの事をしたのかという事実を自覚させられている気がした。
金属音と共に、手足が動かせなくなる。
そのまま腕と腰、膝裏を革製のベルトで固定され、恐怖から呼吸が浅くなった。
「……ちあ、きさ……パシン!
口を開いた途端、お尻に平手が落とされる。
「ひ、ぃ……!」
散々叩かれて腫れ上がったお尻では、平手さえ激痛に感じた。
「誰が喋っていいって言ったの?」
千秋さんの冷ややかな声に、息を呑む。
どうしようもなく、俺は千秋さんの気配を必死に探った。
今どこにいる?
何をしているんだろう。
空気が重苦しい。
庇うことすら許されない、無防備に突き出されたお尻が怖い。
この後どうなるのか、全く予想がつかない…。
こんなことになると分かっていたら…カラオケなんて絶対行かなかったのに……泣
ぽたぽたと涙が頬を伝い、台に落ちる。
嗚咽を漏らさないよう、必死に堪えた。
そうやって自分を保つ俺の前に、不意にいくつかの道具が置かれた。
溜まった涙を瞬きで落とし、道具をよく見る。
革製のパドルと、さっきの棒状の物。
今回はこの2つなのか、?
それでも、今の状態のお尻には、少し厳しく思えて……それだけの事をしたんだと、諦めるしか無かった。
「まずは平手で叩く。
回数は決めない。
早く終わりたければ、質問にきちんと答えなさい。」
話していいのか分からず、必死に頷く。
僅かに空気が動いたのを感じて、俺はきつく目を閉じた。
ここからは、泣いて後悔し、心から反省することしか出来ない。
千秋さんがきちんと向き合うと決めたなら、俺もきちんと反省すべきだ。
どうか、もう二度と、千秋さんを傷付けることがありませんように。
バチン!パァン!バシン!パァン!
「っ、ぁぁぁっぃ、ふ、ぅあっぅ…いだぁ…」
手加減なしに振り下ろされる平手。
どこに落ちるか分からない恐怖。
あと何度、あと何回叩かれればいい……。
「貴和、」
「ひぅ、ふ……ぁぁ……ぃたぃ……いだいぃ……」
「返事!」
バチン!
「ぁぁんんっふぇっく……はいぃ……」
「今回何が悪かったのか、言いなさい。」
「はいぃ……」
バチン!パン!パシン!パァン!
「あぁん……!ぁ、ふ……ぅく、ぇぇ……いぁぁつっいだいぃ、いだぁいっ!!」
「痛いのはお仕置きなんだから当然でしょう。
答えるまで叩くよ。道具にしたい?」
「ひうぅ…いやぁ、いやぁぁっっ」
「ならすぐ答える!」
バッチィン!
「ひ、ぅぁぁぁっっごめ、なさぁあ…!!」
バチン!パァン!バシン!
「ぁっ、ぅぁぁ……ぇ、く……ちあ、きさ……きずつけ、た……ひ、っいぃ……しんぱ、かけ、た……っふぅぇぇ……
ずっと、はなさな……ふぅ……ごめ、なさ、ごめ、なさぃっ……」
「そうだね。
心配は掛けていいの?」
パシン!パン!
「ぃぁぁ……だめ、だめぇぇっ……」
「早とちりした私も悪かった。
聞き出そうと焦った私も良くなかった。
でもね、本当に心配した。」
「ごめ、なさいぃ…」
「心配かけた分、20回。
しっかり反省しなさい。」
「っふ、うぇぇぇ……はぃぃ…」
バチン!パン!パシン!パァン!バチン!
「っぁぁっいだいぃ、!
ふ、うぇぇぇ……ごめんなさ、ごめんなさいぃっ
も、しな……きをつけるぅぅっっ」
「当たり前!
心配掛けて、本当に手のかかる…!」
バチン!パン!バシン!パァン!バチン!
「ぁぁっんん…!
ごめんなさぁいぃっ!
いぁあ…いだいぃっいやぁぁぅっく……」
「嫌じゃない!
あんまり嫌々言うなら、言っていい言葉ごめんなさいと返事だけにするよ!」
バチン!パン!パシン!パン!パァン!バチン!
「ぅ、ふぁぁっいやぁ…っ!…」
「あと4回。
悪い子のお尻は真っ赤になる。
よく覚えておきなさい!」
バチィン!パシィン!パァン!
バッチィン!!
「あぁぁっっく、ぁ……ぃぁぁっ!
はいいぃっっご、ごめんなさいぃっ!!」
平手だけなのに、お尻が切れたんじゃないかと思うくらい痛い。
もう二度と心配を掛けないと胸に誓う。
涙も嗚咽も止まらない。
苦しい…。でも、きっと千秋さんはもっと苦しいはずだ…。
「……今回、私が1番良くないって思ってるのは、貴和が私に捨てられるって考えたこと。
私は、何があろうと絶対、貴和を見捨てないし、嫌いにならないし、呆れたりしない。
貴和の傍から離れることもない。
分からないなら何度でも伝える。
不安になるなら何度でも言ってあげる。
勝手に誤解して離れようとしないで!」
「っ、く……ふ、ぅぇぇ……」
「少し意地悪なやり方だけど、絶対忘れて欲しくないし不安になって欲しくない。
信じて欲しい。
だから、後20回。
道具でお尻に教えてあげる。
言葉で覚えられないなら、お尻の痛みで覚えなさい。
思い出しなさい。
不安になった時、怖くなった時、悩んだ時。
どれだけ痛くされたか、何を忘れない為に痛くされたのか、きちんと思い出せるようにしてあげる。
いいね。」
「うぇぇぇ……は、ぃぃ……」
目の前から2つの道具が消える。
その時チラッと見えた千秋さんの手は、真っ赤だった…。
千秋さんが頑張ってるなら、俺も、頑張らないといけない。
後、20回。
お尻にピタリと、棒状の道具が当てられた。
ビクリと身体が強ばり、恐怖で震える。
さっきも凄く痛かったのだ…。
それでも、覚えなきゃいけない。
また不安にならない為に。
千秋さんを、傷付けない為に。
「……貴和、何を忘れちゃいけないのか言いなさい。」
お尻に道具を当てられたまま聞かれる。
発狂しそうなのを必死に堪えて、思い出した。
ほんの数十秒前に言われた言葉を。
「っぅっく、……みすて、な……そばに……っふぅぇぇ……ごめ、なさぃ…ごめんなさぃっ」
ピシ!
「あぁ"っ!」
「声が小さくて聞こえない。
やり直し。」
「ふっ、うぇぇぇ……ごめ、なさいぃ……ちあきざ……ごめんなざぃぃ……」
恐怖で震えながら謝っても、千秋さんは何も言わなかった。
ただ急かすように、ペシペシと軽く叩かれる。
「ふ、うぅ………ちあ、きさん、は……おれのことっ……ぜっだいぃ……ひぅぅっっ……みすでなぃ、し……あきれ、な……うぇぇ……きら、いに、ならな……っいぃ……」
「そう。
忘れないで。
どんな時もそうだから。
いいね?………愛してる」
千秋さんの声が切なげに部屋に響く。
「っく、わか、た……わずれな……ごめ、なさ……っうぁぁ……」
胸が苦しくて、悲しくて、涙を零しながらそう言う。
千秋さんは小さく息をつくと、数回道具を振った。
その音に自然と身体がビクつく。
「最初の10回は、ケイン。
後の10回は、パドル。
数を数えなくていい。
ただ、痛みを頭に叩き込みなさい。
覚えなさい。
分かった?」
「っ……はぃっ」
お尻にピタリとケイン、が当てがわれ、それがゆっくりと離れた。
きつく手を握り、目をつぶる。
忘れませんように。
不安にならないですみますように。
どうか、どうか……
ピシ!ビシ!ビシ!パシ!
「っ〜ぅぁ……ぁぅあ"ぁぁ"あっっ
いぁぁっ!ひ、っいつっぁいぃっ」
声にならない声が出る。
涙が次々溢れ出す。
収まらない痛みに、お尻は燃えているように感じた。
ビシ!ビシ!ピシ!パシ!
「いやぁぁっっいだぁぁつひうぅ……!!
ごめ、なざぁぁいいっ」
ビシ!ビシッッ!
「ぁぁ"ああっ!!
ごめ、なざいいっっうぁぁ……!」
「…後10回。」
バチン!パァン!バシン!バチィン!
「ぁ、ぁっいだ、ぃぃ……ごめ、なさ……わずれな……ひつぅ……」
段々、声が出なくなってくる。
涙だけが幾度も幾度も頬を滑る。
溢れて零れる。
ごめんなさい。
傷付けてごめんなさい。
もう忘れない。
もう二度と…………貴方が、俺を愛していることを……忘れたりしない……泣
バチィン!バシン!パァァン!
「っぁっく……ごめ、なざ……ちあぎさん……ごめん、なざぃ……わすれ、な……わすれな、いぃっ」
「……最後。」
バッッチィィン!!!!
「っぁ"ぁぁぁ"ああ"あっっ!!」
今までのどんな痛みよりも、強く、重い痛みが走った。
叫んで、ぐったりと、身体の力を抜いてしまう。
痛い、凄く痛い。
絶対…絶対切れてる……。
でも、忘れない。
これで二度と……二度と忘れない……
ごめんなさい。
ごめんなさい……。
不安になんてなる必要ないのに。
貴方が俺を手放す訳なんてないのに。
貴方は俺を……っっ
カラン、と、乾いた木の音が、やけに耳に響いた。
テキパキと拘束具を外され、次の瞬間、千秋さんの匂いに包まれていた。
千秋さんは我慢出来ないというように俺の頭を掻き抱く。
「ふ、っうぇぇ……ごめ、なさ……ちあっ……ん、む……」
上手く出ない声でそれでも謝ったら、キスをされた。
何度も何度も頬を撫でられ、愛おしそうに震えるキスを落とされた。
全てに。
千秋さんはここにいたくないとばかりにさっさとお仕置き部屋を出ると、千秋さんの寝室のベッドに俺を寝かせた。
「…そのまま待ってなさい」
そう言うと暫くして洗面器とタオル、保冷剤と湿布を持って部屋に入ってくる。
千秋さんはベッドサイドにそれらを置くと、俺のお尻を冷やす前にスマホで写真を撮った。
「…こうなってる」
目の前に置かれたスマホを見て、俺は思わず身震いする。
内出血し、血が滲み、所々切れていた。
半泣きになって千秋さんを振り返り、俺は目を見開く。
千秋さんが泣いていた。
顔を歪め、唇に手を押し当てて、嗚咽を堪えて泣いていた。
「ぁ、ぇ……なん、で……」
お尻に気を付けつつも千秋さんの傍に行くと、千秋さんは泣きながら謝った。
「ごめんね……ごめんね……」
何が…どうして千秋さんが謝るんだ…。
俺はどうすればいいか分からずに、その頬に触れ、そっと撫でる。
少しして千秋さんは、泣きながら訳を話してくれた。
本当は、俺を叱ることは自分への罰にもなるし、もっと厳しく叩こうと思っていたと。
だが、叩くうちにお尻の状態を見て回数を変更し、自分が一番覚えておいて欲しいことを教え込む形にしてしまったと。
傷付けた、ここまでするつもりじゃなかったが、途中で回数を減らす訳にいかず、続けるしか無かったと。
俺は思わず少しだけ笑ってしまいながら、大丈夫と呟いた。
「本当に忘れちゃいけないことだから。
俺……さっき気付いちゃったんだよ……俺……凄く酷いこと………っふ……」
また泣き出した俺に、千秋さんは涙を拭って、とりあえずお尻手当させて、と俺をうつ伏せにした。
「……俺……千秋さんが見捨てないか…呆れないか……不安になった…けど……それって……それって…泣
っく……千秋さんが……愛してくれてるってこと……ふ、うぇぇ……わすれるのと、、同じじゃ、ないかって……」
ひっくひっくとしゃくり上げながらそういう俺に、千秋さんはまた小さく顔を歪める。
「……そんなことない。
貴和は忘れてない。
でも、不安になっちゃうんだよね…。
これからも伝えていくから。
何度でも、何回でも言うから。
ごめんね……」
お互い泣いてるのが、なんだかおかしくて、俺は少し笑ってしまった。
「泣いたり笑ったり、忙しいね」
千秋さんも少し苦笑して、俺のお尻に湿布をはった。
「……なんかやだ……」
不快感に眉を寄せ、思わずお尻に手を伸ばすと、我慢してとその手を握られた。
そっと絡められた手。
細く綺麗なその手は、やっぱり赤かった。
反対の手に持ってた濡れタオルを貸してもらって、赤くなった手を包む。
揉むように冷やせば、千秋さんは少し吐息を漏らした。
気持ちいいらしい。
「……千秋さん…」
おずおずと上目遣いで顔を見つめると、千秋さんは少し驚いたようにこっちを見た。
「……俺、…いい子?」
「……フフ、もうちゃんといい子じゃない。
私の心配までしてくれてありがとう。
貴和、いい子、いい子。」
千秋さんは俺の頭を撫でて、微笑む。
俺も微笑んで、口を開いた。
頬を涙が伝う。
「叱ってくれて、ありがとう。」
この先も、色んな問題があると思う。
些細なことで、喧嘩をしたりすれ違ったり、するかもしれない。
傷付けてしまうことも、あるだろう。
それでも、その何倍も、貴方の隣で笑い、その何倍も、貴方とだけの思い出を作りたい。
貴方といれる幸せを、これからも感じていられるように。
一日一日を、大切に生きていこう。
END