「取引」
「それで。私は、何をすれば良いんだ?」
しばらくして。マリは、おもむろにルーシーに尋ねた。
「どう言うこと?」
と、ルーシーが、首を傾げる。
「とぼけるな。わざわざ、よその者の私をここまで運んで、治療をしたんだ。何か魂胆があるんだろう?」
マリは、そう言いながら、足を組んだ。
ルーシーは、困った表情で後頭部を掻いた。
「魂胆ねえ…。そう言うあなたは、どうなの? 見たところ、あなた、ストレイみたいだけど、依頼者でもない人間を助けて、どうするつもりだったの?」
魔物は、人間やそれ以外の獣とは異なる次元に立つ生き物であるが、彼らの中には積極的に人間と交わり共存を図ろうとする者もいる。
共存の方法は、様々であるが、その一つ最も多くの者が行っているのが、人間に害をなす魔物の討伐であった。
大人数で組織を作って各地の討伐依頼をこなす者もいれば、ブラムたちのように一所に留まり、その周辺の討伐依頼のみをこなすガーディアンと呼ばれる者もいる。
先程、ルーシーが言ったストレイトは、そのどれにも属さない共存方法だ。
ストレイは、組織に属さず、棲家も持たない。各地を放浪し、その場その場で見つけた依頼をこなしながら生計を立てるのが、彼らのやり方だった。
その性質から、ストレイは、しばしば依頼料として法外な額を要求したり、仕事を途中で放棄する連中もいたため、人間たちからの信頼は薄かったが、ガーディアンのいない外界との連絡が困難な奥地に住む人々からは、何かと重宝されていた。
「ただの気まぐれさ。対した理由なんてないよ」
マリは、ルーシーの質問にそう答えた。
「傷の治療については、それなりの対価を払うつもりだ。何が、欲しい? ヴァンパイアなら、やっぱり私の血か?」
「治療の礼なら、コイツにね」
ルーシーは、ブラムのいる方に顎を向けながら言った。
「コイツが何も言わなきゃ、私は、迷わずあんたを森に置き去りにしていただろうからね。ブラム、何が欲しい?」
最後の一言は、ブラムに向けられたモノだった。
ブラムは、両手を振りながら首を横に振った。
「お礼なんて、良いよ。僕も、その…気まぐれみたいなモノだし…」
だが、マリは、納得しなかった。
「それは、私の流儀に反する。治療には、感謝している。これは、本当だ。どんな形でも良いから、
何か返礼をさせてほしいんだ」
その時、ルーシーは、思案するように顎に手を当てた。
ブラムには分かった。
彼女は、何か良からぬことを考えている。
顎に手を当てているのが、その証拠だ。
「困ったわねえ。いやあ、本当に困った。これじゃあ、話が先に進まないわね。
うーん。」
わざとらしい。嫌な予感がドンドン膨らむ。
「それじゃあ、これは、どう?
マリ。あんたは、傷が治るまで、ここに留まって。食事は出すから。その間、ブラムは、何かマリにお願いしたいことを考えておきなさい。
もしも、何も見つからないようだったら、私が代案を考えておくから。
二人とも、それで良い?」
ルーシーのこの提案に、マリは、すぐさま頷いた。
「良いだろう」
ブラムも、しぶしぶ頷いた。
悪い予感しかしなかったが、かと言って、この場を打開できる案も思い浮かばなかった。
まあ、短くても一か月くらいの猶予は、あるはずだ。それまでに代案を考えれば、問題ないだろう。
彼は、そう胸の内でつぶやいた。