Scape wolf 4-8「破滅の因子」

  「破滅の因子」

  

  ブラムがある程度落ち着いたのを確認すると、スヴェートは自分たちの現状やそれまでの自身の体験を話して聞かせた。

  今二人がいる場所は、村から遠く離れた洞窟に作られた避難地で、スヴェートはブラムたちと別れてからしばらくして村の様子を偵察しに来た住民たちにつれて来られたらしい。

  「最初はお互い警戒してのですが、幸か不幸か場をわきまえない魔物が偶然一体現れましてね。

  ちょっと〝お仕置き〟をしてあげたら、住民さんたちの誤解も解いてくださったんです」

  スヴェートの言葉には小さな棘が何本も突き出しているような響きがあった。

  周りを人間に囲まれているせいか、先の魔物に未だ腹をたてているのか。とにかく彼女は不機嫌そうに見えた。

  「それで、スヴェートはどうやって僕を見つけたの?」

  話しを逸らそうとブラムは妖精に問いかけた。

  「偵察隊の護衛と言う名目で森を探索している時に見つけたんです。もっとも最初に見つけたのは貴方たちでなく、マリの剣の破片ですが…」

  「マリの剣?」

  背中に冷たいモノが流れた。

  「はい。それから盗賊風の男の死体が数体ですかね?

  あまりに悲惨な状況でしたので、何人かが粗相をしてしまい酷い有様でしたよ。

  ああ、大丈夫ですよ。剣の破片以外はマリの痕跡はありませんでしたから、きっとどこかに隠れているはずですよ」

  スヴェートは、ブラムの顔が曇るのを見て最後の言葉をつけたした。

  「うん。きっとそうだよね…」

  ブラムは、彼女の気遣いに明るく答えたが、頭の片隅の黒い影は消えなかった。

  マリ、頼むから生きていてくれ…。

  彼は心の中で祈った。

  その後、彼はスヴェートに案内され村の代表の住む場所に向かった。

  彼女の話によると、村長は魔物に殺され今は息子が代表と言う形で任を引き継いでいるという。

  「無礼を承知で言うが、お前たちが魔物の討伐を申し出てても、お前たちに報酬や情報を渡すことはできない」

  代表の男は、あいさつも早々にブラムたちに向かって吐き捨てるように言った。

  代表は、口を開きかけたスヴェートを遮り、さらに言葉を重ねた。

  「そもそも、我々はあの一件から外部の者を信用しないようにしている。

  先ほどは、マーガレットとリサに頼まれたので、仕方なく協力しただけだ。

  もちろん、二人を助けた返礼も兼ねてはいるがな」

  「それについては、充分承知しています」

  スヴェートは、淡々とした様子で言った。

  彼女は、こう言った高圧的な態度で接してくる人間に対しては特に冷静になる。

  もっとも、その後相手は手痛い目に会うので、ブラムにとっては恐ろしい瞬間なのだが。

  そんな彼の不安を知ってか知らずか、スヴェートは言葉を続けた。

  「もとより私たちは、このような状況の村で真っ当な報酬と支援が受けれるとは考えていません。

  これは、言うなれば、ただの気まぐれ…いや、酔狂な遊びと考えて良いでしょう」

  「遊びだと」

  男は眉をつり上げた。

  ああ。乗っちゃった…。

  ブラムは、そっと頭を抱えた。

  「はい。ですが、貴方たちは、この遊びにつき合っていただかなければなりません。

  だって村全体の命がかかったいる状況ですからね。

  もっとも、この場を去ると言う選択肢もありますが、いつどこから魔物が襲ってくとも分からない場所を女子どもをつれて彷徨う訳にいきませんし、逃げおおせたとしても新しい住処を見つけるのは、なかなか難しい。

  実際、こうやって貴方たちは村を滅ぼした魔物のすぐお隣で明日とも知れず暮らしていますしね」

  男の顔は、徐々に青白くなっていった。

  「…何が望みだ」

  やがて、男は諦めたように一つため息をつくとスヴェートに向かって弱々しく尋ねた。

  「まずは、情報ですね。報酬は、事が落ち着いてからじっくり話し合いましょう」

  さっきは、いらないって言ったのに…。

  ブラムは、睨まれたくなかったので、言葉にはしなかった。

  代表と妖精の探り合いは、彼を置いてどんどんと進んで行く。

  「情報と言っても、私に話せることはなにもない。魔物の姿を見たのは、攫われたヤツと喰われたヤツだけだからな」

  「知ってることなら、何でも構いませんよ。村に魔物が現れてから今に至るまで貴方の周囲で起こったことだけで良いのです。

  そうですね…、まずは魔物がこの村に来た経緯を教えてくれませんか?

  ブラムの話によると、ここには腕の立つガーディアンがいたはずですが…」

  「ジョンのことか。ああ、思い出した。そう言えば、お前は十年前ここに立ち寄ったストレイだったな」

  代表の言葉にブラムは静かにうなずいた。

  気のせいだろうか。代表の顔は、先程より穏やかになったように見えた。

  「すまない、話の途中だったな。

  他がどうかは知らないが、確かにジョンは我々にとっては頼れる存在だった。

  だが、あの時は勝手が違っていたんだ」

  「どういうこと?」

  ブラムは、そう問いかけると代表の前に置かれた椅子に腰かけた。

  「流れ者の退魔騎士が村に来ていたんだ。しかも、今俺たちを苦しめている魔物をここに呼んだのも、その退魔騎士なんだ」

  「退魔騎士が魔物を。いったい、そういうことですか?」

  スヴェートの問いに代表はかぶりを振った。

  「私にも詳しいことは分からない。ただ、そいつが魔物のガーディアンよりも自分の方が優れていることを証明するために各地で魔物を呼びよせていたと言った趣旨の話を声高に叫んでいるのを、村の連中の何人かが酒の席で聞いていたらしい」

  「つまり、自分の武勇伝を作りたいがために、わざわざヒトのいる場所に魔物を連れ込んで討伐ショーを開いていたと言うことですか?」

  スヴェートは、呆れたといった様子で天を仰いだ。

  「それで、その後どうなったのですか?まあ、聞かなくとも予想はできますが」

  「結論から言えば、退魔騎士は魔物に殺された。

  その後、魔物の眷属が村に攻め込んできて、ヤツの毒が仕込まれた道具で大地や井戸を汚し、女子どもを攫っていった。

  ジョンは、すぐにガーディアンとして魔物を討伐しようと森に入っていったよ。

  だが、彼も攫われた人たちともに戻って来なくなった。

  俺たちは一週間ほど待ったが、結局作物の育たない土地と毒の混じった水では生きていけないと悟り、ここに住処を移した。

  ここに来るまで、何人もの隣人が死んだ。もっと早く行動すべきだったと今でも後悔してるよ。

  幸い、ここの土地は未だ毒されていないが、いつここも住めなくなるか分からない。

  いや、それよりも先に、ここがヤツらに見つかる方が先かもしれない…」

  そこまで言うと、代表は頭を抱えうなだれた。

  「どうやら、これは相当危険な状態のようですね…」

  スヴェートは、ブラムに向かって言った。

  「正直、僕らだけでどうにかできる問題ではないね」

  ブラムも素直に認めるしかなかった。

  「ジョンは、三十年以上ガーディアンを勤めているし、書物や村に立ち寄るストレイから情報を得ているから大抵の魔物に関する知識を持っている。

  そんな彼が敵わない相手となると、この土地に本来いるはずのない未知の魔物と言う可能性がある。

  この場合、熟練の狩人が最低三人は必要だ。

  僕らは、現状二人。マリがいればギリギリ何とかなるかもしれないけど、彼女がその魔物に捕まっているとなると、結局は敵地もしくはその周辺で僕らは相手と対峙する必要がある…」

  スヴェートは、ブラムがもう一つの可能性を言及していないことに気づいた。

  だが、淡々と事実を説明する彼の手がかすかに震えているのを見て、開きかけた口をつぐんだ。

  「となると、あとはワタリガラスを探すしかないようですね」

  スヴェートは、代わりにそう言って立ち上がった。

  「私が、外に出て探してきます。ブラムはひとまずここで待っていて下さい」

  「ああ、お願い…」

  ブラムは、か細い声で答えると崩れるようにスヴェートの隣にあった椅子に腰を下ろした。

  どうやら、相当追い込まれてるらしい。

  スヴェートは「それでは」と言うと、小屋の外に向かった。

  途中、彼女は代表に近寄りそっと耳打ちをした。

  「申し訳ありませんが、私が戻るまで彼を見張っていて下さい。

  何を言われても、この場から出さないようにお願いします」

  「ああ、分かった」

  一瞬戸惑うそぶりを見せたが、代表は何か察したようにうなずいた。