「エレオノラ」
ワタリガラスは、すぐに見つかった。
リュバンの伝書烏は、洞窟の入り口の前で始めからスヴェートがそこに来るのを分かっていたかのように待っていた。
「ムニンですか?」
スヴェートは、カラスに向かって尋ねた。
「良く分かったね、お嬢さん?」
「あなたの嘴は、フギンよりも少し長いから」
「そこに気づいたのは、君で三人目だ。
おっと話が逸れたね。それでリュバンに何用かな?」
「魔物討伐のために助けが必要なの。古参の狩人が一人…いえ二人は必要なんです」
「なるほど、見たところ相当切迫した状況のようだ。王に伝える故、詳しい話をきかせてくれぬか?」
「ええ…」
スヴェートは、先程代表から聞いた話を要点だけまとめてムニンに話した。
「どうやら、これはウールヴヘジンでも手を焼く状況のようだ。
しかし、自身の名声のために他者の平穏を脅かすとは、人間と言うのは何と愚かしい生物なのだろう」
スヴェートの話が終わるとムニンは呆れたと言った様子で頭を振った。
「同感です。この村の人が気の毒でなりませんよ」
「ほう。人間嫌いの君が人間のために怒るとは珍しいな」
「私は筋の通らないことが嫌いなだけです!」
うわずった声で反論をする妖精をワタリガラスは我が子を慈しむような目で見た。
「まあ、そう言うことにしておこう。ところで―」
彼は、次の瞬間には抜け目のない狩人の目に変わっていた。
「そこにいるのは、誰かね?」
ムニンは、洞窟の手前に広がる森に向かって尋ねた。
「やはり、王の遠眼鏡を勤める貴方には分かっていましたか…」
森の中から女性の声が返ってきた。
思っていたよりも近い。
スヴェートは、とっさに持っていた鎌を取り出し森に向かって刃を向けた。
「そこにいるのは、誰ですか?」
スヴェートも森に向かって尋ねた。
「安心してください。こちらに敵意はありませんから」
そう言うと、森の中の声の主は木の影から姿を現した。
「人狼?」
スヴェートは、声の主の姿に思わずつぶやいた。
相手の奥底までも見据えるかのような青い眼、スヴェートの物よりわずかに丸みのある耳、ガッシリとした大きなアゴ。
その顔は狼そのものだが、身体は黒い革鎧を身に着けた人間の形だった。
もっとも、その鎧の中は全身分厚い毛皮で覆われているのだろうが。
「エレオノラ?」
森から現れた人狼を見た瞬間、ムニンは大きく目を見開いた。
まるで、幽霊にでも会ったような顔だとスヴェートは心の中でつぶやいた。
「知り合いですか?」
スヴェートは、ワタリガラスに尋ねた。
「ああ、まあ、古い友人だよ」
ムニンの歯切れの悪い返事を不思議に思ったが、スヴェートは気にせずエレオノラと呼ばれた人狼を見た。
「それで、そのムニンさんの友人がどうしてここにいるのですか?」
スヴェートは、エレオノラに問いかけた。
「もう一人の古い友人を助けるためよ」
エレオノラは、親友に語りかけるように答えた。
「もう一人の友人?」
スヴェートは首を傾げた。
「そう、マリのことよ」