「剣舞」
「止まって」
どれくらい進んだ頃だろう。太陽は南中を超え西に沈み始めていた。
エレオノラは、突然立ち止まると右手で後方のブラムとスヴェートの前を遮りながら言った。
二人は異変に気づき武器を構えた。
「誰かいるみたいだね」
ブラムは、ロングソードを抜き放ちながら言った。
「村人…だと良いんですがね」
スヴェートがそう言うと同時に鎌の刃が独りでに展開した。
彼女の予想はすぐに外れだと分かった。
グオオオオオ!
けたたましい咆哮とともに上空に巨大な影が現れた。
ワイバーンだ。
「一、二、三…。全部で五か」
ブラムは、上を見上げながらつぶやいた。
その間にもワイバーンがまっすぐ彼らに向かって降下してくる。
翼竜が、三人の目の前に降り立った。
と同時に、その背中から数人のゴブリンとオークが降りてきた。
ゴブリンは人間と良く似た外見だが、緑色のゴツゴツした表皮と異様に長く尖った鼻と耳は明らかに人間のそれとはかけ離れていた。
オークの外観は、ゴブリンよりはるかに人間離れしている。一言でいうならば直立した猪あるいは猪頭の人狼と言ったところだろうか。
魔物の集団は、手にそれぞれ違った種類の武器を持ち臨戦態勢のまま目の前のストレイたちににじり寄って来た。
「どうやら、話し合いは無効のようね」
エレオノラは細剣を構えながら言うと、前を見たままブラムたちに指示を出した。
「私が先行します。スヴェートは後方支援を、ブラムはワイバーンの相手をお願いします」
「了解しました」
「うん。分かった」
軍人のような明瞭な指示に一瞬戸惑いながらも二人は敵に向かって駈け出すエレオノラに続いた。
敵群の何人かが鬨の声を上げエレオノラに向かって突っ込んできた。
彼女は、一瞬で狼の姿に変わると向かって来た敵の巨大な斧や槍を細い剣で軽々と受け流しそのまま相手を斬り殺した。
「勝手に突っ込むな!固まって攻撃しろ!」
集団の中で一際体格の大きいオークが声を上げた。
他の亜人たちは、すぐに命令を実行した。
だが、形勢は覆ることはなかった。
エレオノラは、数をものともせず落ち着き払った様子を崩さずに敵を斬り捨て続けた。
耐えることのない血の噴水と断末魔の悲鳴さえなければ、舞いのようだと思えるほど美しい。
スヴェートとブラムは、ほとんど戦闘に関わる必要がなかった。
気づいた時には、さきほどのオークが胸を剣で突かれ絶命し、わずかな生き残りが全滅したワイバーンの屍を乗り越えながらほうほうの体で立ち去ろうとしていた。
「逃がさないで!」
エレオノラが叫んだ。
スヴェートは鎌を大きく振り回し麦穂を刈るように数人のコブリンの腰をまとめて斬り落とした。
ブラムは一瞬躊躇ったが、すぐに魔法で金色に輝く投げナイフを作りだし残った者の背中目がけ放り投げた。
ナイフは全て相手の脊髄に命中した。
「そんなこともできたのですね」
スヴェートは、ブラムに向かって言った。
「まあね。魔法で殺すのは好きじゃないから、なるべく使わないようにしているんだけどね」
それから一行は森の奥に向かって再び前進を始めた。
間もなく太陽が沈み、空が群青色に染まり始めた。
「さっきの襲撃で時間を取られちゃったね」
ブラムは、西の地平線からわずかに顔を覗かせている太陽を見ながらつぶやいた。
「これも想定の範囲内です。悔しいですが、今日はどこかで野営をして一息ついた方が良いですね」
エレオノラは、渋い顔で答えた。
幸いにも近くに無人の洞窟があったので、一行はそこで見張りをたてながら眠ることにした。