广告广告
  
【40】虚無る時だってあるさ。人間だもの。

  「欲しい物はあるか?」

  そう青年に問われた頼子はスマホを持ったまま、腕を組んで遠くに視線を飛ばし考えを巡らせた。

  欲しい物?・・欲しい物ねぇ・・。

  老後の資金になりそうなモノがあったら有難いけども・・

  でも金貨を貰ったとしても、換金する伝手が無いのよね。

  貴金属買取店に持ち込んだとして・・出所不明な金貨、換金してくれるか?

  それとも貴金属でもらってフリマアプリとかで売った方が良いか、な?

  写真撮って商品説明して画像貼って一つ一つやり取り・・・

  ・・・うん、嫌だ!そんなん激しく面倒くさいわ!誰が管理すんだよ。んな暇ねぇよ!

  うぇ~ん。駄目だー。思いつかねぇ~・・

  助けてアキえも~ん。

  「・・ごめん。ちょっと出てこないや・・・・友達に相談して決めても良いかな?」

  「それは、例の男装する・・」

  「そ。アド君以外に私、アキしか友達いないからね」

  「人付き合い下手なのよ」と、つい言い訳が口を衝いて出た。

  あ~・・自分で言っといて何だけど・・悲しくなってきちった。

  へっ。

  良いもんね。友達の数で人間の価値が決まる訳じゃないし。

  それに今日一人増えたもんね。

  しかも異性の友達だ。異世界人だけども。大事な友人には違いないもんね。

  己の劣等感を掘り返して凹んだ頼子を気にすることなく、青年は「分かった」と了解の返事を返した。

  「だが、そちらに魔法的な[[rb:も > ・]][[rb:の > ・]]は無いのだろう?・・こちらの事は友人にどう説明するのだ?」

  「それな~。ま、適当に誤魔化しながら話してみるよ」

  「追々本当の事伝えるつもりだし」と肩を竦めた頼子に、青年は「話す時に必要そうなら声を掛けてくれ」と申し出た。

  「ありがと。その時はよろしく~」

  「あぁ。・・ではそろそろ私も休むとしよう」

  「うん。そうしてそうして~」

  「アヤも、無理に動くなよ?何かあれば呼んでくれ」

  「呼び鈴を取り付けるから」とまで言われてしまい、頼子は苦笑して頷いた。

  「はーい。でもそんなに心配しなくても大丈夫だよ。食料の備蓄もあるし、平気平気!」

  「・・・やはり心配だ・・鏡を寝室に持ち込むか、こちらに寝具を運び込むかして・・」

  「だーいじょぶだって!そんな距離近かったら、お互い気になって休めないじゃん!本末転倒だよ!?」

  呆れる頼子だが、青年は納得できない様子で難しい顔をしたまま口を噤んでいる。

  心配されて悪い気はしないんだけどね・・

  頼子はふっと淡く微笑んで、青年に言った。

  「本当に大丈夫。ちゃんと大人しくしてるから・・呼び鈴も、何かあったらちゃんと鳴らすよ」

  「・・・必ずだぞ?」

  「うん。約束する」

  そこまで言って、青年は眉間の皺を漸く引っ込めた。

  「では、呼び鈴は後で傍仕えに取り付けさせる」

  「確認しておいてくれ」と続けて、水椅子を操作した青年は頼子をそっとベッドへ降ろした。

  目の前でうにょうにょと動く水が勝手知ったる様子で風呂場へ移動するのを見送りながら、頼子は頷き手を振る。

  「了解です。そしたらおやすみね~」

  「あぁ。おやすみ」

  指程の太さの水蔦がしゅるりと鏡の向こう側へ巻き取られ、青年の気配が遠ざかるのをなんとなく静かにして待つ。

  ドアの閉まる音が微かに聞こえた後、頼子は腰掛けたベッドにそのまま仰向けで倒れ込んだ。

  あまりに非現実的な事が続いたが、キャパオーバーを起こしたのか不思議と気持ちは落ち着いている。

  「今はまだ」と注意書きが付きそうだが。

  もしかしたら何かの拍子にフラッシュバックしてパニくるかもしれないが、その時はその時の自分にお任せだ。

  今の自分に何が出来るかと言えば・・

  「普段通りに動く」

  これが良いだろう。

  平常運転が一番落ち着くしね~

  「うん。だね・・そしたら、ネームでも進めるとしますかな」

  その前に楽な服装に着替えよう。

  カップ付きのキャミと丈の短いTシャツ。

  下はさらりとした生地のハーフパンツ。

  洗面所で着替えて、脱いだ服は洗濯機前のカゴへ。

  穴の開いたブラウスはゴミ箱にポイ。

  部屋に戻り冷蔵庫に寄って、お気に入りのペットボトルの紅茶をいつものタンブラーに注ぐ。

  そのまま作業机に向かい、ヘッドホンを装着したらノートを開きシャーペンを手に取った。

  だが、罫線の引かれたまっさらなページを目の前にしても、何も描く気にならない。

  仕方なく無音のヘッドフォンを首に掛け、ゲーミングチェアの上で膝を抱えて目を閉じた。

  カーテンを開けた窓越しに、外界の音が入ってくる。

  車や、バイクの排気音。

  雀や烏といった鳥の鳴き声。

  遠く、ごーっと空気を揺らす飛行機のエンジン音。

  井戸端会議でもしているのか、女性の笑い声が建物に反響して届いた。

  薄目を開けて、剥き出しの膝越しに空間を眺める。

  「・・無理、しない方がよさそうだね」

  普段通りに過ごそうとしたが、それもちょっとキツいのが分かった。

  体は何ともない。

  どころか、回復薬のお蔭か調子はよさそうだ。

  だがしかし・・やはりというか、精神的に大分キていた様で一人になった途端、軽い虚脱感に襲われている。

  頭が回らない。

  足を床に降ろし、のそりとベッドへ移動して横になる。

  腹の上で手を組んだ頼子はそのまま、ぼんやりと天井の模様を視界に収め続けた。

  〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇

  仮眠を取って幾分すっきりした青年は、傍仕えへ長兄に面会を取り付けるよう指示を出した。

  忙しい身の上である長兄だが、なんとか仕事の合間の僅かな休憩時間に会う事となった。

  石造りの建物の中、通路の中央に敷かれた毛足の長い絨毯を踏みしめ、青年は扉の前に立つ。

  「陛下は中におられるか?取り次ぎを頼む」

  「はい。先に連絡が来ております。既に陛下は中でお待ちです」

  「どうぞお通り下さい」と警護の騎士が開けた扉を傍仕えとともに潜る。

  部屋の中は執務室になっており、豪奢な机とテーブルセットが置かれているが、そこに長兄の姿は無かった。

  代わりに、隣室に続く扉の前で鋭利な雰囲気を纏った侍従が「陛下はこちらでお待ちです」と2人を誘導した。

  言われるまま隣室に移動すると、ソファに腰かけた長兄がティーカップを持ち上げて「来たな」と軽い調子で迎える。

  「失礼致します陛下。本日は貴重なお時間を頂いてしまい、誠に申し訳ありません」

  「あぁ。良い良い。今は休憩中だ、座って楽にしてくれ。それに、魔女殿の様子は気になっていたからな。丁度良かった」

  「わかりました。ありがとうございます、ゼクス兄上」

  礼を言って、言葉を崩した青年は長兄の正面に腰かけた。

  傍仕えのジャスパーはその後ろに静かに控える。

  長兄の侍従が湯気の立つカップを青年の前に置いた所で、長兄は「それで?」と話しを促した。

  「魔女殿の様子はどうだった?」

  「はい、少しふらついていましたが、休んでいる間にそれも回復したようです。精神面も、見ていた限りでは大丈夫そうでした」

  「そうか。それは良かった・・だが、大変な目にあったばかりだ。今暫くは注視しておくと良いだろう」

  「はい。そのつもりです」

  「うむ」と頷いた長兄がカップを傾けたのに合わせ、青年も目の前のカップに手を伸ばした。

  持ち上げ、香り高い湯気を吸いこんでから口を付ける。

  茶を一口飲んだ青年がカップを降ろしたタイミングを見計らい、長兄は訊ねた。

  「それで、要件は?」

  「・・彼女を傷つけた者への対処についてです」

  「その件か。どうなった?」

  「・・あちらで裁くことは難しいと」

  「そうか・・それで?お前はどうするつもりだ?」

  淡々と長兄に問われ、青年はカップをテーブルの上に戻し、空いた両手を拳にして膝の上で硬く握りしめた。

  「彼女を脅かすモノは全て取り除きます。しかし、私が直接手を下す事は難しく・・恐縮ですが、力をお貸し頂きたく、本日はお願いに参りました」

  「そうか。では俺に何を願う?」

  「・・兄上の・・いえ。陛下の飼う手練れの「梟」を一羽、私にお貸しください」

  青年は長兄を真っ直ぐに見つめ、揺らぐことなくその視線をぶつけた。

  真剣な青年とは裏腹に、長兄は軽い調子で答える。

  「そうか。俺は構わん。だが、対価は高くつくぞ?」

  「承知の上です。どうか、お願い致します」

  「分かった・・呼んでやるが、交渉は自力でしろ」

  「ありがとうございます!!」

  勢いよく頭を下げた青年は頼子の脅威を排除する為、その第一段階を突破した事を素直に喜んだ。

  席を立った長兄は青年へと近づき、その肩に軽くぽんと手を乗せて優しく微笑む。

  「アディの希望が叶うよう祈る。さて、俺は仕事に戻るが、お前はこのまま待つと良い」

  「はいっ!」

  「うむ。ではな」

  「ありがとうございます!ゼクス兄上!」

  感謝の言葉にひらひらと肩の高さで手を振って応えた長兄は、傍仕えが開いた扉を通り執務室へと戻って行った。

广告广告