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【41】国の闇を担う者との面談。

  「国」は王族が民を支配し、守る事で維持されてきた。

  より正確には、民の命を背負う重い役割を王族が担い、その王族を支える者たちによって成り立っている。

  国を運営する上で重要な決定を下す王族を手助けし、それぞれの領地を維持し守る貴族。

  その貴族らを支える侍従、次女、傍仕え、馬番、料理人といった世話係に始まり、兵士、騎士、近衛兵など、武を担う者。

  文官等、事務を手助けする者。

  医療に携わる医師、錬金術師たち・・

  様々な職務に着く魔法使い。

  その中でも無くてはならないのが、影の存在である暗部。

  国によって「影」「諜報部」「隠密衆」「闇の担い手」「情報統括課」等、呼び方は様々だが、それらの任務はどれも似たようなもの。

  諜報と、影からの要人警護。

  そして暗殺といった、血に塗れた後ろ暗い仕事。

  王族である青年が暮らすオレグラント王国にも、それは一部の者達に通称を「鳥」という名で知られていた。

  〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇

  「こちらで少々お待ちください」

  そう言って、鋭利な雰囲気の侍従は青年と傍仕えのハーフエルフを残し部屋を後にする。

  侍従の言葉に頷いた青年は、その背を見送ると少しぬるくなった茶を一口啜った。

  残された2人は一言も発することなく静かに待ち、ただ時が流れる。

  青年の持つカップが空になって暫く経った頃・・変化は唐突に訪れた。

  微かな音に気付いた傍仕えの耳がピクリと動き、一瞬の間を置いて執務室とは反対側の扉からノックが響く・・と、ほぼ同時にバンッ!と内側へ勢いよく開いた。

  「お呼びと伺い来ちゃったぞい!」

  場違いに元気な様子で入って来たのは半人半獣の姿をした男性。

  上半身が人、下半身が山羊の体をもつ種族、サテュロス。

  小さな鼻の上に丸眼鏡を乗せ、七分丈の白シャツと丈長の燕尾ベストを格好よく着こなした若者は、印象に残る黒い横長の瞳孔を持つ黄色の瞳に好奇心をキラリと光らせた。

  その額からは磨き上げられた角が2本。後頭部に向かって弧を描いている。

  山羊である下半身には何も身に着けておらず、晒された太腿辺りから下は艶のある黒い毛皮が覆っていた。

  その足元。二つに分かれた黒い蹄には飾り石のついた蹄鉄が打たれており、部屋の明りを反射して煌めいている。

  それらを自慢するようにその場でくるりとターンすると、サテュロスは短い尻尾をぴこぴこ動かして陽気に言い放つ。

  「役立たずと名高い王弟殿下が「鳥」をご所望だとか!しかもしかも、この僕!「[[rb:梟 > ふくろう]]の[[rb:黒 > くろ]]」を使いたいと!」

  「やだな!僕ったらモテモテん!」と頬に両手を添え、いやんいやんと身をくねらせるサテュロスにどう反応すればよいか分からなかった青年は戸惑いもあり、口を噤んで状況を見極めようとした。

  が、その背後の傍仕えは違った。

  剣呑な気配と共に「少々失礼いたします」と青年に一言断ると、くねるサテュロスに自然体で近づき予備動作なくいきなりガっ!と片方の角を掴む。

  「ヴぇっ?!」と驚きの声をあげる反応を無視して、傍仕えは乱暴に角を引き倒し仰向けに若者を転がした。

  「ちょっ、何すんの!」

  「うるさいですよこの偶蹄類が。わたくしの主になんて言葉遣いをしているのですか。不敬ですよ」

  「そんな!?好印象の為に親しみを込め―」

  「馬鹿ですか?これは躾が必要ですね。アディード様、暫しの間退出する許可を頂けますか?」

  「あ、あぁ。許可する」

  「え?!痛いのは嫌「ありがとうございます。では、失礼致します」えぇええ!?」

  サテュロスの言葉を遮り、一礼した傍仕えは掴んだ彼の角を引っ張り強引に部屋から出て行った。

  ぱたんと扉が閉まると魔法を使ったのか、あちらの気配が感じられなくなる。

  苛立った様子の傍仕えを珍しく思っていると、退出していた兄の侍従が新しく飲み物を運んできた。

  空になったカップと茶請けの皿を下げ、新たに湯気立つカップと焼き菓子をテーブルに置くと、来た時と同じように静かに退出して行く。

  放置された青年は気を取り直し、目の前の茶を味わう事にした。

  それから暫くして、新たな茶が空になる前にサテュロスと傍仕えは戻って来た。

  「申し訳ありません。只今戻りました」

  「・・・すんごかった・・」

  いつもの様に使用人のお着せをパリっと着こなし、王族の傍仕えの印である深緑色のリボンタイも歪み一つなく戻ったハーフエルフの傍仕え。

  一方、共に戻ったサテュロスは衣服に乱れこそないものの、息は荒く顔も赤い。

  フルフルと震えながら目元を潤ませ、顔の横にある山羊耳を下げてやや内股で傍仕えの服の裾を握っている。

  「・・何があったかは訊かない方が良い・・か?」

  「お気遣い感謝致します。少しばかり教育的指導を行っただけで、コレと言って特に何もありませんでしたので、お気になさらず」

  しれっと答えた傍仕えだったが、隣のサテュロスの態度が「何も無かった」事を完全に否定していた。

  「・・は、ふぅ・・堪らん・・」

  「・・いい加減放してください」

  ぺしっと服を掴む手を打ちはらって、傍仕えは定位置である青年の背後へと移動した。

  「え~。もうちょっと欲しかったなぁ・・」と唇に指先を当てて強請るサテュロスに、傍仕えは冷たく「自身の職務を全うしてください」と突き放す。

  「ねね。後でもうちょっとしてくれる?」

  「ふざけるな仕事しろ」

  「う゛~・・けちぃ・・」

  「ちぇっ」とあざと可愛く不満を表したサテュロスだが、ふぅと軽く息を吐いてすっと背筋を伸ばした。

  皺を伸ばすようにベストの裾をピシッと引っ張ると一転。凛とした雰囲気を纏い、腰を折り礼の姿勢をとる。

  「改めまして。お呼びと伺い参上致しました「鳥」に所属しております「梟の黒」でございます。以後、お見知りおきを」

  『私は何を見せられているのだろう』と遠い目をしていた青年だったが、名乗りを上げた彼に対し、気持ちを切り替えて応じた。

  「・・急な呼び出しに応じてくれて感謝する。構わないから楽にしてくれ」

  「あ、そぅお?んじゃそうする!」

  真面目な雰囲気を一瞬で霧散させ、サテュロスはテーブルを挟んだ青年の正面にひょいと腰を下ろした。

  背後から傍仕えの怒気を感じつつ、咳払いをしてこの自由奔放そうな者との会話を試みる。

  「・・呼んだのは呪いや呪詛の手練れをと陛下に頼んだからだが・・仕事の話の前に「梟の黒」がどれほどの力があるのか、聞いても良いだろうか?」

  「あれれ~?後ろの半エルフから何も聞いてないの?」

  脚を組み、そこに肘をついて顎を乗せたサテュロスは首を傾げて「てっきり知ってて指名してきたのかと思ったのにぃ~」と意味深に言う。

  その言葉につられるようにして、背後の傍仕えに『知り合いか?』と視線で問うと、彼は苦虫を潰したように顔を顰め「同期です」と端的に答えた。

  「あぁ、それで親しそうだったのか」

  「ただの腐れ縁です」

  青年の言葉に淡々と返す傍仕えに対し、衝撃を受けたように大げさな動作で驚きを現した若者は叫ぶように言った。

  「えっ?!ヒドイっ!僕らを骨抜きにしておきながらポイしたくせにっ!」

  「人聞きの悪い事を言うな!「鷹」としてアディード様の傍仕え兼専属護衛の任に着いただけだ!」

  「「鳥」の皆、特に「梟」の僕たちは君の手管に依存気味だったのに会う機会が無くなってもう、溜まって溜まって大変なんだよ!?どうしてくれるのっ!!」

  きいっ!と、どこからか取り出したハンカチを噛んで抗議するサテュロス。

  対する傍仕えは怒りに震え、静かに魔力を零しながら絶対零度の視線を向けて言った。

  「おい黒。ワザとだな?ワザと誤解するような言い回しをしているな?」

  「ええっ?!そんなっ言いがかりですぅ~」

  挑発的な間延びした語尾での返答に、傍仕えは無言で手首を翻した。

  一瞬。バチッ!とサテュロスの顔面で火花のような光が散ったかと思うと、彼を覆うような形で魔術陣が現れる。

  しかし顔にかかる部分が破壊されており、そこを中心にぱりぱりと割れ剥落し、順次消えて行った。

  「げっ。相変わらず高威力ぅ・・物理結界が一撃とか・・」

  「次は当てます。不必要な発言は控えるように」

  「・・はぁ~い」

  渋々答えた若者は足元に落ちた10㎝ほどの針を拾い、傍仕えに放り返す。

  そのまま後頭部で両手を組むと、不満も顕わに椅子の背もたれへ体を預けた。

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