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【79】傍仕えハーフエルフの朝から夜までの大まかな行動。【閑話】

  主であるアディードが起きると、お茶をカップに注いで差し出す。

  アディードが人心地着いたところで、窓際のテーブルに朝食を用意して、いつでもお茶のお代わりを出せる様に傍で待機した。

  朝食が終わると、身支度の手伝いだ。

  寝間着を脱いだアディードの全身を「洗浄魔法」で清め、着付けの補助をする。

  「今日の予定に変更は無いか?」

  「はい、本日は「かれーるー」の件をガルドフ婦人へ報告と、現物を引き渡して管理の移譲。その後料理人の選定があり、ガルドフ婦人の補佐として動いて頂きます。終わりましたら軽く昼食と休憩を挟んで訓練の予定です。地下の訓練場を押さえてありますので、そちらで魔法と剣の訓練になります。その後ご入浴と小休憩を挟み、第一王弟殿下と面会。魔石を受け取りましたら、そのまま「梟の黒」とも面会して頂き、魔石と呪具の交換になります」

  「分かった・・予定通りとはいえ、今日はあちら側に顔を見せる暇は無さそうだな」

  「訓練時間を削れば、お話しをする時間はありますが・・」

  「いや、止めておこう。最近怠け過ぎだ」

  「畏まりました」

  着替えを手伝いながら1日の予定を伝え、会話が途切れると今度は髪を整えた。

  そして再度全身に「洗浄魔法」を掛ければ、身支度の完了だ。

  「ではまず姉上の所からか、時間はどうだ?」

  「丁度良い頃合いかと」

  「購入した「かれーるー」は?」

  「「魔法袋」に入れて、こちらに」

  そう言って、服の上から胸元を押さえ「魔法袋」の存在を示す。

  それに頷いたアディードは「よし、では向かうとしよう」と、扉へ足を向けた。

  「はい」と返事をしたジャスパーはすかさず主の為に寝室の扉を開き、先に退出した主の後に続く。

  応接部屋を通過して廊下へ続く扉も開けると、主が出た後で鍵を取り出しドアノブに触れて施錠した。

  無数の扉が並ぶ廊下の突き当りの壁には、ジャスパーが通ったカーテンの代わりに青々とした蔦が一面に広がっている。

  アディードが近づくと蔦が真ん中辺りから勝手に左右に避け、そこにぼんやりと白く光る「門」が現れた。

  2人とも無言のまま光の中へと進むと、瞬きの間に朝靄のような薄ら明るい空間を通り抜け、すぐに囮の部屋へと到着する。

  「「精霊門」の様子はどうだ?」

  「はい。張り直す必要はなさそうです。大分、魔力吸収の制御も出来るようになられましたね」

  「素晴らしい上達ぶりです」と主を褒め、ジャスパーはにこりと唇の両端を上げた。

  「魔力消費が効率よく行えるようになったお陰だな。溢れる魔力を抑えるために割いていた制御意識を、今度は魔力吸収の方へ回せるようになったからな・・そうだ。ジャスが不在の時に自分で洗浄出来るように、「小部屋」の方に洗浄の魔道具を用意して置いてくれないか」

  会話の途中で思い出した様子で、そう指示を出した主にジャスパーは廊下へと続くドアの前で「畏まりました」と了解の返事をする。

  そうして扉を開け、主の退室を待った。

  「頼んだ」と短く感謝の意を伝えたアディードが廊下へ移動すると、後を追ってジャスパーも退室。

  部屋を出ると、先程使用した鍵とは別の鍵を懐から取り出し、ドアノブの下にある鍵穴に差し込んで回した。

  カチャリと施錠の音がしたのを確認して、扉の前で見張り役をしていた半精霊の「C」に視線で待機中の様子を確認すると『問題無し』と頷かれる。

  その様子を見ていたアディードが、興味深そうに訊ねた。

  「この者がジャスの使役する「半精霊」か?」

  「やっと会えたな」と嬉しそうに顔を綻ばせる主に、今までの苦労が思い起こされる。

  「「半精霊」は魔力の塊のような存在ですから・・「A」から「J」までの10体なら大分力も付いて来ましたので、今のアディード様でしたらお傍に寄らせても問題無いかと存じます」

  「そうか・・私の周りも少し賑やかになるな」

  「左様でございますね」

  「これからもよろしくな」とアディードが「C」に向けてひらりと手を振ると、ぽふん!と普段の半透明な姿になった「C」が、その場でくるくると縦方向に回って見せた。

  そして直ぐまたぽふん!とジャスパーの姿へと戻ると、優雅に一礼してにこっと笑う。

  「・・本物より大分可愛らしいな・・」

  「おや。どういう意味でございましょう?」

  「・・何でもない。何でもないからそう意味ありげに笑うな」

  「行くぞ」と先を促すアディードが「C」に手を振り歩き出すと、胡散臭い笑みを引いたジャスパーもその後に続く。

  後には胸の高さで手を振る、ジャスパーの姿を模した「C」だけが残った。

  〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇

  詰め込まれた予定を忙しくも、楽しそうにこなしていく主を補佐していると時間はあっという間に過ぎて行く。

  主であるアディードは最近まで仕事らしい仕事が無く時間を持て余していたので、「異界」と関わるまで今日の様に予定が立て込む事など、想像すら出来なかった。

  忙しくも終始機嫌良く役目を全うし、一日の予定を無事消化したアディード。

  遅い夕食を終え、その後の就寝の支度まで済ませたところで「では「梟の黒」の元へ頼む」と派遣に行くよう促される。

  苦苦しさをおくびにも出さず「はい」と了承したジャスパーの心情を、長年の付き合いから察した主は申し訳なさそうに言った。

  「すまないな」

  「いえ、わたくしから申し出た事ですので・・アディード様が気に病む必要はございません」

  「だが、それでも苦労を掛ける傍仕えを気遣うくらいは良いだろう?」

  「勿体ないお言葉。痛み入ります」

  すっと頭を下げて礼の姿勢を取ったジャスパーは「では行って参ります。おやすみなさいませ」と就寝の言葉を告げる。

  「あぁ、おやすみ」と主の言葉に再度頭を下げ、静かに部屋から下がった。

  さて、元同僚の所へ向かう前にもう一仕事だ。

  朝に手付を渡した下級騎士とは別の下級騎士に、囮の部屋の前で見張りの引継ぎをすると人気のない使用人専用通路へと歩みを進める。

  半精霊が灯す冷たい明りで照らされた石壁の狭い通路を、コツ、コツと靴音を鳴らし黙々と進む。

  やがて真っ直ぐ伸びた通路の奥からも、蝋燭の明りを灯した何者かがやって来た。

  互いの距離まであと数歩という所で半精霊の明りが消えると、通路には相手が持つ蝋燭の光だけが残り、互いの胸から口元までしか見えなくなる。

  「やぁ」

  「やぁ」

  「良い日ですな」

  「外は曇りですよ」

  「そりゃあご機嫌だ」

  「問題なし、ですか。では新しい情報をお願いします」

  「ひひっ。毎度用心深い事で。新しい情報は急ぎのが1つありますぜ。なんでもブロトワ男爵がそちらのご主人様に娘っ子をあてがう計画を立ててるそうで」

  「・・またですか。凝りもせず次々と」

  溜息と共に吐き出された言葉に、相手の男は「きひひっ」と下卑た笑い声を上げて言った。

  「仕方ないんでねぇですかね。そちらのご主人様は適齢期ってヤツでしょ?ビラビラした服で着飾る貴族共の恰好の得物ってヤツでさぁ」

  「・・情報の詳細は?」

  「へぇ。いつも通りこちらに」

  そう言って、暗がりから数枚の大きな植物の葉が差し出される。

  ジャスパーは無言で受け取ると、チャリリと硬貨の擦れる音がする小袋を差し出されたままの手に落とした。

  「へへっ。まいど」

  「また有用な情報が入ったら連絡して下さい」

  「もちろんでさぁ・・そんじゃ、あっしはこの辺で」

  ひび割れたような男の声が途切れると同時に、蝋燭の明りが消えた。

  一瞬後に半精霊が明りを灯した時には、もう男の気配は辺りから消え失せている。

  消えた蝋燭が残した煙を半精霊に吹き散らしてもらいつつ、その場で葉の裏側に書かれた内容を確認。

  「・・ふむ。これは娘さんの方に別の方をそれとなく引き合わせれば・・」

  王家の方から、主であるアディードの婚姻関係については本人の意思を最優先するようにと厳命されているのだ。

  今、主が心を寄せているのは「異界の魔女」のみ。

  木っ端貴族など煩わしく余計な存在でしかない。

  一通り目を通した葉を半精霊に渡すと、受け取った精霊は口に含んでもしゃもしゃと咀嚼し、可愛くケプッと音を鳴らす。

  「さて、では「黒」の所へ向かいますか・・自ら望んだ事とはいえ、気は乗りませんがね」

  そう共の半精霊に告げ、ジャスパーは暗い通路をまたコツ、コツと靴音を鳴らして歩き出すのだった。

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