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ボサ髪の魔法使いに「本当に人か?」と問われ『どう話した物か』と思案した僅かな間に、斜め後ろを歩いていた傍仕えが只ならぬ気配を発した。
全員が驚き振り向くと、面布で表情が見えないにも関わらず明らかに激怒した雰囲気を醸し出しているのが解る。
「それはどういう意味ですか?魔法使い」
ピリピリと肌がひりつくような魔力が傍仕えから漏れ、傍に居た半精霊らが慌てて離れて行った。
驚きつつも、落ち着かせなければと声をかける。
「カルセ。私は気にしては―」
「ええ。アド様はそのように仰るであろう事は重々承知しておりますが、今の魔法使いの発言は看過できません。何の見返りも求めず、快く手合わせに応じたアド様に対しあまりにも礼を欠いています。さぁ、答えてください魔法使い。返答如何によっては、明日の朝食の心配を失くしてあげますよ?」
口を挟もうにも、傍仕えは有無を言わせぬ態度でボサ髪に詰め寄った。
赤髪の背の上で、精いっぱい身を引くボサ髪。
その赤髪はというと、素知らぬ顔で動くボサ髪を落とさぬよう背負い直しつつも我関せず。
今回は手助けするつもりが無いらしい。
赤髪の肩をぱしぱしと叩いて助けを求めていたボサ髪だが、反応が無いと腹を括ったらしく、傍仕えに顔を向けてぼそりと答えた。
「あ、アドの保有する魔力量は異常。それ程までに多量の魔力を身の内に収めて、普通に動けている理由が、知りたい、だけ。悪気はない。中傷するつもりも、なかった。ごめん」
「謝罪する相手が違います」
やや吃りながらもなんとか謝罪の言葉を口にしたボサ髪だったが、傍仕えからピシャリと返され「うっ」と気まずそうに身をすくめた後、こちらに向き直り視線を真っすぐに言葉を紡ぐ。
「ごめん、アド。言い方が悪かった。反省」
そう言ってぺこりと頭を下げ、謝罪するボサ髪。
傍仕えは「真摯さが足らない」とでも言いたげだが、私はボサ髪に頷き答えた。
「いや、気にしていない。こちらこそカルセが詰め寄ってすまなかった」
「ううん。わたしも、気にしてない。面布が怒るのは当然」
ふるふると首を振ったボサ髪に「ならば良かった」と笑みを浮かべて返す。
だが、すぐに「それじゃあ」と改めて問われた。
「話の続き。アドは魔力保有量多過ぎ。何故平気なのか知りたい。教えて」
無表情のまま、目だけを好奇心に輝かせたボサ髪は数秒前に「反省した」といった事を忘れたかのような事を口にする。
流石に不味いと思ったのか、赤髪が焦った様子で声を上げた。
「リルっ!お願いだから今は空気を読んで、その厄介な好奇心は仕舞っておいてくれるかしら?!」
気まずげに傍仕えの様子を気にしながら説得する赤髪に対し、「でも」と懲りずに不満気なボサ髪。
必死に止める赤髪の気遣いは有難く思うが、ボサ髪の質問に答えるのは実のところ、吝かではない。
傍仕えに怒ってくれた事に対する礼と『構わない』という思惑を身振りで伝えつつ、赤髪にも「いや、大丈夫だ」と安心するよう言った。
「知識を得ようとするのは良い事だ。時と場合によるがな。私の魔力保有量が多い理由。普通に生活出来ている訳が知りたい、という事だな?」
「うん。教えてくれる?」
「構わないが、話が広まって面倒事に巻き込まれるのは御免なのでな。ここだけの話にしてくれるか?」
「書き記すのもやめてくれ」と念を押しすると、ボサ髪は「分かった。誓う」と頷く。
赤髪も「私の耳は暫く音を拾わないわ」と聞かなかった事にすると態度で示したが、傍仕えが「ではこちらを使いましょう」と[[rb:魔法鞄 > マジックバック]]から取り出した魔道具を示して見せた。
「遮音の結界を張る魔道具です。魔法使いをわたくしの使役する半精霊で運べば問題ないかと」
「・・そうね。今度はお願いするわ」
傍仕えの提案に赤髪は素直に頷いて、背中のボサ髪を戻って来た半精霊に預ける。
『・・傍目には通常通りの態度だが、これはまだ怒っているな』
自分に対する傍仕えの忠誠心たるや、時折酷く重く感じる程。
一先ず傍仕えへの配慮は後程するとして、今は面映ゆくも背筋が伸びるような心持で決意を新たにした。
傍仕えからの信頼と忠義に相応しい主である為、私自身が常に前を向き成長を続けていかなくては。
手元の魔道具を起動したことを軽い頷きで知らされ、私は自分が生まれ持った体質について、ボサ髪へ説明したのだった。
〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇
「成程。「魔力を吸収し続ける体質」によって致し方なく魔力消費を繰り返した結果、人外の如き魔力保有量を得るに至ると。かつ、緻密で繊細な魔力操作が、何の変哲も無い操作魔法を通常では考えられない規模と威力にした、と」
「一言で言い表すとそうなるな」
「一応、納得。確かにこれは漏らしたら駄目な情報。もしこれがその辺の冒険者の耳に入ればアホなヤツが考え無しに魔力を増やそうとして無茶する。正確に言うと娼館に通い詰める男が、散財した挙句魔力中毒か魔力欠乏に陥って死ぬ。多分沢山死ぬ。いや、絶対死ぬ。死んで死んで地獄絵図待ったなし」
何度も「死ぬ死ぬ」と繰り返し口にするボサ髪の予想しなかった反応に、「それ程か?」と疑問を返した。
その態度に『何を言ってるんだ』とでも言いたげな目をして、ボサ髪は続ける。
「いい?精霊の力を借りて魔法を使う精霊使いと違って、自身の魔力で魔法を行使する魔法使いの力量は、魔力の器である肉体の魔力保有量の大きさと、その操作力に直結する。人種の女の魔力保有力には柔軟性がある反面、人種の男は女みたいな柔軟性は無い。理由は今のところ不明だけど、そうなっている。つまり、男は体が成熟した時点の魔力量で大体は固定される。それ以降魔力保有量の拡張はできたとしても微々たるもの。肉体の成熟時点では普通、男の方が魔力保有量が多い。けど、女は鍛えれば鍛えた分だけ魔力保有力は拡張できる。だから、魔法使いは伸びしろのある女の方が多い。男で魔法を使うのは身体強化とか生活を便利にする小規模な魔法に留まるのが殆ど。人種の男が大きく、威力の高い魔法を行使するには外部から魔力を補う魔術陣と燃料になる魔石を用意するか、高度な魔道具を使うか。でも、そんなモノが使えるのは金と権力がある貴族ぐらい。あと時々商人」
「成程。つまり・・」
「そう。下手にアドの秘密が知られたら、特異な体質という前提を無視してアホな人種の男共が「ヤれば魔力保有量を増やせる」と希望を抱いて突っ走る。何故ならアホだから。「アイツがあんなスゲェ魔法を使えるのは魔力保有力を伸ばしたかららしいぜ!」「なにぃ!なら娼館で魔力消費して魔力拡張しまくろうぜ!」「おお!そしたらオレらもスゲェ魔法が使えるように?!」結果。娼館は客が増えて大儲け。抜きまくったアホは金と魔力がスッカラカン。で死ぬ」
「そ、そのように簡単に命を落とすような事になると?」
「そう。だって人種の男。特に冒険者は魔法に強い憧れがある。冒険者やるくらいだから、元々の魔力保有量は少ないヤツが殆ど。だから、魔力保有量が増える可能性に縋るヤツが湧いて出るのは確実。元々の魔力保有量が多い者は、冒険者にならず雇われたり、貴族お抱えの魔法使いになったりする。それもあって、女は何かと絡まれたりすることがある。けど、殆どの種族の男は他人の魔力に触れて精を吐き出す事で効率よく魔力消費を行える事が知られているから、あんまり絡むと相手にされなくなって困る事になる。それを知って、大人になると大体のヤツは絡まなくなる。全く無いって事はないけど。そんなヤツらは精神がお子様で止まってるから、周りから相手になれなくなる。で。冒険者は体調を万全にするのが生き残る最大の術。魔力も体力も十全でないと、一気に死が近くなる」
何処で息継ぎをしているのか分からない程、立て続けに言葉を連ねるボサ髪。
魔法の事になると饒舌になるのは最初会った時に理解していたつもりだが、あまりの早口に思考が追い付くのがやっととなるのだった。
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