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【178】もしかしてもしかするカモしれない/遺跡到着。下見開始。

  あまりに予想外な事を言われると、マジで頭の中が真っ白になるんだね。

  リアルに体験する事になるとはびっくりポン。

  一瞬の衝撃から抜けて、一呼吸置き口を開く。

  「・・あの。アド君とはそのような関係ではありませんが?」

  2人の勘違いを訂正すると、頬に手を添え首を傾げたオネェさまが言った。

  「あら?違うの?まだ告白してない感じかしら?」

  「告白もなにも。普通に友人としか思ってませんが・・」

  何故か私がアド君に好意を持っているかのように言われてしまったぞ?

  どういうことやねん。

  戸惑いから、取って付けたような似非関西弁が飛び出る始末。

  いやマジ何で?

  困惑顔でオネェさまと鏡合わせにするように首をコテンと傾けると、今度は2人揃って反対側へと顔を傾けた。

  「あら。だってあんなに取り乱すんだもの。てっきりその彼の事を好いてると思ったのよ」

  「え~。無いですよ。だって異世界の人ですし、年下ですし、めちゃ美形なので私なんかが釣り合うわけないし」

  「そう~?異世界の人でも年下でも、付き合っても何も問題なくね?釣り合うかどうかなんて、そんなの他人からみた評価でしかないじゃん?大事なのはお互いの気持ちっしょ!」

  いや~。お互いの気持ちとか言われましても。

  アド君みたいな王子様系超絶イケメンが私みたいなドオタク喪女を好きになるワケがないんだよなぁ。

  はいはい皆無皆無。超絶皆無。

  「やっぱ無いわ~」と呟くように零した私を横目に、向かいの2人は顔を見合わせてから交互に言葉を紡ぐ。

  「その「無い」っていうのは、彼から頼子ちゃんへの気持ちのことを言ってるのよね?」

  「ですね。絶対無いって確信があります」

  「でもさ。でもさ。彼に確かめた事はないんだよね?」

  「そりゃないですよ。こんな三十路過ぎのキモオタがそんな事したら痛すぎるじゃないですか」

  「私の事どう思ってる?」なんて。

  そんな質問、痛車で事故るより遥かに恥ずかしいわ。

  実際にやったりしたら羞恥死しちゃうよ。せんけど。

  自分の結論に腕を組み、納得しかなくてうんうんと頷いていると中年男性がサングラスのブリッジを押し上げて言った。

  「う~ん、それならさ・・綾小路さんはその彼の事をどう思ってるの?実際」

  「ですから。単なる友だちですって」

  「あんなにパニくってたのに?」

  「そりゃ、友だちですもん。混乱くらいしますよ」

  何なんだホントに・・しつこいぞ?

  「・・・友だち相手に、身を切られたかのような、そんな反応ってさ。普通する?・・」

  「それは・・好ましく思ってる人が大変な目に合ってると思ったら誰だって・・」

  「過呼吸を起こすくらい?」

  ・・あれって過呼吸だったのか・・でも・・でもさ。

  友だちが心配で起こることも、あると思うな・・実際なったんだし。

  そう思っても、どうしてか反論出来なくて、無言で冷たくなったカップに視線を落とす。

  「・・そんな怖がらなくても大丈夫だよ。俺ちゃんの「勘」が囁くのさ。「君たちは対」ってね」

  「対?・・」

  「そそ。「2人で1つ」ってヤツ!チープな言い方になっちゃうけど「運命の相手」とか、そういうの!」

  対?・・運命?・・私と、アド君が?

  今まで目にしてきた彼の姿が、シャッターを切るように脳裏で目まぐるしく瞬く。

  ビールを飲んで驚く顔。

  魔法が成功して、喜び流した涙。

  カレーを食べてた時の、どうしてだかうかない様子。

  ストーカーに負わされた怪我を心配する声。

  似合わないオシャレを褒めてくれた時の笑み。

  旅に出る直前、「必ず帰る」と約束した時の、金の縁取りに煌めく夏の青・・

  鏡越しに合わせた手の平から感じた、仄かな熱・・

  ・・・咽るような色香を纏い、トロトロに蕩け切って艶めき恍惚に浸る姿・・

  ぐずぐずに熟れた彼の裸体を思い出した瞬間。顔にぶわりと熱が集まった。

  心臓の奥の方からぐわっと何かがせり上がる感覚に、喉が詰まる。

  反射的に息を止めて、胸苦しさに両手で顔を覆い俯いた。

  え。

  待って。

  ちょっと待って。

  無いって。無いでしょ?無いよね?

  え。うそ、いやいや、そんな・・まさか?・・

  私、本当にアド君の、事・・・

  「ま、じかぁ・・・」

  この世に生を受けて30年・・

  一生経験出来る気がしなかった出来事を、正に今体感なう。

  どうやら私・・恋、しちゃってるカモ?です。ハイ。

  〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇

  木々の隙間から、疎らに岩が覗く山の中腹。

  生い茂る緑が欠落したそこには、先が見通せぬ程に深く大きな穴がぽっかりと開いていた。

  約3ヶ月前。様々な鉱物が産出する鉱山に突如として現れた[[rb:そ > ・]][[rb:れ > ・]]を発見したのは、崩落によって生じた地揺れに「何事か」と様子を見に来た工夫らであった。

  最初は、地下水などによる浸食で出来た空洞の一部が自然に崩れたのであろうと思われた。

  だが調査の為、近くに住まう[[rb:巌窟人 > ドワーフ]]の職人たちの手で下へと降りる道が作られると、その予想は一部、驚きと共に覆される。

  自然の地下空洞の底で、明らかに人為的な物と思われる痕跡が見つかったからだ。

  それはつるりと整えられた壁の長い長い通路。

  地面は恐ろしく平らで歩きやすく、馬車がすれ違えるほどに広く、高い天井には照明の魔道具と思しき物が取り付けられていた。

  そうして不思議な通路の先へと探索が進むと、なんと城がすっぽりと納まるような広大な空間が見つかった。

  神経質な程に整えられていた通路とは違い、その空間は自然の洞窟そのものだったが、長い年月放置されていた間に地下水が流れ込んだらしく、完全に水没していた。

  そこで皇国は水中行動を得意とする[[rb:人魚 > マーメイド]]に調査を進めさせ・・結果、水底で神殿らしき遺跡と、これまでに発見されたものの中で一番の大きさとなる魔術陣を発見した。

  そして同時に、水竜の生息も確認されたのだった。

  〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇

  大きな屋敷が収まりそうなその大穴は、想像していた以上の大きさだった。

  大穴はこれ以上崩落しないように補強され、周囲を落下防止の簡易的な柵と、何本かの太い柱が建てられている。

  頑丈そうな太いロープが架けられたそれはどうやら昇降機らしく、乗り降りする所と下に降りる道の入り口には、監視の為に兵が常駐していた。

  到着して早々、護衛である王国の冒険者が「戦闘が予想される遺跡の下見をしておきたい」と言い出し、それに便乗して魔術院の貴族らも「我も我も」と皇国側に視察を要請。

  皇国側はその勢いに負け、先んじて遺跡を調査していた調査隊の責任者に案内を丸投げした。

  結果、魔術院からは主任のケイオニクス・ストークス。ヒンヒ・ベラルドルダの貴族2名。

  護衛の騎士に隊長のワイズと他1名。

  冒険者からは「栄光への導き手」リーダーのバーグ。同じく「不屈の砦」リーダーのミリアーナ。

  そして私、アドと「面布のカルセ」こと傍仕えのジャスパーの合わせて4名。

  賓客に近い扱いである8名もの大所帯を押し付けられた皇国の調査責任者は、頬をぎこちなく引きつらせ、見ていて可哀想になるほどの低姿勢で自己紹介をした。

  「お、王国の皆さま。ようこそ「地底湖の遺跡」へ。遠路遥々お越しくださいました事、誠に有難く存じます。こ、この遺跡調査の責任者を仰せつかっております「アレク・レヒト」と申します。本日は皆さまが本格的に調査に入る前の下見をご希望との事ですので、簡単にご案内をさせて頂きたく思います」

  責任者はだいぶ後退した巻き毛の際をしきりに拭きながら、ぺこぺこと頭を下げつつ入り口に集まっている私たちに説明を始める。

  「お、恐れ入りますが、下までの道は狭いため馬車等は運用しておりません。昇降機か騎乗での移動となりますが、どちらになさいますか?」

  そう問われ、互いに視線で確認し合った後に代表して騎士隊長が答えた。

  「昇降機の方でお願いしたい。何名ずつ乗れる?」

  「は、はい。5名が定員でございます」

  「ならば2組に別れて降りましょう。冒険者の方々もそれでよろしいか?」

  そうこちらに向かって問われ、皆同意して頷く。

  冒険者側として「そちらが先で構わない。俺らは後から行く」と提案した「栄光への導き手」のリーダーは、丸っこい虎耳をぴぴっと震わせた。

  「わかった。ではレヒト殿。お願いします」

  「か、畏まりました。では、こちらにどうぞ」

  責任者は昇降機乗り場へと皆を先導して移動すると、そのまま貴族らと共に昇降機に乗り込み、先に降りて行くのだった。

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