地固め編 第三十三話 逆境からの覚醒

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  第二、第三会場の各員の位置どりは一直線に並んでいた、端からフィリッカ、リエル、リーリエッテ、アーキアと続き、フィリッカとリーリエッテは共にアーキアのフーティアの奇妙な動きを目で捉えていた。

  クルクル回る円盾の動きに何の意図があるのかは解らないが、アーキアの行動が騎士の取る行動から逸脱している事は明らかで、直接対戦していないフィリッカでも思わず注視してしまう。

  だが、アーキアの変わった戦い方にはアーキアなりの計算が有る、東方騎士は回る円盤に視線が行ってしまうが、それこそアーキアと仕掛けを作った七実の策略で有った。

  突如回る円盾の真ん中から凄まじい閃光が発せられて見ていた者達の視覚を惑わした、マギガントを研究していた七実は、閃光に対する防御装置が無い事を発見して敢えて目眩しのアイテムを開発していたのだ。

  そして持てる力を最大限に尽くす事を卑怯だとは思わない遊魔の思考に染まったアーキアは躊躇無く使用した。

  予期せぬ閃光にリーリエッテは目眩しを喰らって視界を完全に奪われてしまった、こういった時に耳長の鋭い聴力はリーリエッテをパニックへと誘う役目を果たして、アーキアのフーティアの接近を感じさせてくれる。

  リーリエッテ 「こんな卑劣な手段で!」

  アーキア 「勝つ為の手段はどんな事でも容認されるよね、相手を卑劣とか言っちゃうのは想像力の欠如だよ、アキは自分より強い相手の出現に備えて奥の手を用意してただけだよ」

  アーキアのフーティアは距離を詰めて、無防備なリーリエッテのクフィカールに一撃を見舞う、目潰しを喰らった状態では防ぎ様も無く、クフィカールは背中から倒れ込んでアーキアの勝利が確定する。

  アーキア 「使える手は幾らでも用意するのが遊魔の戦い方なんだよね」

  リーリエッテ 「どの様な状況だろうと、負けは負けです、ですがあんな手段が有るなんて」

  アーキア 「格上の敵に対してはとても有効的な手段だって、ナナが言ってたよ、リィはどうなの?」

  アーキアはリエルの勝利を確信して問い掛けたが、リエルの相手は想定を超えていた様だ、通信盤の映像を見る限り目潰しは効果を発揮している様なのだが、フィリッカは詰め寄るリエルのフーティアを攻撃レンジまで近寄らせる事は無かった。

  リエル 「今までは手加減してくれていたんですか、流石に攻撃も出来ないなんて落ち込んでしまいます」

  フィリッカ 「逃げに徹してるからですね、音と魔力を組み合わせれば距離を離すのは可能なんです、流石に攻撃迄は出来ませんけど、でも、これを可能にしているのはマギガントの性能差が大きいですから、リエルさんのせいじゃ無いですよ」

  リエル 「フーティアは人類圏でもトップクラスの性能なんですけど、まぁ比較するのが馬鹿馬鹿しいモノも存在してますけど」

  フィリッカ 「そうなんですか、それは興味深いです、クフィカールは耳長のマギガント五百年の集大成ですから、人類圏のマギガントで埋めれる差じゃ無いですよ」

  リエル 「なら、アーキアの策略は有効だったという事ですね、性能差を跳ね返したわけですから」

  フィリッカ 「はい、リーリエッテが未熟なだけです、現に私は躱せてますから、そろそろ目も慣れて来たのでお返しさせて貰いますよ」

  リエルとしてもそれを望んでいた、フーティアとクフィカールの差を考えるなら、攻撃のカウンターでしか勝機を望めない様なのだ、悔しい事では有るが実力の差はどうしようもない、せめてアーキアの様に七実の作った変な武器を携帯していればと何らかの手段も有ったのかも知れないが、リエル自身が選択した事なのでしょうがない。

  ただ、リエルにとって救いなのはフィリッカが正統派な騎士で有った事だ、もし、アーキアの様に戦いが読めない人物で有ったのなら、奇策と力量で圧倒されていただろう。

  逃げから攻撃に転じたフィリッカは以前よりもキレが増していた、リーリエッテの敗北で勝たねばならぬ状態になったのだ、東方騎士の見立てでは落とす事などあり得ない戦いで有ったのだ。

  攻勢に転じたクフィカールの動きに、リエルは反撃の機会すら与えられていない、フィリッカの攻撃は鋭いだけではなく隙も全くなく、カウンターを狙う事すら至難の技だ。

  リエル思考 『防ぐだけでやっとです、フィリッカさんが正統派で盾を使っていてくれているので耐えれてますが、何とか攻撃の糸口を見つけ無いと』

  これ程守勢に立たされるのは、リエルとしても初めての経験だった、異形として覚醒してから特に対等に渡り合える者など存在せず、苦戦する事など無かったのだ』

  リエル思考 『今ならアキがああなった理由がよく解ります、正攻法じゃ太刀打ち出来ませんよ』

  リエルは今までの経験から有効な対抗手段を見出し始めていた、過去のアーキアの模索を味わった経験は決して無駄ではない。

  リエル思考 『そうですよ、余裕を持たないから焦るんです、アキは一勝してますし、ダイン様が負けるとも思えません、ならリィも戦いを楽しめばいいんです』

  根本的な思考が変わってリエルはそれまでに考えていた事を実行し始める、元々力の差は歴然としているので、真面目に戦っても勝てない事は明白なのだ。

  フィリッカはリエルの変化を明確に感じ取っていた、絶対に防ぐといった真面目さが無くなり何処となくいい加減な防御体勢に変化している、そしてその変化の不気味さに攻撃の手は弱まって観察の度合いが増えていく。

  フィリッカ思考 『急にやり難くなりました、生真面目に防御してくれた方が戦い易いのに、これ何かありますよね』

  フィリッカにそう思わせる最大の要因はリエルの隙が増えた事だ、ただ致命打を放てる様な大きい物では無いが、明らかに戦い以外にも何か考えていてワンテンポ遅れて生じている隙なのだろう。

  フィリッカ 『このままでも十分にこちらが優勢なんですが、何を企んでいるかが気になりますね、相手の攻撃を受けきって勝つのが理想ですけど、負けて恥をかくのも嫌ですから』

  フィリッカは難しい選択を迫られていた、騎士としてリエルとの勝負は充実した物で、正直言って人類圏の騎士とこれ程の戦いが出来るとは思ってもいなかった、その意味ではリエルの全力を引き出して勝つのが望みでは有るが、油断したリーリエッテの敗北は選定戦自体を危うくしてしまっているのだ。

  フィリッカがちょっとした迷いに悩まされていたその時、リエルも奥の手の準備がほぼほぼ整っていた、遊魔としてのリエルは自身の立ち位置をダインの盾として位置付けている、元々アーキアの様に常識に捕われないタイプでは無かったし、戦う事は得意だった、なら自身を一番活かせるのは戦闘行為である事は間違いなく、それでユーマに貢献しようと生きてきた。

  結果、ダインの盾という立ち位置は与えられてはいなかったが、勇者としてユーマの為の協定戦には何度も参加して勝利をもぎ取って来た。

  だが、ダインの傍らに居られる守護役という立場を諦めたわけではない、護衛として有益な生身の鍛錬に時間を割いて、守る為の術も模索してきた。

  そして今、リエルは自身の編み出した術を試す事を思いついた、それは障壁魔術の応用でも有り、上手く行けばダインの護衛役という望む地位を得られるかも知れないのだ。

  不可解なリエルの変化に、剣速の緩んだフィリッカの一撃は、リエルが新しい術を試すのに好都合な攻撃で有った。

  本来の迷いない剣撃なら捉えられなかった一撃を、リエルは障壁を使って受け止めた上で、障壁と同じ原理で空間自体を固めてフィリッカの剣を拘束させる事に成功したのだ。

  この行為はアーグル人類史史上初の快挙で、リエルはマギガントを操りながら魔術の行使に成功したのであった。

  だが、リエル以外のその事を理解出来た者は存在しなかった、ただ起きた出来事に驚愕して会場にどよめきが起きる、剣を奪われたフィリッカは更に困惑しており、通信盤に映る顔に初めて焦りが現れる。

  フィリッカ 「一体何を」

  返答を期待して問い掛けたが、リエルは優位を手放す事は無い。

  リエル 「何でしょうね、秘密ですよ、戦いを続けましょうか」

  はぐらかされたフィリッカは少しムッとして、戦い継続の準備に入る、予備の剣を抜いて右手に持つが捕縛された剣より刀身が短い俗に言うショートソードだ、未知の術を使う相手に対して、より踏み込んで戦う事には気が進まないが何も武器を持たないよりは随分とマシだ。

  一方対峙するリエルも武器の持ち替えを行っていた、捕縛した剣を動かすと盾を捨てて左手に持ったのだ、咄嗟の障壁魔術が上手く行く事を確認したので、盾での防御を考えずに攻撃方法を増やすつもりだろう。

  フィリッカは流れの変化を明確に感じ取っていた、今までの優勢は消失して、リエル優勢へと変化してしまったのだ、そしてフィリッカは未だリエルの行った行為の仕組みを理解出来ておらず、どこまでの事が出来るのかも予測出来ていない。

  フィリッカ思考 『これは相手の出方を見るしか有りませんね、この小剣まで絡み取られれば勝機を失ってしまいます、幸いこの子の剣撃は素直で捌き易いですから』

  守勢を決め込んだフィリッカだが、リエルの進歩はその予測を超える物だった、剣を爪の延長の様に繰り出して、その動きは先程の正当剣術とは全くの別物だ、ケダモノと戦っている様な感覚にも見舞われ、実にやり難い相手へと変化している。

  ただ、野生のケダモノと違って噛みつきが無いのは救いだが、得体の知れない技を隠し持っている為に全く油断出来ない。

  リエルは障壁の展開を攻撃にも応用して行く、フィリッカの回避動作の先に障壁を展開して、回避を不可能にさせたのだ、そしてクフィカールを捉えた一撃は強靭な鎧で防がれたものの、攻撃を躱す事が出来なかった事実はフィリッカのプライドを大きく傷付けていた。

  フィリッカ思考 『私が躱しきれないなんて、回避が阻害された感じでしたが、まるで何かに当たって妨害された様です、剣を盗んだ技も同じ様な原理でしょうか』

  フィリッカは思考を巡らせて、リエルの技の正体を探ろうと必死だ、正直、力押しでも何とかなる気もするが、後人の為にも出来うる限りの情報は集めて起きたいのだ。

  そうして、ぼろぼろになりながらも戦いを続けたフィリッカは対抗作を見出す、通信盤に映るリエルの視線を読み解いて行けば、空間が固定される位置が予測出来る様になったのだ。

  フィリッカ思考 『思ったよりも隙が多いというわけですね、視線の延長戦上にしか空間を固定出来ない様です、そしてこの技の正体は魔術ですね、信じ難い事ですが、リエルさんの口元が詠唱を行っていますから間違い無いでしょう』

  フィリッカは洞察力を駆使して驚くべき短期間でリエルの技の正体を見破った、そして反撃を行う時が近付きつつ有った。

  リエルを対等な相手と認めたフィリッカはもはや正当な戦いでの決着に拘っていない、油断すると何処で敗北するか解らない相手なのだ、そしてフィリッカも戦いでの観察でリエルの弱点を見つけ出して、既に勝利の為の準備も仕込んでいた。

  闘技場内のあちこちに破損したクファカールの部品が散乱しており、それ等の中にはまだ本体と繋がっているモノも有る、そう、慣れない魔術と剣撃で前ばかり向いているリエルはフィリッカが何かを企んでいる事に気付けていない。

  新しい戦い方が形になって行く事にリエルは興奮していた、騎士としての力量で自分を上回っているフィリッカは今や後手に回って守りを固めているのだ、そして障壁を防御に使いながら両手に持った逆手剣で獣の様に相手を攻め立てる戦闘スタイルは思いの他リエルと噛み合った様で、フィリッカを追い詰めて行くのはとても楽しい。

  そして、勝利を意識している時こそ、足元を掬われる物なのだ、散乱したクフィカールの鎧の一部を気付かぬ内に踏み付けていたリエルは、足底が持ち上がる感覚を感じたが既に手遅れだった、急激にクフィカール側に引き寄せられた足元の破片はそれに乗るリエルのフーティアを仰向けに傾倒させ、続く一撃で完全に転倒させられてしまう、その際フーティアの背中は完全に地に接してフィリッカの勝利が確定してしまう。

  リエル 「言葉通り足元を掬われてしまいました、そういう事はしない方だと思ってましたのに」

  フィリッカ 「戦いの中で急速に進歩したリエルさんが怖かったんです、既に正攻法じゃ勝てる見込みが無かったと思います、私達が揃って負けるなんて赦されませんし」

  リエル 「それはこちらも同じですから結果としては良かったと思います、今度また戦って下さい」

  フィリッカ 「興味は有りますけど、次は勝てそうに有りませんね、マギガントで魔術を行使するなんて考えた事も有りませんでしたよ、私には魔術なんて使えませんけど」

  リエル 「私もダイン様の為に頑張ったんですよ、負けちゃいましたけど、でもダイン様は今日の私を褒めてくれるでしょうから、負けても満足してるんです、戦いも楽しかったですから」

  アーキア 「何だか勝ったアキより負けたリィの方が充実してるじゃん、損した気分だよ」

  リエル 「アキが頑張って勝ってくれたから、リィも思い切って戦えたから感謝してます、アキが負けていたならリィも重圧に押し潰されて負けてました」

  アーキア 「まぁ、そこが解ってるならいいや、何せアキは勝者だしね」

  フィリッカ 「ダイン王というのは変わったお方なんですね、負けても咎められないなんて」

  リエル 「東方騎士達の凄さは自身でも体験してるでしょうから、負けても許してくれる筈です、それにダイン様は成功よりも経験を重視してますから」

  フィリッカ 「リエルさんの成長で満足してくれるんですか、自ら戦陣に立つ王ならではの考え方ですね」

  リエル 「そうなんでしょうか、ダイン様は色々楽しみたいから戦ってるみたいですけど、多分、第五会場は凄い事になってますよ」

  リエルは意味深に微笑んでいた、魔術史でも例を見ない偉業を果たしたリエルがここまで言うからには、何か凄まじい奥の手がティアス側には存在しているのかも知れない、フィリッカは第五会場で戦う姉のフィセーリアの心配をしながらも、今戦った強敵との出会いに胸を躍らせていた。

  おまけ

  マギガントでの魔術使用 試み自体が行われたのは今回のリエルが最初である、アーグル人の魔力では魔導で動くマギガントを使いつつより魔力消費の多い魔術を使う事など到底無理な話で試みるのも行われていなかった。

  そして今回リエルが魔術を使えた一番大きな理由は、ダインがディアーナを魔進化させた事である。

  アーグルの戦闘技術を調べたダインは、圧倒的な戦力と自身の好みに合ったマギガントを戦力の中心に置いて戦力拡大を行い、魔術自体を軽視していた。

  実際、アーグル人の使う魔術はそれ程の威力を持たず、戦闘力としてマギガントに対抗出来る物では無かった、それ故に魔術は軽視されていた。

  だが、ディアーナが会得していた魔術に関する知識は遊魔の共通知識に加えられており、魔進化したディアーナは密かに遊魔による魔術行使を実験もしており、その経験は遊魔の共通知識に加えられていた。

  そして、窮地に立たされたリエルは遊魔の共通知識に有った魔術の情報を元にマギガントでの魔術行使を行って見せたのだ。

  この行為が成功した背景には、ディアーナがダインを護る為の障壁魔術を優先的に実行していた為で、リエルの成功の大部分はディアーナのお陰でもある。