004-034
協定戦の開始の銅鑼が響き渡った第五会場、正道対邪道の戦いは今正に火蓋を切っていた。
五対五の集団戦が行われる第五会場は郊外の荒地を囲って行われており、その半径は大体2キロの空間で行われる事になっている。
東方騎士の五機は飛翔装置で空に浮かんでおり、戦闘区画の南側に展開している。
対するティアス側は巨大なビグ・ユーマを中央の添えて残りの四機が前後左右を固めている、最も大将機のティアスのポナリア・ジーカは最後方で護られている意味合いが強い、第五会場の戦いは大将機の敗北で勝敗が決まり、大将機以外は敗北で脱落して行くルールだ。
フィセーリア 「正面の巨大な奴は倒す必要は有りません、そもそも背中が上向いてますから無視でしょう、細身の機体が大将機なのでその機体の撃破を目標にして下さい」
フィセーリアは初めから無駄な事をしない様に団員に告げる、わざわざ未知数の相手に関わらなくても大将機を倒せば勝敗は決まるのだ。
ゆっくりと編隊を組んで近付く東方騎士隊に対して、ティアス側の三機の同じ機体は盾先を突き出して、東方騎士隊に向けている。
そして、突然轟音が響き渡る、それは隣に位置する第四会場から聞こえたもので、事情を知らない東方騎士隊の視線がそちらを向いてしまう。
この隙をティアス側は見逃さない、ロゥディ・ゾッフォ三機の盾先から火が吹いて同様の音が第五会場にも響き渡る、そして編隊の右端にいたセセカのクフィカールが無数の銃弾の直撃を受けて後方に吹き飛ぶと、制御を失って落下して行く。
フィセーリア 「全員、降下して森に機体を隠しなさい、あちらには未知の飛び道具が有る様です」
フィセーリアは部下に指示を送りつつも、自身は急降下して後方に吹き飛ばされた部下セセカのフォローに回る、そして地面への激突寸前でなんとか腕を掴んで軟着陸させる。
セセカ 「申し訳有りません、油断しました、吹き矢の様な物で攻撃を受けた様です」
フィセーリア 「セセカのミスじゃ有りません、不用意に飛行で近付こうとした私のミスです、クフィカールは動きますか?」
セセカ 「解りません、ですが飛行はもう無理の様です」
フィセーリア 「どの道、飛行はもう行わない方が賢明でしょう、あの攻撃に対していい的の様ですから」
セセカ 「私はここでクフィカールの状態を確認してから、戦列への復帰を行います、隊長は指揮をお願いします」
フィセーリア 「はい、無理はしないで下さいね、セセカはまだ離脱じゃ有りませんから」
フィセーリアが早急に対応した事で、セセカ機は背中から落ちずに何とか戦列に留まっていた、脱落こそ免れたものの外から見た機体の損傷は重大な様で、もはや戦力としてアテにする事は出来ないだろう。
そうして、東方騎士隊は全機森を遮蔽にして、ティアス側の攻撃を一先ず防ぐ事にする、姿が捉えられなければ射撃攻撃は不可能な筈だ。
だが、そういった常識はユーマのマギガントには通用しない様だった、再び大きな音が響くと何かが東方騎士達のいる森に落ちた後に大爆発が起こったのだ。
その爆発に巻き込まれた機体はいなかったが、吹き飛ばされた樹木の直撃を受けた機体も存在して、射線から逃れるだけではユーマの攻撃を防ぐ事は不可能な様だ。
フィセーリア 「各機距離を取って散開して下さい、敵は広範囲を攻撃する武器も有している様です、散開した後は各自の判断で敵の排除に当たって下さい」
我ながら無能な指揮を晒してしまっているとは思うが、敵の攻撃が未知数な事を考えればこれが最善だとフィセーリアは判断した、自分さえ脱落しなければ東方騎士隊が負ける事は無いのだ。
フィセーリア自身は防御に専念して、動ける三機に前に出る様に指示する、ティアス側で多く見られたゾッフォという機体はそれ程軽快に動ける機体では無く、飛び道具を使った背景には近接戦の不利を理解した上での作戦と思えたのだ。
だが、フィセーリアの読みはいろいろと外れてしまう事になる、東方騎士達が機体性能の生きる近接戦を挑んで来る事をダインは予測しており、対抗策を実施して来たのだ。
ビグ・ユーマはここ数日で腹部に付けられた格納庫などを撤去して、随分とスリムな見た目へと変化していた、また、船体の各所にタラップが設けられて、それを活用させる事で、マギガントを船体に搭載させる事が可能となっていたのだ。
三機のロゥディとポナリアを船体に搭載したビグ・ユーマは、50メートルほど浮遊して空中要塞と化す、上空からの索敵で東方騎士達の位置は暴き出されて、そこにロゥディ達から銃弾が撃ち込まれて行く。
予め攻撃があると理解していれば歴戦の東方騎士達にとって避ける事は不可能では無いが、避けるだけでは勝てない事は明白だ、実際、銃撃には弾数の制限が有る為に避け続ければ勝機も産まれるのだが、そもそも銃撃に銃弾を必要とする知識さえも東方騎士には無かった。
ダイン 「やはり、不意打ちじゃ無いと効果は薄いですね、既に銃器に対応してますね」
ティアス 「なら砲撃でいいんじゃ無いですか」
ダイン 「砲撃は再装填出来なくて、砲門の六発しか撃てないんですよ、一発撃ったので残り五発です、ロゥディの予備弾倉はビグ・ユーマの至る所に設置してますので、そちらで何とかしたいんですが」
イーヴィエ 「本来なら十字砲火を行いたいところですけど、ビグ・ユーマを離れれば近接戦を挑まれますよね」
ダイン 「正面からの銃撃に対しては障壁の展開している様ですから、それに初手で撃墜した機体も離脱していませんから」
ティアス 「ならそろそろティアスの出番じゃ無いですか、アレを使って一気にやっちゃいましょう」
ダイン 「いえ、先ずは一機ずつ仕止めましょう、射線の通る位置で展開して相手を誘い込みましょう、ビグ・ユーマの銃撃も試して見たいですから」
スルーム 「なら地上戦ですね」
ダイン 「その方が優位に立てると思います、エルルリーカは前衛に出て下さい、ロゥディは三機で連帯して下さい、敵は攻撃が届く貴女達を狙って来る筈です」
ダインは戦いを有利にする為に、敢えてビグ・ユーマの能力をまだ完全には披露していない、多種様々の戦術がまだまだ控えており、ダインはこの戦いを存分に楽しんでいるのだ。
開けた所に移動したビグ・ユーマは、ロゥディ・ゾッフォ三機を降ろすと距離を取る、その間ロゥディの方でも武器を持ち変えて三人それぞれの特性に見合った装備へと整える。
近接戦を得意とするエルルリーカは、盾のガドリングガンを外して、右手に長剣、左手に盾と正統派騎士の出立ちを整え、外したガドリングガンはスルームが両手持ちにする、この際にシールドは外して装弾数を増やして、より射撃に特化した機体へと変化させる。
イーヴィエは基本的なロゥディの陸戦スタイルのままだが、外装の一部をパージして軽量化している。
フィセーリア 「先ずは地上に降りた三機を狙う事にしましょう、セセカを除く四人で攻めて一機ずつ確実に仕留めて行きます、先ずは一番前に出た機体ですね」
フィセーリアも自身が下がったままでは決定打に欠ける事を理解して、前に出る事を決めた。
相手がエポポと呼ばれる改良型のゾッフォでも、クフィカールに負ける要素はほとんど無い。
盾を渡して両手盾にしたミュウシアのクフィカールを先頭に、縦列隊形を整えてから東方騎士隊は突撃を敢行する、両手盾と障壁の展開で銃撃に対する防御が可能な事は想定されており、この隊形が一番合理と思えるのだ。
なるべく、遮蔽の生きるところまで近付いて東方騎士隊は突撃を敢行する、幸い地上に降りた三機のマギガントは三報を警戒する様に展開しており、東方騎士隊の突撃は好都合な事に銃撃不可能なエルルリーカの正面から行われる事となった。
だが、突撃開始直後に側方を向いていた二機は反応して、それぞれ左右に飛び退くと、正面のミュウシアの機体では無く、最後方に位置していたリッピーのクフィカールに銃撃を集中させる。
その上、離れた位置にいて横を向いていたビグ・ユーマも急旋回して機首を東方騎士隊に向けると正面二機のロゥディを超える量の銃弾をリッピーのクフィカールに浴びせて行く。
フィセーリア 「止まるらないで下さい、一機を確実に」
もはやリッピーの脱落を覚悟したフィセーリアは作戦の強行を指示する、このまま引き下がってしまってはリッピーの犠牲は全くの無駄となってしまうのだ。
ミュウシアのクフィカールがエルルリーカの機体に激突すると、フィセーリアはミュウシアを踏み台にして左に飛びスルームのロウディに斬り掛かる、小回りの不可能なぐらい大きな銃器を両手に装備していては咄嗟の回避など不可能な筈だ。
結果、フィセーリアはスルームのロウディを斬り倒して戦闘不能へと追い込んで、次にイーヴィエへと迫る。
イーヴィエはすぐさま体勢を変えてフィセーリアに銃弾を見舞って来るが、クフィカールの障壁で防ぐ事は可能だ。
すると、イーヴィエは重いガドリングガンを盾ごとフィセーリアに投げつけて、時間を稼ぐとしっかりと迎撃体勢を整えて来る。
他方でミュウシアを飛び越えたフィセーリアの動きを見て、エルルリーカはブーストを起動してミュウシアを押し上げる、その想定以上の力にミュウシアのクフィカールは後方に跳ね飛ばされて背を地に付けて離脱してしまう。
ミュウシアの後方から側方に周り込んでいた残る東方騎士フォティーヌは、エルルリーカとの対峙を選んで後方に周り込もうとする。
その動きに対してエルルリーカはロウディ・ゾッフォを直ぐにターンさせて向かい打つ。
フィセーリア 「ミュウシアが脱落ですか、セセカとリッピーも脱落こそ免れてますがもう戦え無いでしょう、少し甘く見すぎた様です」
フォティーヌ 「隊長のせいじゃ有りませんよ、相手が想定外なんです、セセカとリッピーに使われた武器は我々も知らない物ですし、それに隊長が残っていますからまだまだ十分に戦えます」
フィセーリア 「そうですね、これ以上の失態は見せられません、フォティーヌも頼みます」
フィセーリアと対峙しているイーヴィエは相手の気迫に呑まれかけていた、ダインとの相性の良さを認められて遊魔の一員へと取り立てて貰い、憧れのポーカ学長に直々に指導を受けて自身の力を過信していたのだが、相手は師であるポーカすらも上回る気迫を持っている。
攻勢に出る事は自殺行為で、相手の出方を伺うしか道は無さそうだが、遊魔の責務を果たす為には何としても勝つ必要が有る。
ダイン 「真剣な相手程組み易いモノですよ、胸を借りるつもりで楽に攻めて見て下さい、後に私がいますからね」
ダインは毛負った部下達の緊張を解こうと優しい声を掛けたが、遊魔にとってダインを衛事は命の危険がほぼ無い協定戦でも最優先である。
イーヴィエ 「ダイン様の手を煩わせるなど、護衛として失格です」
ダイン 「いえいえ、私自らが戦場に出ているので護衛など気にしないで下さい、ただ目の前の敵との戦いを楽しめばいいんですよ、私の横槍が入るかもしれませんが」
ダインは敢えて介入を匂わせて東方騎士にプレッシャーを与える、クフィカールとロゥディ・ゾッフォの性能差を考えるなら、これぐらいのハンデがあってもいいだろう。
そして、フィセーリア対イーヴィエ、フォティーヌ対エルルリーカの構図が固まって、二組は対峙して互いの相手を見定める。
一方、ダインのビグ・ユーマは横合いから勝負を観戦出来る位置へと移動して、ティアスのポナリア・ジーカもビグ・ユーマの上に乗って状況を見守る、先ほど示したビグ・ユーマの射撃力で牽制すれば、味方を優位に出来るという意図がある。
おまけ
ビグ・ユーマ主砲 ビグ・ユーマは三連装砲塔を二機、六門の主砲搭載しているが、再装填能力はない、これはビグ・ユーマがまだ未完成の状態であるからで完成形ではちゃんと再装填出来る予定である。
ダインの描いた構想の中でビグ・ユーマは戦闘用浮遊母艦という位置付けに有り、輸送を主な用途として作られたスカイベアーとは別種の浮遊母艦では有るが、基本構造の四つん這いの巨大ゾッフォというところは変わっていない、だが、ビグ・ユーマは武器を移動させるというのが主な目的でも有る為に、試作された主砲が不完全な状態で搭載されている。
試作された主砲はいわゆる榴弾砲であり、重装甲を纏う兵器が存在しないアーグルでは最も理に適った選択でも有る、至近距離での炸裂ならばマギガントを戦闘不能にするぐらいの威力は有り、外れてもその轟音と飛来する破片による心理的圧迫はアーグル世界の人間に絶大な効果を発揮する。