ライカンスロープ 第23話

  夜のBAT07基地。明日が休日ということもあり、獣人たちはまだ眠らない。

  夜行性の獣の特性を備えているから、ではない。現代は、人もなかなか眠らない。仕事や遊び、理由は様々だが、夜動く人は珍しくないのだ。

  (やばいな・・・・・・)

  地下6階の遊戯施設の中には、自主トレをする獣人のための訓練施設がある。その中にある道場の中心で、模擬刀を構えた瀞は、槍を手にした氣雷と向かい合っていた。

  文字通り、犬と獅子。瀞は圧倒され、構えたまま動けない。

  無理もないことだ。体躯と武器、どちらも間合いの利は氣雷にある。加えて、技量も経験も身体能力も、全て瀞が劣っているのだから。

  氣雷の槍の穂先にはクッションが付いているが、それでもプレッシャーは凄まじい。

  (純心とは全然違うな。マジやばい。でも・・・・・・)

  しかし、だからこそ、この試合には意義がある。和虎以外で、これほどの強さを秘めた武術家の獣人と戦える機会は、この合同訓練の期間中しかないのだ。

  瀞は意を決し、前に踏み出そうとした。

  だが。

  「ぅお!」

  それに呼応するように、鋭い刺突が瀞の腹部へと伸びた。

  半身になって躱すも、次々と鋭い刺突が瀞を襲う。

  下がり、身を捻じり、しゃがみ、跳び、瀞は突きを辛うじて躱す。

  (これじゃいつか捕まる!)

  防戦一方と変えるべく、瀞は突きを躱すと同時に氣雷の懐へ飛び込んだ。

  「らあっ!」

  そのまま下段に太刀を振り上げたが。

  パン!

  瀞の刃が止まった。

  同時に踏み込んだ氣雷の左手が、柄を握る瀞の手をしっかりと掴んでいた。

  渾身の切上を片手で止めた氣雷は、槍を手放した右腕で掌底を打ち込む。

  一瞬のことで、瀞は躱せなかった。

  「どぅ!」

  後方に吹き飛ぶ瀞。

  そして、氣雷は足元に落ちてきた槍を胸元まで蹴り上げ、右手で掴み追撃を突きを打ち込んだ。

  それは、瀞の額に命中した。

  「だっ!」

  派手な音を立てつつ、瀞は畳の上に倒れこんだ。

  そして、そこから数メートル離れた場所では、別の戦いが繰り広げられていた。

  「くっ!」

  呻きつつ後退するのは、小柄な猿、志龍だ。

  そして志龍を追い詰めているのは、大柄な虎、和虎だ。

  どちらも素手で、オープンフィンガーのグローブを拳に付けている。最も、それで攻撃が甘くなるわけではない。

  「ぐっ!」

  和虎の連続攻撃を、志龍は必死に躱す。軽快なステップと身のこなしで避け、躱しきれないと判断すると上手く捌き、直撃を避けていた。

  それでも和虎の一撃は重く、ダメージは溜まっていく。スタミナの消費も激しく、志龍の動きは鈍っていった。

  (攻められない!)

  志龍は反撃に転じようとするが、和虎の攻撃は間を置かず飛んでくる。カウンターを狙おうにも、和虎は攻撃の打ち込みは勿論、拳の引きも早く、攻撃後の隙を狙うのが難しい。加えてコンビネーションは豊富で、次の攻撃を完璧に予測することは出来ない。リーチの差も大きく、反撃の糸口は掴めなかった。

  (落ち着け、こういう時は・・・・・・)

  和虎の右下段蹴りが、志龍の左足に打ち込まれた。

  志龍はカットするも、体勢が崩れる。

  すかさず和虎の左ストレートが志龍の顔面に飛んだ。

  (ここだ!!)

  和虎のストレートを誘った志龍は、崩れた体勢のまま右拳を振り上げた。

  ガッ!

  志龍のショートアッパーは和虎の左拳に命中。ストレートの軌道が上に逸れた。

  (今!!)

  志龍は左拳を握りしめ、和虎の脇腹を狙う。

  和虎の反応は速く、すぐに右腕が脇腹を隠した。

  (かかった!!)

  不意に、志龍の拳の軌道が変わった。

  中段から、上段へと。

  最短距離を進む突きが、和虎の顔面へと登ってゆく。

  だが。

  (え!?)

  志龍の拳は空を切った。

  フェイントに気付いた和虎は後方へ跳び、更に身を反らして和虎の突きを躱していた。

  志龍同様の軽快なステップと、志龍以上の柔軟性を活かして。

  (うっそ!!こんなデカいのに、猫かよ!!)

  志龍は左拳を引こうとするが、間に合わず掴まれる。

  そして。

  「フッ!」

  和虎の左拳が、志龍の腹部に打ち込まれた。

  咄嗟に右腕で防御するも、衝撃は貫通して志龍の腹部にダメージを与える。

  そして動きが止まった志龍の顎に、和虎の左掌底が直撃した。

  左腕の連撃を腹部と顎に受けた志龍は、もはや立っていることも出来なかった。

  和虎に捕まれていた腕を放されると、ふらふらと千鳥足で後退していき、尻もちをついた。

  不運にも、そこには先程氣雷に倒された瀞が寝ていた。

  「うどっ!志龍、お前、どけ・・・・・・」

  腹部に志龍の尻が乗り、溜まらず瀞は弱々しい口調で咎めるが。

  「わりい、動けねえ・・・・・・世界が、揺れてる」

  顎への一撃により脳が揺さぶられた志龍は平衡感覚を失い、立ち上がることが出来なかった。

  「まだまだだな」

  「そうだな」

  獅子と虎は、共倒れになった犬を猿を、余裕の表情で見下ろしていた。

  「休憩したら、もう一本」

  「おねしゃす」

  激痛に耐えつつ発した言葉に、和虎と氣雷は揃って頷いた。

  同じく地下6階、資料室にて。

  書籍が立ち並ぶこの部屋にも、研究資料を取りに来たり、趣味の読書をしたりと、様々な人が往来する。広い読書スペースを照らす電球色の暖かい光、所々に飾られた絵画に観葉植物、流れるBGMは流行曲のオルゴールと、洒落た図書館のような雰囲気であるため、ここで過ごす職員は多い。

  そして今は、チーターと犀、若い獣人二人も混ざっていた。

  読書スペースにて、既存のキメラのデータが記載された資料を読んでいるのは風丸だ。その向かい側の席には、槍術の文献を読む純心の姿があった。傍らのタブレット端末も併用し、食い入るように資料とタブレットを交互に見ている。

  (すっげー)

  同じ後悔をしないようにと、キメラの学習は風丸の日課になっている。今日も資料室を訪れると、そこには先に純心がいた。

  (目がマジだ。ほんとすっげーな。結構こいつ、パリピーとまでは言わねーけど、チャラい感じだし。勉強するタイプには見えねーんだよな。氣雷さんみてーにガサツで、志龍みてーにバカなことするし)

  03部隊の男性隊員三人組は、体育会系の気質を持ったタイプだと、風丸はそう思っていた。氣雷と志龍の印象は今も変わらずそのままだが、純心はやや異なる印象を受けた。

  (緩いっつーか、クラスメイトっぽいっつーか。ま、悪く言えば子供っぽいんだよな。オレみてーに。でも、今は、なんか、すげー・・・・・・)

  同学年であるが故か、純心の気質は自分に近いのではないかと、風丸はそう思っていた。しかし、真剣な表情で学習を続ける純心を見ると、その考えは否定すべきではないのかと思わずにはいられない。

  既存のキメラや、存在を予想されるキメラの資料を読み込み、更には槍を扱った古武術の本までも研究している。対キメラにおいても、役立つ技術があるだろうから、と。

  (そういや、純心、座学の成績良かったよな)

  同学年でありながら、自身より博識で勉強熱心な純心を見ていると、純心が妙に大人っぽく、そして自分がとても子供っぽく見えてしまう。

  純心の真剣な姿を見ていると、不意に、純心が顔を上げた。

  「あー、ちょい休憩するか」

  「ああ」

  首を回しつつスマホを取り出す純心。表情は緩んでいるが、心なしか大人びて見える。

  「集中力、すげーな」

  「え?いや、普通だろ」

  「なんか、顔つきがマジだったし」

  「普通だって」

  「オレは勉強とか、全然しなかったからなー。獣人になっても、座学はあんま力入れなかったし」

  「お前、成績悪いもんな」

  「最近やっとマジで勉強始めたけど、すぐには良くならねーな」

  「当たり前だ」

  「純心は、中学の時とか、勉強してたのか」

  「いや、あんまり。でも中学卒業して獣人になってからはちゃんとしたな。戦術とかキメラのこととか。仕事だし、命に関わるし」

  「ああ・・・・・・そこで大人になったのか」

  「なんだよ、大人になるって。まだその時は童貞卒業してねえよ」

  「大人になるってそこじゃねーよ!ちゃんとする、的な」

  「勉強イコールちゃんとする、なのかよ」

  「まー、単純にそうは言わねーけどさ、やっぱ、勉強する癖を付けといた方が良かったなって思うわ。活字読むのきっちー」

  「読書すりゃいいだろ」

  「純心、本読むの?」

  「ああ。金閣寺とか、人間失格とか」

  「は!?それって、なんか、有名な奴だろ!こう、芥川とか、夏目漱石、的な!」

  「三島由紀夫と太宰治だ!お前、どんだけ馬鹿なんだよ!」

  「純心ってそんなの読むのか!?オレ、ズッコケ三人組で読書やめだぞ!」

  「読んじゃ悪いか!?」

  「めっちゃ読みそうにねーし!」

  「うるせえ!てか静かにしろよ!」

  周囲から嫌悪感が込められた視線を向けられ、風丸は一旦口を閉じた。

  「ったく、ズッコケ三人組でもいいから、活字に慣れとけよ。ラノベでもいいだろ」

  「いやー、純心からそんなこと言われるとはな。年下なのに」

  「同級だろ。早生まれ舐めんな」

  「オレ、漫画とかゲームしかしねーからな。だからガキっぽいのか」

  「俺も漫画やゲームはするぞ。趣味で大人か子供は決まらねえよ。人間性だろ」

  「どっちにしろ、字だけの本は無理」

  「でも、昔の文豪、エロいのも書いてたりするぞ。谷崎潤一郎とか、めっちゃ足に興奮する男書いてるし」

  「マジ?絵本とかも描いてるのに?」

  「絵本・・・・・・お前、谷川俊太郎と間違えてねえか?」

  「え?誰?」

  「いや、いい。お前とこの話題で話すの無理だ」

  「あ、今ガキ扱いしただろ!」

  「ああ、した。大体、大人になりたいとか、ちゃんとしたいとか、そういう発想がガキみてえだぞ」

  「んだとー!」

  風丸の大きな声に、再び周囲の視線が突き刺さる。風丸と純心は、揃って笑顔で頭を下げた。

  「そもそも、アレだ。無理して背伸びする必要ねえだろ。なるべき時がきたら、皆、大人になるんだよ。そういうもんじゃねえか?」

  「まー、そーかもだけど。それを同級生に言われると、なんか、嫌だ。しかも、俺の方が半年くらい早く産まれてるのに」

  「だからぁ、そういう発想がガキっつったろ」

  「う・・・・・・そー、だな・・・・・・ま、確かに、悩んでも仕方ねーか」

  「そうそう。真面目に勉強やって訓練やってりゃ、普通に大人になるだろ」

  「そーだよな・・・・・・うん、そーだな」

  釈然としない様子で、風丸は頷いた。

  時期が来れば、自分はしっかりとした大人になれるのか。それは分からない。

  「でも今日は、もう止めるか。集中力が限界だ」

  純心は資料を抱えて立ち上がった。

  「うん」

  風丸はほっとして、重い資料を閉じた。

  今日のノルマは達成していたが、純心が残っていたので、帰りづらかったのだ。

  「でも、まだ眠くねえな。明日も休みだし。スマブラするか」

  「ああ!瀞と志龍も呼ぶか?」

  「あいつらもそろそろ、トレーニング終わるだろ。ライン送っとくわ」

  先程の悩みはどこへやら。

  風丸はぱっと顔を綻ばせ、子供っぽい表情でウキウキしながら後片付けを始めた。

  そして、それは純心も同じだった。

  同じく地下6階、射撃室にて。

  100メートル平方もある灰色の空間に、次々と的が出現していく。

  サッカーボール程の大きさの的は、現れると上下左右を動き回り、射手をかく乱する。複数が同時に出現することもあり、5秒も経てば隠れてしまうのですぐに命中させなければならない。

  元々は遊戯としての射撃ゲーム用に作られた施設だが、獣人兵士が訓練時間外でも射撃訓練が出来るよう、人間では対応できないほどの難易度が追加されたのだ。実弾は使用できないが、練習には申し分ない。

  部屋の端には射手が立つカウンターがあり、そこにはゴーグルとイヤマフを付けた狸、理理がライフルを構えていた。理理は冷静に、現れる的に弾を命中させてゆく。

  的は出てくる場所もタイミングもランダムで、予測は出来ない。また、的によっては高速で移動する個体や、1発では倒れない個体も存在しており、全てを射貫く事は獣人でも困難である。

  しかし理理の射撃は正確で、テンポよく的を打ち倒していく。リロードも手慣れており、ミスなくゲームが続いていく。

  (すごいなぁ。私が理理と同い年の時は、絶対出来なかった)

  そんな理理の射撃に見とれているのは、カモシカの空である。一足先に射撃を終えており、今は後方の椅子に腰かけて部下の技術に感心していた。

  (でも、ここから難しくなるからなぁ)

  やがて、的の速度や出現数も増えた。ゲームが終わりに近づいているのだ。人のイラストが描かれたダミーの的も現れ始め、徐々に銃撃の精度が落ちていく。

  (まぁ、しょうがないもんね)

  そして、訓練終了を知らせるブザーが鳴り響き、的が全て落ちた。

  「あぁ、もう!」

  理理はライフルを置くと、イヤマフとゴーグルを外し、悪態を吐いた。カウンターに置いてあるタブレット端末には、“撃破率83%”と表示されている。これは、理理が満足出来る結果ではなかった。

  「お疲れ様。いい結果だったんじゃないの?」

  「どこが。嫌味言わないで」

  空が優しく声を掛けるも、理理は辛辣な態度で言い返し、部屋の隅にあるラックにライフルを置いた。

  「あんたの方が4%も上じゃん」

  理理は空の隣に座ると、その手からお茶が入ったボトルを取り、一口飲んでため息をついた。

  「私が理理と同じ歳の時は、あんな射撃出来なかったよ」

  「大事なのは昔じゃなくて今でしょ」

  励ましの言葉を投げかけても、理理は喜ばない。

  空よりも2つ年下の理理は、最年少で獣人兵士となった。非常に負けん気が強く、年上の兵士に遅れを取るものかという対抗心を秘めている。向上心も高く努力家だが、それ故に少々取っつきにくい性格だ。偶然二人っきりで射撃訓練をすることとなり、これは仲を深めるチャンスだと空は考えたが。

  (どうしようかな・・・・・・理理って話しかけても全然会話が続かないし。流行りのドラマとか漫画の話しても、感想を二言くらい言って、終わっちゃうし)

  副隊長となり部下を持つ身となった空は、隊員全員の性格を把握し、親睦を深めようと努めてきた。朗らかで心優しい空にとって、それは決して難しいことではない。隊長である零とも、年上に部下である陸とも、すぐに打ち解けることが出来た。だが、人生初めての年下の部下である理理とは、親しいとは言えない仲である。

  (任務ではちゃんと真面目に行動するし、指示も聞いてくれるけど。やっぱり、仲良くなるに越したことはないよね。零さんは、別に良いじゃんって言ってたけど)

  空はふと、理理が使っていたライフルのことを思い出した。

  H&K XM8。プラスチック素材を多用し、人間工学に則って設計された、特殊部隊のためのライフルである。非常に軽量で精度も高い。

  (趣味のことで盛り上がれば、きっと仲良くなれるよね)

  以前空は理理に趣味について聞いてみたが、特にないと冷たく返された。

  そこで空は、一つの仮説を立てた。もしかしたら理理は、教えることを躊躇ってしまうような、“女の子っぽくない趣味”を持っているのではないか。そして、その“女の子っぽくない趣味”とは、正に自分と同じ趣味なのではないだろうか、と。

  (もしかして、理理も銃のこと大好きだったりして)

  空の脳内に、XM8を構えて微笑む理理の姿が思い浮かんだ。古今東西名銃に囲まれ、コンバットマガジンの表紙を飾る理理の姿が。

  「ねえ、理理」

  「何?」

  「どうしてXM8を選んだの?」

  「え、それは・・・・・・」

  「やっぱり、撃ちやすいし、軽いから?プラスチックを多用しているもんね。現場の声はあまり良くなかったみたいだけど、でも、自分が使ってみて、撃ちやすいと感じたら、その銃を使うべきだよね」

  「まぁ」

  「でも私は、プラスチックの銃は、なんか、しっくり来ない感じがして。金属でできた銃の、この、重量感というか。だから私は、SIG SG 552を選んだの。ハンドガンもそれに合わせて、シグザウエルP229にして。USPもよかったけど、やっぱりそこは、ライフルとメーカーを合わせたいし、ハンドガンも金属性でいきたくて。あと、USPは、マガジンキャッチが、何か“これじゃない”って感じがして。あとシグザウエルは、安全装置がないのが、かっこいいって思って。安全性を考えたら、あった方がいいけど、そこはほら、私が銃に慣れればOKだし。使いこなせれば、こっちの方がいいでしょ。抜けばすぐに撃てるし。ん、ああ、プラスチックの銃は使いたくないってわけじゃないの。金属の方が好きってだけで。実際に、グロックもいいなぁって思って。でもでも、こう、シグザウエルの無骨な感じのデザインも好きで。いや、外見のかっこよさで銃を選んだわけじゃなくて、

  私はちゃんと、シグザウエルの性能が良いなって思ったの。でもちょっとは外見も気をかってもいいよね。外見ばかり気にして性能がダメな銃を選ぶのは、もちろんいけないけど。ただ、その、シグザウエルの外見が好きだから選んだんじゃなくて、性能が好きになったから外見も好きになったのかな。グロックはなんかすっきりしすぎてるし。外見と言えば、ベレッタM92Fは有名で、外見もすごく特徴的だけど、私にはちょっと重くて大きすぎて。そもそも、米軍のトライアルではシグザウエルのライバルだったから、なんとなく選びたくないような・・・・・・」

  つい熱弁を続けてしまっていた空は、いつの間にか理理がスマホの画面に集中していることに気付いた。

  おそらく、自分の話は、少し前から聞いていないだろう。

  「理理って、銃、好き?」

  「嫌いじゃないけど。あんたみたいな、オタク並に好きってわけじゃないかな」

  「XM8を選んだ理由は?」

  「渡されたのがこれだったから」

  「ふうん」

  どうやら、理理は銃について語り合うことが、好きではないみたいだ。

  別の話題を振ろうとしたが、心なしか理理の表情が怒っているように見えて、出来なかった。

  “くだらないことをベラベラと。やかましいから黙っていて”

  そう言われている気がした。

  距離を縮めるどころか、前より遠のいてしまった部下を前にして、空は一人落ち込んだ。

  (そういえば、冷めた性格の部下と距離を縮めようと頑張る中年サラリーマンの漫画があったっけ。こういう事なのかな)

  そんなことを考えつつ、空は再び射撃をしようと立ち上がった。

  その時。

  「ふうううう」

  背後から何者かに抱き着かれ、首筋に生暖かい吐息が吹きかけら、小ぶりな胸を鷲掴みされ、揉みしだかれた。

  「ぃいやあぁぁぁぁぁぁ!!!」

  奇襲に仰天した空は、背後にいる相手を振りほどきつつ、強力な回し蹴りをお見舞いする。しかしそれは空を切り、バランスを崩した空は勢い余って転倒した。

  「もー、そんな殺気100%の蹴りを打ち込むことないのに。殺す気?」

  そんな空の顔を覗き込んでくるのは、灰色の猫の顔だ。

  「京香さん・・・・・・セクハラですよ!」

  「女同士だし」

  「女同士でもセクハラはセクハラです!」

  「それにしても、空」

  満面の笑みだった京香は、不意に真顔になった。

  「ど、どうしたんですか?」

  「すっごくありきたりなこと、言っていい?」

  「何ですか?言ってください」

  「胸、すっごい小さいね」

  「え・・・んな!ちょ!はぁ!ええ!?どーしてそんなことゆーんですか!!??」

  「どうして、と、言われても、小さいし」

  「気にしてるんですよ!!」

  「やっぱりしてるんだ。ごめんね」

  「もう!」

  「しっかし、純心が言っていたとおりだね」

  「純心が、何か、言っていましたっけ?」

  「空の胸、陸君より小さい」

  「そんなことはさっさと忘れてください!!」

  「下手したら氣雷よりも小さいかも」

  「そんなことありません!!仮に小さかったとしても、あの二人は大胸筋がすごくて!胸板が厚いからです!!」

  「いや、トップとアンダーの差も・・・・・・今度比べてみる?」

  「そんなことしません!!」

  怒る空と、それを面白そうにからかう京香。二人の言い合いを無視し、理理はスマホのゲームに集中していた。

  「それより、京香さんはどうしてここに?銃は好みじゃないはずじゃ」

  「うん。銃を撃つ気はないよ」

  京香はカウンターへ向かい、タブレット端末を操作し始めた。

  (あれ?)

  カウンターには、京香が持ち込んだものであろうか、大きなジュラルミンケースが二つ置かれている。京香はタブレットの操作を終えると、ジュラルミンケースをカウンターの上に乗せ、中に入っている武器を並べ始めた。

  それは、銀色に輝く十文字の手裏剣だ。忍者が大好きらしい京香は、忍刀や苦無だけでなく、手裏剣までも任務に持参する。銃弾よりもかさばるため大量に持ち歩くことが出来ず、威力に精度、連射力も銃に劣り、不安定な体勢では放つことさえままならないと、弱点が多いのだが。

  (あれ、本物?実弾使用禁止だから、刃物もだめなんじゃ)

  「にゃーっにゃっにゃっにゃにゃーにゃー、にゃーにゃーにゃーにゃにゃーにゃー」

  空の心配をよそに、猫の啼き声のような鼻歌を奏でつつ、京香はカウンター一杯に手裏剣を並べていく。

  「何の歌ですか?」

  「スキャットマン」

  「あ、猫の歌なんですね」

  「ううん、猫、全然関係ないよ。おじさんが歌ってる」

  「あ、そうねんですね」

  京香が準備を整えると、ゲーム開始のブザーが鳴った。

  京香は即座にカウンターの手裏剣を取ると、小さく振りかぶって投擲する。それは矢のように飛来し、天井から出現した的の中央に命中した。

  (はやっ!)

  手裏剣を手に取って投げるまでがとても速い。洗練された動きは無駄がなく、流水のように滑らかだ。

  その後も的が次々と出現していく。京香はカウンターの手裏剣を取り、投げ続けた。

  (すごい・・・・・・)

  (うっそ・・・・・・)

  高速で飛び回る、小さく身軽な蠅を叩き落すかのように。京香は左右の手で手裏剣を投げ、次々と的を倒してゆく。拡大した瞳孔は、的を一つも逃さない。

  手裏剣を投げる身体速度もかることながら、驚異的なのはその反応速度だ。的が出現すると同時に場所と距離を捕らえ、僅かでも動けば標準を修正し投擲する。そして放たれた刃は、一寸の狂いもなく京香のイメージ通りに進み、的の中央に命中した。

  (銃よりも、すごいんじゃ)

  (数年の経験で、こうも違うの?)

  空も理理も、京香の手裏剣術に見とれていた。これほどの技量を見せつけられれば、感嘆せずにはいられない。

  精度は技量で、連射は身体能力で補っている。威力も、刃に毒を塗れば容易に改善できる。京香には、銃はいらないようだ。

  やがてブザーが鳴り、ゲームは終了した。撃ち漏らしはなく、撃破率は100%である。

  (私も副隊長だから、早く京香さんみたいにならないといけないんだろうけど)

  隊長という存在は、強ければ良いというものではない。統率力や判断力が無ければ、部下を纏め的確な指示を出すことなど出来ないだろう。だが戦闘が任務である以上、やはり戦闘力も必要である。自分の命も、部下の命も、戦う力を持たない人々の命も、守らなければならないのだから。

  (強いってだけで、拠り所にできるような安心感や、仲間を引き付けるカリスマ性も産まれるし。和虎隊長とか、正にそうだったもんね。私も、あんなふうにならないと)

  「空、理理。お願いがあるんだけど」

  憧憬の眼差しを向ける空に、京香はいつもの笑顔で振り返った。

  「なんですか?」

  「手裏剣の回収、手伝って」

  「え?」

  「訓練用の弾は回収してくれるんだけど、流石に刃物はダメみたいで」

  京香の顔と声には、申し訳ないとか、そんな謝罪の念が込められていないように見えた。しかし、優しい京香は断らない。

  「分かりました」

  だが、理理は空ほど優しくない。

  「自分でやって」

  スマホをいじりつつ、部屋から出ようとした。

  すると。

  「お願いぃん」

  一瞬で理理の背後に移動した京香は、理理に背後から抱き着いて両胸を掴んで揉みしだき始めた。

  「あぁん!!ちょ、やめてよ!!」

  「上官の命令を無視した罰」

  理理は激しく暴れるが、京香は獲物に食らいつく蛸のように手足を絡ませており、放れない。

  「いやっ!!放して!!放せ!!」

  「意外と可愛い声」

  「うるさい!!放してってば!!」

  「されたことないの、こーゆーこと」

  「放せって言ってるでしょ!!」

  「あ、胸、大きい」

  「やめて!!」

  「りりー。かーわーいーいー」

  「ちょ!!空!!助けてよ!!」

  「京香さん、放れてくださいよ。理理が可哀そうです」

  流石にこれ以上はやりすぎだと、空は京香の肩に手を伸ばすが。

  「え?」

  京香の姿が不意に消えた。

  猫獣人の身軽さと俊敏さを最大に活かした京香は、一瞬で理理から離れて空の背後を取り。

  「えい」

  空の胸を再び掴んだ。シャツをめくりあげ、スポブラ越しに小ぶりな胸に指を這わせて。

  「きゃあああああああああああ!!!!!」

  銃声に負けない絶叫が、射撃室に響き渡った。

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  (こ、これが・・・・・・意外と、履き心地、いいんだな)

  トレーニングを終えた瀞は、一人、大浴場の更衣室にいた。

  鏡の前に立ち、“それ”を履いた自分の姿を鏡に映してみる。そこには、初めて見る自分の姿があった。羞恥心もあったが、それ以上に初体験独特の緊張感と高揚感がある。そして、自分が少し雄々しくなった気がして、嬉しさもこみあげてくる。

  (へぇ、意外と違和感ないというか、フィット感も良いな。お祭りとかでこういうの、はいてみたいかもな)

  瀞の股間部に身につけられた“それ”の正体。それは、六尺褌であった。氣雷が愛用しているものである。

  獣人が着る衣服を開発する衣服メーカー“matoi”は、尻尾を圧迫せずに着用できる下着をBATから要望され、褌の試作品を開発した。伸縮性と通気性に優れており、その評価は高かった。しかし、尻尾用の穴をボタンで調節出来るトランクスや、ゴムを尻尾の付け根に引っ掛けて安定させるブリーフなどが開発され、すぐに廃れてしまったのだ。

  しかし、一部の愛好家からは絶賛され、使用されている。氣雷も、褌を愛用している数少ない獣人の一人だった。matoi社製の褌は最高だ、と、常々言っている。

  瀞は志龍や純心、風丸と共に古臭いと馬鹿にしていたが、普段履くことがないこの下着を身に着けてみたいという、耐えがたい欲求に突如襲われてしまった。そして、その欲求に従い身に着けてみたのだ。

  この褌の持ち主である氣雷は、志龍と和虎とともに、まだサウナに入っている。サウナから出た後は水風呂に浸かって体を冷やすだろう。つまり、あと3分は出てこないはずだ。

  (これで刀持ったら、武士だな。無明逆流れ、ってか)

  漫画のキャラクターのモノマネをしばらく楽しんでいたたのしんd瀞だったが。

  (でもこれ、洗濯しているとはいえ、氣雷さんが履いていたんだよな)

  褌であるが故に、トランクスやブリーフよりも体に密着している。

  (う・・・・・・氣雷さんの褌なんだから、氣雷さんのあれが密着してるんだよな、これ)

  一度でもそれを意識してしまうと、もう頭から離れない。

  (脱ごう。体毛乾かすのにも時間かかったし、志龍たちももう出てくるだろうしな)

  瀞が褌を脱ごうとした、その瞬間。

  大浴場に通じる扉が開いた。

  そして湯気の向こうから、全裸の獣人が全身から湯を滴らせながらのっそりと現れた。

  褌の持ち主である、氣雷が。

  いつもと違ってサウナからすぐに出て、水風呂に浸からず冷水のかけ湯で汗を流してしまったため、瀞の予想よりずっと早く脱衣所に来てしまったのだ。

  そして氣雷は見た。

  自分の褌を着用している瀞の姿を。

  両者は目が合い、そして・・・・・・。

  「うぃぃぃあぁぁぁぁぁぁ」

  サウナで火照った肉体を冷水に沈め、心身が冷えていく快感に思わず声を上げる志龍。

  「大丈夫か、今にも倒れそうだが」

  そんな志龍を心配そうに眺めつつ、和虎はかけ湯で汗を流しつつ聞いた。

  「大丈夫っす」

  「ならいいが」

  汗を流し終えた和虎も、志龍と同じくサウナで火照った体を冷やすため水風呂に身を入れた。

  「ふう・・・・・・」

  「はあ・・・・・・めっちゃ気持いいっすね」

  「そうだな」

  体を冷やし終えた二人は、並んで湯船の淵に並んで腰かけ、足だけを水に浸した。風呂から上がるには、もう少し体を冷やすべきと考えて。

  「それにしても、和虎さん、体柔いですね。京香さんみてえ。あんなにマトリックスみたいに、上半身反らして躱すなんて」

  志龍は和虎との組み手のことを振り返り、口を開いた。

  「虎もネコ科だからな」

  「一発も当たらなかった。やっぱ、モーションで読まれますかね」

  「そうだな。次の攻撃が分かる」

  「気を付けてるんですけどね」

  「だが、最後の突きは読めなかった」

  「咄嗟で、あれを避けたんですか」

  「ハンドスピードも上げるべきだ」

  「そうですね」

  志龍は和虎の上半身に視線を落とした。水がしたたり落ちる虎の体毛は、鎧のような筋肉で覆われている。

  「何だ?」

  「いや、筋肉、氣雷さん並みにすげえなって」

  「まぁな。悔しいが、筋肉量はあいつの方が上だ。背丈は俺だがな」

  「俺も、ガタイがあればなぁ。ガードされても、崩せるくらいに撃力があれば。逆に、相手の攻撃をガードして耐えられるくらいに。リーチも伸びるし」

  「こればかりは、どうにもならん。生まれつきだ」

  「そっすね」

  「分かっているとは思うが、必要以上に筋肉をつけても動きが鈍るだけだぞ」

  「分かってますよ」

  志龍は天井を仰いで呟いた。少し、寂し気に。

  「純心が羨ましいな。あれくらいでかけりゃ」

  そして志龍は、再び和虎の肉体に視線を落とす。羨望の眼差しで。

  和虎はそんな志龍に腕を伸ばし、肩を掴んだ。

  「俺の師匠も、お前と同じくらいの体格だったぞ」

  「師匠?ああ、氣雷さんから聞いたことがあります。前の07部隊の隊長の、清美さん、でしたっけ」

  「ああ。俺は彼に一度も勝てなかった。自分よりも細くて小さい相手に、何度挑んでも負かされた」

  「マジですか」

  「要は、技量と知識と経験だ。お前もそれくらい、強くなってみろ」

  「ええ。和虎さんの顔面に1発ぶち込めるくらいには、強くなりますよ」

  寂しさを吹き飛ばすような笑顔で、志龍は笑った。

  「それより、和虎さんの身軽な動きは、参考になりますから、また相手してください」

  「組み手の相手ならいいが、助言とかはあまりできないぞ。言葉で説明するのは苦手でな」

  「いいですよ、見て盗みますから。氣雷さんも、口で説明するの、苦手なんですよね」

  「あいつが隊長だと、苦労するだろ」

  「大変ですよ。副隊長も、京香さんですから。おまけに、純心もいるし。こないだの任務では、氣雷さん、民家をぶっ壊して報告書書かされてました」

  「全く、変わらないな、あいつは」

  「あの強さは、頼りになりますけどね。でも、隊長らしさは、和虎さんの方が高いですよ。貫禄あるし、年上に見えるし」

  「・・・・・・お前、それは、老けてる、ということか」

  「ぅえ!?いや、そうじゃなくて!!風格的な、そういう意味です!!」

  「そうか、ならいい」

  「筋肉量も、和虎さんの方が上じゃ」

  そう言い、志龍は再び和虎の体、特に大胸筋に視線を向けた。

  「なんだ?そっちの気があるのか?」

  「違います!ただ、空の胸は陸さんより小さいって、純心は言ってましたけど、もしかしたら、和虎隊長の胸よりも小さいかもって思って」

  「そんなくだらないことを考えていたのか」

  「和虎隊長、大胸筋すげえから。フックやアッパーが得意なボクサーは、その筋肉が重要って聞いたことあるけど」

  「確かにアッパーは得意だが」

  「下段からの切上が得意ですもんね」

  「氣雷から聞いたか」

  「いえ、氣雷さんとの試合見てたら分かります。瀞と試合した時も、切上が特にすごかったし」

  「大した眼力だな」

  「あと、太腿の筋肉もすごいですね。格闘戦では、膝のバネも大事ですからね」

  「ああ、上半身と同じくらいにな」

  「それと、和虎さん、チンコめっちゃでかいですね」

  「お前・・・・・・小学生か」

  「ここも氣雷さんと同クラス。でも、氣雷さんと違って剥けてますね。氣雷さん包茎で、それをすげえ気にしてるんですよ」

  「まだ気にしているのか。股間も心も成長してないな」

  「あ、やっぱり前からなんですね」

  「ああ。昔、俺があることで氣雷から馬鹿にされまくっていた。その時反撃で包茎のことを言い返したら、逆切れして襲い掛かってきたんだ」

  「マジか・・・・・・結構馬鹿なんですね。氣雷さんって」

  「大馬鹿だ」

  「俺も剥けてるから、妬まれて大変なんです」

  「大馬鹿な隊長を持つと、部下が苦労するな」

  「そう言えば、氣雷さんから馬鹿にされまくっていた“ある事”って何なんですか」

  「聞かない方が良いと思うぞ」

  「は、はい・・・・・・」

  和虎に凄まれ、志龍は背筋が冷たくなった。

  「もう体も冷えましたから、でましょうか」

  「そうだな」

  二人は揃って水風呂から上がり、水気を払って脱衣所に向かう。

  しかし、スライド式の扉に志龍が手を伸ばした時。

  『馬鹿野郎!早く脱げ!』

  『分かってます!でも、ほどけなくて!』

  『だぁー、もういい!俺が脱がしてやる!』

  『いいですから!一人で脱げますから!』

  『そう言いながら、脱げてねえじゃねえか!』

  扉の向こうから、瀞と氣雷の声が聞こえてきた。

  「何してんだ?」

  志龍が扉を開ける。そこには。

  「あ」

  「う」

  褌一丁の瀞と。

  瀞の前に跪いている裸の氣雷の姿がそこにあった。

  「う」

  「お」

  瀞が身に着けているのは氣雷の褌であり。

  氣雷の顔の前には丁度瀞の股間が。

  「二人とも、落ち着いて」

  「違うからな、これは」

  瀞と氣雷は、冷静にこの状況を伝えようとした。瀞が興味本位で身に着けた褌が絡まってぬげなくなってしまったため、氣雷が脱がせようとしているだけなのだと。

  しかし、二人は志龍と和虎の表情を見て、説明が通じないことを悟った。

  志龍は邪悪な笑みを浮かべ、和虎は感情のない表情をしている。

  (志龍の奴、馬鹿にできるネタが増えたって喜んでやがる!)

  (和虎の野郎、何考えているか分からねえ!)

  犬と獅子は、親友の変化を敏感に感じ取り、しかしどうすべきか分からず動けずにいる。その時。

  「おーい、瀞、志龍」

  「もう出たか?スマブラやろう、ぜ・・・・・・」

  暖簾を潜って、風丸と純が脱衣所に入ってきた。そして。

  「う、うわー!」

  「き、氣雷さんが瀞に〇〇〇しようとしてやがる!」

  風丸は叫び、純心は眼前の光景を改悪して周囲に広めようとするかのように叫んだ。

  そして純心は、ポケットからスマホを取り出し証拠をカメラに収めようとする。

  「させん!!」

  「うぼあ!!」

  そうはさせまいと、瀞と氣雷はそろって純心に走り、強烈な飛び蹴りをお見舞いした。

  二人の勢いは凄まじく、純心を吹き飛ばしつつ廊下まで出てしまう。

  「下らねえことしやがって」

  「馬鹿野郎が」

  氣雷は廊下に倒れた純心の胸を踏み、瀞は純心のスマホを遠くに蹴とばした。

  純心のスマホは廊下を滑っていき、そして、その先にいた灰色の猫の手に渡った。

  「あ」

  「は?」

  純心のスマホを拾い上げた京香は、素っ裸で廊下に立っている氣雷と瀞の姿を写真に収めた。

  京香の後ろには、空と理理の姿があった。

  理理は汚物を見るような視線を二人に向けている。

  一方、空は、瀞と氣雷の股間を目にして口を抑えている。

  その時、瀞は気付いた。純心へ蹴りを打ち込んだ際に褌が外れており、自分も全裸になっていることに。

  「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

  瀞へ向かって跳び、胸に後ろ蹴りを打ち込んだ。

  直撃を受けた瀞は氣雷にぶつかり、二人はそろって吹き飛ぶ。

  「ぐっ!」

  裸の氣雷が仰向けに倒れ。

  「うっ!」

  そこに裸の瀞も落下した。

  偶然にも、両者の唇と唇が、衝突した。

  アアアアアアアアアアアアアア・・・・・・

  獣の咆哮が、夜の基地内に響き渡った。