とある学園の一角。
そこに「何か」が現れようとしていた。
今はまだ現れてはいないが、間もなく「現れようと」している。
確かな事はそれが「現れた」ならそれがさまざまな災禍を引き起こす事である。
それに気づき対処しようとする者はいない。
そもそもそれ自体誰にも気づかれるはずのない事なのだ……そう、本来なら。
図書室で調べ物をしていた木房斎奈は衣服のポケットから「知らせ」を伝える震えを受けた。
マナーモードにしてあるとは言え、つい辺りを見回しつつ即座にその端末を取り出す。
「この学園の中に……急がないといけないわね」
そう言いながら改めて周りを見回す。
幸い自分以外には誰もいない。
端末も図書室周辺に人の気配がない事を示している。
「それじゃ、いきます!」
元平志乃が「知らせ」を受けたのはちょうど友人達と談笑していた時だった。
「―ごめん、ちょっと外させて?」
そう言ってその場を離れる。
さすがに生理現象となると引き止めるのも酷ではあるし幸い志乃の友人関係はその辺りでは穏やかである。
「授業中でないだけマシ、だよね……」
そう言いながら密かに外に出る。
そして反応があった近くの影に隠れる。
端末は人の反応を示してはいない。
「「出る」前に―決めるよ!」
時を同じくして特奈と志乃は特殊な操作で端末を起動すると端末は彼女達だけが持つ特別な形に姿を変える。
斎奈はやや恥ずかしげに、志乃は何か振り切る様な仕草で端末を握っている。
そして、その画面が起動表示を映すと同時に二人の姿はその場所からかき消えた。
[newpage]
斎奈と志乃の姿は不思議な空間の中にいた。
さっきまで二人がいた世界と何かがいる世界の間の空間。
二人はそれぞれ別の場所でそこにいる。
今の所は互いがこの空間に入っている事さえ知らないだろう。
そんな空間の中で二人は端末だけを握った姿―それ以外は何も身に着けないで立っている。
斎奈のちょっと見るとモデルの様な整った肢体。
志乃の適度に肉付が良く出る所は出ているライン。
その全てがありのままに現れている。
(ここにはわたしだけとわかっていても……ちょっと恥ずかしい)
(うう……お風呂場で脱いだと思えば!)
斎奈の顔には恥じらいの色が増し、志乃も自分しかいないからこそより恥ずかしさを振り切ろうとする。
(どちらにしても早くしなくちゃ!)
(急いで片付ける!)
突然二人の腹部、ちょうどへそのあたりに四角い基盤の様なものが現れる。
それが二人のむき出しのへそを隠すとその両端から黒い帯が腰を一周する様に伸びるとぴっちりと締め付ける。
(きゃっ……)
(あっ……ちょっときつく締めすぎ……)
裸の腰を直接締められるきつさに声を上げるがそれをこらえつつ端末を基盤―ホルダーの中に組み込む。
基盤側とホルダーの画面側が合わさり、次なるシークエンスが動き出す。
(来たわね……)
(無いよりはマシね)
二人の目の前に現れたのは顔全体を隠すマスクだった。
ゴーグルとフェイスガードが一体化した様なスッキリとしたデザインで、ゴーグルの中にはツインアイ状の目が見える。
斎奈のマスクは青、志乃のマスクは赤い目だ。
二人はそれを手に取ると徳奈はそっと顔に添わせ、志乃はおもむろに顔に当てる。
「あ……」
「んっ……」
素顔にマスクがピッチリと吸い付いていく感覚。
その直後、顔だけを覆っていたマスクが二人の頭全てを覆い隠す。
斎奈の長い髪も、志乃のセミショートの髪も引っかかる事なくマスクの中に消えていった。
全裸に顔、そして頭全てを隠すフェイスガード風のマスクと言う異様な姿となった二人。
そのへそに付いているバックル―に接続された端末はさらに二人を変えていく。
「あっ」
「きゃっ」
マスクに隠された素顔が更に何かに覆われていく。
顔が、髪がさらに覆い隠され埋もれていく。
それは二人の顔を覆い尽くすとマスクから染み出すように首から溢れ出す。
斎奈は銀色、志乃は金色。
二人の肌がみるみる染まっていくかの様に覆われていく。
「あ……」
「あ……」
首筋からうなじ、鎖骨を経て肩から腕と胸に分かれて銀と金が覆っていく。
腕が、背中が、胸が。
「あん……」
「あっ……」
その胸の膨らみがきれいに包まれた時二人は甘い声を上げる。
二人の体は更に覆われていく。
腕から指先へ、背中から腰へ、胸からみぞおちへ。
そしてベルトに縛られた腰へ。
そこをくぐり抜けると……。
「あっ」
「きゃんっ」
その足の間で覆い続けるものが繋がり、軽く引き締められた瞬間二人は「女性として」声を上げる。
あとは一気に太ももから膝、ふくらはぎを通り足先まで覆われる。
斎奈は銀色に、志乃は金色に体を覆い尽くされた。
顔全体をぴっちりと覆うフルフェイスのガードマスクとその中の顔までぴっちりと包む全身スーツ姿はより鮮明に現れる体のラインもあり全裸とはまた違うなまめかしさと美しさを感じさせる。
(この姿、ちょっと恥ずかしいけど……)
(裸でマスクよりはマシ……よね)
それぞれに思いにふける二人だが、変化はまだ終わってはいない。
突然二人の体にいくつもの装甲があてがわれる。
胸にシンプルだが丈夫そうな胸当てが装着される。
「あんっ」
「あっ」
胸にフィットしながらも押し込むような感覚に再び声を上げる。
ベルトのバックルの下部から黒い帯が伸び、足の間をくぐると後部のベルトと癒着してきゅっと締める。
「ひゃんっ」
「きゃんっ」
斎奈と志乃は再び「女としての」声を上げる。
手の甲と足元から手甲とシューズが現れ、肘や膝まで伸びる。
その姿はSF系アクションのキャラクターの様であり、手足と体、そして顔を覆う装甲からインナーに覆われた女性のラインが映えずにはいられない。
もちろん「何か」のいる空間に飛び出して迎え撃つ為に二人はこの姿となっているのだが……。
(あとは……恥ずかしいけど……)
(そうしないとダメだものね……)
それぞれの空間で二人は思う。
シークエンスはまだ終わらない。
あと一つ、二人を戦う姿に変える為の最後のひと押しが……。
来た。
[newpage]
「きやあっ!」
「ひゃあっ!」
身体を覆うスーツが引き締める様に縮れ込んでいく。
装着されたアーマーやマスクも締め込んでいく。
その中、二人の体の中で高密度・超高速でエネルギーがオーバーフロー寸前の勢いで駆け巡る。
体中の細胞や神経が溢れんばかりにはちきれる内側の膨張感。
そしてそれを押し込むように覆うインナースーツとマスク・アーマーの圧縮感。
このせめぎあいにただ声を上げるしかなった二人だったが、次の瞬間その爆発的な勢いは少しづつ清冽な急流、そして渦へと変わっていく。
(ああ……この感じ……)
(来た……気持ち良くなる……)
スーツの中の生身の体が渦に揉まれていく。
その渦の中で全身が文字通りほぐされ洗い流されていく。
(ああ……気持ちいい……とけていく……)
(あん……たまらない……ながれていく……)
身体がエネルギーの渦と一つになるのを感じながら斎奈と志乃は歓喜のなかにいた。
身体がおぼろげになっていく。
頭の中がおぼろげになっていく。
自分が誰かさえわからなくなっていく。
ただ―気持ちいいと言う感覚だけ。
(わたし……だれ……きもち……いい……)
木房斎奈
きのふさ ときな
きのふさ とき
きのふさ と
きのふさ
きのふ
きの
き
……
(これ……なに……ああ……ああ……)
元平 志乃
もとひら しの
もとひら し
もとひら
もとひ
もと
も
……
エネルギーの渦に揉まれながら二人の意識は消えていく。
そしてスーツ越しの身体もまた新たな姿に変わっていく。
細くしなやかな手足がたくましくしっかりした形に。
胸当て一杯に塞がれた胸の膨らみが圧力はそのままに小さくしぼみながら胸筋へと変換されていく。
女性の身体そのものが変換されているのか、それとも上書きされているのだろうか。
ただ言えるのは二人の「戦う姿への変換」は最後の段階を迎えていると言う事である。
「ああ……ああ……」
(あっ……ああっ……アアッ……ア―)
…
あ
あむ
あむず
アムズ
「うう……ううう……」
(あん……あぁん……アン……アア―)
…
ら
らぷ
らぷる
ラプル
頭の中で戦士として、この先の世界での自分達としての名前が刻まれていく。
二人の姿、そして声は今や凛々しくたくましい青年のものとなっている。
「素体」だった女性としての意識、そして声は感情を失いながらその奥に消えていったのだろうか。
それを確かめる間もなく二人の戦士―アムズとラプルは狭間の空間の外に姿を表す。
そこは一見外の世界と代わりはない空間。
しかしそこには人、そして生命の気配はない。
ただ「何か」がそこで蠢き、外の世界に現れようとしている。
そこに「新たな気配」としてアムズとラプルは現れた。
「何か」を止める者として。
「行くぞ!」
実体化したアムズは勢いよく図書室の窓から飛び出すと「何か」を目掛けて宙を舞う。
「行くぜ!」
ラプルもまた物陰から飛び出し「何か」に飛びかかる。
[newpage]
宙を舞いながらアムズはベルトに右手をかざす。
―ア―
外には聞こえない電子音と共に彼の手に一振りの剣が握られる。
そして抜刀からの勢いのまま、
「はぁぁぁーっ!」
―アアア―
と声を上げて「何か」の一体を真上から切り倒しながら着地する。
だが、それに反応した別の「何か」が着地直後のアムズの背後を狙う。
「やあぁっ!」
ーアア―
即座に振り向きながら真下から斬り上げる。
一刀に切り捨てられた「何か」達は一瞬で霧散する。
その度にアムズの体の中をエネルギーの波が走る。
それは彼を戦いに動かす力でもある。
そしてその度に電子音も小気味よいリズムで響いていた。
そこにまた別の「何か」が襲いかかる。
「はっ!」
寸前で横飛びしてかわすとアムズは手にした剣に手をかける。
―ア―
その形が銃に変わるが早いか、その銃口を「何か」に向ける。
―ア・ア・ア・ア・ア・ア・ア―
フルオートの連射を打ち込まれた「何か」はそのまま霧散する。
「最初からかなりの歓迎だな……少々手こずりそうだ」
銃を剣に戻す間を惜しみつつアムズはさらなる敵に向かう。
「うりゃあっ!」
―ア―
「せりゃあっ!」
―ア―
ラプルの声と電子音が響く度にガントレットに覆われた拳がうなり、「何か」を打ちのめしていく。
一発、また一発。
リズミカルに叩き込まれる拳が「何か」にダメージを積み重ねていく。
「うおりゃっ!」
―アアア―
拳を改めて握り直し集めた力を一気に拳から「何か」に打ち込む。
「何か」の姿は打ち込まれた場所から静かに消えていく。
「でやぁっ!」
―アア―
その手応えを感じるのを惜しむ様にラプルのバックステップからの肘打ちが別の「何か」に突き刺さる。
バランスを崩して倒れ込む「何か」に肘打ちの姿勢からそのまま押し込む。
そこに数体の「何か」が襲いかかるが、ラプルは押し込んだ肘を軸にすると足に力を注ぐ。
「うりゃりゃりゃりゃーっ!」
―アアアアアアア―
勢いの良いラプルの叫びと無機質な電子音のコーラスと共に突如現れた足技の渦。
それに巻き込まれ、「何か」の群れは切り裂かれながら消えていく。
「いっちょ上がり―とは行かないようだな」
蹴り回しの体勢から宙返りをして着地しようやく一息ついた声に安堵はない。
倒したのはまだ第一陣と言う所か。
まだ「何か」が現れる反応がバックルにつけた端末から伝わるのを感じつつラプルは拳を打ち付ける。
そこにもう一つの影が現れる。
「どうやら今回はここ一点のようだな。下手に分断されるよりはマシか」
影―アムズは端末からの反応を受け取りながら愛剣を静かに握りしめる。
「もっとも、二手に分かれた位ならおれとお前で十分受け持てるだろうけどな」
ラプルも拳を鳴らしながら答える。
「とにかくおれが斬り込もう。きみは漏れた相手を頼む」
「おいおい、こういうのはおれの受持ちだぜ?あんたはおれが安心して殴り込める様フォローすりゃあいいって」
そう言い合いながら互いの得物、そして自分達の体中に力を集めていく。
―ア・アア・アアアアア―
―ア・ア・ア・アア・アア―
アムズの剣に、ラプルの小手に。
そしてその銀と金のスーツ一杯に。
溢れんばかりの力が満ちていく。
そんな彼らの向かう先にさらに強大な気配を持った「何か」が現れる。
単体か、それとも伏兵が控えているのか。
ただ言えるのは今現れようとしている存在は是が非でも止めねばならず、その担い手は今のところ彼らしかいないと言う事である。
仮に敗北した場合、少なくとも「物語のようにうまくはいかない現実」を振りかざす余裕さえ存在しない。
だからこそ―。
「行くか!」
「やるぞ!」
二人は構えを取り、その先へと飛び込んでいった……。
「やあっ!」
―ア―
「たあっ!」
―ア―
「はあっ!」
ーアアア―
「うりゃあ!」
―アアア―
「これでラストだ!」
―ア・ア・ア・ア・ア―
「きっちり決めるぜ!」
―ア・ア・ア・ア・ア―
こうしてとりあえずこのエリアに現れていた「何か」は消滅した。
バックルの端末からも周辺数キロに渡り新たな反応が無い事が告げられる。
「なんだ、今回は終わりか……まあいい頃合いって事だな」
ラプルはやや物足りなさそうな仕草で肩をほぐす。
「流石にもう一戦となるとこちらもまだ力不足は否めない、か……」
武器を納めつつアムズは辺りを見回す。
目視においても「何か」の反応は感じられない。
不安要素がないとは言えないが、ひとまずは今回も彼らの勝利と言う「一つの現実」が提示されたようだ。
「とりあえず一度引き上げだな」
「ああ……人を待たせているし早く戻らないとな」
「そうか。おれは一仕事していた所だったが頃合いとしては引き際だ」
「じゃまた今度な」
「次は「ルーム」で一息入れつつ語りたいものだ」
「そうできればな」
そう言い合いながら二人の戦士は別れていく。
アムズは飛び出した図書室へ。
ラプルは物陰に。
そこでそれぞれに端末を操作する。
「幸い他に人は来ていない様だな……」
「周りにゃ誰もいない……今だ!」
そう言いながら端末の起動操作を逆手順で行う。
二人の姿はこの空間から姿を消した。
[newpage]
彼らが各個に現れたのは狭間の空間―先程まで戦場だった世界とその外の世界の間にある空間。
彼らが「彼ら」となった空間に再び浮かんでいる。
―アア・アア・アア―
ーア・ア・ア・アー
電子音が静かにその空間に響く中、アムズとラプルのバックルに収められた端末が起動する。
「うっ……」
「あっ……」
一瞬二人の体がビクンと震えるとその体の中、彼らを支えていた力の流れが加速を始める。
―ア・ア・アアアー
―アア・アア・アー
電子音のペースが少しづつ勢いを増していく。
―ア―
「うあっ!」
―ア―
「むあっ!」
一瞬、インナースーツ越しに二人の体が膨れ上がる。
アーマーやマスクを弾き飛ばしそうな衝撃に声を上げて身をそらす。
一気に膨らんていたインナースーツだったが、そこから急激にスルスルとしぼんていく。
流れていくように、吸い取られていくように。
「ああ……ああ……」
―アア・アア・アア―
「ああ……ああ……」
―アア・アア・アア―
力が抜けていく様な感覚の中に身体が癒やされていくものを感じる二人。
その体を覆うインナースーツはみるみるしぼみ、彼らの体を引き締めていく。
彼らの均整の取れた肉体がよりくっきりと浮かび上がっていく。
「ううっ!」
「うあっ!」
強さを増した引き締めに声を上げる。
その引き締めが極限に達したのか、彼らの体は少しずつしぼんでいく様に見える。
スーツ越しに張り巡らされていた筋肉の鎧がしなりながら柔らかく、小さくなっていく。
たくましくがっちりとした両腕と両足が細くしなやかに。
それらを支える厚い腹筋やがっしりした骨盤も柔らかく、小さくなっていく。
「うあ……ああ……」
―アア・アア・アアア―
「うう……あぅ……」
―アア・アアア・アア―
自分達の中に満ちていた全てがある一点―腰に巻かれているベルトの端末に吸い取られていく様な感覚。
いや、実際二人の体はどんどんしぼんでいく。
細く、小さく、柔らかく。
そしてついに胸当ての内側で厚い胸板が伸縮を繰り返しながら柔らかい一対の膨らみに変わっていく。
「あ……ああっ……」
―ア・アア―
「あっ……ああ……」
―ア・アア―
一瞬、女性のように声を上げる。
さらに腰から伸びて前後を覆っていた黒い帯が締め付けを増す。
「あぁっ!」
―ア―
「あぁっ!」
―アー
二人は女性のように声を上げた。
いや、その体つきはほとんど女性のものに近くなっている。
(ああ……変わる……おれが……変わっていく……)
(変わる……おれが……おれで……なくなる……)
アムズとラプルはその意識もまたしぼんでいく感覚の中で薄れつつあった。
戦士としての肉体、そして意識が薄れ、全く別のものに変わっていく。
それを告げるように電子音もまた変化を始めている。
―ア・アア・アアあ・あああ・あああ……。
―ア・アアア・アアっ・ああ・ああっ……。
無機質な電子音から生命を感じさせる声へと。
「ああ……ああ……あああ……あああ……」
「ああ……あああ……ああっ……ああ……ああっ……」
重なるように二人の声もまた重なるようにその声を変えていく。
声の高さが、響き方が、こもっているものが変わっていく。
そして電子音だった声と一つになる。
たくましい戦士の声とその戦いを支えた電子音から柔らかめな女性の声に。
その意識もまた……。
―
アムズ
あむず
あむ
あ
(ああ……おれ……わたし……かわる……もどる……)
き
きの
きのふ
きのふさ
きのふさ と
きのふさ とき
きのふさ ときな
木房斎奈
ー
ラプル
らぷる
らぷ
ら
(おれ……おもいだす……わたし……もどる……あん……)
も
もと
もとひ
もとひら
もとひら し
もとひら しの
元平 志乃
―
男性から女性へ。
戦士から少女へ。
アムズとラプルから斎奈と志乃へ。
変わっていく。戻っていく。
両腕と両足、そして胸元にアーマーをはめ仮面を被った見方によっては異様な姿の中で二人の少女は安堵と奇妙な感覚の中にあった。
(はぁ……はぁ……わたし……戻った……戻れた……)
(はぁ……ああ……元の……わたし……良かった……)
仮面とその下のインナーマスクの中で安堵する二人だが―。
(でも―このあと―来るのね)
(やっぱり恥ずかしいけどちょっとガマン……よ!)
それぞれにそう呟きながら二人はその時を迎える。
突然両腕と両足のアーマーが外れ、宙に消える。
そしてその胸元を覆っていたアーマーも弾ける様に飛び散り消えていく。
「きゃっ」
「やんっ」
締めを解かれた一対の膨らみが震え、可愛らしい喘ぎ声が不似合いなマスクから漏れる。
ベルトから足の間をくぐっていた帯が解け、ベルトの中に消える。
さらに足元から突然めくれる様に二人をぴっちりと引き締めていた金と銀のスーツが吸い取られる様に消えていく。
足先からくるぶし、ふくらはぎ、膝から太もも。
「あんっ」
「きゃんっ」
腰の辺りがあらわになった時、斎奈と志乃は軽く甘い声を漏らす。
スーツはベルトを経由してさらにめくれ上がってゆく。
腹部や背中、一対の膨らみが解き放たれる。
それぞれに反応したいのを抑えられただ手足を伸ばす事しかできないもどかしさ。
指先から手のひら、腕、肘と別ルートでめくれていく流れが脇から肩の流れと合流して鎖骨やうなじをあらわにしながらマスクに吸い込まれていく。
そして……。
二人のインナーマスクもマスクの中で吸い取られ、その素顔が直接マスクの内側と触れ合う。
再び全裸にフルフェイスのマスクとベルトだけの姿となった斎奈と志乃。
誰もいない、見られていないと分かっていても裸をさらしてしまう事に思うのは恥ずかしさかそれとも……。
そして二人はマスクに両手をかけ、軽く引き上げる。
「はぁっ……」
「ふわぁっ……」
マスクの後部が開き斎奈の長い髪、志乃のセミショートの髪が空間に解き放たれ軽くなびく。
「ふうっ……」
「はぁっ……」
顔だけを覆う形に縮んだマスクを外すと吐息と共にやや赤く火照った素顔が心地よさげな表情と共に現れる。
そのまま両手でマスクを掲げると、マスクはそのまま二人の手から離れ消えて行く。
余韻に浸る間もなく二人はただ一つ身に着けていた端末をベルトのバックルから引き抜く。
それと同時にベルトも消滅し二人は完全に裸になる。
一瞬最悪の事態もよぎるがその視界がそれぞれが端末を「動かした」場所に戻り、自分達がその時身に着けていた全てを身に着けている事に安堵する。
「流石にこれは……」
「慣れたくない、かな」
ほとんど時間が過ぎていない部屋の壁時計を見ながらそれぞれの場所で二人はこぼしていた。
[newpage]
「お待たせ!」
「志乃、遅いよ〜」
「一分の遅刻!」
「まあまあ、帰りにジュースおごるよ」
友人達との他愛もないやり取りに花を咲かせる志乃。
「志乃、何話してたの?」
そこにふらりと斎奈がやって来る。
「うん、世界の命運をかけた一大事……なんちゃって」
それを明るく返す志乃。
「わたしもちょっと人類の命題について調べ物……と言う所かしら」
「あはは、斎奈も言う言う」
「志乃ほどじゃないわね」
友人達との平穏な一時、明るくやり取りをするこの二人がつい先程まで店舗その一時を守る為に姿を変えて戦っていた事は誰も知らない。
ただ言えるのはとりあえずこの二人が「間の世界」で災禍を食い止める為の力と姿、更には人格を得て戦っていると言う事。
そして―彼女達自身がごくありふれた日々を生きる女性であると言う事―である。
了