サバンナは今日も暑く、乾いていた。
移りゆくオアシスと草場を求め、そしてそれを追うものを求める。
その連なりの中、草むらで草を食む牛の群れがあった。
群れをなし、静かに草を食み、わずかに流れるせせらぎで喉を潤す。
そんな牛達はサバンナに生きる肉食動物達のいい獲物でもある。
通説とは違い狩られる側もただ黙って狩られるわけではないとは言え、それでも失われる命がある事は事実である。
そして今も一匹の豹が牛達をその糧にせんと静かに迫っていた。
気配を消し、匂いを嗅ぎつけられない様に。
あと少し、あと少しで狩りが始まる……。
その時、ドスリと音を立てて一本の槍が豹の目の前に飛び込んでくる。
黒く、太く長い槍。
シンプルではあるがそこにはこれを向ける相手を威圧させ、戦う相手を確実に仕留める気迫がこもっていた。
それに威圧されたのか豹はすごすごと逃げ去る。
それは懸命な判断だろう。このサバンナなら糧はまだ他で求めれば良いのだから。
豹が去って間もなく、槍の持ち主らしい男が現れ力強くそれをつかむと一気に引き抜く。
この地に生きる者ならではのムダのない褐色の肌に包まれた筋肉の鎧とそれを支える頑強な骨格。
厚い胸筋に加えて腹部はくっきりとした腹筋が刻まれ、両腕と両足も長くガッチリとした太さの中に敏捷なしなやかさを感じさせる。
まさに人の形をした肉食獣―その通りだった。
その褐色の肌は夜の闇のような黒い獣毛に覆われ、臀部の真上からは作り物では無い獣の尾がなびいている。
そしてその顔立ち―短く伸びたマズルに口元からたまに見える牙。
頭頂に伸びる一対の耳に縦長野黒い瞳を持つ目。
先程彼が撃退した豹とほぼ同じ顔がそこにある。
豹人―まさにそう言うべき存在がそこにいた。
彼は両腕と足元、そして首と腰に巻いた渋い色の飾り紐以外は何一つ身にまとわぬ姿でサバンナに立っている。
「ツアン、大丈夫か?お前が急に牛達から離れたからどうしたかと思った」
彼―ツアンを呼ぶ声に振り向いた先にはもう一人のこれもまた凛々しい体つきの黒豹人が槍を手に立っていた。
「クカ、大丈夫だ。一匹狙っていたが追い払った」
「そうか。おれも少しだけ睨みは効かせたが気は抜けないな」
「ああ。それに、そろそろ村に戻る頃合いだ。牛達の後は頼むぞ」
「まかせろ。クカが後なら安心だからな」
そう言いながら二人の豹人達は牛達をまとめ、村へと歩いていった。
黒豹人達が暮らす村の広場。
そこで今村の者達にとって神聖な儀式の一つが行われていた。
性別を問わず、年齢を問わず。
多くの黒豹人達が歓声と共にそれを見守る。
その群衆に囲まれた即席の闘技場で二頭の黒豹が睨み合っていた。
互いに身をかがめ、相手をにらみつつ飛びかかる機会を伺っている。
審判らしい頭に鳥の羽をつけた黒豹人がばっと右手を上げると同時に二匹の黒豹はぶつかりあう。
腕を伸ばして相手を牽制しつつもその懐に飛び込もうとする。
威嚇する唸り声もまた荒々しく互いを攻め合い、歓声が互いをより激しく高ぶらせる。
しなやかな足の動きで回り込み合いながら飛び込む隙を伺う両者。
その肉体ははち切れんばかりの勢いに張り詰め、その高ぶりは文字通り戦う獣としての彼らの中にあふれる様にみなぎっている。
張り詰めた空気から一瞬、両者はどちらからともなく猛然と飛び込み、激しくぶつかる。
押し切らんとばかりにその黒い毛皮越しに体ごと押し込みながら腕を伸ばし足を、腰を、あるいは腕を取ろうとする。
ぶつかり合いは取っ組み合いとなり、どちらが先に相手を組み伏せるかの戦いになる。
やろうと思えばその牙で噛み付く事も脇腹を殴る事も、その伸びる尾や……彼らの「証」を攻める戦い方もできる。
しかしこれは勝つ為の戦でも生きる糧を得る為の狩りでもない。
この祭事に選ばれた者としてそれらに頼らず勝たねばならない。
そしてこの二人ーツアンとクカもまたそれのできる者だった。
クカが押さえ込もうとする。
ツアンが絡め取ろうとする。
クカがねじ伏せようとする。
ツアンが押し付けようとする。
力で押し引き、技で絡め抑える。
それぞれがそれぞれの全てを出しぶつかり合う。
両者は互いに勝ち星を取ったり取られたりを繰り返しながらも互いを磨きつつ今こうしてぶつかり合っている。
そして、盛大な歓声と共に一つの決着が付いたー。
星明り以外は暗闇と静けさのみに覆われた夜の村。
ほとんどの村人が眠りにつく中、ツアンもまたその身を自身の家―かなり簡素なものだが―に横たえていた。
毛皮をなめした床敷きに同じく毛皮でできた毛布。
自身も獣毛をまとう身には寝心地が良いかはともかくツアンにとっては馴染んだ寝床だ。
「うう……」
軽く寝返りを打つ。
夜行性の性質を持つ豹の流れを組む一族に生まれ、寝ずの番をする事もあるツアンにしてもこうして床につきながら眠れない事は珍しい。
部族では戦士の称号を持ち、それにふさわしい雄々しい肉体を持つ自分がなぜか寝付けずにいる。
「来る、のか……」
その脳裏にある獣の姿が浮かぶ。
このサバンナでは見る事のない白く、細い獣。
まるで女の様な姿をしているが、部族のどの女にも当てはまらない。
この部族の女性もまた褐色の肌と漆黒の毛並みを持つ豹人なのだから。
そんな白い女の姿をした獣がまた現れる。
部族の戦士として、それ以前にツアン自身の男としての本能があの白い獣との対決―いや、対峙を望んでいる。
あの「聖域」に向かい、「白い獣」に会う。その時がまた巡ってきたのだ。
不意に仰向けになったツアンの中に何かがみなぎってくるのが感じられた。
その雄々しく逞しい体に、特にツアン自身の「証」に。
その「証」が自分の体の内から高々と毛布を押し上げている。
毛布が「証」を包み込む様に押し上げる感覚に奇妙な感覚を覚えながらもツアンは愛用の槍を掴む様にその大きくせり上がった「証」を両腕でがっしりと掴み、握りしめる。
直後彼の寝床、そしてまた別の寝床で誰知るとなく雄々しい獣の雄叫びが響いた……。
[newpage]
「よぉツアン、やっぱりお前も「聖域」に行くのか」
その日、身支度―と言っても体に身に着けた飾り紐と槍だけだが―を整え村を出ようとしていたツアンをクカが呼び止める。
クカもまた同じ様に旅らしい仕度を調えていた。
「そうだなクカ、お前と一緒だ。嬉しいか?」
「さあな。あの「白い獣」達はともかくおれとしてはいい女と旅をしたいけどさ」
「まあそいつは嫁を取った時の楽しみにしておけ。おれだっていずれは女を抱きたい」
「あの「白い獣」もそれなりに良さそうだけどな、あれは別物か」
「ああ、別物だ。たった一晩だろうとな」
そんなやりとりをしながら二人の黒豹獣人の男達は村を離れ歩き出す。
村随一の戦士にして勇士とされる二人だが、だからこそこの定めには従わねばならないのだろう。
幸い彼ら程ではないとしてもかの村を守る者達は少なくはない。
だからこそ一晩とは言え彼らは村を開けられるのだろう。
熱砂の空気と彼等とは言え油断のできない獣達が闊歩する地。
戦士である彼らにとっては決して遠くはない道のりを長く感じながらも彼らは「聖域」にたどり着いた。
そこはサバンナの中に作られた天然の神殿―そんな言葉がふさわしかった。
すでに夜の帳の降りた中、たくさんの岩場に囲まれたその地は厳かな雰囲気に満ちている。
ここは彼らの部族にとって間違いなく神聖な場所であり、彼らの奉じる神や精霊が降りる地と言われても疑う事は難しいだろう。
「本当にここにはめったに来るものじゃないな。クカはどう思う?」
槍を手に辺りを見回しながらツアンは尋ねる。
「そうだな。「白い獣」と関わらなきゃおれだって来たくはないさ。うかつに入り込んだら精霊に命を奪われかねないぜ」
クカも戦士でありながらもやや震えた声で答える。
そう、ここは本来部族の者でも余程の事がない限り来てはならない場所。
たとえ戦士である二人でも神官に伴われるとかでも無い限り近付く事もならない場所なのだ。
「だが、おれ達は来ている。本来なら来てはならないこの地に」
「そうだ。そして禁をあえて破りその先にいる「白い獣」と会う為に」
「行こう、クカ」
「ああ、ツアン」
クカとツアンは改めて槍を握りしめる。
奇しくも彼らの内に宿る「槍」もまた熱くみなぎりながら突き立っていた。
星明かりを除けば一切の光のない闇の中、二人はその耳を立て静けさを捕らえ、その目をこらして来たるべき何かを見据える。
全身を覆う黒い毛並みはちりちりと振るえ、尾もまた緊張に揺れている。
少なくとも彼ら以外にこの地に踏み込んでいる者はいない。
獣も、そして「人」も。
まさにここは聖域―そう言える場所なのだろう。
「ウゥ……フゥ……」
「グルゥ……ウゥ……」
荒ぶる息を潜めつつ、二人は岩場に囲まれた草原を進み続ける。
もし手にした槍と両腕や首、足腰につけた飾り紐、そして二足歩行をしている事が無ければ彼らを黒豹獣人と見る事はできないだろう。
もしうかつにこの場に入り込もうな誰であろうと二人の「獲物」にされてもおかしくは無いほどの野性の気を放ちながら進んでいる。
そんな足取りで草原を歩み、向かうのはその聖域の聖域の深奥・さらに幾つかの岩に囲まれた場所。
それが最後の一線と言える結界の様に感じられるその場所を二人はついに踏み越えた。
「ウ……」
「ア……」
一瞬、ツアンとクカの意識がおぼろげになる。
「これは……」
「こいつは……」
思考がぼやけ、先程までの獣のような構えが崩れ落ち、なすすべ無い様に呆然と立ち尽くす。
全身の力が抜ける―いや、それぞれの「槍」に力が集中していく。
「ああ……熱い……来る……」
「うう……みなぎる……熱い……」
口々に言いながら二人は「槍」を取る。
握った「槍」は普段感じるよりも熱く、長く、大きかった。
両手でぐっと握りしめるとその大きさと熱さがさらに増すような勢いで伝わる。
「あああ……」
「おおお……」
ややうつろなそぶりの中、そこだけが確かに感じられるとばかりにツアンは、そしてクカは「槍」を握りしめる。
「あああ……来る、来る、入り込んでくる……うあああ……」
「うああ……おれの中で……入って……おおおお……」
ひたすら昂ぶっていく「槍」を握りながらうめき吠える。
その「槍」の中に満ちた昂ぶりは二人の体の中を熱く高め上げる。
「熱い、熱い、来る、来る……」
「来た、熱い、来てる、燃える……」
二人はそのたぎるような勢いのまま「槍」を掲げる。そして……。
「うおっ!」
「おあっ!」
「槍」が吹き飛ぶような衝撃に耐えきれず二人が雄叫びを上げる。
「槍」の中で昂ぶっていたものが欠片一つ外に出る事なく彼らの内で熱く爆ぜる。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
「ハァ……ハァ……ハァ……」
二人は爆ぜた衝撃の余韻と脱力感の中で荒ぶっていた息を少しずつ鎮めていく。
「ツアン……おれ……どうなってたんだ?」
なんとか意識を取り戻したクカが声をかける。
ツアンもそれに反応して我に返る。
「ああ……おれも少しだけ何もわからなく……?」
不意にツアンは体に違和感を感じた。
自分の身体……ついさっきまで熱く昂ぶっていたものが感じられない。
いや、存在そのものが消えている様な―。
目を向けてみる。そっと手をおいてみる。
ない。ない。無くなっている。
ツアンの身体ー男の体の中で掲げられていたものが根本から消えていた。
そしてその代わり―彼の「槍」があったそこには「壺」……小さな「壺」の口の感触がそっと伝わってくる。
「クカ……おれ達……また……」
「ああ……その様だな……ツアン……」
どうやらこれが初めてではないらしく二人は違和感を感じながらも「槍」から「壺」へと変わったそこをまじまじと見つめている。
男も女も無く飾り紐以外はほぼ何も身に着けずに暮らす者達にとってそれ自体は珍しくも忌避すべきものでもない。
しかし先程まで自分に高々と備わっていたものが失われ、その代わりに見た目としてはささやかなものに取って代わったと言う事実はやはり慣れるものでは無い。
「どうやら来たみたいだ―「白い獣」が」
「その様だ……おれ達の中に奴が―「白い獣」が入り込んじまった」
そう言いながらもそっと、自分の「壺」に手を触れてみる。
「あ……」
「う……」
ひっそりと、しかし柔らかくも何か体に響く感覚。
「槍」から来るものとはまた違う感覚が二人を襲う。
触れている間に内側から何か熱いものがこみ上がるのを二人の手が、そして体が感じる。
「あ……ああ……」
「ああ……あ……」
触れるだけではなく少しずつ掌を使い「壺」の口を動かす。
柔らかくも確かなその感触は二人にまた新たな刺激を与えていた。
そのうち、二人はその爪の伸びた指も使い傷を付けない様に「壺」を弄んでいく。
「ああ……ああ……いい……」
「うう……いい……くる……」
その動きは少しずつ早さを増し、二人は巧みな手つきで「壺」を動かしていく。
その度に二人の体は激しくしなり、両脚はそれをしっかりと踏み留めつつ尾が激しく揺れていた。
「ああっ、おおっ、あぁっ!」
「うぉっ、ああっ、おあっ!」
「壺」が手の中で大きく振るえている。
その動きを押さえながらもそこから来る振るえに身を揺らしながら二人は自分の内側から来る熱い波をまともにその身に受ける。
「うぁぁぁぁっ!」
「おぉぉぉぉぉっ!」
達した瞬間、二人は先程よりもさらに大きく身をそらす。
激しく震える体を鍛えられた両脚が辛くも支えるがその分衝撃はより大きなものとなっている様だ。
「ハァ……ハァ……熱い……」
「ハァ……ハァ……溶ける……」
けだるさに体をふらつかせながらも二人は体の中、特に「壺」から来る熱さに少しずつ自分達がとろけていくのを感じていた。
「このままいったらおれ達、また……」
「ああ、おれ達は「白い獣」に……」
その顔には部族の戦士としては似つかわしくない不安や恐れの色がある。
しかし、それ以上にそれを求めている感情が彼らの中に満ちていた。
と言うより彼らがまだその意識を持っている事が奇跡と言えるのだろうか。
だが、そんな二人を再び、そしてさらい大きな「波」が襲う。
「ああっ……来た……今度はかなり大きいのが……」
「ううっ……これはもう……耐えられそうにない……」
流石にこらえきれず「壺」を両手で押さえながら膝を突く。
苦痛ともなんとも言えない感覚に顔が歪む。
恐怖ともなんとも言えない感覚に体が震える。
歓喜ともなんとも言えない感覚に心が動く。
「おれ達……次でもう……でも……ガマンできない……」
「ああ……ヘンだよな……だけど……あと少し、あと少しで……」
そう言いながら熱さを増した「壺」に手を、そして指を置く。
優しいなで回しから少しずつ激しくその手と指は動き、遂には「壺」の口にまで及んでいた。
「はぁっ、はぁっ、ああっ」
「あうっ、おうっ、あうっ」
ひたすら「壺の口」を弄ぶツアンとクカ。
その度その「壺」が、体全体が、頭の中が熱さを増していく。
二人の豹人達はもだえる様にその身を揺らす。
その中で彼らの中の何かが少しずつ揺さぶられ、崩れようとしている。
「うぉっ、ああっ、あんっ、おれが、おれが、なくなっていく……」
「おうっ、うぉっ、うぁんっ、きえる、おれが、きえる……」
自分が消えると言うほどの激しい波と衝撃をもたらすほどの熱さと快感が二人の中で高まっていく。
それを止める事も抑える事もできず二人はひたすら「壺」を動かし、その身をそらす。
そして……
「うぉあぁぁぁぁぁ~んっ!」
「あぉぉぉぉあぉぉぉ~んっ!」
体を突き破り、脳天を突き上げるほどの衝撃と共に甲高い声を上げると二人は「壺」に両手を置いたままがくりとうなだれ、意識を失った。
[newpage]
それから間もなく、
「う……」
「あ……」
膝を突いたままうなだれていたツアンとクカが少しずつ頭を上げる。
「ここは……まさか……」
「また……来ちゃったの……」
その姿には不似合いなくらいに高くどこか可愛らしい声で二人は辺りを、そして自分の体を見渡す。
「わたし……もどった……でも……この……すがた……」
「また……かわってる……もとに……もどらないと……」
まだうつろさの残る瞳と頭で少しずつその黒く逞しい豹人の実感を取り戻しながらも内心その姿に違和感を感じているらしい二人。
その仕草には先程にはなかった戸惑い、そして恥じらいの仕草が見えていた。
そして、二人は再び自分達の「壺」に両手を添える。
「あっ!」
「うっ!」
そこに思い切り力を入れる。
ぎゅっと引き締まる様な感覚と共に二人の顔が軽くゆがむ。
「あっ、ああっ、あんっ!」
ツアンは体の内、「壺」から来る感覚に大きく声を上げる。
「うっ、うんっ、うあんっ!」
クカも口を噛み締め堪えようとするも、体の底―「壺」の中から湧き上がるものに耐えきれず声を漏らす。
高く甘い声を上げながら二人の身体は震えている。
たくましい体格がガタガタと震えながら骨格から縮み始める。
「ううっ、くうっ、きゃんっ!」
骨の髄まで弄り回される様な痛み、そしてそこから来る快感がツアンに悲鳴を上げさせる。
しなやかさに磨かれながらも雄々しかった筋肉が大きく波打ちながら細く、柔らかく変化していく。
「あうっ、うぅっ、ひゃん!」
引き締まっていた筋肉と言う筋肉、肌と言う肌を揉み崩される痛みと体中の力が抜ける様な心地良さにクカが甘い悲鳴を出す。
固く引き締まっていた筋肉質の肌がしなやかさはそのままで柔らかく整えられていく。
「ああん、はぁん、はぁはぁはぁっ!」
ツアンの筋肉の張っていた胸板が緩やかに解けていきふっくらと柔らかく膨らんでいく。
それに加えツンと可愛らしく立った両胸の突起を含む感覚は「壺」を押さえている両手に通じる腕からもはっきりと伝わっている。
その下で張り詰めていた腹筋の線が埋もれていくと柔らかくなった腹から腰の線が細くくびれていく。
「あはぁ、はぁん、ふぁぁんっ!」
クカの尻のラインが筋肉の戒めから解き放たれプクリと膨らむ。
それもつかの間、そのままさっきまでとは違う形で形良くしまっていく。
骨という骨、肉という肉、肌という肌がきしみながら、波打ちながら、震えながら小さく、細く、柔らかくなっていく。
その痛みと甘い歓びに二人は知らずに涙を流しながら声を上げ続ける。
いつの間にか二人の姿は黒豹の女性―それを思わせる姿へと変じている。
黒い毛並みと長い尾、そして豹の顔をそのまま乗せた様な顔はそのまま、その体付きは部族の女性―その中でもかなり線の細い姿になっている。
しかし、二人の変化はさらに進む。
「ああ、ああ、ああんっ!」
全身の毛並みが少しずつ縮み、褐色の地肌が洗われる。
「はぁ、はぁ、あんっ!」
揺れていた尾が少しずつその根元に引き込まれ、飲み込まれていく。
「はぁんっ、あぁん、はぁぁっ!」
柔らかさを増しながら褐色の地肌がみるみる白くなっていく。
「あぁ……あぁ……あぁん……!」
全身から熱く、甘い空気が噴き出していく。
それは先程までの二人に満ちていた土と獣の匂いに取って代わる空気だった。
「あぁ、あぁ、あぁっ!」
頭頂にあった耳が引っ張られる様に頭の横に小さくなりながら引きずられていく。
小さくもせり上がっていたマズルが顔の中に引き込まれ、小さく整った鼻筋と可愛らしい唇に分かれていく。
「あ、ああ、あああっ!」
額が広がっていくと共に鋭く見開かれていた瞳がやや丸みを帯びた優しげな形に変わっていく。
「あぁっ、ああっ、あああっ!」
獣毛が消えた顔から眉毛と髪が生えそろっていく。
「ああ……はあ……ああ……」
「あっ……はぁっ……あぁっ……」
二人は伸びた髪を揺らし、より大きく口を開き、その白い肌をふるわせながら声を上げる。
そして、変わり続ける二人の手の中にあった「壺」の中が急激に引き締まり、その中にますます熱いものが満ちていく。
「くる、きちゃう、いっちゃう……」
「いく、とんでく、いっちゃえ……」
熱くたぎる火照りをこらえきれず二人は遂にその時を迎える。
「あっ!」
「うぁっ!」
二人の「壺」から激しい勢いで透明な飛沫が吹き上がりその勢いで二人は大きくその身をそらす。
特にクカは体勢をずらし背中から転んでしまった。
「はぁ……はぁ……」
「はぁ……はぁ……」
ツアンとクカ―だったその白い肌をした女達は両膝をついて座りながら、あるいはおもむろに仰向けになって変化と快感の余韻に浸っている。
そして、座っていた女性はまだだるさの残る体をひきずりながら膝を突いた四つん這いの姿勢で仰向けになっていた女性に近づく。
「はぁ……はぁ……ハジメ……だよね……?」
ハジメと呼ばれた仰向けの女性は息を荒げて上を向いていたが、膝をついた女性の声に反応して顔を向ける。
「ふぅ……はぁ……うん……そっちも……シノ……ね……?」
シノと呼ばれた膝を突いた女性は静かにうなずく。
「はぁ……なんとか……戻れたね……あたし達……」
まだ仰向けになったままハジメはつぶやく様に言う。
「うん……わたし達、またあの黒い豹になってたよね……」
シノもクスリと笑いながら返す。
「……そしてまた気がついたら……ここに……」
そう言いながらシノは自分達がいる辺りを見回す。
岩陰に覆われた草原。
夜の闇に包まれたその周辺はシノの目には暗すぎ、耳をすますには静かすぎた。
寝転んだまま空を見上げるハジメの目には大きく星空が広がっているが、それ以外は肌を研ぎ澄まそうと何の気配も感じられない。
「……なんだか肌寒くなってきたわね」
「……このままじゃ風邪、ひいちゃうかも」
軽く体をすくませながらハジメはゆっくりと体を起こす。
ふんわりとした短めの髪と少し細めだが優しげな瞳。
クカと比べるべくもないがそれなりにしなやかで動きやすそうな体つきをした裸身が起き上がる。
その手を取りながら一緒に起き上がるシノもまたツアンとは違う形で適度な肉付きをした裸身を静かに立ち上げると、ハジメよりは長めの髪をかき上げ、やや大きめの瞳を軽く瞬きさせるとふうと吐息を漏らす。
星空に彩られた野性の草原に生まれたままの姿で立つ女性二人。
その姿そのものはどこか魅惑的であり、
二人の心情としてはこのまま草原を歩き出したいとも思ってはいた。
しかし、この先岩陰を越えて歩いて行くには逞しい黒豹人の戦士ならともかく柔肌をさらすかよわい人間の女性には過酷過ぎるのだ。
例えその両腕と両脚、首や腰にかつての名残を持つ飾り紐を身に着けていようとも。
だから……。
「帰ろう……か?わたし達の所へ」
「そうだね……ちょっと歩きながら、ね」
そんなやりとりをかわしながら二人は歩き出す。
何か呪文の様なものをつぶやきながら裸のままで草原を歩いていた二人の姿は聖域の一線―岩陰を越えた所で煙の様に消えた。
全ては幻……では無い事をただ二本の槍が示すのみであった。
[newpage]
シノとハジメはとある浴室に姿を表した。
裸の二人が優に入れる広さを持ち、風呂桶にはいつでも熱いお湯を入れられる部屋。
その壁にある鏡には飾り紐だけを身に着けた全裸の女性二人が寄り添って立つ姿が映っている。
「帰ってきたね、「わたし達」」
「うん、帰ってきた。「あたし達」に」
寄り添いながら安堵の表情を浮かべようとした二人だが、浴室の中にこもっていた獣の匂い、そして男の匂いに思わず鼻をつぐんでしまう。
「う、これ、あたし達のだ……さっきまであたし達が出してた……」
「うん、わたし達がわたし達でなくなる時の匂い……」
今の自分達と同じ「壺」を宿した黒い豹人の男性の姿で我に返り、そこからみるみる今の―人間の女性の姿となっていった事。
そしてその以前、この浴室で自分達に宿った黒く大きな「槍」を突き立てるうちに激しい快感の果てに自分達が「消えてしまう」ほどの衝撃に襲われた事を思い出す。
しかし、今の二人にはその匂いは少しきつすぎた。
裸のままで二人はシャワーの栓をひねり、浴室掃除用のスポンジと洗剤を手にする。
獣と男の匂いが石鹸と女の匂いに置き換わるまで多少の時が流れた。
二人はタオルで濡れた体を拭きながら浴室を出る。
外はまだ暗く、ふと見た時計は二人が「二人でなくなって」からさほど時間が過ぎていない事、そして幸いもう一眠りはできそうだと言う事を指している。
「とりあえずは一休み、ね」
「うん、おやすみシノ」
「おやすみ、ハジメ」
そう言葉を交わしつつ二人は裸のままそれぞれの部屋に戻っていった。
「ふうっ……」
裸の腰をベッドに下ろしようやくシノは人心地つく。
そして手足と腰、そして首につけていた飾り紐を外して部屋の隅に置くとその身体をベッドに滑り込ませ、そのまま毛布にくるまって眠りにつこうとする。
「ん……んん……」
柔らかく心地よい肌触りの毛布が柔らかくムダ毛のないむき出しの素肌と重なり合う。
その度にシノの「女としての」感覚が刺激され、全身をより敏感にさせていく。
「んん……あん……」
何度も寝返りを打つがなかなか寝付けない。
その姿で生きた記憶こそないものの、ついさっきまで野生に生きる黒豹人の男の体になっていた記憶が今の女性としての自分をさらに感じさせている。
「わたし……こんなにやわらかいんだ……こんなに細いんだ……こんなに甘いんだ……こんなに……感じるんだ……」
柔らかく心地よい毛布の肌触りに包まれ、生まれたままの姿で生まれる前の様に体を丸め抱きしめながらシノはその手を女としての自分のさらに奥、かつてたくましい「槍」が立っていた場所に伸ばそうとしていた。
「シノ、シノ?起きてる……よね?」
いつの間にか部屋に入っていたハジメの声を聞くまでは。
「!は、ハジメ!?」
思わず我に返り、体を毛布にくるみながら身を起こす。
「やっぱりシノも寝付けなかったんだ。もちろんあたしもね」
よく見るとハジメも毛布を体に巻いた姿で立っている。
その中の姿は……推して知るべしだろう。
「あたしもまだもうちょっと余韻があってね。あんな黒くて大きいのが付いて、そこから意識が飛んで気がついたらあんな黒くて大きな姿でナイトサファリ。いつもだけどすぐ戻っちゃうのはちょっと惜しいよ」
そう言いながらハジメは照れ笑いを浮かべる。
「わ、わたしだってその―「あれ」が生えてからわたしがわたしじゃなくなっちゃうのは怖いけど……やっばり気持ちいいし、あの姿で気がついて、そこから「わたし」に戻るの……とっても気持ちいい!」
シノも顔を赤くして思いをぶちまける。
「……わたし達、獣……だね。さっきまで頭の中まで黒い豹の男の人の姿をした獣になってて、今は心の底から白い人間の女の子の姿の獣。それを受け入れちゃってる、喜んでる」
「だよね。そしてあたし達は―きっと「あたし達じゃないあたし達」もそれを、そうなる時を楽しみにしてる。それでいいじゃない」
「―ハジメったら」
「シノだって」
そう言いながらシノとハジメは体に巻いていた毛布をほどきいったん素肌をさらし合うと、そのまま毛布ごと互いに飛び込んていった。
二枚の毛布に包み込まれ、シノとハジメは「白い獣」となって互いの、そして自分の「女」を確かめ合う。
そして、夜が明ける。
少しは休めたのか、それとも今まで互いを確かめ合っていたのだろうか。
互いをくるみ合っていた毛布を外し、その素肌を朝日にさらす。
やや眠け眼で起き上がった二人は大きく伸びをする。
そして気持ちをうん、と引き締めると、
「がお~っ!」
「がおーっ!」
と体をそらしながら豹の様に吠えると顔を向き合わせて笑う。
そしてシャワーを浴び身支度を整えるか、もうしばらく野生の余韻に浸るかしばし思索を楽しむ。
それが二人の一日の始まりであった……。
[newpage]
シノとツアン、ハジメとクカ。
性も種もおそらく住む「世界」も違う二組の存在がこうなった経緯は話せば長くなる。
ただ、ツアンとクカが「白い獣」に導かれる一晩を迎えるまで彼らの日常を送る様にシノとハジメもまた「黒い獣」に導かれる夜を迎えるまで二人の世界で日常を送る。
二人して朝の雑踏を歩いたり、余暇を楽しんでみたり。
時には―軽く互いを確かめ合ってみたり。
それが二人の「ごく当たり前の暮らし」である。
そして……。
「ハジメ、片付けとか済ませた?」
鍵をかけ、録画を済ませ、留守モードの設定を終える。
「うん、シノももう今夜中にしておく事はないよね?」
夜が明けたあとの用意を最低限は整えておく。
「わたしは大丈夫。一応シャワーだけ浴びておく?」
カーテンを閉め、部屋の明かりを落とすと一息つきながら服を脱ぎ始める。
「あたしもオッケー。どっちみち汚れるしシャワーなら帰ってからたっぷり浴びるよ」
すべてを脱いで洗濯機に入れるとそのままの姿で軽くくつろぐ。
「まあ……そうだよね。実際このあと思い切り匂うし」
両足、両腕と飾り紐をつけ、腰に通した飾り紐を結ぶと、最後に首に飾り紐をかける。
「まあね。そのためにわざわざお風呂場に行くんだし」
飾り紐を結んだだけの姿となった自分を見回し、相手の飾り紐の結び具合を確かめ合う。
向かいあいながら佇むその姿は美しく、どこか妖しさも感じさせる。
「そろそろ……かな?」
しばしのガールズトークを楽しむうちに妙に身体がムズムズするのを感じたハジメはやや赤い顔で風呂場に足を運ぶ。
「うん……そろそろ「降りてきてる」ころかも」
同じく身体と心の中に変化を感じたシノも不安と奇妙な興奮の交じる素振りで後を追う。
このあと一晩だけ彼女達は「彼女達でなくなる」。
そしてサバンナではツアンとクカが夜明けと共に集落に戻り、黒豹人部族の戦士としての日々を過ごす。
再び導かれ「彼らで無くなる」夜が来るまで。
それがいつ、いかなる形で収まるのか。
その未知の行く先へと続く重なり合う道のりを黒と白、男と女、二組の「裸の獣人」達は歩き続ける……。
了