……オレがそれまで―加村悠としての人生を当たり前のものと思っていた日々を大きく覆したのはたまたま手に入れた一冊の古い本だった。
好奇心に負け―いや、まさに「導かれて」その本を手に取ったオレは食い入るようにその中身に魅入られていった。
ページをめくりその中身を読むたびに身体がほてり、意識が高まっていった。
読み進めるたびに胸を、そして……そこを撫でていた。
章が変わるごとに邪魔な衣服を脱ぎ捨てていった。
そしてページが半分を過ぎる頃にはオレは全てを脱ぎ捨て若い女性の裸をさらしていた。
あとはもう止まる事は無い。
ただひたすら片手でページをめくりながら片手で自分の身体を昂らせていく。
胸をもみ、肌をさすり、熱くなっていたそこをなで回し、そして……。
その中でオレは知った。
オレの「本当の姿」を。
オレの「本当の名前」を。
すでにかつてのオレでなくなる恐れは消えていた。
むしろオレになる事を喜んでいた。
そしてページを読み終えると同時にオレは加村悠としての肉体と意識を破り捨てインキュバスのハーベイとして生まれ変わる―はずだった。
―何が悪かったのだろうか。
最後のページに誤字や虫食いでもあったのか。
それともオレが運悪く読み違えてしまったのだろうか。
オレは―オレになりきれなかった。
オレは人間の―悠の姿のままハーベイとして目覚めてしまったのだ。
それと同時に肝心の本も消滅してしまいその時のオレはさすがに迷う事しか出来なかった。
幸い手近から見いだせた「ある手段」をもってオレはようやく「元の身体」に戻る術を手に入れた。
オレが悠からハーベイに戻る時にオレの身体を覆い尽くしたあの黒い皮膜。
それを纏う事でオレは元のオレに戻る事が出来るようになった―違う。
悠の身体が直接オレに変わるのが本来淫魔として目覚めた者のあり方だと言う事は本能でわかる。
だがオレは―あの皮膜を纏わねばオレには戻れない。言うならば「悠の肉体がオレの皮を着てオレのふりをしている」様なものなのだ。
どんなに悠を「偽りの自分」と言い、「本当の自分に戻る」と言った所でオレは悠の身体とこの皮膜の中に居る存在。
だからどんなに一人でヤろうが他の女性とヤろうがオレは吹き出すことは出来ない。
言ってみれば悠が擬似的なモノをつけてオレの皮を着てシているようなものだから。
幸いそれも悪いことばかりではない。
人間の女―悠の身体がそのままオレの中にある事でそこから精気を適度にいただく事でオレはさほど精には困り切りはしない。
そいつはオレがヤル事でより増幅されオレの中に注がれていく。要するに自給自足って奴だ。
だからこそ景子の前でオレに戻り、景子を抱いた事でオレ、そしてオレの中に居る悠は思い切り昂っていた。
オレになった事で悠としてのオレも景子がオレを思いながらシている思いに気づき感じていたわけだから。
だが―そのせいで景子は……。
今までこんな事はなかった。
ただ女とヤる事で精気はいただいていたけどそのまま吸い尽くすなんて事は例えマズい奴らの精気を果てるまで吸い尽くしてもありえなかった。
景子への思いが強すぎたって言うのか。思いきりやり過ぎたというのか。
オレは―景子を「食ってしまった」と言うのか……。
これも「なりそこない」の定めなのか。淫魔になりきれず、しかし人としての自分も偽りと認識している「なりそこない」。
それこそこのまま一気に闇の中に堕ちそうな思いと共にオレはオレのモノに手をかける。
いっそこいつをどうにかすれば……。
本気でぶち壊したいと言う感情と共にモノを握りしめた瞬間―オレは感じた。
「景子―まさか!?」
[newpage]
気がついた時、わたしはぴっちりとした場所にいた。
何か繭とかの中にいるのだろうか、体中をピチピチと覆われている様な変な気持ち。
体を動かしたいけど動かしきれないちょっと不愉快な感じ。
それを文字通り素肌で感じる事でわたしは自分が生きている事を思い出す。
それ位あのイッた衝撃は大きかった。
本気で消し飛んだと思った位に。
そして、わたしにとって「生きている」と感じさせた事、それは……。
「悠……」
「……けい……こ……?」
おぼろげな顔でわたしと向き合う悠―正真正銘、わたしの知っている女の子の悠がいる。
そして、悠の素肌が本当にわたしと触れあいながら周りの空間に包まれている。
キスしあえるにはちょっとぎりぎりだけどその代わり……。
胸が―合ってる。
おなかが―合ってる。
足がー合ってる。
わたしと悠、いろんな所が触れ合ってる。
「悠……」
「けいこ……けいこ……」
ちょっとキツい空間の中でわたしと悠は何とか手を伸ばしお互いの肌をぴっちりと寄せ合う。
抱きしめ合う腕。
柔らかく押し合う胸。
添え合うおへそ。
寄り添おうとする足。
これでキスとかその―そこ同士でキス・とかできればよかったけどちょっと位置が悪かった。
でも―悠の頬がわたしの頬にふれあいと温もりを感じさせてくる。
「悠……やっぱり暖かくて―柔らかい」
「けいこ……けいこのからだ……かんじる……」
この感じ―嘘じゃない。偽りじゃない。
悠はああ言っていたけど紛れもごまかしもない本物の悠を感じずにはいられない。
「悠……やっぱり悠は悠だよ……あの姿が本当の悠でも今わたしが感じてる悠も―本当の悠、だもの……」
「けいこ……ほんとうの……わたし……ゆう……ゆう……わたし……ゆう……なんだ……ゆうで……いいんだ……」
急にわたしを抱きしめる力が強くなる。
わたしもそんな悠を抱きしめ返す。
「ああ……いい……きもちいい……」
「うん……とっても……いい……」
わたし達は静かに肌を重ねあう。
互いの肌か触れ合う心地よさ。
伝え合う暖かさ。
何かが癒やされ、そして熱く高まっていく不思議な気持ちよさ。
そのすべてがわたし達を高めてゆく。
「悠……」
「けいこ……」
しかし、この心地よさの中でわたしは気づいてしまった。
今わたしたちがいるのは―!
「ああ……ああ……いい……いい……」
おれの中で悠が熱くたぎっている。
悠の精気がオレの中に染み込んでくる。
しかも今はオレの中に恵子もいる。
二人でいちゃいちゃとこねくり合っている訳でもない。
ただ互いに肌を合わせて抱きしめ合っているだけ。
それなのにいつも以上に熱くたぎるものがオレの中に入ってくる。
うまい……本当にうまいぜ……。
そして感じる。景子と触れ合う度に悠が確かになっていく。
オレがオレになってからおぼろげになっていた悠としてのオレ。
偽りの自分・いつかは完全に脱ぎ捨て去る自分と呼んでいたはずの悠としてのオレ。
それが鮮明に実感と共に感じられてくる。
初めてオレになった時に似ている様でまた違う感覚。
だが、これだけはわかる。
表も裏も嘘も真もない。
オレはインキュバスのハーベイ。そして……。
「―人間の……加村……悠……」
オレは確かにそうつぶやいた。
そして同じ事をオレの中の悠が―言った気がした。
その途端、オレの体も熱くなってくる。
もちろんオレのアレも。
妙な興奮を覚えつつオレはアレをぎゅっと握る。
オレの中で悠―オレと景子が当時に震えた気がした。
オレと景子がさらに熱くなっている。
ナニしてる訳でもないのに熱い精気がオレの中に注ぎ込まれている。
「おおっ、こ、こいつは……」
悠がそうする様にオレも柔らかく体をしならせる。
「ああ……景子……いいぜ……」
そしてオレは二人をより熱くさせ、より美味しくいただくためにオレのモノをより強くつかみ……押し込んだ。
[newpage]
「きゃっ!」
「ああ……」
わたしと悠の身体が同時に震える。
まるでズンと貫かれる様な衝撃。
さらにわたし達への締めつけもきつさを増したような気がする。
「いい……いい……」
悠が心地よさ気な顔をしている。
「あっ……」
わたしの体中にもとろける様な、吸い取られる様な気持ちよさが満ちる。
よくわからないけどわたしはハーベイの中で「ハーベイを着ている」悠と一緒にいるらしい。
となると―わたし達……吸われてる?
わたしは今、ハーベイ―悠に吸い取られていると言う事になる。
もっとも、「悠」もまたこうして吸われているみたいだけど。
「悠……わたし、おいしい?」
妙な質問をしてしまう。
ハーベイはもう一人の悠なら悠はもう一人のハーベイ。
なら悠に今吸ってるはずのわたしの味を聞いてもいい。
普通ならこんな変な事、聞くはずない。
何とかして悠と一緒に抜け出すとか考えたっていい。
でも―そう考えるには色々ありすぎた。
色々感じすぎた。
色々―とろけ過ぎた。
何となくわかる。
悠が悠でなくなったと言ったみたいにわたしもわたし―景子でなくなるかも。
でも……。
「悠、わたし、わたしでなくなっていい。わたしをやめてもいい、でも……悠が好きな事、悠とこうしていられる事は……やめたくない!」
「けいこ……むっ」
ちょっと無理やり悠とキスする。
舌までは入れられないけどそれでも繋がった唇が優しく絡み合う。
そして、下の方も―触れ合った気がした。
「……!」
「―!」
オレの身体がさらにビクリと震えて熱くなる。
オレのモノが熱くビンと震える。
オレの中でオレと景子が更に熱く高ぶっていく。
「おおっ、おおっ、景子、うまいぜ……景子の精気、最高だ……」
身体に流れ込む景子の精気を感じながらオレはモノを掴み腰を振る。
景子の唇、胸、肌、そして……全てが感じられる。
「ううっ、ううっ、ああっ、おおっ」
オレと景子が響き合う精気が熱い。うまい。
そして恵子はどんどん―オレの中に吸い込まれる時よりも熱くなっていく。
オレの腹……下手すればアレのある辺りにその熱さが溜まっていく。
と言うよりは膨らんでいくような。
でも、オレの手も腰も止まらない。
オレはひたすら本能のまま、内からの熱さのまま動き続ける。
(あ……熱い……気持ちいい……わたし……とけてく……)
「悠」に抱きしめられながらわたしは更に熱くなっていく。
このまま今度こそ吸いつくされて消えちゃうのだろうか。
構わない。悠と一つになれるんだし、それを感じながら消えるのなら……。
体中の感覚が熱に包まれながらおぼろげになっていく。
頭の中もどんどんぼやけていく。
でも……でも……
(いい……ゆう……すき……ゆう……)
うつろになりながらそうつぶやいた。
そんな中わたしの身体が悠から離れ、何かに巻き込まれていく。
黒くて厚い何かの中に。
おぼろげになっていくわたしの心はその中に吸い込まれていく。
まるで黒く厚い塊の中に宿っていく様に。
(ああ……とろける……わたしが……まざる……)
わたしの身体に黒いものが纏わりつく。
肌が黒く染まる様に覆われていく。
黒くなっていく身体をしならせながらながらわたしはその塊の中を抜けていく。
その体をいつの間にか両脇から伸びる手が支える。
しなる身体を強く押さえるように、静かに流す様に支えつつ。
その手は悠の様に優しくハーベイの様に力強い。
(ああ……いい……いい……)
そして、わたしの身体は遂に一瞬何かを突き抜ける。
(あぁんっ……はぁ……ああ……ああ……)
黒い影法師となった姿のまま宙を舞う。
裸だけど裸じゃない不思議な感覚が気持ちいい。
でも、宙を舞う様なその余韻に浸る間もなくわたしの体は一気に降下する。
(え?あ?きゃぁぁぁぁ……)
文字通り引き込まれるように落ちていく。
そして落ちていく先でわたしの身体はズンと受け止められる。
(ひゃあっ!)
悠の―ハーベイの身体と……アレに……。
[newpage]
オレがモノを握るうちにモノ、そしてその上の紋様が熱く高ぶっていく。
特に紋様のあたりが熱く激しく震えている。
「ううっ、これはっ、でる、出るのか!?」
オレにとって初めて「出る」瞬間を迎える―には感じる場所が違う。
でもその場所、オレにとってもう一つの「証」であるその紋様の辺りから何かが盛り出している。
最初は指でつまめるほどから掌の中に入る大きさ、そして両手で隠し切れない大きさに膨らんでいく。
「ううっ、おおっ、うっ」
オレの体を破る様にそれは盛り上がっている。
ついに一個の玉となったそれはさらに盛り上がり、悔しいけどオレのモノさえ越える太さと長さ、大きさの塊になっていた。
びくぴくと震え、時折大きくその姿をしならせるそれをオレは両手で愛おしくなで、時折グッっと掴んだりする。
そして、その中で震えている熱いもの。
オレとつながっている熱いものを感じる。
それは……。
「景子……いいぜ……」
景子だ。
この塊の中で景子が感じている。
オレの身体、オレの身体を作っている皮膜から抜け出そうとするかの様にうごめいている。
グニグニと、うねうねとうごめいているけどそこから景子の素肌が抜け出す気配はない。
まるで景子がこの塊そのものとなったみたいに。
そんな塊―景子を両手で抑えながら優しくなでたりがっちり握りしめたりして動きを制していく。
そうするうちに景子が塊の姿のままオレの身体から一瞬離れる。
離れていく塊からまるで根の様な一対の
ものが伸びている。
ちょうど両足の辺りまで身体を起こしたのだろうか。
景子はしばしそのままオレから「生えた」姿をさらす。
悠の時のオレより少し高めの背丈も長くふんわりとした黒髪も。
ちょっとおっとりとした顔立ちも、そして最低ふた周りは大きな胸も。
全てを飲み込んだ黒い塊となっている景子。
なにか高ぶってくる。
オレが、オレの中の悠が高ぶっている。
これが景子、あの景子だなんて。
オレは初めて悠からハーベイになった時とはまた違う衝動と欲求にかられる。
変えたい。オレが悠からハーベイになった様にこの「景子だったもの」を作り変えたい。
その衝動のまま、オレは塊を両手で掴むとそのままそそり立つオレのモノめがけて一気突き入れる。
「うっ!」
入れる感触がさっきよりキツい。
オレの皮膜越しにオレのものが景子の中に入っていればこんな所だろう。
ついさっきハーベイを受け入れた時よりもより強くわたしの中に入ってくる。
いや、わたしがより強く受け止めているの?
より強く繋がりあっている感覚が痛くてきつくて―キモチイイ。
体中を黒いものにピチピチに締め付けられた、あるいはわたしそのものになっているのか。
もとのわたしより小さく押し込まれている様な感覚も―キモチイイ。
このあと何が起きるのか……きたぁっ!
(ひゃあっ!ああっ、あっ、あっ)
わたしの中でハーベイのアレが震え出す。
わたしの身体が、わたしの魂がかき回されていくこの感じっ!
そしてハーベイ……の中の悠とわたしが肌を触れ合わせていた時とはまた誓う形で響き合う!
さらにわたしの身体を支えるハーベイの手が震えるわたしの身体を押さえ込む!
(ああっ、ううっ、ゆう、うあっ、ハーベイ、いいっ、いいっ)
感じる、感じてる、感じちゃう!
わたし、変わっていってる!
悠が悠からハーベイになったみたいにわたしも、わたしも……。
感じた。
腰を使わずただモノだけ―あるいはモノを繋げてる悠も―を動かして繋がっている黒い塊が、その中で震えている恵子が言うのを感じた。
―わ・た・し・も・か・え・てー
ーい・い・よ・け・い・こー
オレの中でそう答えようとした悠の声と重ねる様にオレは答える。
「いいぜ景子―変えてやるぜ」
その途端オレのモノが、そしてオレの中の悠がオレ自身をイカせようとするかの様に震える。
「うおあっ!?」
やはり噴き出す事こそないけどその分熱く震える精気を黒い塊、そしてその中にいる景子に注ぎ込む。
精気が注ぎ込まれる度に黒い塊がびくんびくんと震え、その中にいる恵子をかき回す。
景子―嶋景子と言う存在を跡形も無くかき回し、練り崩し、新たに作り替える。
そしてその新しい存在にふさわしい形に
目の前の塊を作り変えていく。
いや―。
ああ、ああ、ああっ!
いいっ、いいっ、いいっ!
はーべいからあついのがくるっ!
くるたびからだふるえるっ!
わたしがかわっていく!
かきかえられていく!
いままでのわたしがなくなっていく!
あたらしいわたしになっていく!
あたらしいわたし、あたらしいわたし!
ゆうの……はーべいのおとも!
はーべいのぺっと!
はーべいのしもべ!
それがわたし!あたらしいわたし!
はーべいのいうこときいて、
はーべいをきもちよくして、
はーべいことをまもって、
はーべいにきもちよくされるいきもの!
そんなわたしにわたしじしんをかえちゃう!
かわっちゃう!むしろ……かえてぇっ!
わたしはかわるぅ!
はーべいがかえるぅ!
あたらしいわたし!これからのわたし!
ああ……うかんできた……ながれこんできたぁ……
わたしの……あたらしいわたしのぉ……。
オレの目の前で景子ーだった黒い塊が変わっていく。
繋がっていたそこからみるみる銀色に染まり覆い尽くされていく。
全体の形が細く、小さくしなやかに整えられていく。
人でありながらそうでない形へ。
何か違うものが人の形を取っているような存在へ。
かわいらしく癒やされるような、それでいて妖しく力強さも秘めてる様な。
オレを守りオレに尽くしオレに捧げオレを癒やす―そういう思いを持たせる存在へ。
「そうか……それがお前のなりたい姿か……」
いつしか尻の辺りからオレとはまた違う形の尾が伸び、顔形も猫かコウモリかを思わせる大きな耳をたたえた小動物的に整えられていく。
開いていく瞳も銀色の猫目―のようだ。
手にするその感触も暖かく、柔らかく、
適度な毛皮の触れ心地を感じている。
変わっていく景子―いや、もうその名前ではあるまい―を感じながらオレの頭の中に言霊が浮かぶ。
この姿、この形、この存在にふさわしい名前。
オレの……オレの使い魔としてあり続ける日々の証としての名前。
そして、その言霊がオレのモノの中に集い新たに生まれようとする生命へと注ぎこまれていく。
「お前の名前……お前の名前は……オレの……ハーベイの従者、ハーベイの下僕、ハーベイの使い魔……」
ああ……きてる……わたし……わたし……わた……わ……。
なまえ……わた……わた……わたく……わたくし……わたくしの……わたくしのなまえ……名前……。
……とろける様な心地よさとともにわたくしの頭の中に言葉が浮かんできましたわ。
それはわたくしの新しい名前。
これからの名前。
それは……。
「わたくしの名前……わたくしの名前は……オレの……ハーベイの従者、ハーベイの下僕、ハーベイの使い魔……」
「新たな彼女」が解き放たれた瞬間、二人は同時に達しながらこう叫んだ。
「ミスビィ!」
「ミスビィですわぁっ!」
ミスビィ―その名を授けた事、受け取った事の余韻に浸りながらかつて親友同士の少女達だった淫魔とその使い魔は心地よい一時に浸っていた。
[newpage]
「……あう……ご主人様ぁ……わたくし……しあわせですわぁ……」
そう言いながら生まれたての使い魔は繋がりあったまま、長い尻尾と銀色の毛並みを主の裸の胸板に沿わせる。
「こうして人間の皮を脱ぎ捨てありのままのわたくしに生まれ変われたのご主人様のおかげ。わたくし、この魂の朽ちるまでご主人様にお仕えいたしますわぁ……」
かつてに比べると薄めの胸を擦り付けながらミスビィは喉を鳴らすような仕草で頭を揺らす。
ハーベイはそんな彼女の頭を撫でながら、
「ああ、改めて頼むぜ「景子」」
とわざとかつての名前で使い魔の名を呼んだ。案の定ミスビィは頬を膨らませながら、
「景子?そんな名前も記憶も存在もとうに消えてなくなりましたわ。わたくしはミスビィ、ご主人様がそう名付けてくださったじゃありませんかぁ〜」
そう言いながら主の顔を愛おしそうに舐める。
実際今のミスビィに景子としての自我はない。
ただ自分がそう呼ばれていた存在だと言う記憶が不本意ながら残っている位である。
「ああ、悪かったなミスビィ。ちょっとからかわせてもらった」
「もう、ひどいですわぁ」
そう言いつつもミスビィに笑顔が戻る。
「でも……ご主人様にイジワルされても心地よいですわぁ……それに、ご主人様と繋がっているせいか、身体の内側から暖かく、気持ちいいのが来てますわぁ……」
ミスビィはややのろけた感じで体を降る。
そんな姿を見ながらハーベイの頭にある事が閃く。
「わびと言ってはなんだが、面白い事を教えてやろう。お前がもっと気持ちよくなれる方法をな」
「!?本当ですかご主人様?」
「ああ、まずは一度抜かせてくれ」
「は……はいっ」
ハーベイの言葉に反応したのかミスビィはやや名残り惜しげに主との繋がりを緩める動きに入る。
それに合わせてハーベイも静かに腰を引き、繋げていた自身をミスビィから引き抜く。
「ああ……あんっ」
抜き去られた瞬間、使い魔の中に快感と軽い喪失感がよぎる。
それでもこらえる事ができたのは主の言う「もっと気持ちよくなれる方法」が関係しているのは間違いない。
ご主人様の言う事に間違いはない、きっとさらに気持ちよくなれる方法を教えてくれる……。
ミスビィは何の迷いもなくその銀色の毛並みをハーベイから放す。
猫の様な姿にふさわしく名残惜しげに身をすり合わせながら向き合うように座り直すと、
「ご主人様ぁ、次はどうすればよろしいのですかぁ?」
少しとろけ気味の声でたずねてくる。
ハーベイはニヤリと笑みを浮かべつつ、
「そうだな……まずはここに触れてみろ。お前にも同じ様な紋様があるはずだ」
と自分の下腹部―淫魔の紋様を指で広げる様に見せる。
それに合わせる様にミスビィも自分の下腹部に目をやる。
そこには銀色の毛皮の中にうっすらと、そして確かに光る紋様があった。
ハーベイのものに似ているが多少シンプルなデザインになっている。
「これが……わたくしの証、ですのね……」
「ああ、オレの使い魔としての証、そして―お前自身としての証さ」
うっとりとした顔で紋章を撫でるミスビィを満足げに見ながらハーベイもまた自身の紋様に指をかける。
「ああ……この感じ……いいぜ……」
そのたくましい肉体と素肌を波打つようにしならせながらハーベイは指を当てた紋様を軸に大きく腰を振り始める。
「こう、ですのね……ああっ……あ……いいですわ……」
紋様に指を添え、そのまま軽く自分の下腹部に押し込む様に指先に力を入れる。
それだけでミスビィの体に快感が走る。
「はぁっ、あはぁ……なんですの……わたくしのそこから熱いのが……満ちていきますわぁ……」
「どうだ……いいだろう……淫魔として獲物とスるのとはまた違う感覚……ああ……来る……来ちまう……」
ハーベイもまた自身のそそり立つモノを通じて自分の内なる高まりを感じている。
[newpage]
ああ……いい……いいですわぁ……。
これが淫魔の、使い魔の感覚ですのね……?
熱い精を体中で吸い糧にするこの心地よさ。そしてこの美味な事。
人間だった頃には決して感じられなかった喜びですわ。
ああ……使い魔に、ミスビィに生まれ変われてよかった。
嶋景子なんて存在、二度と名乗る事も見る事もしたくありませんわ。
とうに脱ぎ捨てたあんなもの、あんなもの……ひゃうっ!
何と言う事でしょう。わたくしの紋様にご主人様の指が……。
恐れ多い、恐れ多い事ですわ。
使い魔に過ぎないわたくしごときの紋にご主人様の指が……あんっ。
その力強くも優しい触れ心地にわたくしは思わず感じてしまいました。
この様な心地よさを与えてくれるご主人様にお返しを……。
気がつけばわたくしの指もまたご主人様の紋様に触れておりました。
ああ……ご主人様の紋の感覚、指越しに感じられるご主人様のぬくもり。
それらがわたくしの指を通じてわたくしの中に伝わってくる。
そして同じ様にわたくしの温もりがご主人様に注ぎ込まれている。
ああ……幸せですわ。幸せですわ。
この様なご主人様に使える事ができてわたくし……わたくし……
(わたし……ゆう……かんじてる……)
?!わたくし、何を口にしたのですか?
まるでそう、景子だった頃のわたくしの様に。
それに悠と言えばご主人様がご主人様になる前の名前。
とうに捨て去ったはずの名前ではありませんか……あっ。
(ゆう……ああ……ゆう……)
感じている……感じてますわ。
ご主人様の、そしてその中でたぎっている人間の、悠としてのご主人様。
ご主人様としてありながら消える事なくそこにある姿。
その精がわたくしにも感じられますわ。
ああ……同じ様にわたくしの中、わたくしの内側で景子が、景子としてのわたくしが感じてますわ。
消えたはずの、捨てたはずの景子としてのわたくしがわたくしの中で熱くたぎってわたくしの中に注ぎ込まれていますわ。
それだけじゃなく景子の精気がご主人様の中に注がれているような感じ……。
ああ……つい先ほどわたくしがご主人様の中で見たのはこれだったのですね。
悠の精気、おいしいですわ……。
恵子の精気、お気に召していただけましたか……。
ああ……感じる。
ミスビィの身体から良い具合に景子の精気を感じるぜ。
紋様を押さえていた仕草についそそってしまいあいつの紋様に触れちまったがまあかあいつまでオレの紋様に触れちまうとはな。
しかもご丁寧に景子の精気までおまけして。
そのせいかオレ―の中の悠もテンション上げている。
まったく、ミスビィも「景子は捨てた」みたいな事を言いながらそれじゃまるでオレ……なり損ないの使い魔……なるほどな。
間違いなく景子は景子のままミスビィの中にいる。
まあオレの中にひっぱりこんで楽ませたあとオレの身体、オレの皮膜を抜けて出てきた訳だし無理はないか。
だからこそこうして楽しんてるわけだし……。
「ミスビィ、そろそろイくか?」
「あ……はい、ご主人様とイくのでしたら……」
―オレの右手とミスビィの左手がミスビィの紋様を。
―わたくしの右手とご主人様の左手がご主人様の紋様を。
それぞれ添え合いながら互いに昂ぶらせ合う一時に入る。
例え主従の関係にあるとは言え、今どちらの手が主導権を握っているかはわからない。
それほど二人の手は自身と相手の紋様を刺激しあい高ぶらせあっている。
「ううう、おおおっ、ううっ!」
「あぁぁ……あはぁ……あうぅん……!」
指先で紋様がさらに妖しくかつ強く光り輝く。
その輝きに刺激されてかハーベイのそそり立つモノはなにか一回り存在を増し、ミスビィの秘めたるそこは潤いを増しながらも引き締まっていく。
「ミスビィ、いいぞ、いいぞ、オレ、そろそろ、イキ、そうだ……ああっ!」
「ああっ、ひゃあっ、ご主人さまぁ、わたくしもぉ、わたくしもぉ、イキぃ……ますわはぁんっ!」
男女それぞれの快感に震え、その身を何度もよじらせながらも二人は紋様から指を外さない。
「あ、あぁ、なんだかからだがぁ、引き締まってぇ、来ますわぁ……はぁんッ!」
身をよじらせるうちにミスビィの身体が何か小さく押し込まれていく様な錯覚が襲う。
「うっ、くる、オレの身体……きしんで……くるぅ!?」
ハーベイも身体が震え全身の筋肉がきしみながら縮こまっていくのを感じながらそれを快楽と受け止めていく。
「ああ……わたくし……しまりますわぁ……からだも……むねも……おしりも………かおも……」
「うう……ちぢむ……おれのからだ……ちぢんでいく………」
みちみちと身体中が引き締まる中で二人の身体に変化が起きてゆく。
ハーベイの黒髪と金色の角が、ミスビィの銀髪と獣耳がベッタリと縮んで頭の中に埋もれていく。
それだけではない。筋肉質でもないが相応にたくましいハーベイの肉体が、銀色の毛並みに覆われた小柄でしなやかなミスビィの肢体が。
みるみる形を失いながら縮んでいく。
それと入れ替わりにその肌はにじみ出るような黒いものに覆われていく。
あるいは埋もれているのだろうか。
「あ……わたくし……とけて……いきますわ……うもれ……ますわ……あつい……ですわ……」
「うう……いい……とろける……たぎる……ああ……おお……」
バーベイの相応に二枚目的な顔も、ミスビィのまさに猫と言える口元や瞳も全てが黒く覆われその形を失っていく。
もちろんハーベイのそのそそり立つモノも、ミスビィの毛並みの中にのぞいていたそこもみるみる埋もれ飲み込まれていく。
(ああ……あついっ……ですわ……きもちっ……いいっ……ですわ……)
(ああ……おお……うう……いいぜ……いいぜ……)
すべてが曖昧になっていく中ただ自分と相手の下腹部に指を添える姿勢のまま二人は黒い影法師へと変わっていく。
無機質かつ無感情なその黒い塊となった中で熱い昂ぶりだけがたぎるように満ちる。
(ああっ、ああっ、あああっ、いいっ、いひぃっ!)
(ううっ、うふぅ、うおぅ、おあっ!)
二人の姿形が黒い塊に飲まれたようにその意識や魂が熱い昂ぶりの中に飲まれ、一つとなっていく。
淫魔とその使い魔ならば最高のごちそうともなろうその熱い精気の昂ぶりに自らを溶け込ませながら二つの魂は形を変えていく。
(ひぃっ、ひゃあっ、あぁっ、ああっ、あっ、あっ、あんっ)
(おあっ、うあっ、ああっ、あんっ、ああっ、あっ)
より小さく閉ざされていく姿の中で聞こえないはずの二つの声が重なるように響く。
その響きを示す様に黒い塊達は震え、その根元にある紋様は輝きを増す。
ビクビクっと激しく震えていた動きがどんどん静かになっていく。
いや……。
(あんっ、あっ、あ、あ、あ……)
(ああっ、あっ、あ、あ、あ……)
その震えは小刻みなものとなりより激しさを増している。
紋様の輝きも震える様に激しく瞬いている。
内なる昂ぶりと外からの締付けが全てを恍惚と快感に満たしていく。
そして、それがついに頂点に達した時―!
「ひゃあっ!」
ハーベイだった小さく黒い塊から整った濃い茶色のショートの髪をたたえた女性の顔が。
そしてサイズはそれなりで形のいい膨らみをたたえた胸をはじめとする生まれたままの女体が抜け出す様に姿を表す。
「あああっ!」
ミスビィだった小さく黒い塊を文字通り突き破り一回りか二周りは大きく見える肢体とふんわりとした長い黒髪、そしてそれ以上に豊かな胸を震わせた裸身が解き放たれる。
そして二人の下腹部になおも輝いている紋様の中に抜け殻と化した黒い塊、あるいは皮膜が吸い込まれていく。
掃除機でホコリを吸い取るように紋様は黒いすべてを吸い込み切るとふうっとその素肌から跡形もなく消え去った。
何のあともないきれいな柔肌を隠す事なくあらわにしながら淫魔とその使い魔だった二人の女性はしばし惚けながらベッドに座り込んでいた。
[newpage]
……うう……この感じ……。
身体……なんとなく小さい。
肌の感じ……柔らかい。
胸……触ってみる、うん、それなり。
そこは……触れなくとも……うん、女だ。
戻った……わたし、悠に「戻った」……。
初めて淫魔に、ハーベイになってから久しぶりに感じたこの感じ。
ハーベイを着る事で悠を脱いでハーベイになる様にハーベイを脱いで悠を着て悠になる。
どちらが偽りで本当か。自分を否定していたのはどちらか……どちらも同じ。どちらも―「わたし」。
それとも―「オレ」?
どっちにしろやっとわたしは「わたし」を受け入れた気がする。
思わずぎゅっと自分を抱きしめる。
嬉しい。なんだか嬉しい。
こんなに嬉しいのはきっとはじめて……。
「悠?」
不意に呼ぶ声がして振り向いた瞬間―。
わたしの頬に痛みと衝撃が走る。
そこにはムッとした顔でわたしを引っ叩いたばかりの景子がいた。
「け、景子?」
「悠、よくもわたしの事めちゃくちゃにしてくれたわね!」
恵子は激しい勢いで裸の体を押し付ける様にわたしの胸ぐら―の代わりに肩をつかむ。
「いきなり人前であんな事……まあわたしもシちゃうけど……の上に男の姿になって押し倒したあげく……」
そこで少し口ごもるが景子はそのまま言葉を続ける。
「しかも気がついたら悠―ハーベイだったわよね―の中に吸い込まれて悠と抱き合えて……」
今度は一瞬顔を赤らめる。
まあ、あの時はほとんどハーベイになってたけど結構効いてたわけで……つい思い出してわたしもついのろけそうになる。
「そして今度はわたしを使い魔にして挙げ句むりやり元に戻す!わたしは悠のおもちゃじゃないんだから!」
使い魔がここまで足ざまに言うか……とは言えハーベイの時はともかく悠としてはちょっと後悔もしている。
―わたしがミスビィとしての恍惚の時から再び景子としての自分に引き戻されたのはついさっき。
悠と離れたあと身も心も覆い尽くされ使い魔―ミスビィに生まれ変わった感覚はとても気持ちいい、と言うより「すごかった」。
淫魔の使い魔となった気持ちよさとその体の中でたぎるマグマの様に熱くなりながら気持ち良くなってる景子としてのわたしがミスビィに程よく吸われている心地よさ、ミスビィとして景子を吸った味……。
ほんとに「おいしかった」。
それでまた熱くなっちゃう。悠ってこんないい事してたんだ……。
そんな事に浸りながら意識が戻った瞬間、なぜかわたしは悠の頬を引っ叩いていた。
そして思い切りぶちまけていた。
わたしは悠―ハーベイの使い魔のはず。
でも、何か頭にくる。怒らずにはいられない。
色々とむりやり人を引き込んであんな事こんな事―!
ミスビィなら絶対思いもしない思いと共にミスビィなら絶対しない事をやった。
それがわたし、今のわたしが人間―景子だと言う事。
それになんの迷いもなかった。
だって……。
「わたしは―悠が好きだから!色々シてくれたのが悠でよかったと思ってるから!悠の事思って一人でシてたの無駄じゃなかったってわかったから!」
そう続けずにはいられなかった。
悠は鳩が豆鉄砲食らった様に驚いた顔をしていたが……。
「こっちだってああなってるから景子の事わかっちゃうとホントに色々止まんなくなっちゃったじゃない!そもそも色々ぶちまけてからヤったのは景子が初めてだから!景子とデきて思い切り嬉しいから!おかげで……」
そこまで言って一瞬口ごもり、静かに続ける。
「わたしが「わたし」だって思い出せたもの……」
わたしはその顔につい肩に置いた手を緩めずにはいられなかった。
景子にしても悠にしても異なる自分・新しい自分となった事で改めてもともとの自分の思いを確かめる事となったのは間違いない。
そしてその思いが異なる自分・新たな自分の糧であり芯である事も間違いではない。
「……うふふっ」
「……あははっ」
景子も悠もどちらからともなく笑い出す。
屈託もない笑顔が全てを示していた。
「でも悠、ホントにわたし悠に感謝してるよ?ああしてくれたおかげでわたし……」
そう言った景子の笑顔に妖しい艶が交じる。
いつの間にやっていたのか景子の手はその下腹部、そこに再び浮かび上がっていた紋様に伸びていた。
そして、恍惚の顔と同時に景子の全ては黒いものに覆われ縮こまっていき……。
「わたくし、悠をはじめての「ごちそう」にできるんですもの。うれしくてたまりませんわぁっ」
その中から現れた景子よりも小さく、そして倍以上の感情を露わにした銀色の使い魔は舌なめずりをしながらいつの間にか幾重にも伸びた尾をうねうねとうごめかせている。
「け、景子、ちょっと落ち着いて。これ、ご主人様命令、ご主人様の言葉!」
突然の事に驚きふためきながらもう一つの姿となった親友を止めようとする悠。
しかしその嘆願は可愛らしい笑みに却下される。
「わたくしはミスビィ、ハーベイ様の使い魔。景子でも悠の使い魔でもありませんわぁ」
文字通り小悪魔的な笑みと共に迫るミスビィ。
その下腹部、使い魔の紋様の下からはいつの間にかもう一本長くしっかりとした「尾」がそそり立っている。
「今度はわたくしが楽しませてもらいますわね、悠♪」
悠は見てしまった。
ミスビィのその使い魔の笑みの中にいつもと、そしてまた違う親友の笑みを。
そして感じてしまった。
毛皮と触手の味のする「初めて」を……。
「で……どうしてあそこでハーベイになっちゃうわけ?もう少し楽しませてくれても良いじゃない」
翌朝、シャワーを浴びて洗濯の済んだ私服を身につけた景子が少し不満げな顔で朝食の支度を手伝っている。
「あのね、わたしだってヤられっぱなしでいられないわよ?景子がミスビィになった時以上にうまくヤらせていただきました、てね?」
同じく私服姿の悠が軽くにやりと笑みを浮かべながら返す。
「その場合悠のままもう少し粘ってくれないとわたしとしては困る。ハーベイになったらわたしもあまり羽目外せなくなるし」
「そこはふりでも下克上しかけるのが醍醐味じゃない?少なくともわたしはそれ位OKだし」
「わたしだってそれ位望む所だけどそれができなくなるのがミスビィだってわかるでしょ?」
「じゃあ今度ハーベイになった時に好き勝手して良いって命令しようか?」
「―それじゃあ使い魔とご主人様の意味がないじゃない。その分悠とは思う存分……したいけど……なんとなく……」
「確かにあそこまで派手にヤっちゃうとわたし達としては……ねえ?」
痴話げんか寸前のテンションでやりとりしていた二人だったが不意に顔を赤くしつつ着ている服の襟を正す。
淫魔として派手に絡み合った分人間としては理性が強く出てしまうのだろうか。
「それならまたハーベイで景子を……かそれとも今度こそミスビィでわたしをとことん……とか?」
「それはそれでいい様な、どうせならわたしでハーベイを押すのも良いしミスビィが受けになるのも……」
「景子、そうとう無茶な事考えるね」
「誰に目覚めさせられた性癖ですか?」
「誰がきっかけ与えてくれたのかな?」
何にしても互いへの思いはともかく理性の強い人間の女性同士としての会話としてはとことん不毛と感じたのか二人はそこで口ごもる。
「とりあえずご飯食べたら帰るね。今日は電話もメールも、一人でスるのもなしにする」
「その方がいいかも。また学園で会おうね。あと最後の一言は余計」
「悠も人の事どこまで言えるの?」
「さあ……」
そんなこんなでその朝は別れた二人だが、色々な形で「新たな関係」に目覚めてしまった二人がそうそう距離を取るのは難しい話ではある。
その夜か、それとも別の夜か。
町の片隅で「獲物」を狩る淫魔とその使い魔の姿があった。
[newpage]
その女性が夜の町角で心無い者達に引き込まれたのはほんの数分前。
依頼人との話を終えた夜、事務所を出て自宅の近くで車を止め、自宅に向かおうとしたホンの一瞬であった。
依頼人関係の逆恨みかそれとも偶然か。
あまりにも唐突かつあり得ないような程の展開に彼女はおののくしかなかった。
しかし、事態は更に彼女の予想と常識を覆す。
金か、命か、それとも……な状況に割って入った一つの影。
これまたあまりにも場違い―トンチンカンな仮装とも言うべき金色の装飾を施した肩当てとブーツ、グローブに露出の多い黒い衣装をまとい、トドメに金の角と瞳を持つその男。
案の定その男は心無い者達に囲まれ袋叩きにされる―事なく逆にそいつらを圧倒する。
稚拙な凶器を難なくかわし、ほんのちょっと触れただけでそいつらは文字通り骨抜きになって崩れ落ちる。
彼女を人質に取ろうとした者もその視線の前に一瞬で虚勢を失い触れられた瞬間崩れ落ちる。
残った数人はあまりの展開に即座に逃げ出そうとしたが、その前に銀色の毛並みを持つ一匹の猫が現れ……幾重もの尾を網の様に振りまいた。
その光景にただおののいていた彼女の顔を男は優しく撫でるとその顔から恐怖は消え、代わりに恍惚と心地よい弛緩に満たされる。
そして顔だけではなく首を、肩を、胸を、腰を撫でられながら彼女はその身を男に預けていく。
直後、ズンと貫かれそこから熱く震える衝撃と快感に彼女は女としての本能的な歓喜の声を上げる。
男の熱い貫きと甘い声に理性や自我を突き抜けとことんまで刺激される快楽と解放感。
そしてとろけるように熱い生命の波長。
それが注がれる度に彼女は鳴いた。吠えた。
声の限り、内側から満ちる熱さの限り。
彼女を貫く者達の力により何物にも遮られずはばかる事なく。
そして全てが頂点に達した瞬間―彼女は歓喜の咆哮と共に着ていた服を残して姿を消した。
彼女を貫いていた男の前で衣服が力なく落ちていく……。
はぁ……ああ……やっちまったぜ……。
また「食っちまった」……。
あの夜以来テンション上げて「食う」とついついこうなっちまう。
オレの体、オレの肌、そしてオレのモノ。
ついでにオレの中の、オレと繋がってる悠までも。
全てがオレのままにガンガン震えまくって女を震わせて。
そこから良い具合に「頂いていた」らこうなるんだもんな……。
出せない代わりに「入っちまう」なんて。
ああ……でも……いいんだよな……。
オレの中、オレのこのインキュバスの体の中で女が―悠とあの女がオレを感じさせる―。
いつもその身体を乱しながらオレを満たしている悠。
その悠が女を―もちろん丸裸だ―後ろからそっと抱きしめてる。
別にナニするわけでもない。
ただ肌を添わせ、ちょっとその胸を背中に押し付けてる位か。
でも―そいつがいい。
さっきとはまた違う形でオレの中に良いものが流れ込んて来る。
言って見ればそう、「癒やされてる」って言うのか?
色々解き放たれて満たされている。安らいでいるって言うか。
聞こえる声も結構落ち着いてかつ甘い。
さながらステーキのあとのスイーツって所だな。
こう言う味はやはりまっとうに生きてる・生きようとしている女だからこその味だ。
この女も結構頑張っていろんな奴らの為に動いているみたいだしそう言う思いを持つ女の精気がまたうまいんだ。
よくある物語で言えば聖職者とか騎士とかそう言う女性を獲物にするって所かな。
もっともオレ達の場合は「堕とす」んじゃなくて「上げる」―堕とさない為に「食う」ようなものか。
こんないい精気をくれる女達が歪んでしまうなんてもったいなさすぎるぜ。
前に「食った」あの先生も今のところまっとうに過ごしているみたいだし。
そこへ行くとこの女をどうにかしようとした奴らの精気なんておやつ位が関の山、かな?
おっと、オレ以上に「おやつ」を食ってた奴が戻ってきた。
はぁ……とことん搾りましたわぁ……。
これくらい搾れば二度とバカなまねはできないでしょうけど。
もっとも、こんな奴らにわたくしの「本気」を示すなどもったいないですわ。
それこそこの尻尾でちょっと絡んで締め付ければ十分。
しかも味としてはたいした事もないですし……ってご主人様?
すでに本命を「召し上がっていた」様でその顔はご満悦そのもの。
やはりああ言う方の方が「おいしい」のはご主人様も使い魔も変わりません。
おこぼれでも良いですからいただかかなくては……。
「ご主人様ぁ~わたくしにも少しいただけませんかぁ~?」
そう言いながらわたくしはわたくしの「本気」ーそう、本来わたくしが精気を「食う」為のその場所を見せつける様にご主人様をお誘いする。
おこがましい行為かも知れませんがこれは―そう、わたしの中にいる人間、景子のせいですわ。
景子がご主人様―の中にいる悠に過剰な思いを抱いているのが悪いんですの。
ご主人様に「食われなければ」それこそどうなっていたかわからぬ身の程知らずのくせに……。
ううん、わたくしはミスビィ。ハーベイ様の使い魔。これはご主人様に精気をさらに補充させてもらう為の仕草ですわ。
わたくしの中にいる景子に押される―じゃない、押さえる様に、わたくしはご主人様に迫ります。
ご主人様がいただいている女性の熱く清い精気、そしてそれを高めているご主人様―の中の悠の精気をいただく為に。
「ひゃあ……はぁぁ……ご主人様あ……すてき……すぎましたわぁ……」
既に「繋がり」も外れ、みっともなく地べたに倒れ込むミスビィ。
「おいおい、これでもかなりの食い残しレベルだぜ?それ位で倒れてんじゃねえよ」
それを見下ろしながらバーベイはやれやれと言う顔をする。
「それはぁ―ご主人様の技がすごすぎただけですわあ……あまりにすごすぎてわたくしぃ、あまり精気をいただけませんでしたわ……」
そう言うミスビィの顔は悔しさ以上に喜びに満ちている。
「これじゃあ使い魔失格ですわ……もっと精進しなくては……」
「ま、そこまで落ち込む事はないさ。オレの使い魔としては申し分ないんだからさ」
そう励ます主の声に元気づけられたのか、ミスビィはクルリと起き上がるとそのまま宙返りをして着地する。
いつの間に姿を変えたのか、その形はより人に近い姿に。
ハーベイとお揃いの様な銀色の装飾を施した肩当てとブーツ、グローブに露出の多い衣装をまといその顔立ちも猫の様な人間の女性の顔立ちになっていた。
これは進化と言えるのだろうか。
「そうですわね。せっかくこうしてさらなる姿に変わる事もできましたし」
そう言って軽くウインクをする。
ハーベイは軽く苦笑しつつも、
「それじゃあ、この女を家までエスコートしてやるか」
と言うと下腹部に光る紋様に軽く力を込める。
その瞬間、ハーベイのたくましい体格がしぼんていく。
細く、柔らかくしなやかに。
それでいて引き締まった腰のくびれや尻のライン、豊かな胸の膨らみがあらわになる。
「ふうぅぅぅ……はぁぁんっ……!」
短い黒髪は流れる様に青の混じった銀髪に変わる。
その姿、その顔立ち。ハーベイは今女―サキュバスの姿となっていた。
「ああ……サキュバスの姿も麗しいですわぁ」
「うう〜む、オレの身体なのが惜しい位にいい体つきだぜ」
そう変わらぬ口調で言うと先程地面に落ちていた女性の衣服に腰を下ろしていく。
「ふう……うう……はあ……」
妖しい声を上げながらハーベイは女性のスカートの辺りに下腹部をそわせ力を込める。
淫魔の紋様が光を増し、その辺りに熱いものが固まっていく。
「うう……ああ……集まる……まとまる……でてくる……」
ハーベイは体をよじらせつつその時を待つ。
そして……。
「うあっ!」
その高まりを解き放った瞬間、一瞬ハーベイの身体がのけぞる。
そしてその下では衣服の持ち主だった女性が何事も無いように衣服をまとい静かに寝息を立てていた。
快感と癒やしの双方で満たされ尽くした穏やかな顔を浮かべて。
「ふうっ、ひと仕事終了。ごちそうさまってな」
女性の無事な様子を見ながらハーベイは満足げな顔を浮かべその長い髪を撫でる。
豊かな胸も大きく反らしつつ。
ミスビィもその猫の様な衣装の女性と言える姿を弾ませながら主の姿に見とれている。
「さて、送り狼ならぬ送り淫魔の直通ハイヤーと行くか」
そう言うとバーベイは再び男性―インキュバスの姿に戻り女性を抱きかかえる。
「はいっ。わたくし露払いをさせていただきますわぁ」
ミスビィはうなずいてその姿を再び人型の猫の様な姿に変える。
そして羽を広げ、足先に建物の影に覆われた先の夜空に飛び上がっていく。
それをしばし見届けた後、ハーベイも黒い翼を広げ夜空に飛び上がった。
[newpage]
しばしの後、女性を何事もなく自室まで届けた二人はその屋根の上でしばしの休息を取る。
もちろん「狩り」の時同様特殊な結界を張っているので一般的な科学界の感覚や技術でそれを見る事は容易では無い。
「ふう、一仕事終了ってな」
「おつかれさまでしたぁ、ご主人様」
言葉を交わし合う二人。その姿に突然変化が起きる。
ハーベイのその黒髪と金色の角、そしてりりしい顔立ちが突然黒く形を崩し、黒いものに覆われながら消えていく。
ミスビィもその猫的な顔とそれを覆う銀色の毛並みを黒いものに飲み込まれながらその形を無機質的な玉の様に変えていく。
さながら黒い全頭マスクのような形となった顔のまま二人はそのまま座り込んでいる。
そして、黒い皮膜を破り異なる顔が姿を現す。
ハーベイの顔からは整った濃いブラウンのショートカットをたたえた顔立ちの女性の顔が。
ミスビィの顔はふんわりした長い髪をたたえたややおっとりした顔立ちの女性の顔が。
「はぁっ……」
ショートカットの女性―悠は少し上気した顔で軽くかぶりを振り、
「ふぅぅ……」
長い髪の女性―景子も大きく息をしながら少し乱れた髪を撫でている。
二人とも鎖骨の辺りまで覗く素顔こそ人間の女性ものだが、その下はインキュバスと猫人型の使い魔。
言ってみれば着ぐるみの顔と首の辺りだけを脱いだ様な形になっているが、その姿は異様でもあり滑稽でもありそして悩ましい姿でもある。
「とりあえず今夜の一人目いただきましたってね。これだけでも十分満たされた感じもあるけど」
そう言う悠の顔には実際満足げな笑みが浮かんでいる。
善性の強い、あるいはそちらよりの人間の精気はやはり淫魔にはそれなりの美味と言う事だろう。
まして悠自身もハーベイの「中の人」として取り込んだ女性の精気を吸いながら同時に肌を触れ合わせながら捧げてもいるのだ。
そしてそれは……。
「そりゃあ満たされるわね。女の人と裸で抱き合って気持ちよくなってるんだもの」
心なしか景子の顔には不満そうなものが混じる。
「あのね、別にシてるとかじゃないから。ただちょっと触れ合ってるだけだから。景子とだって―シたんだから」
あの時ハーベイの中で素肌を重ねた事を思い出して少し恥ずかしげな顔をする悠。
それを見て景子も少し言い過ぎたと思ったか、
「ま、まあ、淫魔としては色々な形でああ言う人達を"食べる"ついでに癒すとかあんな奴らを"狩ったり"できるのはありがたいけどね」
そう言いながら尻尾―首から下のミスビィとしての―を軽く揺らす。
「でも、やっぱり何かしっくり来ないと言うか何か足りないと言うか―悠、わたしも"食べて"」
「景子、落ち着きなさい」
唐突に際どい事を言った使い魔の皮を着た親友にかなり真顔でツッコむ。
しかし景子のテンションは止まらない。
「あるいはいっぺん脱いで。ハーベイから生まれた使い魔ならわたしの中で―悠を癒やせるはずだし」
以前ミスビィとして悠を「初めての食事」にした際そこまで至らなかった事がかなり不満な様だ。
「とりあえずその辺りはまた改めて考えよう。他の人はともかくわたし達同士だと何が起きるかわからないし」
「合体変形超進化とか?悠とならいくらでも……でも変わり過ぎて戻れないのもちょっと困るか」
「まあわたし達の場合元から身も心も変われるけどね」
そう言いながら悠は首から下―ハーベイの体をポンと叩く。
「こっちがあっちの仮の姿かそれともこっちがあっちを着てるのか……」
景子もそう言いながら元の姿より背丈も胸も控えめなミスビィの身体を見回す。
シャドウサイド―淫魔の魂に目覚めながらある意味不幸な偶然で不完全に近い形で淫魔と魂はともかくその使い魔にならねばならない二人。
ただ、この二人だからこそより言えるのは……。
「わたし達は―オレ達!」
「わたくし達は―わたし達!」
どちらからともなくそう言い合った。
「―と言う所で、そろそろ次の"お仕事"、行く?それとも……」
「もう少しだけ休むか……どうする?」
「さあ?」
明と陰の狭間。
人の世界と淫魔の世界の狭間。
女と男の狭間。
淫魔と人の狭間。
様々な狭間が合わさる中、それなりのやり方で狭間を守る二人のなり損ないの淫魔達のやり取りが続いている。
ーオレ(わたくし)達には秘密があるー
ーわたし達には秘密があるー
了
[newpage]
*今作の淫魔の設定
淫魔として目覚めた者の中にはごくごくまれに不完全というかイレギュラーな形で淫魔に転生を果たす者がいるらしい。
いろいろ不安定な要素もあるが同時に正式な淫魔とはまた異なる能力や特性を持つ者もあり、その点では「新たな可能性」とも言える。
*シークエンスならびにその天命?
淫魔の紋様が浮かびその力が満ちると同時に自身の姿がインキュバスに変化するのではなくどこからか現れたインキュバス因子の宿る全身スーツに覆われる事でインキュバスに変異する。
肉体や人格の変化は起きるが早い話
「人間の女性がインキュバスの皮と人格を着ているだけ」
であり吸精は可能だが繁殖等は不可能である。
これは不完全な形で淫魔として覚醒してしまったゆえであり、それは(おそらく)直る事はない。
もし完全に淫魔となる時が来ればそれはライトサイドが人としての天寿を全うしその魂と人格が輪廻の中に去ったあと可能性があるかないかであろう。
しかしこれによりインキュバス体の中からライトサイド自身の精気を得る事で自家発電的に精気を得られる事になる。
*ターゲット
相応に気高い・まっとうな人物の精気をいただく事を目的の一つにしている。
表向き「高潔な人物を堕落させる」とされているが実際にはそう生きるが故の葛藤や苦しみが生む気を食う事でその歪みに飲まれる事を防いでいるとの事。
いわゆる「陰の側から陽を守る」「陽の側にいる者達が不要に墜ちない為」と言うもの。
もちろんろくでなしの精気も食うには食うがこちらは「不用意に墜ちた者を陽の側から隔離する」と言う事らしい。
ちなみに前者の場合淫魔体の中に一時吸収しライトサイド自身と触れ合わせる事で内から吸精をする「なりそこない」らしい事もできる。
*使い魔
インキュバスの使い魔である怪猫・通常の猫から人体形の猫に変異可能。
もちろん精気を吸う事もインキュバスから精気を得る事もできる。
主同様実際は「猫使い魔の皮に人間の女性が包まれている」状態でありその意味では「なり損ないの使い魔」なのだが反面彼女もまた中にいるライトサイドから安定した精気の供給が可能である。
もちろんライトサイドが天寿を全うすればその時点で完全な使い魔になれる可能性はあるらしい。