秘密のなりそこない淫魔―悩める若奥様

  ーわたしには秘密があるー

  能田由亜が実の妻となったのはつい最近の事。

  短大を出たばかりの彼女が同年齢である実と添い遂げた経緯については話せば長くなるが、彼女は実にはもったいないくらいよくできた女性だった。

  ややおっとりとした所もあるが顔立ちやスタイルは悪くなく、家事もやりくりもしっかりこなせている。

  幸い利夫の仕事がそれなりに安定している事もあってか在宅の仕事である程度収入を支えてもいるようだ。

  二人の関係は相応に睦まじいものであった。

  ただ―彼は知らない。

  なぜ彼女が「夜の関係」を拒むのかを。

  そして、最愛の妻の持つ「秘密」を―。

  「ただいま」

  「おかえりなさい、あなた」

  何事もなく実さんを迎えます。

  いつもの様に実さんと夕食を取り、いつもの様に食事の後片付けをして。

  いつもの様にお風呂に入り、いつもの様に軽い団らんのひと時を過ごす。

  そしてーそのままいつもの様に眠りにつく。

  これがわたしの日常。

  実さんと一つ屋根の下で暮らせて、実さんに愛されて。

  でも―わたしはそうする資格はないのかも知れません。

  実際わたしは実さんと世間で言う所の「結ばれて」はいません。

  いや、わたしがそれを色々と理由をつけて拒んでいるんです。

  なぜならわたしは―。

  実さんと添い遂げる前に……。

  他の人のものになっていたのですから!

  それは結婚式を前にしたある日、町外れでの出会いでした。

  本当に偶然の出会いにわたしは魅入られ……そして全てを捧げてしまいました。

  実さんでは得られないだろう歓びを。

  今のわたしはわたしでないと言い切れるほどの歓びを。

  わたしは心と身体に刻まれたのです。

  実さんと添い遂げてから今に至るまでその事実を偽り、ひた隠しにしながらわたしは一つ屋根の下で実さんと暮らしているのです。

  そんなわたしがどうして実さんの求めに応じられるでしょうか。

  しかも……その相手は「今夜」も会いに来ます。

  実さんが眠っているこの部屋に。

  それを止めるすべはありません。理由もありません。

  だって、わたし自身がそれを望んでいるのですから!

  [newpage]

  暗がりに包まれた寝室。

  実さんは眠りについています。

  心地よさそうな寝顔。

  これを見ているだけでも気分が和みます。

  せめて夢の中だけでもわたしと結ばれててほしい、そう思いながらわたしは寝間着を脱いでいきます。

  迷いながら、でもときめきさえ感じながら。

  「ふぅ……」

  全てを脱ぎ去った裸のままでわたしはしばしたたずみます。

  このまま実さんの隣に潜り込めればどれだけ幸せでしょう。

  でも、わたしはその為に裸になったわけではないのです。

  そう……今はもうこの裸もまた「あの人」の為のものなのです。

  あの人に見回され、あの人に触れ回され、そして……。

  考えただけで身体が火照り、体の奥が熱くなってしまいます。

  いつの間にかわたしの手はわたしの肩を抱きしめ、胸を揉みしだいていました。

  かつて愛していた、愛したかった実さんの前でわたしは今夜も……。

  わたしは静かに両手を下腹部、そしてその奥に伸ばします。

  いつの間にかそこには怪しげな模様が浮かび上がってました。

  あの人が現れる時、わたしのそこを囲む様に浮かぶ紋様。

  それこそがわたしが「あの人」のものとなった刻印。

  それをわたしは愛おしげに両手の指で撫で回します。

  「あ……」

  それに応える様に紋様が軽くうずき、わたしに快感を与えます。

  そして……。

  「ごめんなさい、実さん」

  そう言いながら紋様の中心、自分のそこに指を伸ばしていきます―。

  「んっ!んんっ!あんっ!」

  口をつぐみ、歯を食いしばりながらわたしはひたすらそこをいじり続けます。

  固く閉じたそこを細い指でこじ開ける様に。

  その上でピンと張っているそれをなで、つまみ、軽く回したりします。

  その度にわたしは身をよじらせ、声を必死で抑え込みます。

  実さんに聞こえない様に、起こさない様に。

  そんな思いとは逆に、わたしのそこに浮かぶ紋様はますますうずきを増していました。

  そう、もうすぐ「あの人」が来ます。

  戸を閉じ、鍵を閉めても「あの人」は現れます。

  そして、今夜も実さんの目の前でわたしを「奪う」のです。

  それが、それが……気持ちよくてたまらないんですっ!

  そして来ます。いえ、来ました。

  その証拠にわたしは―。

  「んん、んんんっ、んんんんんーっ!」

  頭まで突き抜ける快感と共に大きく身をそらし、わたしは達しました。

  そして、感じます。

  「あの人」はここにいる。

  そして現れる。

  なぜなら「あの人」とはそう―んんんっ!

  そこと紋様を中心にしてさらに大きくわたしの身体は反り返ります。

  「あああああ……あああああ……」

  目を大きく見開き、口をだらしなく開けながらわたしの身体はぴくぴくと震えています。

  わたしの中に、わたしの身体中に、「あの人」が満ちていきます。

  わたしの身体と絡み合い、わたしの心と絡み合う様に「あの人」が現れ……ああっ!

  紋様が、その奥にあるわたしのそこが大きくうずきます。

  「あの人」が、「あの人」のあれが……ああっ!

  紋様がうずき続ける中、わたしのそこはビクビクと奥から震えながら前にせり出していきます。

  熱く、強く練り込まれ密度を増しながら。

  そして、それはわたしのそこからズンズンと形を変えて盛り上がって来ます。

  受け入れる場所から入り込む場所へ。

  女の証から男の証へ。

  わたしから―「あの人」へ。

  身を反らしながらも高らかにそそりたつあれを感じながらわたしは「あの人」に変わっていきます。

  腰が、背中が、足が。

  骨がきしみ、肌がうねりながら硬く、太く、大きくなって行きます。

  「ああああ……ああああ……ああああ……」

  肩幅が広くなり、お腹に腹筋が刻まれる一方、わたしの胸の膨らみはみるみるしぼみ、胸板へと変わリました。

  「ああああっ、あああっ、ああああっ!」

  首が太くなり、漏れる声も太くなっていきます。

  いつの間にかわたしは涙を流していました。

  変わっていく苦痛?

  それとも快感?

  最愛の人の目の前で他の相手に身も心も「奪われていく」事に?

  しかし、そんな苦しみも悲しみも大きな歓びに飲み込まれていくのを感じます。

  いい……いい……わたし……変わる……。

  とても……すごく……気持ちいい……。

  うれしい……うれしい……。

  女から男へ。

  涙を流していた顔から歓びの顔へ。

  わたしから「あの人」……いいえ―。

  ーオレへ!―

  「うおおっ!」

  オレとしての歓喜の声と共にカッと見開いたオレの目が金色に染まる。

  同時にオレの顔も柔らかい女の顔立ちからちょっと荒ぶった男の形に変化した。

  頭には一対の銀色の角が生え、髪は一瞬で緑色に染まる。

  来ている、来ているぜ。

  オレの中に熱いものがガンガンに来ている。

  その勢いに押されてオレはゆっくりと身体を起こす。

  その背中にはコウモリのような羽が、その尻には先端が矢じりの様になった黒い尻尾が生えてくる。

  「うううっ、うううっ―ううおぉっ!」

  その瞬間、オレのあれから盛大に熱く白い息吹が吹き出した。

  それは部屋一面にぶちまけられ、もちろん目の前で眠っている実も例外ではない。

  「ふうっ、今夜もいい具合にオレになったぜ」

  部屋を見回しながらニヤリと笑みを浮かべる。

  そして、今のオレの身体を改めて見回す。

  女から男へ。

  人間から淫魔―インキュバスへ。

  そして由亜から……オレ、テグードへ。

  そそり立つあれの感覚を確かめながらオレはふと目にした姿見に映るオレ自身の姿を満足気に見ていた。

  「まったく、大した奴に奪われたものだぜ」

  そう言ってオレはニヤリと笑う。

  [newpage]

  オレがまだ由亜だった頃、そう、実と結婚する数日前。

  式の準備に心弾ませていたオレの目の前に飛び込んで来たその本。

  オレはそいつに魅入られページをめくり続けた。

  その度にオレの中に「オレ」が入り込み、オレの心と身体を貫いていった。

  最初は恐怖と嫌悪に満ちていたオレだったが、気がつけば全てを「オレ」に委ね、快楽の中で身も心もオレに変わっていった。

  この事は他の奴、それこそ実とて知りはしない。

  自分の嫁が身も心も他の奴の「もの」となっているなんてさ。

  ただ……どうも違和感がある。

  オレであって「オレ」でないような妙な感じ。

  夜な夜な出回ってはろくでなしどもを朽ちる手前まで搾り取ったり、まっとうな女にちょっと気をやってみたりしてるけどどうにも違和感が消えない。

  オレはまだ「オレ」ではない―結論としてはそうだ。

  実際何故か彼氏や旦那のいる女にばなぜかやる所までやれないし何より―。

  オレの中の由亜が泣いている。苦しんでいる。

  実を騙している事に。実を愛しながらオレとして他の奴らとヤりまくっている事に。

  そもそも初めてオレになった時点で違和感や罪悪感など感じないはずなのに何かおかしい。

  それに、オレになる時も由亜がオレに作り替わると言うよりもオレの体の中に由亜が入っていく感じがしてならない。

  ま、それはそれで由亜の中に溜まっている精気をいただけるわけだがどうもその精気も思ったより美味くない。

  これも由亜が余計な事を考えてるせいなのか。

  まあ、一応今夜もオレになったんだしひとまずはオレとしての日常を楽しませてもらうぜ。

  そう言ってビクンとオレのあれが震えると、部屋中に飛び散ったオレの息吹がオレに集まってくる。

  そしてそれはオレの衣―胸の開いたハイレグスーツとタイツとブーツ、両腕にリストバンドと言う形になってオレの身体を装う。

  人間の感覚では奇妙ないでたちかも知れないがオレ達インキュバスにとってはちょっとした伊達男の衣装だ。

  すっかりきれいになった部屋を見回すとオレは眠り続ける実に背を向ける。

  「行ってくるぜ……」

  実の寝顔にやや苦い顔でそう言うとオレはインキュバスとしての本能のもと、今夜の糧を求めて夜の町に消えていく。

  でも、どれだけ飛び回り、飽きるほどに精をいただいても今のオレは心から満たされないと言う思いは消えない。

  その理由と答えはとうに出ている。

  ただ―なんだろうな……。

  シャワーの音がずっと、ずっと部屋中にこだましています。

  そしてシャワーから出るお湯がずっと、ずっとわたしに降り注いでいます。

  「あの人」の姿、「あの人」の心で夕べも夜の町を駆け巡り、色々な人達の精気をいただきました。

  「あの人」として他の人達から精気をいただくその奥でわたしはわたし自身として快楽に酔いしれ昂りながら「あの人」に精気を捧げている。

  それは「あの人」のものー淫魔の依り代となったわたしにはとても心地よく酔いしれるもの―のはずなのです。

  でも、なぜか心の底からは歓べない。

  「あの人」として多くの相手を「抱いて」来た事一方でわたしは実さんと一度も……。

  それでも時が来ればまた紋章のうずきと歓びの導くまま「あの人」となって……。

  いっそこの身体も、心も、魂の全部が「あの人」そのものに永久に置き換えられてしまえばどれだけ楽でしょうか。

  でも、「わたし」である事、そして実さんへの思いを否定する事も、やめる事もできない。

  これも「あの人」の意志なのでしょうか。

  この悩みと苦しみはシャワーで洗い流す事はできません。

  このあとわたしは何事もないように朝の支度をして、起きてきた実さんと何事もないように接し、何事もないように実さんを送るのでしょう。

  でも思ってしまいます。

  いつまでこんな日々を繰り返せばいいのだろう……か。

  もうすぐ朝になる前の一時、わたしはただひたすらにシャワーを浴び続けていました―。

  [newpage]

  そんな思いも虚しく、今夜もまたわたしは深い眠りに入った実さんの前で全てを脱ぎ捨てます。

  そして今夜も紋章の中心、自分のそこに指を伸ばしていきます。

  例えどんなに否定しても、実さんと別れる事になろうと、これはわたしに刻まれた習慣、本能なのです。

  それこそわたしがわたしの生をまっとうし、その魂の全てが「あの人」に書き変わるその時まで―。

  「んっ!んんっ!あんっ!」

  口をつぐみ、歯を食いしばり、身をよじらせ、声を必死で抑え込みます。

  「んん、んんんっ、んんんんんーっ!」

  何度も繰り返した果てにわたしは頭まで突き抜ける快感と共に大きく身をそらしました。

  ああ……これでまたわたしは「あの人」に……。

  わたしは達したままの姿勢で天井を見上げその時を待ちます。

  そして……その時が……ああんっ!

  ああ……そこが……紋様が熱い……うずく……。

  わたしを「あの人」に変える力が……力が……。

  熱い、熱い、熱い、あつい、あつい、あついぃぃぃぃぃっ!

  「んんん……ああ……ああ……」

  いつも以上に熱いものが紋様から、そしてその中にあるわたしのそこから体中に満ち溢れています。

  ああ……わたし……今夜も……「あの人に……。

  いつも以上に身体を熱く火照らせ、熱に満たしながら身をよじらせます。

  来て……早く……わたしを……かえて……かえて……かえて……。

  変です。

  いつもならもういい加減男に、淫魔に、「あの人」になってもいいはずなのに。

  なのにまだ女のまま、人間のまま―わたしのまま。

  なぜ?なぜ?なぜ?

  そんな事を思う間もなく、わたしはわたしのまま身体中に満ちる熱気を抑え切れず再びそこに指を伸ばします。

  今度はベッドに肘を、床に膝を着き、ちょうど実さんにお尻を向ける姿勢で。

  発情―今のわたしはまさにそうです。

  理性を捨て、思考を捨て、もうすぐ自我も捨て。

  ただひたすら気持ちよさに浸っている。

  今まで「あの人」としてのわたしが「いただいた」人達もこんな感じだったのでしょうか?

  そんな思いにしがみつきながらわたしはひたすら感じ続けました。

  「あの人」に変わるための熱量に促されて、流されて。

  そして、そして―!

  「あ、あっ、あっ、あああっ!」

  また達してしまいました。

  それでもまだわたしはわたしのままです。

  そのせいでしょうか、わたしの身体はどんどん火照ります。

  このままじゃ、このままじゃわたし、燃え尽きてしまいそうで。

  早くしないと、早く止めないと。

  「あの人」になれば簡単に鎮まるはずなのですがその時は未だに訪れません。

  どうすれば、どうすれば……。

  そんな時、わたしの目にふと眠り続ける実さんの姿が入りました。

  「みのる……さん……」

  その時、わたしの身体が、その奥がキュンっと鳴りました。

  実さん―実さんならわたしを鎮めてくれる。

  今まで一度も許していない、いえ、「許す事ができなかった」わたしを―!

  わたしは裸のままで静かに実さんの寝床に進みます。

  「実さん、起きて、起きて……」

  布団越しに実さんの身体を揺らし、そこからそっと布団を外します。

  ちょっと酷かもしれないけど、今のわたしはそうしてでも実さんが「欲しい」。

  「実さん、起きて―」

  揺さぶるだけにとどまらずわたしは裸のまま実さんのベッドに横たわり、その身体をぎゅっと抱きしめます。

  わたしの裸のままの体温を、肌の感触を実さんに伝えるため、そして……。

  「……ん……なんだよ由亜……まだ朝には早いだろ……」

  少し不機嫌そうに実さんが目を覚ましました。

  そんな実さんに思い切り口づけをします。

  結婚式の時よりも強く、迷いのない口づけを。

  「ー!?」

  実さんは突然のキスに戸惑っていた様ですが、その動きが少し柔らかくなっていくのが感じられます。

  「由亜……」

  実さんの両腕がわたしの裸身を優しく抱きしめてくれます―嬉しい!

  わたしは実さんを改めて抱きしめながら何度も唇を重ね直します。

  新婚旅行、そして今の今までできなかった事が今できている。

  とっても、とっても嬉しい……。

  感激に浸りながらもわたしはあえて実さんから腕を離します。

  そして、わたしのベッドに足を広げて座り、両手を広げると……。

  「実さん、来て。わたし……ほしいっ」

  身体の奥からの火照りに導かれてわたしは想いを解き放ちました。

  実さんが欲しい。

  実さんを受け止めたい。

  実さんに、実さんに……。

  わたしはその事でいっぱいです。

  わたしが実さんの前に誰に奪われたとか、夜な夜などんな姿となって徘徊し、どんな事をしているのか。

  そしてわたしがもう「わたし」でなくなっている事とか。

  そんな事、今はどうでも構わない。

  欲しい、抱かれたい、愛されたい。

  それが今のわたしの全てです。

  そうしているうちに実さんが、裸になった実さんがわたしの肩をそっと掴むと……。

  「あっ」

  わたしの意識と理性が覚えていたのはわたしの中に実さんが入り込んでいく感触でした。

  そこからはただ熱く、甘く、激しく、そして優しい時間の中に溶けて行きました。

  実さんのそれも、動きも、それがわたしにもたらすものもテグードとしてのわたしの、テグードに変わっていく時にもたらされるそれに比べればささやかでつたないものです。

  本当なら物足りない、つまらないと切り捨て実さんを、そして能田由亜である事をかなぐり捨ててテグードとしての快楽の中に消えていきたいと思ってもおかしくはない。

  でも、でも、でも……。

  嬉しい、嬉しい……うれしいぃぃぃっ!

  実さんと結ばれた事、実さんと一つになっている事、実さんと愛し合っている事。

  全てが気持ちよく、全てが嬉しいんです!

  わたしの中で実さんが動き、わたしも実さんを動かします。

  実さんの手が、口が、わたしの唇や胸、首に触れる度に。

  わたしの手が、唇が、実さんの唇や胸に触れる度に。

  わたし達はさらに熱く、深く愛し合っていきます。

  実さん、実さん、実さん、実さん……。

  実さんが打ち込まれる度、実さんを受け止める度、わたしの中で何かが形作られていくのを感じます。

  実さんに愛されているわたし。

  実さんを愛しているわたし。

  それらを含めてわたしでいるわたし。

  わたしと実さんが繋がり合う場所からわたしの中一杯に。

  誰でもない、何でもない、わたしだけのわたしが今わたしの中で作られている!

  そしてそれが今、弾ける勢いで生まれる!

  うれしい、きもちいい、わたしが、わたしが、わたしは、わたしはぁ……。

  「のうだゆあぁぁぁぁぁーっ!」

  わたし達の全てが解き放たれた勢いが頂点に達した瞬間、わたしは全身をビクンと震わせながらそう叫んでいました。

  そのまま失神してもおかしくはない余韻の中でわたしは実さんにそっと抱きしめられながら意識を整えていきます。

  実さんはわたしが自分の名前を叫んで達した事に疑問を感じていましたが、

  「実さんと愛し合えた事が嬉しくて、そんなわたしを確かめたくって……」

  と言うとっさの言葉に優しくうなずいてくれました。

  その後わたし達は何度も愛し合いました。

  今までの分を補う様に。

  その度にわたしの中で何かが満ち足りていくのを感じながら。

  ただうれしく、うれしい一時が流れていました。

  [newpage]

  眠りについている実さんの隣でわたしは心から満たされた気分に浸っていました。

  心から愛した人とようやく愛し合えた歓び。

  結ばれながら何度も、何度も歓ぶ事ができた嬉しさ。

  今のわたしの中には心地よい疲れ以上に満ち満ちた力が溢れている様に感じられます。

  もし許されるなら実さんともう一度……あぁ……。

  わたしの手はいつの間にかそこに伸びていました。

  そこに残っている実さんの名残り、実さんの感覚を噛みしめる様に何度も、何度も。

  「あっ、ああぁ……」

  歓びに浸りながらわたしはそこを愛おしむ様に操ります。

  きもちいい。あたたかい、そして―うれしい。

  そんな気持ちに浸るうちにそこの辺りが少しうずいてきました。

  それに合わせる様に、そわせる様にわたしは指を動かします。

  「あっ、あっ、あっ、あっ……」

  不思議です。いつもの様にわたしが変わって行こうとしているのに今まで感じていた迷いや恐れはありません。

  それでいて今まで以上の熱さと歓びが身体に満ちていきます。

  変わる。変わっていく。

  わたしの中にいる、わたしと繋がっているもう一人のわたしに、

  実さんを愛するわたしから多くの人達と愛し合う―オレに。

  気がつけばオレは信じられない程あっさりとオレになっていた。

  まだ思い切り出しちゃいないんだけど。

  ベッドの中から黒い尻尾をなびかせたたくましい男―インキュバスの裸身が起き上がるとそのまま風呂場に歩いていく。

  ビンビンに張ったオレのアレに導かれて……。

  「ふうっ、出した出した」

  風呂場で思い切り精を吹き出した余韻に浸りながらオレは初めて心地よい一時を感じていた。

  初めて―そう、初めてオレは心の底から喜んでオレになったんだ。

  初めてオレになってからずっとオレはオレになる後ろめたさとか怯えとか、裏腹の快感とか。

  そう言ったものにとらわれながらオレになってた。

  だからオレはオレに「奪われる」とか「実に申し訳ない」とか思ってたんだよな。

  ホントならそう言う後ろめたさとかもいい味付けにはなるんだろうけど、やっぱ違うんだよな。

  だから今夜はああやってオレになる分の力を由亜のまま注ぎ込んでやった訳だけど。

  そしたらまるでオレに見つめられた時の女達みたいになっちまってそこから実を……。

  案外由亜も淫魔の素質が……あ、だからオレになれたのか。

  そのせいか実とヤッてる時はオレも存分に楽しめたぜ。

  実とヤッてるうちに由亜の精気がグングン、ビンビン上がってきてそいつがオレの中にも……マジでうまかったぜ。

  今もオレの中で由亜の精気がビンビンに溜まってる……下手すりゃ今夜は他の奴らと「楽しまなくても」過ごせそうだ。

  いや、それはインキュバスとしてはいけないな。ここはいつも以上に「楽しめそう」、だ。

  なんとなく今の由亜ならそれを受け入れてくれる気がする。

  と言うか「そう思う」事自体ホントはありえないはずなんだ。

  オレになっている間は「オレになっている」以外の由亜の感情や意識はオレそのものに置き換わっているはずなのに。

  オレの本能が本来なら由亜が実を愛しつくそうが由亜が人としての人生を終えた瞬間、その魂の全てはオレのそれに書き換えられてしまうと告げているのに。

  由亜の記憶、由亜の意識、由亜の魂が間違いなくオレの中にある。

  オレと重なりながらもオレとは別にある由亜だけの魂。

  由亜が由亜としての生命をまっとうしたあと由亜として召される魂がオレの中に感じられる。

  でもー悪くない。

  そう思いながらオレは吹き出した精を練り上げてオレの衣に変えるとその身にまとう。

  さあ、今夜も出かけよう。

  由亜が由亜として楽しんだように、オレもオレとして楽しむだけなのだから。

  満ち足りた自分とこれからのひと時の予感に心からの歓びの笑顔を浮かべると、オレは背中の黒い翼を広げた。

  [newpage]

  暗がりに包まれた寝室。

  実さんは眠りについています。

  心地よさそうな寝顔。

  これを見ているだけでも気分が和みます。

  さっきまで実さんと愛し合っていた昂りがちょっと和らぐのを感じながらわたしは裸のまま、ちょっと名残惜し気にベッドを出ます。

  迷いながら、でもときめきさえ感じながら。

  「ふぅ……」

  実さんに見つめられ、実さんと触れ合って、そして……。

  実さんとの一時を思い出すうちに改めてわたしの中に熱いものが満ち満ちているのを感じます。

  それこそ今のわたしはなんだってできる様な錯覚を覚える位に。

  そう感じられる事が心から嬉しくて幸せです。

  いつの間にかわたしの手はわたしの身体、実さんのぬくもりの残る素肌を抱きしめていました。

  もう一回実さんと愛し合いたい。実さんのぬくもりで肌を温めたい。

  そんな思いに浸りながらも実さんの前でわたしは今夜も……。

  わたしは静かに両手を下腹部、そしてその奥に伸ばします。

  いつの間にかそこには怪しげな模様が浮かび上がってました。

  わたしのそこを囲む様に浮かぶ紋章。

  それはわたしが「変わる」合図でもある刻印であり、実さんにはちょっと言えない「秘密」の証。

  わたしの中に宿り、わたしとはまた異なる「歓び」を求める存在。

  これからわたしは身も心もその存在に置き換わり、その本能のままの行動に身を任せます。

  それは本来はとてもいけない事。

  それは本来はとても恥ずべき事。

  そして実さんには絶対知られてはいけない事。

  でも、今のわたしには恐ろしくも恥ずかしくもありません。

  ちょっとの間だけわたしをお休みして身も心も別のわたしになるだけなのですから。

  別のわたしとしてどれだけ多くの人達と身体を重ね、歓びを感じても実さんを愛し、その事に歓びを感じる「わたし」はここにいる。

  この想いは「別のわたし」になっている時も変わらない。

  だからわたしは迷う事なく変わる事ができる。

  おかしい考えかも知れませんが、わたしは確かにそう思っています。

  そんな思いと共にわたしは愛おしげに紋様を両手の指で撫で回します。

  「あ……」

  それに応える様に紋章が軽くうずき、わたしに快感を与えます。

  そして……。

  「行ってきますね、実さん」

  実さんに笑みを浮かべてそう言うと紋章の中心、自分のそこに指を伸ばしていきます―。

  「んっ!んんっ!あんっ!」

  ーわたしには秘密があるー

  了