とある森の奥深く。
人の気配などまったくないはずの静寂な森。
しかし―。
―はっ、あっ、はっ、はっ、あっ―
どこからか女性の荒ぶる声が聞こえてくる。
何かにおびえているのか、恐れているのか。
とにかく何かに震えているのは確かである。
―あっ、あっ、あっ、あっ―
そのおびえるような声はますます勢いを増していく。
女性にとっての脅威が間近に迫っているということなのだろうか。
その直後……。
―あぁぁぁぁぁぁ……!
悲鳴のような声が森にこだました。
しかし、その悲鳴を飲み込むかのように森は静かにあり続ける。
まるで森のすべてが女性を飲み込んだといわんばかりのように。
しばらくの静寂の後、再び声が聞こえてくる。
―アッ、アッ、ウッ、ウッ、アッ、アッ―
荒ぶる獣の唸り声にも聞こえるその声は、女性の声の代わりに森の中から聞こえてくる。
はたして女性はどうなったのか。
そう考える間さえ与えることなく獣の声は森に響く。
―ウッ、ウッ、オッ、オッ、オッ、オッー
その勢いはさらに上がっていき、獣の荒ぶる本能が高まっていることを感じさせる。
そして―。
―オオオオオオーっ!
咆哮が森にこだました。
しかし、その雄たけびさえ森の静寂を揺るがすことはない。
全ては森の見せる幻だといわんばかりに。
事実、その後獣の唸り声も聞こえなくなった。
森は何事もなかったかのように静まり返っている。
ただ、その森の中で「何かが起き」、「何かが起きようとしている」。
それだけは紛れもない事実である。
[newpage]
「……」
寝起きした時のけだるさの中で目を覚ます。
少なくともおれの部屋でパジャマを着て寝ていたわけではないのは間違いない。
実際目を開ければあたりは一面の緑とそれをたたえた木々に覆われている。
背中に感じるのは草むらの感触、そして何より―。
「……」
感じる。
何も遮るもののない中、ビクンと震えながらそそり立っていたおれの―アレ。
それがおれがなにも着ていない真っ裸で寝ていたことを教えてくれる……寝ていた?倒れてた?
どうにも頭の中がすっきりしない中、おれはゆっくりと身体を起こす。
胸も、腕も、足も、腰も、そして―アレも。
間違いなくむき出しの真っ裸。
こんな姿で森の中にいるなんてまったく変な話だ。
というよりおれはどうしてこんな所で、こんな姿でいるんだ?
そんなことを考えるうちにふと目の前にそびえたっていたものに目が向く。
大樹―そうとしか言葉のないものがそこにあった。
周りの木々とはいろいろなものが違う、一目でそうわかる木。
力強くてたくましくて、それでいて美しい木。
その姿を見ていると妙に心がざわついてしまい……。
なぜかおれのアレも反応している。
木に高まってしまうなんて変な話だ―えっ?
ーそうだ、そうだった……。
確かおれはたまたまこの森に来て、妙な声に誘われていくうちに気が付いたら裸になっていた。
そしてこの木の前で何かに出くわして、そしたら妙にむらむらしてきて……。
ううっ、あまり思い出さないほうがいいことを思い出しちまった。
でも、それは夢ではないとおれ自身わかっている。
おれはまちがいなくそいつと……そういうことになって、そのうちに眠ったか気を失ったか。
どっちにしろとんでもない体験をしちまったことに変わりはない。
とにかくここから帰らないとどうにもこうにもな気がするけど、やっぱりこの―しっかりとそそりたっているアレをさらしてこの森の中を歩くってのはどうにも示しがつかないよな。
と思ったそんな時、おれの前に何かがひらり、ひらりと落ちてきた。
何とか受け止めたそれは一枚の大きな葉っぱだった。
そのサイズは……とりあえず前は隠せそうだ。
器用に葉っぱの周りだけ細くちぎればなんとか紐の代わりにはなった。
それを腰の後ろで縛ればなんとか形にはなった。
前垂れ代わりの葉っぱ一枚でそれなりに体裁を保てた―とはいえやっぱり葉っぱとアレの触れ合う感覚は妙なものだ。
そう感じながらおれは静かに大樹を離れて歩き出す。
少なくとも服を脱いだあたりまで、そこからなんとか人里に下りれば……。
裸のまま木々を抜け、裸足で土を踏み、おれは歩く。
さすがに裸、裸足である以上下手に動いたり何かを踏んだらケガでは済まないだろうし最悪道に迷ったり、ましてこんな格好で人前に出ても残念だけど肉体をアピールできる自信はない。
しょうもないことを考える余裕を持っていることに苦笑しながらおれは森の中を進んだ。
[newpage]
「はぁ、ふぅっ、はぁ……」
どれだけ歩いただろうか。
さすがにちょっと息が上がり始めている。
時計なんて持っていないから時間などは全くわからないしどこをどう歩いているのかも見当はつかない。
ただ自分の勘だけで歩いている。
まともに考えたらまじめにアウトな話だろうけどこれが今のおれなんだから仕方がない。
でも、それなりに歩いているのは間違いないし、下手に休んだらそれこそもっと動けなくなりそうな不安もある。
だからこそおれはなおも歩き続ける。
さいわい前垂れ代わりの葉っぱの中にあるアレもまだまだ元気なようだし、、それならまだまだ歩けるだろう。
完全に開き直りながらおれは先を進んでいた。
「はぁっ、はぁっ、はぁ……」
おれはさらに歩いている。
木々を抜け、草むらを抜け、せせらぎを飛び越えて。
相変わらず時間はわからないけど相当歩いていると思う。
というか、この森はどれだけ広いんだ?
まさかこの森は謎の迷路とかでおれはその中をぐるぐる歩き回っているだけとか言うんじゃないよな?
そんなことさえ考えてしまう中、ふと思い出した。
ここしばらく何も口にしていなかった事に。
さっきの小川を飛び越えた時、せめてちょっと水を飲んでおけばよかったとここにきて後悔する。
他にも川魚とかは無理でもせめて木の実くらいは食べたい……実際おれの腹は妙に小さく、柔らかくなっている。
よくよく見ると腰回りも細くなっているようだ。
どこかでなにか食べておかないとちょっとまずいかも知れない。
そう思いながらもやっぱり前垂れの中でおれのアレは元気だ。
とりあえず何か口に入れられそうなものとの出会いも考えながらおれは歩く。
しかし、残念ながらそう簡単に木の実とか水とかには出会えない。
気のせいか、踏み出す足や伸ばす手もどこか細くなっている気がする。
おいおい、いくら何でもへばりすぎじゃないかおれの身体。
アレはいっこうに元気なのに。
葉っぱの前掛け以外は真っ裸で森の中を歩いているといろいろ感覚もずれてくるのだろうか。
手足だけじゃない。おれの身体自体がやや小さくなっているような気がする。
髪も短く刈り込んでいた髪が襟元まで伸びている。
ふと手を伸ばせばその髪もどこか柔らかいし、触れた手の感触もどこか柔らかい。
なんとなくだけど見た目身体中の筋肉も落ちているように見える。
それなりに筋肉はあると思っていたのに、それがどんどん落ちている。
まあごつごつの筋肉になるよりは細いバネみたいな身体のほうが都合がいいってこともあるさ。
おれのアレもそれこそ力強く震えているし。
より細く、しなやかになったような気がする身体を目いっぱい動かしながらおれはさらに森の中を進む。
[newpage]
「はあっ、はあっ、はあっ……」
そうとう身体がこたえているってことか。
呼吸もそれなりに粗いが、口から洩れる声も妙に高くなっている。
ただその声はどこかはきはきとしたさわやかさも感じるのがまだマシか。
より細く、よりしなやかになったような身体でおれはなおも森の中を歩き続けていた。
何も口に入れられないまま、一休みする心の余裕もなく歩く。歩く。ただ歩く。
そのせいか、腹はますます細くなっている気がする。
実際触れてみるとかなり柔らかい。
それでも足腰はそれなりにしっかりしているのだろうか、ふと触れたお尻もなんとなく気持ちよさを感じる。
しかし、最大の問題は―胸である。
歩いているうちに胸がどこか重さを感じ始めている。
ふと触れてみるといつの間にか胸が膨らんでいた。
思い切り大きく、というわけではなくそれなりに形も整っているが、身体の筋肉が落ちてバランスが崩れている……ってことはないよな?
実際身体全体がどこか敏感になっており、地面を踏む裸足の感触や森の中を歩くうちについついピンっとしたものを感じてしまい……。
「あ……」
つい声が上がってしまう。
少なくとも変わっていないのはやはり葉っぱの前掛けの中にあるおれのアレだけであるが、それを受け止めるおれの感覚も少しずつ変わってきているような……。
と言うか今のおれにアレがあるということ自体何か不思議な気がするような……。
いけないいけない。
とにかく何としても服のある所まで戻って森を出ないと。
なんとか気持ちを奮い立たせるように身体を振る。
それにあわせて襟元まで伸びたおれの髪も、形の良いおれの胸も軽く震えた。
「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ」
おれは歩いた。とにかく歩いた。
細く小さく、それでいてしなやかでしっかりとした身体で木々を抜け、草むらを抜ける。
より敏感になった全身でより強く感じるようになった森の空気と口から洩れる甘くもはつらつとした声に支えられながらおれは歩く。
歩く。歩く。歩く。
そして、ついに森が開けた。その向こうに見えたのは……。
[newpage]
あの大樹だった。
「おい……ウソだろ……?」
さすがにおののいた。
あれから長いこと歩き、距離を取り続けた大樹。
おれにとってのスタート地点だったはずの大樹がなぜかゴールとして目の前に立っていたのだ。
まさか―やっぱり森の中で迷っていつの間にか元の場所に戻っていたってだけなのか?
それとも……気が付かないうちにただ大樹の周りをぐるぐる回らされていたとかそう言うオチ―じゃないよな?
ふと空を見上げれば空は歩き始めた時と同じように見える。
まるで時が止まった中を歩かされていたかのように。
そして、ふと顔を大樹のほうに戻したら―いた。
初めてここに来た時にいた存在。
おれをここに導いた存在。
そして―おれとそういうことをした存在。
それが再びおれの目の前にいた。
そいつはおれの周りをぐるぐると回りながら興味深そうに見つめてくる。
木のような、葉の塊のような、それでいて―人間の女性のような姿で。
だが、その姿を見ておれはやっと、やっと気が付いた。
今のおれの姿―まるでそいつみたいじゃないか。
おれよりも良さげな身体のサイズとか、おれより長い髪―みたいに見えるものの長さとか色々違っているみたいだけど、おれの身体もまた……女のそれに変わっていた。
ただ、ただ違うのは……。
「あんっ」
また前垂れの葉っぱの中でアレが震える。
その感覚は今までどっしりとそこにあったものとは違いどこか震えるような、自分だけど自分じゃないような奇妙な感覚。
それが震えるたびにさらに敏感になった身体の内側から外に気持ちよさが響いてくる。
女の身体になったおれの周りをそいつはさらにじろじろ見つめながら回り続ける。
おれはただ、何もできずに立ちすくみながらそれを見続ける。
そして、そいつは―。
「きゃんっ!」
おもむろに葉っぱの前垂れごしにおれのアレをつかんできた!
その瞬間、そいつの姿は葉が枝から落ちるように消えていったが、その衝撃はなおも葉っぱ越しにおれのアレをつかんでいる。
痛い、というか押し込まれるというか……気持ちいいというか。
突き上げるような衝撃がおれの中を走ると同時に、今までずっと前垂れを腰の後ろで支えていた葉っぱのひもがほどけた。
「ああ、ああ、あああ……」
身体が震える。痛みから震えに、そして……気持ちよく。
痺れるような、とろけるようなそんな感じに浸りながらおれは身体を震わせる。
そして、今までおれの中にあったものを解き放つかのように前垂れの葉っぱの中でおれのアレが変わっていった。
すべてを解き放ちながらどんどん細く、小さく、短くなっていく。
葉っぱからぎりぎり突き上がらなかったものが葉っぱの中にやさしく包まれていく。
「あ、ああっ、あっ」
思わず身体をそらし、声を上げる。
葉っぱの中でおれのアレはどんどん小さくなり、おれの中に埋もれていく。
「あっ……あん……あぁん……」
埋もれていったおれのアレがおれの中で―そこに変わっていく。
それを包み込んでいる葉っぱもみるみる形を変えていった。
「あ……あっ……あっ……」
おれのそこが変わっていくのと葉っぱが変わっていくのが組み合うように動き、おれはさらに声を上げる。
おれは感じていた。感じずにはいられなかった。
おれの身体と葉っぱの変化がうごめきあい、絡み合う中でおれはどんどん高まっていく。
そして、そして、そして―!
「あぁぁぁぁぁぁぁっ!」
おれの中で何かがはじけ、「わたし」は目を覚ました。
[newpage]
「はぁ……はぁ……ああ……」
思い切り変わりながらその―イったことに浸りながらわたしはようやく今までのことを思い出していた。
たまたまやってきた森の中でそいつ―あの人に導かれるようにこの大樹の前に来てて、しかもいつのまにか裸になってて。
も、もちろん恥ずかしかった……ちょっと気持ちよかったけど。
そしたらあの人が出てきて、わたしをじろじろ見まわしたらいきなり……そこをつかんできて。
あとは気持ちよくなりながらその……その……。
―はいはい、わたしは森の中で裸になって歩き回ったあげく変な女の人―たぶん―に身も心も男にされてその子といろいろシちゃいました!
……ちょっと開き直っちゃった、かな。
い、いちおう「わたし」はまだそう言うことはサれてないから。あくまでも男にされてシちゃっただけだから「わたし」としてはノーカン、ノーカンだから……ね?
そんなわたしの気持ちを知ってか知らずか、あの人はわたしをじっと見ていた。
ふいにあの人の指がわたしのーそこを示す。
わたしのそこ―さっきまでアレがあった場所、葉っぱの前垂れで隠れていた場所。
そこには前垂れよりも小さくなっていた葉っぱーを模した前の部分がわたしのそこをしっかりと隠している。
そしてそこからちょうどわたしの足の間をくぐりお尻を越えたところまでクリップみたいに蔓みたいなものが伸びている。
うーん、かなりセクシーというか大胆というか、そこだけ隠している以外は今のわたしはやっぱりーまっ・ぱ・だ・か……てね?
いろいろ大胆なことを考えてしまった照れ隠しか、わたしはその「下着」をつけただけの裸の身体をくるりとひと回しする。
そしてそこから思い切り裸の胸を軽く揺らし、両手足を広げて大胆ポーズなど取ってしまう。
―葉っぱみたいな下着でそこを隠しているだけなのに何やってるんだろわたし。
まあ、ここにきてずっと裸だし、しかもああなってああいうことしてさらにいろいろあってこうなっているんだし……。
もう一度開き直ったわたしの目の前に再びあの人が現れた。
そして、わたしのそこ―葉っぱの「下着」に隠されたわたしのそこにあの人はそっと手を触れる。
「あ……」
思わず声を上げ、わたしも同じように手を添えてしまう。
あとは……。
「あっ、あっ、ああっ、あっ、あっ……」
あの人とわたしの「共同作業」でその―気持ちよくなってイきました。
それと同時にわたしの中の気持ちよかったものがまるで下着に吸いこまれていくような感覚がまた気持ちいい……でも、イってない、イってない……。
その後、わたしは―実際にはあの人が心ゆくまでこの大樹の前で、森の中で気持ちよくなり続けた。
きっとわたしはあの人―きっとこの大樹の精なのかもしれない―にとっての理想の精気の持ち主だったんだろう。
だからこうしていろんな形で……。
でも、こんな事しているとわたし、最後には、最後には……。
そんな考えさえ追いつかなくなるくらいわたしは気持ちよくなっていき……。
[newpage]
―わたしはその後、いともあっさりと森から戻ってきた。
別に「人ならざるもの」に生まれ変わったとか言うわけでもなく本当に元々の「わたし」として、もちろんちゃんと服を着て。
あの森での出来事は結局あれっきりだったけど……きっとわたしの一生の秘密になるだろう。
いや、しないといけない。
あんな不思議でとんでもなくて……な出来事、そう簡単には教えるつもりはない。
ただ、できることならあの出来事は記憶の中にそっと封印しておきたい。
そうでないと思い出すたび……うん、感じてる。
実際今もわたしはそこに―「あの下着」をつけている。
わたしにとってあの出来事が「現実」だったことの何よりの証。
思い出すたびにわたしは「あの下着」をつけて、時には「あの下着」だけの姿になってその―感じてる。気持ちよくなっている。
しかたないもの。あの出来事はその―だったし、すべてが終わった後感じた気持ちよさ―というか清々しさは今も忘れられない。
でもそれだけ。それだけ。
わたしはちょっと「あの下着」をつけて気持ちよくなっているだけだから。
まさか時々あの森に行っては「あの下着」以外は全部脱いでお散歩したりしているなんて事は。
そしてあの木みたいな木を見てはきゅっと抱きしめたり向き合ってちょっと気持ちよくなっているなんて事は。
また「あの出来事」が起きて思い切り気持ちよくなれたら……と思ってるなんて事は……。
もちろんみんな、みんなただの妄想。
「あの下着」以外は裸になって浸っているからつい浸っちゃうイケナイ妄想なんだから……ね?
了