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ハロウィン失踪事件 魔女の館編

  [chapter:魔女の晩餐会]

  魔女の館に案内された一同は、メディアにより晩餐会に招待された。

  晩餐会場に到着すると、長いテーブルの一番奥にメディア、左側にバルジ、デイビット、ルイ、右側にフランツ、ピンツ、有紀の順で着席をする。

  テーブルにはすでに料理が置かれており、メディアがワイングラスを持って皆に告げた。

  「それでは、改めまして皆さんに出会えた運命に乾杯」

  「「「乾杯」」」

  一同が乾杯のかけ声でワインの口にして晩餐会が開始した。

  ワインを机に戻すと、メディアが微笑みながら話しを始める。

  「それでは、せっかくなので簡単に自己紹介をしましょう。まずはわたくしから、この惑星の所有者で当館の主人をしておりますメディア・テスタロッサです。両親はすでに他界。わたくし以外ではバトラーのみです。5年前よりハロウィンイベントの運営を行い、駅を開設し限られた方のみこの館へ御招待しております。お見知りおきを」

  軽く頭を下げると、一同も軽く会釈をした。

  メディアの自己紹介が終わると、今度はフランツが声を上げた。

  「それでは年齢順で次にわたくしが、フランツ・エーゲンと申します。日頃は執事をしております。5年前より参加をしていましたが、今回初めて選ばれました。メディア様、この度は御招待、誠にありがとうございます。わたくし、あなた様に会えることをどれほど夢に見たことか。感激で涙が出そうです」

  「そうですか。私も貴方に会えて嬉しいですよ」

  二人がにこやかにしている中、自己紹介を続けた。

  「それでは次は私が、シュワンヘルト・バルジと申します。職業は保安官です。イベント参加は今回が初めてですので、よろしくお願い致します」

  「デイビット・ヤングです。一応操縦士をしてます。俺もバルジさんと同じで今回が初めてです。よろしくお願いします」

  「ルイ・フォート・ドレイクです。お招き感謝致します。新米の女優です。参加初めてなので宜しくお願いします」

  「ゆ、有紀学です。えと…プロガンマンをしています。俺も初めてなのでよろしくお願いします!」

  「ピンツ…コックス。ただの学生だよ。参加は2回目だけど招待されたのは初めて。だからよろしく」

  自己紹介が一通り終わるとメディアが嬉しそうに手を合わせて告げた。

  「ご紹介ありがとう。それにしても今回は初参加で選ばれた方が4人もいらっしゃるのね」

  満足そうにしているメディアにフランツが話しを繋げた。

  「ホホホ、そうですね。実は先程知ったのですが、バルジさんとデイビットさん、ルイさんに有紀さんはお仲間でご参加をされたそうです」

  「へぇ~~そうなの。ねぇバルジさん、どうしてこのハロウィンイベントにお仲間と参加しようと思ったのかしら?」

  予想外のフランツからの情報提供で不思議そうにしているメディアを見て、回答に悩んだ。

  (しまった。これは先程の雑談が仇となったな。全く…これだから年寄りは口が軽いからいかん)

  バルジは少しフランツに愚痴を内心で漏らすと、言葉に悩みながら返答する。

  「実は以前から興味があったのですが…数年前から知り合ったこの3人とハロウィンマニアで意気投合しまして、それで今年はハロウィン列車に乗車することになりました」

  楽しそうに話をしているバルジを見て、シリウス一同は若干引きながら内心ぼやいていた。

  (でたよ…バルジ隊長の詐欺まがいな嘘トーク)

  (なにがハロウィンマニアで意気投合して乗車したよ!藤堂指令の命令に従っただけじゃない!)

  (こういう時の隊長って本当に嘘が上手だな…今後の任務の為にもコツでも聞こうかな?)

  不満を漏らすデイビット、ルイ。トークテクニックに関心をする有紀。

  一同が静かに傍観していると、その嘘トークにメディアが食いついた。

  「へぇ~ハロウィン仲間ですか。それはまた珍しいですね。でもメンバー全員での合格は素晴らしいことです。なにか策でもあったのかしら?」

  「別にありません。過去の参加者からの情報で、ある程度予測して準備をしただけです」

  「………それは変ね」

  「え?何がですか?」

  意外な返答に思わず聞き直すとメディアが首を傾げて告げる。

  「このハロウィン列車での出来事は他言しないことがルールでしたのに。一体…どこから情報が漏れたのかしら」

  どこか不気味な笑みをしながら追及するメディアにバルジは表情を変えずにしれっと答えた。

  「……そうでしたか。ですが別に珍しいことではないと思いますがね」

  「それは…どういう意味かしら」

  「参加者が皆ルールに従うとは限らないという事です。人は体験した事を他人に話したくなるものですから。大方、自慢げに話した連中の情報が世の中に出回っただけでしょう」

  「確かに…その可能性はあるわね」

  「はい。もし気にされているのならば、来年からはもう少し情報が漏れないようにした方がいいと思いますよ」

  「そうですね。今後の対策とさせていただくわ」

  「そうしてください」

  メディアからの追及から逃れると表情は変えずにバレないように安堵をした。

  (危なかった。思った以上に観察力のあるお嬢さんだ。これはボロが出ないように言葉選びに慎重にならなければならんな)

  今後の言動に気をつけることにすると、赤ワインを飲みながらメディアが話題を変えた。

  「それにしてもバルジさんは情報収集に長けているのね」

  「え?いや……そんなことはありません」

  「確か…職業は保安官と言っていましたね。どんなお仕事をされているのかしら?」

  「どんなと言われましても……町の警備です」

  「あら!てっきり特殊な部隊に所属でもしているかと思ったわ」

  「それは買いかぶりすぎです」

  「うふふ、そうかもね。ちなみにどこの惑星で警備を?」

  「……惑星タビトです」

  嘘の攻防をしているバルジを見ていたシリウス一同は心臓のバクバクがオーバーヒート寸前だった。

  (やべ……バルジ隊長、めっちゃ攻められてやがる)

  (メディアさん…なんでバルジ隊長にばかり質問するのよ)

  (隊長…ボロがでないといいけどな。でもなんでタビトって言ったんだろ?)

  不安が漂う中、そんな一同を気にしていられないほどにバルジも困っていた。

  (随分と踏み込んで質問をしてくるな。誤魔化す為に思わずタビトと答えてしまったが、まさか何かの心理戦術ではないだろうな)

  心理学に精通していないバルジが言葉の誘導に警戒している最中もメディアの質問が続く。

  「惑星タビト……ですか。あの偏狭な惑星で警備されているとは意外ですわ。バルジさんの実力であればもっと都会な星でも警備が出来そうですが。そんな田舎な星で警備をして毎日退屈ではありませんか?」

  言葉の誘導に警戒していたが、あまりの酷い言い方にバルジの中で苛立ちが増した。そして少しイラッとしながら本音を告げる。

  「惑星タビトは偏狭ではありませんし、星の住人も心の優しい方が多いので退屈でもありません。すみませんが、あまりタビトを侮辱するような言動は慎んでいただけませんか?」

  「あら。どうやら気に障るような事を言ってしまったようですね。これは失礼を致しました。許してください」

  意外にも素直に謝罪してくる様子をみて、バルジは一瞬燃え上がった感情を冷やして返答する。

  「いえ。こちらこそ変に熱くなってしまい失礼しました」

  軽く謝罪をして前を向くと有紀がバルジを見て少し嬉しそうに微笑んでいた。

  (ありがとうございます、バルジ隊長)

  (なに、当然のことだ)

  お互いにアイコンタクトで会話をしていると、再びメディアが少し申し訳なさそうに話しかけてきた。

  「あの…バルジさん。失礼な事を聞いてしまってから聞くのも変ですけど、もう一つ質問宜しいかしら?」

  少し顔を赤くして質問をしてくるメディアに流石のバルジの嫌気がさしてきていた。

  (またか。なぜ俺ばかりに質問をしてくるのだ。まさか……正体を疑われているのか?)

  嫌な汗を流しながら、断るとの不自然に思い質問を受けることにした。

  「…な…なんでしょうか?」

  恐る恐る声を掛けると、うっとりした表情で尋ねてきた。

  「バルジさん。あなた……なにか香水でも付けていますか?」

  「……は?こ、香水??」

  「えぇ。なんだかとってもいい香りがするわ」

  「……いいえ、特に付けていませんが」

  「そうなの?」

  鼻で深呼吸して告げてくるメディアの言葉が気になり隣にいたデイビットに小声で尋ねた。

  『おい……何か俺から匂うか?』

  『(くんくん)いいえ。いつもと変わらないと思いますけど…』

  バルジも腕を嗅いだが特にいつもと変わらないようだった。

  『(くんくん)…そうだよな』

  (香り…一体なんのことだ?もしかしてジュリアにメイクをされた時の香りのことか?)

  心当たりがそれしか無いため、確証がないまま返答した。

  「恐らく……仮装したときの化粧品の匂いと思いますが…」

  「そう……そうかも知れないわね」

  「はい…恐らく」

  未だにうっとりしているメディアに少し距離を置くと、フランツが声を上げた。

  「ところでメディア様。今夜のお食事大変美味しゅうございます」

  「そ、そう?それは良かったわ。皆さんもお味はいかがかしら?」

  正気に戻りメディアが一同に尋ねると、黙々と食事をしていたデイビットとルイが反応した。

  「めっっちゃ旨いです!特にこの肉、今まで食べたことのない味だぜ!」

  「本当に牛でも鳥でもないけど、凄く美味しいわ!」

  「それは良かったです。今回の晩餐会の為に用意したかいがありました」

  にこやかに話をしている様子を見たバルジは視線を目の前の食事に移した。

  毒物を警戒し、殆ど手をつけていなかったが、確かに美味しそうな肉がメインとして置かれていた。

  (全く…あいつら潜入任務という事を忘れておらんか。本来、毒物を警戒してこういうのは食べないのが鉄則だぞ。まぁ…幸い毒物ではなさそうだが)

  警戒心が全くなく呑気に食事をしている二人を睨んでいると、そんな事が馬鹿らしくなるように有紀も美味しそうに頬張りながら声を掛けた。

  「バルジさんも騙されたと思って食べて見てください!凄く美味しいですよ」

  (学まで。全く…ここで騙されたら洒落にならないのだが。まぁ確かにあまり見ない肉だな。こいつらがそれ程に美味しく感じるのか)

  有紀から催促をされて美味しそうに思い始めると、ナイフで肉を切りフォークで刺した。

  ゆっくりと口に運ぼうとした瞬間、脳裏にあの言葉が過ぎる。

  【sacrifice】

  「う“っ」

  脳裏に過ぎった瞬間、直前まであった食欲が急激に失せ、ゆっくりと肉をお皿に戻した。

  何処か顔色の悪いバルジを見て、有紀が心配そうに尋ねた。

  「あの……どうしたのですか?」

  「ん?あ……いや…なんだか急に気持ち悪くなってな」

  「え?どこか具合でも悪いのですか?」

  「少しな。もしかすると先程の特別列車で酔ったのかもしれんな」

  俯いて呟いた一言に有紀、デイビット、ルイが驚きの表情で反応した。

  「え?!ま、まさか列車酔いをしたんっすか?!」

  「嘘でしょう?!」

  「あんだけ銀河鉄道に乗っているのに?!」

  動揺するシリウス一同の言葉を聞いたバルジは瞬間的にまずいと感じた。

  (ば、馬鹿者共が!!そんな事を言えば誤解されるだろ!)

  危機感を持ったバルジがゆっくりとメディアの方を見ると、やはり不思議そうな顔をしている。

  「へぇ~バルジさんは銀河鉄道によく乗るのですか?それも列車酔いをしない程に……」

  「あ…いえ…元々銀河鉄道が好きで、休暇にはよく旅行に行きますので…」

  「あら、ならなぜ今回は列車酔いを?」

  「恐らく…珍しい列車だったからではありませんか。あの特別列車861号は普段は運行しておりませんので」

  危うくSDFと疑われそうになり、急遽当たり外れのない会話で誤魔化す。

  冷や汗をかきながらしばらく沈黙が流れると、メディアは得心のいかないような顔をしながらも話を受け入れる。

  「……そうですか。まぁ確かにあの列車はわたくしが設計した列車なので無理もないかもしれませんね。宜しければ部屋でお休みになられますか?」

  突然の提案を受けると、バルジは今後の行動を考察した。

  (部屋での休息か。予想外の事だが、これはある意味チャンスかもしれんな)

  館での捜索を視野に入れたバルジはメディアの提案に乗ることにした。

  「では…お言葉に甘えても宜しいでしょうか?」

  「「「え?!」」」

  予想外の返答に傍観していたシリウス一同が驚きの声を上げる。

  「ちょ、ちょっとバルジさん、マジですか?!」

  「嘘?!そんなに体調が悪いんですか?!」

  「バルジさん、なんなら俺、部屋に付き添いましょうか?」

  血相をかいて声を掛けてくる一同に、本当に頭痛が走った。

  (この……馬鹿者共が。嘘の方便というのを知らんのか!)

  「心配は要らん。本当に酔っただけだから少し横になれば回復する。だから付き添いもいらん」

  「そ……そうですか」

  「なら…いいっすけど」

  「取り乱してすみませんでした」

  「気にするな。と言うわけで少し休養させてもらっても宜しいでしょうか?」

  一同との会話を終え、再度メディアに要求すると艶やかに微笑んだ。

  「構いませんよ。メフィスト」

  「はい?」

  「バルジさんを今夜宿泊予定のお部屋にご案内してちょうだい」

  「かしこまりました。ではバルジさん、ご案内します」

  「宜しくお願いします」

  相互確認を終えると、心配そうに見つめるシリウス一同を残して、バルジはメフィストと共に部屋へ向かう。

  「バルジさん…本当に大丈夫かな」

  「たぶん、列車の中であんなムズいクイズ解いたからじゃねぇか?」

  「だといいけどね…」

  残された有紀・デイビット・ルイが心配の声を漏らすと、『?』という顔つきでメディアが見てきた。

  「あら、随分と仲が宜しいのね。ただのハロウィンマニア仲間でしょ?」

  「え?!まぁそうですけど…」

  「もしかして……マニア仲間以外で何かあるのかしら」

  メディアからの追及を受けた有紀にデイビットとルイは不安でしかなかった。

  (やべぇ…隊長なら上手く誤魔化せるけど、学じゃボロが出ちまう)

  (でも、私たちでもちゃんとフォローできる自信がないわ…)

  二人がなんとも知れない恐怖を感じる中、有紀が返答を始めた。

  「あの……これは個人的な事なんですけど。俺はバルジさんの事、父親のように思っているんです」

  「父親?それはどうして?」

  「俺は…父さんを幼い時に亡くなってしまって。そのことを話したら、ずっと気に掛けてくれてます。なので、ちょっと気になっただけです」

  「そうなの…バルジさんは優しい人なのね」

  「はい!」

  うまく回避できたことに安堵していると、黙って聞いていたピンツが苦言をした。

  「そうかな~~~俺はそんな優しそうなおっさんには見えなかったけどな~」

  「それはお主が失礼なことばかりしていたからじゃろ」

  「え?!俺そんなに失礼なことしたかな??」

  「なんじゃ、気付いておらんかったのか?!全く…これだから最近の若者は…」

  「あ!それは今の世の中じゃ死語だぜぇ!これだから世間知らずのじじいは…」

  「なんじゃと?!誰が世間知らずのじじいじゃ!!」

  無関心なピンツにフランツが言い争っていると、デイビットとルイが誤魔化しながら会話に参入した。

  「まぁまぁ!食事中に喧嘩はよそうぜ」

  「そうね。フランツさんもピンツくんも少し落ち着きましょうか?」

  「あ…申し訳ございません」「ごめん…」

  「たく。でもピンツの言うことも一理あるぜ。バルジさんは優しそうに見えて意外とおっかねぇからな」

  「そうね。この前タビトの人から仕事の鬼って言われていたものね」

  「へぇ~やっぱりあのおっさん怖ぇな」

  「でも…いい人だよ。きっと君にも分かってくるから」

  「ふん。別にいいよ。合うのも今回きりだと思うしさ」

  ぷいっとするピンツを見て、一同が苦笑いをした。

  話を黙って聞いているメディアは何処か不気味な楽しさのまま食事をしながら一同は雑談を続けた。

  [newpage][chapter:メフィスト]

  晩餐会場で話が盛り上がっている頃、バルジはメフィストと共に長い廊下を進んでいた。

  歩きながら、館内の様子を見渡していた。

  (それにしても…随分と立派なお屋敷だな。流石は富豪と言ったところか。だが資料によればこの惑星メーデイアは元々先住民もいた一般的な惑星だったはず。それを個人所有の惑星にしたということは先住民を無理やり追い出したのか?だとしたら、とんでもない一族だな)

  過去の歴史と現在で考察していると、目的地の部屋に到着した。

  「こちらがバルジ様の今夜宿泊予定のお部屋でございます」

  メフィストがドアを開くと、一人部屋とは思えない程の豪華な部屋が用意されていた。

  あまりに身の丈に合わない内装を目の当たりにして、思わず気の抜けた声が漏れる。

  「これはまた…すごいお部屋ですね。もしかして…個室ですか?」

  「はい、皆様全員一人一室にてご用意をしております」

  「はぁ……随分と気前がいいですね」

  「長旅の疲れも癒せるようにとメディア様のご意向で御用意させていただきました」

  「そう…ですか」

  (長旅って、たかが3時間の旅でこれ程に気前よくするとは…やはり富豪の気持ちは理解できんな)

  一般常識を外れた好意に苦笑していると、メフィストが再び声を掛けてきた。

  「それでは、わたくしはこれで失礼致します。なにかございましたら、そこの電話でお呼びください」

  「分かりました。ご丁寧にありがとうございます」

  「では…」

  メフィストは丁寧にお辞儀をしたのち部屋を後にした。

  見送ったバルジは一息をついて、一度ソファーに腰掛けた。

  「はぁ……とりあえず、第一段階はクリアだな。さて…もう流石に仮装は不要だな」

  ぼやきながら、ずっと装着したドラキュラの歯とカラーコンタクトを外し、ジュリアから渡されていた目薬を指した。

  「はぁ…スッキリした。やはり仮装をすると、普段と異なるから感覚が鈍る。動きづらい上に視野も悪い。よくもまぁこんな仮装を熱心に毎年するものだな…俺には理解できん」

  仮装への愚痴を漏らすと、気持ちを切り替えて本題に取りかかった。

  (さて…これで少しは自由に行動できるな。一先ずあいつらに連絡はしておくか)

  バルジはなるべく小さな声で、イヤホンで連絡した。

  『こちらバルジ。体調に問題なし。これより館内の捜索を行う。なるべくメディアから目を離さないように。異変があれば連絡しろ。返信不要。以上』

  通信を終えるとバルジは肩のマントを外して、静かに部屋を出た。

  周囲に警戒をしつつ、ゆっくりと館内捜索を開始した。

  (それにしても広い館だな……まるで城だ。5年間で20人。それだけの人々を監禁するとなると…やはり地下とかか?だが警戒しながら限られた時間の中で探すのは正直厳しいな…)

  バルジが館内を捜索していると、晩餐会場にいる有紀から連絡が入った。

  『こちら有紀、今、晩餐会が終了して、これから館内の見学ツアーを行うようです』

  「了解。鉢合わせしないように警戒する。引き続きメディアから目を離すな」

  『了解』

  (館内見学ツアーか。20人も監禁をしているのによくそんなイベントを実施できるな。まぁ…全く関係の無い場所だけ案内すれば済むこと…か?)

  不可解なイベント実施に疑問を感じつつも、一先ず保留にして捜索を続けた。

  その後30分ほど館内捜索をするが、行方不明者を発見することが出来なかった。

  (流石にこれ以上うろうろするのはまずいな…一度、部屋に戻るか)

  一時捜索を諦めて部屋に戻ろうとしたところ、後方よりいきなり首を絞められた。

  「ぐぁっ!!!がっ…なっ…」

  (くそ…まさかいきなり首を狙われるとは。それにしても全く気配がしなかった。一体…何者だ?!)

  首を絞める腕を押さえながら疑問に感じていると、犯行者が声を漏らした。

  「一体…どちら様でしょうか?我が館に無断侵入するとは……とんだ命知らずでございますね」

  まるであの世から聞こえるような低くドスのきいた声を聞くと、バルジは声の主を理解した。

  (この声は…メフィストさん?!そうか…薄暗いから侵入者と勘違いをしたのか)

  相手が判明すると、抵抗しながら後方を振り向いて答えた。

  「がっ…はっ…メフィ…スト……さん。私は…バルジですっ」

  「ん?ば、バルジ様?!」

  バルジの掠れる返答を聞いて、メフィストは直ぐさま腕を緩めて解放をした。

  解放されたバルジは壁に寄りかかって必死に呼吸を整える。

  「げほっ…げほっ…はぁ…はぁ…」

  「バルジ様……これは失礼致しました。ですが、なぜこんなところにおられるのですか?」

  「げほっ…メフィストさん。こちらこそ申し訳ない……トイレを探していたら道に迷ってしまいまして」

  「トイレ…ですか?それなら部屋に備え付けてありますが?」

  「……え?」

  (しまった……部屋の設備確認を失念した。こんな事なら一通り確認しておくべきだった)

  想像以上に豪華な部屋だったことでボロが出ると、必死に言い訳をすることになった。

  「そ、そうでしたか?いや…ホテル同様でまさか部屋に備え付けだったとは」

  「普通、そうではございませんか?」

  「いや…何分庶民的な家しか知らないもので。一般的には…トイレは別室ですよ」

  「………」

  頭をかきながら必死に誤魔化そうとすると、メフィストは少し呆れ顔で睨んでいた。

  (流石に……無理があるか?)

  数秒の沈黙が流れると、メフィストは軽く首を振って自身の認識の甘さに頭を抱えた。

  「そうでしたか。それはわたくしの認識不足でございました。誠に申し訳ございません」

  「あ…いえ。こちらこそ無断で歩き回ってしまい申し訳ない」

  「いえ。それでは再度お部屋にご案内しますので、こちらへ」

  「あ……はい」

  お互いに謝罪を済ませると、気持ちを切り替えて部屋に戻るために再び廊下を二人で歩き始める。

  長い廊下を歩きながら、バルジは情報収集をするためにメフィストに話を持ちかけた。

  「ところでメフィストさん。少し…お話しても宜しいでしょうか?」

  「……なんでしょうか?」

  「メフィストさんはいつからこの館で働いておられるのですか?」

  「わたくしはメディア様がお生まれになってから仕えております」

  「そうですか。という事はあのハロウィン列車が運行開始した時もメディア様に仕えておられたと?」

  「そうなりますね」

  「あのハロウィンイベントを企画されたのはメディア様ですか?」

  「大方はそうですね。細かい部分は我々が企画しました」

  (ん?我々?)

  メフィストの台詞に少し疑問を感じながらも、意外にも質問に回答をしてくる様子に言葉の戦略を考えていた。

  (予想外にしっかりと回答をしてくるな。声音からして全て事実だろう。ならば…仕掛けてみるか)

  バルジは腕時計に少し触れてから、今度は本題に食い込んだ質問を仕掛けた。

  「そうですか。ちなみにその時にも今回と同じように銀河鉄道の乗客を館に招待されたのですか?」

  「はい、御招待を致しました」

  「その参加者たちは満足していましたか?」

  「えぇ。お陰様で非常にご満足されてお帰りになられましたよ」

  「ほぅ…お帰りになられた…と。それでは、その参加者がイベント後に行方不明になるというのはどうやら迷信だったようですね」

  「……行方不明?」

  わざと仕向けた台詞にメフィストは歩みを止めて疑惑の目をして振り向いた。

  「それは……どういう意味でしょうか?」

  「おや?ご存じなかったのですか?ハロウィン仲間では割と有名ですよ。館に招待された者達が毎年4名ずつ姿を消してしまうと。まぁ…あくまで噂ですがね」

  「恐らく嘘のまやかしか何かでしょう」

  「本当に…そうでしょうかね」

  「まさか…バルジ様はその迷信を信じておられるのですか?」

  「さて…なんせ、火のない所に煙は立たぬ…と、昔からいいますので」

  「では……バルジ様はその行方不明者方がイベント後に殺害されているか、今でも監禁されているとでもお思いですか?」

  「さぁ?そこまでは言えませんが、どうでしょうかね」

  疑いの視線を向けながら白々しく言い返すと、メフィストは不適な笑みを溢して高笑いを始めた。

  「はははっそれはまた面白いことでございますね。でしたら……後ほどメディア様に許可をいただいて館中をお調べください。わたくしの想像では何も証拠は見つからないと思いますが」

  メフィストの自信満々の回答に一気に不穏な感覚が全身を巡った。

  (なんだ…この妙な自信は。そんなに隠し所に自信があるのか?それとも本当に殺人や監禁をしていないということか?)

  行方不明者の行方に謎が深まる中、気が付けば二人は再び部屋へと到着した。

  「お話はここまでです。わたくしはこれで失礼致します。もう勝手に歩き回らないようにお願いします。なにか必要であれば必ずお電話をお願いします」

  「…分かりました。ご面倒お掛けして申し訳ない」

  「いいえ。では…」

  再びメフィストが丁寧にお辞儀をすると早々に部屋を後にした。

  バルジは少し汗を拭って、一度ソファーに腰掛ける。

  「ふぅ……流石に危ない橋だったな。もう少し用心しなければならんな。さて…これからどうしたものか…」

  一息をついて先程の行動を反省していると、耳のイヤホンに有紀から連絡が入る。

  『こちら有紀。今、館内の見学ツアーが終了。特に異常なし。これより各自の部屋に向かいます』

  「了解した。こちらも異常なし。引き続き警戒を怠るな」

  『了解』

  通信が切れると、ゆっくりとソファーの背もたれに寄りかかってこれまでの情報を整理する。

  (さて…問題はこれからどうするかだな。ここまで捜索しても何も手がかりがない。メフィストさんからの回答を考慮しても監禁をしている線が低い。ということは本当に行方不明者が館で消えたと言うのはガセネタなのか?だがあの藤堂指令が言うからには間違いはないだろう。ならば…一体、行方不明者は何処に消えたのだ?)

  脳裏で様々な可能性を考慮していると、再びクイズ大会でのキーワードと食事中でのメディアの不適な笑みを思い浮かべた。

  「魔女の生け贄…か。もしかしたら…」

  ぼんやりと浮かんだあまりにも馬鹿馬鹿しい仮説に思わず苦笑した。

  「ふっ…まさかな……流石にあり得んな」

  [newpage][chapter:お菓子と悪戯]

  一方その頃、有紀は与えられた部屋でじっと待機をしていた。

  (結局、館内見学ツアーをしても何も見つからなかったな。バルジ隊長やみんなから連絡もない。とりあえず今は待機をするしかないよな…)

  事態が動かない事に戸惑いを感じていると、突然ノック音が聞こえた。

  コンコン

  (ん?誰だろう)

  「はい!今開けます」

  警戒しながらゆっくり扉を開けると、そこには笑みを浮かべたメディアが立っていた。

  「こんばんわ、有紀さん」

  「あ…こんばんわ」

  「有紀さん、『Trick or Treat』」

  「え?!えと……」

  (そう言えば、バルジ隊長がハロウィンの挨拶くらい知っておけって返し方を話していたな。確か……)

  「happy……halloween?」

  「正解。よく出来ました」

  上手く返事が出来たことに安堵していると、メディアが不思議そうに首を傾げた。

  「あら?お菓子は頂けないのかしら?」

  「え?!あ…そうですよね。どうしよう……何も考えていませんでした」

  あまりに動揺して話す姿にメディアは口に手を当てて笑った。

  「うふふっあなた正直ね。冗談よ。今回招き入れているのはわたくしだから、あなたは貰う側よ」

  「なんだ~それはよかったです」

  胸を撫でていると、メディアは楽しそうに微笑んだ。

  「うふふ、あなた可愛いわね。それではしっかり挨拶が出来た有紀さんにわたくし特性のチョコを特別に差し上げますわ」

  目の前に出されたのは、とても美味しそうなチョコの箱。

  思いがけないサービスに正直の喜びの声を漏らした。

  「え?!こんな美味しそうなチョコ…俺が貰ってもいいんですか?」

  「えぇ、元々参加者にお配りする用にわたくしが朝に作りました。ただ、お口に合うといいのですが…」

  「いえいえ!絶対に美味しいと思いますよ」

  「そう?なら味見をしてみてくれます?後に回るメンバーへの口コミにしたいので」

  「そうですか…分かりました。では一つ頂きます!」

  有紀は差し出されたチョコを一つ取り、なんの躊躇もなく口に放り投げた。

  美味しそうに味わっている姿を見て、微笑みながら感想を確認する。

  「どう?わたくしが御用意したチョコのお味は?」

  「はい!とっても美味…しい…で…す…」

  バタン!

  チョコを食べた直後、有紀は意識を無くしその場に倒れてしまった。

  倒れた姿を眺めていたメディアは悪魔的な笑みを溢した。

  「うふふ、お馬鹿な坊や。まずは一人目…ね」

  【次回予告】VOICE ルイ

  メディアさんにチョコを頂いたら急に眠らされてしまったわ

  これは…どういうことなのよ?!

  バルジ隊長!助けてください!!

  次回、『ハロウィン失踪事件 生贄編』

  私たちは次の駅で誰かに服従する。

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