ポケモンと人間が共生する世界。
その世界には様々な謎や不思議が存在し、中にはこんな物語もある―のかも知れない。
とある町の一角。
とっぷりと日の暮れた中を二人の女性が歩いていた。
「遅くなっちゃったね」
「うん、遅くなった」
黒いミディアムヘアの女性がブラウンのポニーテールの女性に声をかける。
「まったく、今日も色々大変過ぎよ。リカだってそう思うでしょ?」
「クルミの言う通り。おかげで寄り道を楽しむ気分にもなれない」
ミディアムヘアの女性―クルミとポニーテールの女性―リカは二人して愚痴をこぼし合う。
「まして「この子」と触れ合う時間なんて……ホント、いやになる」
衣服のポケットに忍ばせたモンスターボールを軽く握りながらリカは口をとがらせる。
「とりあえずもうすぐ家だけど、お風呂が先?ご飯が先?それとも……」
ほんのり顔を赤らめながらクルミが訪ねてくる。
それを聞いてリカも顔を赤くするが……。
「とりあえずお風呂だけは入ろ。ご飯を食べる時間もちょっと惜しい。そのあとは……」
「そのあとは……ね?」
「ね?」
軽く見つめ合うとそのまま家路を急ぎ、ルームシェアをしているマンションの自室にたどり着いたのはそれからしばらくの後。
どちらからとなく扉をくぐり、リカが最初にしたのは―。
「ヌメラ、お疲れ様っ」
モンスターボールを取り出して掲げるとその中から飛び出したのは軟体ポケモンと言われるヌメラ。
まんまるとした小柄の体型と紫色をメインとした色合いの愛らしさが人気のあるポケモンである。
「メラ~」
モンスターボールから解放されたヌメラは楽しげに部屋の中を這いまわる。
「で、どっちが先に入る?」
クルミがそう言うやいなや、二人はとっさにじゃんけんの構えを取る。
どちらが先かは割愛するが、とりあえず二人がかわりばんこでシャワーを浴び終えるまでヌメラがポケモンフーズをゆっくり味わってそのあと一まったりしていた事は確かである。
シャワーを浴び終え、軽食と言うにも軽い食事をすませるやいなや二人はベッドに入る。
疲れた体を横たえ休む……までの「ちょっとした」時間を楽しむために。
そして二人がその為の「ナイトウェアに着替える」までそう時間はかからなかった。
[newpage]
「リカぁ……」
「クルミぃ……」
瞳を潤ませ、顔をほんのり染めながら二人は見つめ合う。
今の二人は必要以上の言葉も、そして衣服も必要ない。
ただ火照る身体と心を触れ合わせる。
二人にとってそれは一番の癒しであり、そして「日常」でもあった。
それこそ二人の気力と体力が互いへの愛情で支えきれなくなるまで……。
「メラァ~メラァ~」
そんな二人をヌメラはその身体をほんのり染めながら見つめている。
その声が互いの息遣いに混じって二人の耳に入ってくる。
「リカ、あの子もそろそろ……」
クルミに促され、リカの目がヌメラに向けられる。
「あ……」
ヌメラの身体のあちこちから滲み出すように光が明滅を繰り返している。
その光景はリカも「何度も」眼にした光景であった。
その姿を見た二人の顔に喜びと期待が満ちていく。
「クルミ、今夜はスペシャルタイムね」
「うん、今夜はリカともっと楽しめそう」
そう言い合いながら二人は軽く唇を合わせるとゆったりと上半身を起こし、ヌメラを手招きする仕草を取る。
「ヌメラ……来て」
「いっしょに―ね?」
二人の声には今まで以上に艶が感じられる。
光に包まれながらヌメラは嬉しさと共にその姿を大きく震わせる。
その様はポケモンにはよく見られる「ある光景」に類似しているのだが……。
震えながら、うごめきながらヌメラはゆるゆるとベッドに、その上にいるリカとクルミに近づく。
「うふふ……」
「わくわく、わくわく」
リカはうっとりと、クルミも楽しげな顔でその動きを見守りながら改めて互いを擦り合わせようとする。
そしてヌメラから漏れる光の明滅が一定のピークに達した瞬間―!
「メララーッ!」
大声で泣いた瞬間ヌメラの体の形が崩れ、まるでベトベトンの様に大きく広がりながら二人に襲い掛かる。
「えっ?もう!?」
「ち、ちょっとまだはや……」
そんな言葉もむなしくクルミとリカは変化したヌメラに呑み込まれた。
[newpage]
「むむっ、むぐぅ~!」
「ううぅ……うむむ~!」
文字通り唐突に呑み込まれた二人はくごもった声を上げる。
ヌメラが変化したスライム状の物体はそのまま二人を容赦なく包み込み、そのまま一気に締め付けようとうごめき始める。
(ち、ちょっと、まだ体勢がととのってないっ!)
(も、もっとちゃんと身体を合わせないとっ!)
じわじわと締め上げられる状況の中、リカとクルミはもがきながら必死で近付き、身体を手繰り寄せ互いにとって最良の体勢を保とうとする。
「むぅ……むぐっ!」
「うむぅ……むぅっ!」
(あっ……間に合った……)
(あっ……ぎりぎりセーフ……)
その重なり合う身体が物体の外からくっきりと見える程に物体に一気に締めあげられる寸前、二人は辛くも「ベストポジション」につく事ができた。
あとは―。
「むぐぐぅ……」
「うむむむぅ……」
(クルミぃ……)
(リカぁ……)
全身が密着、圧縮されていくような感覚の中で二人はそれに委ねるように手足を互いの身体に回し、密着しあえる全てを触れ合わせていく。
その光景は物体の薄皮一枚と言えるレベルで浮かび上がる一対の人型をしたオブジェがあらわにしていた。
「メラァ……メラァ……」
どこからかヌメラの鳴き声が聞こえる。
言うまでもなくそれは物体―リカとクルミを飲み込んだヌメラの変化した物体から聞こえてくる。
内側で重ね合う二人を外側から引き締めながらヌメラはうねうねとその身をうごめかせる。
それに合わせる様に中の二人もたくみに身体を動かしつつ互いに重ね合わせていく。
「むうっ、むむむっ」
「うむっ、ううむっ」
(リカぁ、そろそろぉ……来るわよぉ)
(クルミぃ、用意はぁ……とっくにできてるかぁ)
ヌメラのうごめく荒波にもまれ、ヌメラの放つ光のさざ波に流されながら二人はこれから始まる展開に構えつつも引き続き求めあう。
それを待っていたかのように―。
「メラァァァァーッ!」
ヌメラが大声で鳴いたと同時にその身体が一気に膨れ上がる。
「むむむっ!」
「うううぅ!」
圧縮、密着していた二人をさらに呑み込む勢いでヌメラは膨れ上がる。
(あぁ……来た来たぁ!)
(あぁんっ……来るぅ……)
全身をぴっちり包む圧縮と内側に染み込んでいた光がさらに強さを増す中、クルミは歓喜の声を上げ、リカもうっとりとその感覚に浸っている。
二人を飲み込むように光りながら膨れ上がり続けたヌメラはどんどんその質量を増しながら形を変える。
下部からはどっしりとした足と長い尻尾が。
上部に伸びた所からは一対の腕とドラゴン―と言ってもかなり愛らしい顔立ちだが―の頭部が形作られていく。
「……」
「……」
(ぴっちりあったかい……きもちいぃ……クルミとぉ……いっしょぉ……)
(からだいっぱいここちいい……つつまれていやされるぅ……リカもぉ……おんなじぃ……)
ヌメラの生命の輝きとも言える光に包まれ、互いの感覚以外を感じられない程に高まりうごめこうとする身体を、外観ではその形も動きも見えなくするほどの質量とそれが織りなす躍動が押し込んでいく。
その反発の中でクルミとリカはさらに強く「一つになっていく感覚」に浸っていた。
二人の躍動に突き動かされる様にヌメラも光の中で進化系であるヌメイル、そして最終進化系であるヌメルゴンとしての形を作っていく。
「……」
「……」
(リカぁ……わたしたちぃ……ひとつにぃ……なるぅ……)
(クルミぃ……みんなぁ……いっしょに……なれるぅ……)
変化していくヌメルゴンの身体にもまれながらリカとクルミもまたあふれる生命の息吹を感じ合いさらに昂っていく。
「……」
「……」
「メラァ……メラァ……」
すでに言葉を交わし合う事さえ忘れたかのようなクルミとリカ、変化を確かめながら声を漏らすヌメルゴン。
三者が織りなし、混じり合うかのように作り上げられていくその姿の形成、そしてその中にいる二人の感覚がついに頂点に達する。
(―!)
(ー!)
「メラァァァァァァァァッ!!」
光がはじけ、その中から現れたその姿が完成した喜びにヌメルゴンが吠える。
それこそその中でうごめいていた二人の女性の声さえかき消すほどに。
なお、このマンションの防音はかなりのレベルであり他の部屋の住人達はこの部屋で起きている事態に一切気づいてはいない。
「メルゴォ……」
余韻に浸りながらもその身体を見回すヌメルゴン。
「メルゴォッ!」
そこからさらに歓喜の声を上げた事を見ると進化は上出来だったようだ。
(……)
(……)
その中にいるはずのリカとクルミの声はやはり聞こえない。
しかし、やはり二人はヌメルゴンの中で密着したまま満たされている。
理性も意識もなく、ただ本能を越えた形で一つになったかの様に。
ヌメルゴンはしばし余韻に浸っていたが、周りを見回すや緩やかに窓に向かうや外に飛び出した。
向かう先は近くにある森か、はたまた泉のあるエリアか。
ヌメルゴンは進む。その本能が求めるままに。
ヌメルゴンが進むその度にその中に包まれているであろうクルミとリカもその動きに合わせる様に一体となってうごめくのであった―。
[newpage]
どれだけ時間が経ったのだろうか。
誰もいなくなっていた部屋の窓からゆっくりとヌメルゴンが入ってくる。
その顔は満足げであり、今夜の道中もまた満ち足りたものであったことを示していた。
「メルゴォ♪」
ウキウキした足取りと顔で部屋の中を進むヌメルゴン。
ゆったりと進み、部屋の奥にあるベッドの前に立つと、思い切り身を縮める。
そして思い切り体を広げると、
「メルゴォォォォォッ!」
そう叫びながら体を大きく広げたその瞬間、ヌメルゴンの身体が光に包まれる。
「メルゴォ……メルゴォ……」
光に包まれる中、身体が変化していく感覚にヌメルゴンは身体を震わせ、声を上げる。
その身体が大きくねじれるたびにその中にいるリカとクルミの身体はねじれに任せるようにその身をよじらせる。
(……)
(……)
そうするうちにヌメルゴンの身体が形を失いみるみる縮んでいく。
その特徴的なツインテールの様な触覚も、愛らしいドラゴンの様な顔立ちも。
さらにはその両手両足や尻尾さえも形を失い埋もれていく。
進化の逆再生を見るかのようにヌメルゴンはヌメイラ、そしてヌメラを思わせる物体へと変化していく。
さらにその形はどんどんしぼんでいき、まるで空気を入れる前の気球のような状態になっていく。
その過程の中で重なり合う二人の女性のような形をした物体がぴっちりと浮かび上がる。
「……」
「……」
意識はともかく露わになるうちに軽く震えたり収縮していたりという「生命の鼓動」はヌメラの皮膚らしきものごしに見て取れる。
そして、光に包まれたヌメラは自分の中で浮かび上がっていた物体を外に排出すると一気にその身体を小さくまとめながら形を整えていく。
「メラァ……」
光が消えて全てが終わった時、そこには身体を重ねたままでベッドに横たわる二人の女性―リカとクルミ、そして二人に寄り添うように眠るヌメラの姿があった。
心の底から満ち足りた顔で眠りにつく二人の素肌は輝くような潤いを纏っており、ヌメラもまた穏やかな表情で眠っている。
理由は不明だがクルミのヌメラは特異体質でありヌメラのまま進化できず、進化しようとしても進化が始まる直前でそのエネルギーが自動的に外に発散されてしまっていた。
その一方で進化の際にはある種の不定形体に変化する能力を持ち、それにより何かを一時的に呑み込んだ時だけヌメルゴンの姿に進化する事が可能であった。
もちろんその期間は有限であり、呑み込んだ物体を排出すればいやでもヌメラの姿に戻ってしまう。
その流れでヌメラは一時的にでも進化した姿を楽しみ、クルミも自身やパートナーであるクルミとの「楽しみ」により刺激と潤いと癒しを感じられると言うウィンウィンな関係ができる事となった。
この関係がいつまで続くかは不明である。
いつもヌメラが「進化」をするわけでもないし、繰り返しの果てにいつか完全な進化の引き金になるかも知れない。
また、ヌメラに呑まれる形で纏われ続ける二人が今後どうなるかもわからない。
ただ、確実なのは―。
[newpage]
「リカァ!支度はできてるよねぇ?」
「クルミも忘れ物はないっ?」
夜が明け、目を覚ました二人は余韻に浸る間もなく朝の修羅場の中にいる。
遅刻限界点ぎりぎりの時間が迫る中、最低限空腹を満たすための食事を取りながら大急ぎで身支度を整える。
これが休日だったなら思う存分満ち足り潤い切った余韻を「朝飯前の前菜」として心行くまで味わっていたのだろうけど。
そんな二人をよそにヌメラはのんびりとポケモンフーズを味わっていた。
「まったく、楽しんじゃうといつもこう!クルミももっとしっかりしてよ」
「でも、楽しむのはやめられないのはリカも同じでしょ?」
「そして今夜も……ね?」
「そう、今夜も……」
そう言い合いながらも見つめあい、どちらからともなくそっと唇を重ねたりする余裕はあるようだが。
「その為にも今日もがんばろう!」
「ええっ!あと、最後のチェックは……」
そう言いながらポケモンフーズを食べ終えたばかりのヌメラをモンスターボールに回収しながらリカは部屋を飛び出す。
クルミもその後を追う様に飛び出していく。
こうして二人と一匹の日常が始まる。
そしてそれが終われば二人と一匹の「日常」が始まる。
これもまた数あるポケモン世界の不思議の一つ―なのかもしれない。
了