とある未来。
とある宇宙開発団体はかねてより開発していた宇宙探索を目的とした有人衛星ユニットの試作機開発に成功した。
外観はまるでやっこ凧を立体化した様な形状に全身銀色にも見える純白の輝きを纏い、その後ろにリング状に配置されている推進システムは理論上は惑星間航行も可能にできる推進力を持つ。
叶わぬ夢かも知れないが、この技術の発展が穏健な宇宙探索・開発の範囲に留まる事は開発に携わった全ての人達の祈りである。
衛星軌道上に浮かぶ宇宙開発団体所有のステーションドック。
そこでは今有人ユニットの発射実験が始まろうとしていた。
あわただしく最終チェックを行なうスタッフ達。
起動実験は幾度となく行っているが、今回はより特殊なケースで行なわれるだけに機械整備・AIのシステムチェックもより厳密に行なわれている。
特にコクピットブロックのスタッフはそれに輪をかけて動いていた。
本来この手の機体は長期に渡る外宇宙探索に対応する為に人工知能による完全自立運用を前提としている。
既に基本的な機動その他のプログラムのアップデートは完了しており、万が一期待に不備があった場合に備えてのメンテナンスフリーを行う為のシステムも追いつけ開発されるだろう。
しかし、人間以上の計算力を誇る人工知能でもフォローしきれない事態やより正確なデータのリアルタイムな観察などの為、有人操縦の余地もまた必然となっている。
ユニットの有人操縦ブロックは厳重に出入りが制限され、特になぜか男性スタッフの立ち入りが禁止されている。
「制御システム、生命維持システムにエラーなし」
「各部動作チェック完了、オールグリーンです」
そこでは女性スタッフ達があわただしく作業に追われていた。
その中心にあるのは決して大きくはないが相応のサイズを持つユニットである。
それこそがこの有人衛星のメインユニットであり、文字通り「命の箱」なのである。
女性ばかりのスタッフがあわただしく動く中、トキナは白衣の襟を直しながら静かに歩いていた。
「いよいよこの時が来た……」
作業用ライトに映し出されるユニットを見上げながら感慨深げにそうつぶやく。
今回の起動テストはこの有人衛星ユニット、そしてテストパイロットであるトキナにとって大きな「一歩」になる。
そのせいか彼女の頬は軽く引き締まり、薄く赤らんでいた。
「さすがこの団体の技術スタッフ、機能になんら異常はないわね。もちろんあなたも万全、よね?」
トキナの横に立っていた一人の女性が感嘆の声を上げながらも自信に満ちた口調で引き締める。
「社長……」
トキナはその人物—社長にやや緊張気味な笑顔を向ける。
この有人操縦ブロックには宇宙空間における加速やその他の様々な作業に柔軟に対処する為のインターフェイスが適用されている。
そんな中、どう言う経緯か社長を通じてトキナがそのユニットのテストパイロットに選ばれ、紆余曲折の末にこうしてこの場に立っていた。
「トキナ、今までとは違って実践テストだから万が一の事態も考えられるわ。それに、あのインターフェイスに緊張しているかもと思って」
トキナ同様不安と緊張を隠せない気持ちを振り払う様にわざと冗談を交える社長の言葉にトキナは軽く苦笑いを浮かべて返すだけだった。
「トキナさん、インターフェイスの準備OK。いつでもいけます」
インターフェイスの最終チェックを終えたスタッフが声をかける。
「いよいよね……トキナ、いい旅を」
「ありがとうございます、社長」
そう返すとトキナと社長はユニットのエアロックハッチに向かう。
外側のハッチが開き、その中に入ったトキナはハラリと白衣を脱ぎ捨てる。
その下から現れたのは年頃の女性、そしてモデルとして磨かれた美しさを持つ裸身であった。
まるでビーナスの誕生を思わせる様な流れで白衣、いやバスローブを社長に預けると静かにスイッチを操作する。
エアロックの奥側のハッチが開くと、そのままその奥の制御ブロックへと裸のままのトキナは入っていった。
トキナが完全にコクピットの中に入るのを確認するようにハッチは静かに閉じた。
[newpage]
そのブロックの中心部、それなりの広さのポッドの中にトキナは立っていた。
「各システム異常なし、生命維持機能OK、そして……」
両腕の位置に置かれた球体状のコンソールを動かしながらトキナはユニットの最終調整、そしてこのユニットの「要」となるシステムの最終確認を行う。
「生命維持システムチェック完了、あとは……最終チェック……」
そう言ってトキナはコンソールを動かし内部のスキャニングを開始する。
「あっ……」
光が足元から上がってくる感覚に軽い恍惚を覚えながらトキナは軽く身を反らす。
その光に照らされたトキナの裸身が淡く輝く。
「はぁ……現時点にて生命機能に異常なし……」
一息つきながら内部から各種の最終チェックを行っている。
「とりあえずそちらはもう準備はいいわね?」
そこに突然社長から通信が入る。
「きゃっ……社長、おどかさないでください」
その顔が赤くなっているのは突然の事ゆえの驚きだけだろうか。
「ごめんなさい、でも話しておく事は話しておかないとね」
社長が気遣うように言う。
これまでの「仕事」の時と同じ様に彼女の存在はトキナ達に大きな安心感を持たせ、それが今までの実験の成功率にも大きく貢献していた事は事実である。
「大丈夫です。しっかり頑張ってきます」
トキナは不安を振り払う様にそう答えると通信を切り、いよいよインターフェイスシステムを起動させようとする。
目の前に鏡の様なスクリーンが張られ、その前に自分自身の裸身が浮かぶ。
「これってちょっと趣味が悪いかも知れないけど……」
仕事ー特に彼女が秘密裏にやっていた「モニター」の段取りを思い出してほんのり笑みを浮かべる。
そしてこれから自分の身に起きる事を考えるうちにふと湧き上がる感情を抑えきれずトキナの右手は自分の胸におかれる。
肌はほんのり火照り、軽く鼓動が響く。
そして足の間はそれ以上に熱く湿りを帯びているが、その感触を確かめている時間は今の彼女にはなかった。
「とにかくインターフェイスを起動しないと」
軽く息をのみ、意を決して右手をコンソールに置き直すとトキナはスイッチを押す。
“インターフェイスシステム起動・パイロットへのコーティングを行います”
電子音声が流れるとトキナの頭上に薄い光の板が浮かぶ。
それを見上げ、トキナは改めて息をのんだ。
「始まった……」
何度もテストで味わった感覚、しかし慣れる事はない感覚の記憶が彼女の脳裏を駆け巡る。
その記憶を刺激する様に光の板がじわじわトキナの頭上に降りてくる。
「……」
光の板がそっとトキナの頭頂に触れるとそのままゆっくりと降りていく。
「あ……」
頭の上から何かが被さり覆われていく感覚。
よく見ればトキナの髪が銀色をした何かに覆われている。
それはぴっちりと、ぴったりと。
水泳帽の様に、いやそれ以上に彼女の髪を、そして頭を覆っていく。
それはさらにその目元を覆い隠すと形のいい耳や鼻筋、更には口元が銀色に覆い隠される。
「むっ……」
鏡ごしの自分自身に見つめられながらトキナの口元が、そして顔全体が覆われ尽くす。
首から下は全裸、首から上はつるつるの銀色の球体―ただし目元や鼻筋、口元と言った顔の形はくっきりと浮かんでいるーと言う姿となったトキナ。
その姿はどこか異様で、それでいて不思議に美しい。
見開くと同時に特殊なレンズに覆われた瞳でその姿を見たトキナはその姿に一瞬心惹かれていた。
しかし、トキナの変化はまだ終わらない。
光の板が通り抜けた首筋からうなじ、肩から鎖骨のラインが銀色に覆い包まれていく。
その細くもしっかりとした両腕、きれいなラインを描く背中、そして形のいい一対の膨らみが銀色に染まる。
「あんっ、んん……」
優しくもしっかりと覆いつつまれた一対の膨らみがきれいに形どられくっきりと浮かび上がる感触にトキナは銀色の口元から軽く声を上げる。
胸と両手を覆い尽くした光の板は背筋を通り、みぞおちを抜け、いよいよ腰を通り抜ける。
「あ……あぁっ……」
トキナの声のトーンが一瞬変わる。
女性として最も感じる場所を覆われ、さらには軽く形作られているのだ。声を上げない方が不自然かもしれない。
その声を上げるうちに銀色はその場所と引き締まった臀部を覆い尽くし、より引き締める感覚を彼女にもたらす。
銀色の頭部を軽く揺らしながらトキナが鏡状のスクリーン越しに見た自分の姿は長く伸びる素足を除けばまるで銀色のレオタード
―両腕の先からそれこそ頭までぴったりと着込まれた―
を着ている様な姿だった。
一瞬この姿のままダンスか体操でもしてみたい気持ちにもなる。
しかしそれを許さない位に彼女の眼は鏡状のスクリーンに映し出される自分の体に向けられる。
そうするうちに光の板と銀色はいよいよ両足を覆っていく。
太ももが、膝が、ふくらはぎが、そしてかかとからつま先までも。
そして降り切った光の板は霧散する様に消滅し、そこにはすっかり変わりきったトキナの姿があった。
その姿は形こそ女性のものだがその感情を見せるものは全く存在せず、ただかすかに除く目元だけが何かを見せているかのようである。
その姿はトキナ自身のスタイルの良さもあり、まさに銀色のマネキンの様であった。
「……んっ」
軽く首を回しながら身体をしならせてみたり、手を握ってみたり開いたり。
彼女の裸身をそのまま銀色に彩ったかの様に彩る素材とその中に潜む素肌が軽くすれ合う。
適度に引き締められた銀色の素材の感触がちょっと心地いい。
良い感じのフィット感を確かめていたトキナだったが、
「あっ」
その銀色の素肌―額や胸元、腹部や両手足に配電盤の様なラインが浮かび上がる。
同時にこれまでとは別の刺激が走り、トキナの体は一瞬大きく震える。
その姿はさらにトキナの姿を人の形でありながら何か異なる存在、さながら端末の様なものに近づいた様にも見える。
さらに変化した自分の姿に息をのむトキナだったがそこで鏡状のスクリーンが消え、代わりに様々なモニターが浮かび上がる。
「インターフェイスコーティング完了、各生体機能に異常なし……現段階における各システムへの影響は皆無……メインコネクトの準備、いつでも完了……。」
色々な余韻に浸る間がなかった事に思う所を感じつつも、トキナはポッド内に浮かび上がる様々な数値を読み上げる。
「……トキナ、具合はどう?エラーサインはないけどあなた自身は大丈夫?」
通信モニターに社長の声が入る。
「大丈夫です……いつもの感じですから」
トキナは普段通りに応える。
そう、これまでのテストで何度かこの姿になってはいるし、今回はまだ第一段階でしかない。
有人衛星ユニットのインターフェイス接続・そしてユニットの起動・かつ操作などやるべき事はまだまだ多い。
「内部システムは異常ありません。外部の方は準備できてますか?」
よろめく声と体を何とか立て直しつつトキナは尋ねる。
「それがまだ……あ、今連絡が入ったわ。外部の方は既に準備OK、いつでも発機OKだわ。」
「わかりました。わたしももういけます」
「無理しないでね。これからの事もあるしまだデータ収集の段階だから……」
「わかってます。絶対無事に帰ってきます」
社長との会話を終え、トキナは改めてコンソールに手を触れる。
「―コネクトユニット起動」
銀色の腕を動かし、銀色の足を踏みしめてトキナはその銀色の顔の中でモニターを見つめながらつぶやく。
不意にトキナの背後からアームの様なものが伸び、彼女の背中から臀部の辺りをそっと支える。
この姿、この空間ではやや無粋ではあるがこれからのテストでより確かに彼女とアームをつなげ、なおかつ彼女の体を守るにはこのユニットは欠かせない存在なのだ。
ユニットと体が密着すると同時にガードレンズ越しに改めてモニターが浮かび、全身をぴっちりと覆う素材越しに肌が震えているのが感じられる。
「ユニットとの接続完了。これよりコネクトを開始……」
アームからトキナのその銀色の肌を覆う配線を通じ夜の道路を車が走る様にトキナの体を光が駆け巡る。
「あ……ああ……」
スーツの密着感がほんのり強くなり、さらにそこから光が走るたびに軽い刺激が素肌を走ってゆく。
背中から肩に、腰に、足に、腕に、胸に、頭に……。
その姿はちょっとしたイルミネーション付きオブジェである。
「あっ……」
全身を軽く撫でられる感触に軽く声を上げてしまう。
そして彼女を駆け抜けた光は再びアームの中に戻っていく。
“コネクト完了。各部システム異常なし。パイロットの生命維持確認。現時点において本機の出発・航行への支障はなし”
システムが機械的な声でそう告げる。
同じく無機質的な銀色の顔の中でその声を聴くトキナの表情はやや緩んでいた。
ぴっちりと素肌を覆う素材の中で心地よくもみほぐされた余韻を感じつつもトキナは凛として立ち、コンソールを握り直す。
「発進シークエンス開始。本機はこれより発進態勢に入ります」
気持ちを引き締める様にそう言うとトキナはメインAIに発進シークエンスの指示を出す。
そして様々なシークエンスを経て有人衛星ユニットは静かに離着デッキから離れ、宇宙空間へと飛び出して行った。
[newpage]
有人衛星ユニットは機体の各所から方向制御と推進ノズルをふかしつつ宇宙空間を進んでいく。
その中でトキナはコンソールを操り機体を操作する。
頭の上から手足の先まで銀色に覆われた今の彼女は人でありパイロットであると同時にこの機体の「パーツ」の一つにも見える。
見方を変えるならトキナと言う生身の人間が無人の機械と融合・一体となってこの機体を動かしているとも言えよう。
その姿は金属と融合した生きた機械か、それとも生身の体のまま機械の中に潜り込んでいると言うべきか。
今彼女の素肌を覆い包んでいる銀色の素材はアームを通じてその不思議な感覚をさらに強くトキナに注ぎ込んでいる。
足に力を入れ、踏み出すように動かせば機体は前に進んでいく。
腕に力を入れればその勢いに緩急がついてくる。
機体の各所に設置されているカメラ越しに送られる映像が目の前のモニター、そしてガードレンズごしに映し出されている事もあってかこの銀色の姿のままで直接宇宙空間を走っている様な錯覚を感じつつトキナは機体を操作していた。
しかし、その行程は衛星軌道上に浮かぶステーションを離れてからそう遠くない距離の間の事でしかなかった。
あえて言うならこれから始まる「本番」の前の軽い準備運動、そう言う所でしかない程の。
「ユニット、ドライブ実験定位置まで到着しました。ステーションまでの距離は……」
そう言いながらステーションから指示された位置と距離までユニットを移動させる。
両腕や両足、さらには胸や腰まで大きく反らしたり屈めたりして機体のバランスを整えたりもするがその度に彼女の体にフィットしたコネクトアームはその身体をずらす事も落とす事もなく受け止めている。
「OKトキナ。システムのチェックが終わったらあとは体の力を抜いて、ドライブ開始に備えなさい」
社長からの通信が入る。
「は、はいっ」
トキナはそう答えるとその銀色の肢体を動かしコンソールやモニターを操作してゆく。
「エネルギー供給システムクリア、推進システムクリア、ドライブ時のAI制御移行システムクリア……」
各システムが正常である事を確認しつつトキナは不思議な昂ぶりを感じていた。
これから始まるドライブと呼ばれる機能のテスト。
トキナがこの銀色の姿になって衛星ユニットに乗り込んでいるのはある意味このテストの為でもあった。
なぜなら……。
「トキナ、そろそろテスト開始よ。思い切り行ってきなさい」
社長の声を聞いたトキナが銀色の顔越しに軽く笑みを浮かべる。
銀色の素材で覆われた中の素顔がどんな笑みを浮かべているかは定かではない。
そしてトキナは改めて背中から腰をアームに預け、両手をコンソールに添えると大きく全身で息をする。
銀色に包まれたその身体の動きは機械的でもあり、同時に生々しいものもあった。
「パイロット、所定の位置に付きました。これよりドライブテスト態勢に入ります」
そう通信を入れるとユニットを操作してちょうどステージョンに背中を見せる形になりながら機体の態勢を整える。
銀色の顔の中で再び息を飲むと銀色の身体をしならせ、全身で息をしてその時を待つ。
そして……来た。
“ステーションよりエネルギー波放射確認。まもなく受信開始します”
電子音声が入ると同時に衛星ユニットの各所に光が浮かび始める。
“エネルギー受信・チャージ開始します”
その光はアームを通じてコクピットブロック内のトキナにも注がれていく。
「あっ……」
コネクトした時同様、あるいはそれ以上の勢いで銀色の肌とその中の素肌を光が駆け巡る。
「あっ……ああっ……」
スーツの密着感がほんのり強くなり、さらにそこから光が走るたびにより強い刺激が素肌を走ってゆく。
背中から肩に、腰に、足に、腕に、胸に、頭に……。
「あっ……」
素材を光が流れる度に全身を撫でられる感触に声が上がる。
さらに衛星ユニットにエネルギーが満ちていく感覚が素材を通じてトキナ自身にも擬似的に伝わってくる。
「あ……あたたかい……身体中に何かが……満たされていくみたい……」
素材が軽く熱を発しているのだろうか。
ほんのりした感触を全身で味わいながらトキナは軽く身体を揺らしている。
冷たささえ感じさせる銀色の素材に覆われ金属のオブジェの様に見えるその姿がどこか生々しく動いている。
頭を、肩を、腕を、足を、胸を、腰を軽く動かしつつ。
しかし、その流れはさらなる電子音声と共に変化を迎える。
“エネルギーチャージ完了・これよりドライブを開始します。パスワードを入力して下さい”
その言葉にほんのりした一時を遮られた事でやや不満を感じつつもトキナは音声パスワードを入力する。
「ユーハブ……コントロール」
“アイハブコントロール・機体制御移譲確認。ドライブ用動力始動します”
それと同時に衛星ユニットが更に光を増した―様に見えた。
ステーションから受信したエネルギーを受け動力システムが勢いを増し、機体加速の為の力を集中させていく。
そして、その中にいるトキナは……。
「え、や、やだ、い、いきなり……あっ、あっ、ああっ!」
素材を流れる配線が光に満たされると同時に突然襲い掛かるさらに強烈な刺激。
濁流の様に襲いかかる感覚の波。
それら全てがトキナの体を押し流す様に流れ込む。
「あっ!あっ!ああんっ!」
思わず何度も身体をしならせる。
その動きを押しとどめる様に全身を覆う素材と背中から臀部を支えるコネクトアームはトキナの身体を、その激しくなっていく動きを抑える。
「あっ、あぁっ、こ、これって……んっ!んんっ!んんっ!」
心地よい熱量に加え、今度は駆け巡るだけではなく全身を抑え込む様に注ぎ込まれる密着と刺激に感覚を刺激されながらトキナは身を反らす。
そんな突然彼女の顔、特に口のあたりがきつく締め付けられる。
これで彼女にどれほどの快感が襲おうと声を上げる事も、舌をかむ事もない。
さらにトキナの全身を覆い引き締めていた素材もぎゅっと引き締まるとその身体を程よく固定する。
それによりトキナの身体がどんなに激しく悶えようとさらにアームから外れない形となる。
とは言え、素肌を覆い引き締める素材の質感やそれがもたらす感覚に変わりはない。
「んっ、んんっ、んんんっ」
(こんなの、はじめて、す、すごい、すごい……!)
肩を、腕を、足を、胸を、腰を、臀部を、そして彼女の「女性としてのコア」を。
全身を駆け抜ける刺激と衝撃を受けトキナはますます身体を震わせ、素材とアームはそれをしっかりと受け止める。
その光景はトキナをますます無機質な銀色の人形と生々しい人間の姿を一つにまじり合わせた様なものに感じさせていく。
「うっ、ううっ!うううっ!」
(かんじるっ、あついっ、はじけるっ、とぶっ、とんじゃうっ!)
衛星ユニットの動力ブロックでは満ち満ちたエネルギーが激しく渦巻きながら解放の時を待っている。
同じ様にコクピットブロックの中のトキナもまたその銀色の素材の中の素肌、そして全身に昂ぶる熱量を渦巻かせている。
トキナの身体の奥、神経と言う神経、そして性感帯と言える場所へも注ぎ込まれる熱量と刺激がトキナをより昂らせている。
銀色の素材を裸身にぴっちりとまとい無機質のユニットに接続されて感じているのか。
それとも無機質のユニットに裸身のまま潜り込んでその中で感じているのか。
銀色のトキナと素肌のトキナが重なり合う様にユニットの中で震えるその姿はまぎれもなく「もう一つの動力ブロック」であった。
動力ブロックのエネルギー回転はいよいよ解放寸前まで高まっている。
そしてコクピットブロックの中のトキナもいよいよ「その瞬間」を迎えようとしていた。
「うっ、んっ、むむっ、んんん……」
(うっ、うっ、くるっ、くるっ、きちゃう……)
動かせるぎりぎりで頭を動かし、胸を突き上げ、腰を浮かせ、両手足に力を入れる。
どんなに激しく動かしても解けない拘束の中でトキナは激しくその身を振るい悶えさせる。
そしてー。
「!!!!」
(!!!!っ!)
その瞬間、衝撃が全身を突き抜け、全身の熱量が解放される。
トキナの全身が大きくのけ反り、ガードレンズからのぞく瞳がかっと見開かれる。
“動力部出力100%オーバー、これよりドライブ開始します”
トキナが達したのに応じる様に電子音声がそう告げ、ドライブ用の動力が本格的に起動する。
「ふぁっ……はぁっ……はぁぁ……」
のけ反った身体が緩やかにコネクトアームに受け止められる中、ようやく素材の拘束から解かれたトキナは銀色の顔の中で余韻の吐息を漏らす。
どこか甘く、ゆったりとした吐息が銀色の素材から感じられる。
同じ様に銀色に包まれた全身も達した直後の緩やかさに満ちているのをトキナは感じていた。
そこに再び電子音声が聞こえる。
“ドライブ開始・これより機体は加速を始めます”
それと同時に再びアームから光が走り、トキナの身体を巡る配線を駆け巡り始める。
「あ、あんっ、ああ……」
先程に比べれば優しい刺激を受け、トキナは軽く声を上げる。
銀色の素肌を光が巡り、その中の素肌を解きほぐされる様な心地よい刺激が走る。
機体制御をAIに任せている今、トキナはただ衛星ユニットが少しずつ前に進み出す感覚とその心地よさに身を預けていた。
ゆっくりと、ゆっくりと進み出す衛星ユニット。
「あ、ああ……」
トキナも引き続き自分自身が直接宇宙空間を進んでいる様な感覚に浸っている。
より自然にそう感じているのはやはり先程の余韻、そして今もなお心地よい刺激の中にいるからなのだろうか。
光が駆け巡る銀色の身体の中でトキナは星の中を進む。
「あ……あん……あふぅ……」
加速が進む中でトキナの全身を宇宙の風が吹き抜けてゆく。
身体は素材に覆い隠され幾重もの機械の中にありながらもその精神はより解き放たれているのを感じている。
身にまとっている素材の感触を自覚しないと本当に裸のままで宇宙を進んでいると思う程に。
裸の姿で星々と戯れていると思う程に。
そんな気持ちに満ちた裸の自分ををあえて無機質な銀色の素材と光の配線に覆い隠しながらトキナは進む。
どれだけ進んだか今のトキナには認識できなかった。
それだけこの航行が彼女を満たしていたのだが、あえて言えばあくまでも衛星軌道上をほぼ半周強した位の距離を進んだに過ぎない。
それでもトキナにとっては光年単位の宇宙行を味わった様な錯覚を覚えるに十分であった。
そんなトキナの視界を突如として強い光が遮る。
「うっ……」
思わず一瞬目を閉じ、そこから静かに目を開けた先に見えたもの。
それはトキナを出迎える様に浮かび上がる日の光だった。
衛星ユニットの、そしてトキナの動きに合わせる様にゆっくりと、ゆっくりと浮かび上がってゆく太陽。
その光が銀色に輝く衛星ユニットを照らし、その中にいるトキナの銀色の体を輝かせる。
「わぁ……」
全身に伝わる心地よい刺激も一時忘れ、トキナはその輝きを全身で受け止める。
太陽の光とそれを受け止める銀色の輝きはトキナの肢体をよりまぶしく彩り、その輝きが生み出す影はトキナの姿かたちをより克明に浮かび上がらせる。
光と影、銀色と黒、無機と有機、金属と生身……。
あらゆる反目し合う要素が混じり合う境界に銀色のトキナはいた。
その姿はどこまでも美しい。
「はぁ……あぁ……ああ……」
いつしかその身体は拘束から解き放たれ宙に舞う。
そして、いつしか現れた光の板がその銀色の身体すり抜けるとその中から髪をなびかせ、上気した素肌をたたえ、柔らかい笑みを浮かべた美神が姿を現す。
柔らかい素肌となびく髪は銀色の殻を脱いでさえ太陽の光の中で輝いていた。
そして、その輝きがトキナの裸身をより強く包む。
「あ……」
心地よい光と温かい感覚に包まれたトキナは一瞬意識を失い……。
[newpage]
目を覚ました時、トキナは自分が自室のベッドの中にいた事を再確認していた。
もちろんその身は色気よりも機能性重視なルームウェアに包まれている。
「夢……夢よね……」
ベッドの中で苦笑いを浮かべる。
ふと枕元にあった時計を手に取ってみればちょうどさっき見た夢を「初夢」と解釈できる日付の朝であった。
「―そう言えば社長から年賀メール来てたな……今年も「色々」よろしくって……」
そんな事を思い出し、朝日のさす部屋の中で身体を起こす。
その身体がなぜか寝汗に満ちていた事を感じたトキナはそのまま風呂場に向かう。
「ふぅ……はぁ……」
暖かくほとばしるお湯の流れに一糸まとわぬ姿をゆだね、その心地よさに浸りながら汗と眠気を洗い流していく。
一通り汗を流し、着替えを身に着けて部屋に戻った所で電話が入った。
『おはようトキナ。いい初夢見られた?』
友人からだ。
彼女からもすでに年賀メールは送り合っているが初夢の確認コールとはなかなか妙な話である。
「おはよう、初夢ね。わたしも見るには見たけど……」
そこでトキナは自分がどんな夢を見たのか忘れていた事に気が付いた。
「忘れちゃった。きっと大した夢じゃなかったのよ」
と答える。
『なんだ、ちょっと残念。わたしはね……』
友人の見た初夢の話でしばし盛り上がった後、改めて今年の仕事の話題が出る。
『なんのかんので年末年始お休みできるって言うのはうれしいと言うか残念と言うか』
「うん、よくある話だと年末年始イベントとか海外撮影とかあるものね。この辺りはうちの現状と言うか社長の配慮と言うか何と言うか」
『トキナってけっこう社長好きよね。でもわたしもあの社長さんのおかげでお仕事できてるってのは同感だし』
「そうね。とりあえずは今年もお仕事お仕事」
『わたし達の今年の発展のためにもお仕事お仕事』
そんなやりとりをしながら今年もまたがんばっていく事を誓い合う二人。
ただトキナは、
「今年はどんな「モニター」をさせられるのだろう……?」
と妙な期待と不安をよぎらせていた。
その思いが見せたかもしれない夢の事を思い出す事さえなく……。
了