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森に響く声

  第4章 森に響く声

  

  俺は今、あのバカな赤ずきんに連れられピクニックをしている。正直言って早く帰りたい。

  

  「おーい、まだかぁ?」

  

  「まーだだよ。てかはやいよオオカミさん!」

  

  そりゃしょうがない。だって俺の方が背が高いし年上だから歩くスピードも早ければ歩幅だって大きい。

  

  狼は赤ずきんを追い越して赤ずきんの先を歩いていた。

  

  しばらくすると

  

  「あ、そこ曲がって」

  

  赤ずきんが狼の尻尾をギュッと掴んだ

  

  「そこ!掴むな!」

  

  狼はすごい早さで振り向くと赤ずきんのおでこにデコピンをした。そしておでこに手を当てて頬を膨らませて悶絶している赤ずきんを無視して木と木の間を曲がると見たことのない大きさの切り株があった。しかも木葉からはみだす陽の光がとても神秘的な雰囲気を醸し出していた。

  

  「おぉ。こんな所あったんだな」

  

  「イテテ、きれいでしょ!僕が見つけたんだよ感謝してよね!」

  

  「わーすごーい。赤ずきんさん、まじリスペクトー。」

  

  「すこしは感情こめようよ!?」

  

  「てか、腹減った。食べ物はやくだせ。早くしないとお前を食べるぞ。うん、脅しじゃなくて本気で」

  

  「うっわ最低。こんな優しい赤ずきんちゃんを食べるとか、君それでもオオカミなの?」

  

  「いや狼だから食べるんだが……はいはい自称優しい赤ずきんちゃん(笑)早く食い物を出してくれよ。」

  

  「はぁ、これだからオオカミは……まあ僕もお腹すいたしご飯にしよっか。」

  

  それから狼と赤ずきんはピクニックの醍醐味の食事を終わらせると片付けを終わらせ帰ろうとしていた。帰る時にはすっかり辺りは暗くなっており赤ずきんがランタンを持っていても数メートル先は真っ暗だった。

  

  「暗いなぁ。あーあ、誰かさんが片付けを手伝ってくれたらもっと早く帰れたのになー。」

  

  「イイじゃねえか、ランタン持ってんだしよ。」

  

  「………」

  

  「お、おい!黙るなよ!」

  

  「シッ!静かに」

  

  「お、おう」

  

  耳を凝らすと獣の激しい吐息が聞こえる。今にも獲物に襲いかかろうとする吐息が。

  

  『貴様、助かりたければその小僧を置いていけ。さもなくば貴様も肉塊にしてやろう。』

  

  狼は頭の中から語りかけてくる言葉に動揺していた。

  

  「誰だ!」

  

  狼は辺りを見回すが何も居ない。

  

  『ほぅ、私の姿が見えないか。ガッカリだ。同じ ”バケモノ” なのにな』

  

  「ふざけるな!俺はバケモノなんかじゃない!」

  

  「どうしたのオオカミさん!何が聞こえるの!?」

  

  カサカサと草々が揺れる音がする方を見るとそこには体中に痛々しい切り傷の跡があり片方の目は怪我で開かなくなっている狼獣人が居た

  

  「あ、れはオオカミさんと同じ!?」

  

  「誰だテメェ!」

  

  「逃げるがいい、そこな狼よ。ただしそこのニンゲン、お前らが作った罪を償うがいい。」

  

  ジリジリと近ずいてくる狼獣人に赤ずきんは恐怖した。

  

  「ぼ、僕は何にもしてないよ!?」

  

  「お前が何もしてなくても私はニンゲンを皆殺しにすると決めたのだ。」

  

  「どういう事だテメェ。話を聞かせろ」

  

  「ふん、若造が分かる話ではない。ましてや他人が入ってくる話ではない。」

  

  その瞬間赤ずきんの喉元に狼獣人の爪が当たる

  

  「ヒッ!」

  

  「おい!」

  

  狼は止めようとしたが狼獣人の睨みで動けなくなった。その睨みはとても恐ろしかった。瞳の奥にあるのは光ではなく闇でもない。深い深い憎悪であった。誰にも止められない憎悪の炎がその狼獣人の瞳にはあった。いや、その瞳にはそれしか無かった。

  

  「貴様、私を止めるのか?なら貴様も血祭りにしてやろうぞ。」

  

  「一つ話を聞け、お前。他の人間はどうかは知らないがそこの人間は悪い事なんてひとつもしない。むしろ悪い事を止める人間だ。お前さんが過去に何をされたかは知らないがそいつを殺すとその過去にされた事を他の狼獣人がされると思え。それでもいいならそいつを殺せ。」

  

  「ふ、馬鹿なこと言う。ニンゲンなんて誰も一緒だろう?群れてないと生きていけない。獣を殺し、それを生き甲斐とする者もいる。そんな奴を生かして何になるというのだ。」

  

  「それを止める奴も居るっつってんだよ。」

  

  「居たなら私は最初からこんな事はしていない。もう何人殺したか。しかしこの憎悪は消える事は無い。消える時はニンゲンが1人もこの大地に立っていない時だ。」

  

  「お前こそ人の話が分からねえ奴だな。さっきから逃がしてやるって言ってんだよ。」

  

  「何?逃がしてやる?私にそんな事を言えるとはな。」

  

  そういうと狼獣人は狼に向かって大木よりも太い腕で狼の首を握り潰し始めた。

  

  「ぐ…はぁっ!」

  

  「オオカミさん!」

  

  「命乞いをするなら助けてやろう。無事ではすまさんがな。」

  

  「する…わけねえ…だろ。」

  

  「そうか。では死ね」

  

  狼の首を握る力はますます強くなる

  

  「もうやめて!オオカミさんの代わりに僕が死ぬから!その代わり僕を殺したら他の人を殺さないで。どんな殺し方をしてもいい、だけどその後他の人を傷つける事は許さない。貴方を呪いづつける。地獄に道連れにしてやる。」

  

  その時の赤ずきんの目は狼獣人の目と同じ程に強い憎悪に駆られていた。

  

  「ほう、面白い。私と同じ匂いがするな、そこのニンゲン。」

  

  狼の首を握る手は放され地面に崩れ落ちる狼を背に狼獣人は赤ずきんに近ずいて行く。

  

  「やめて、そんな憎しみだけで生きてる貴方と一緒にしないで。それこそ反吐が出る。」

  

  「言うな、ニンゲンよ。そんな強気なニンゲン久しぶりに見る。その体に止まない痛みを与えてやろう。さっきの言葉、後悔するがいい。」

  

  「僕は!僕は貴方と違って過去になんて引きづられない!後悔なんてしない!僕はそんな貴方を否定し続ける!」

  

  「おまえぇぇえぇ!過去に何があったか知らないくせにいぃ!愛する者を殺された気持ちを知らないくせにぃい!死ねぇ!その体、引きちぎって誰かもわからなくしてやるわぁ!」

  

  その瞬間狼獣人の毛色が蒼い炎に包まれる。

  

  「ぐわぁあぁぁあ!!」

  

  「何が起きてるの!?」

  

  骨格が変わりもはや狼獣人ではなくバケモノというのに相応しい身体になっていた。

  

  「キサマ!キサマキサマキサマキサマキサマァァァァァァ!」

  

  「おい、お前はさっき愛する者を殺されたそう言ったな」

  

  「アァイッタトモ!ナンダ!オマエハソレヲアザワウカ!オマエハオレノジャマヲスルカ!ナラ、オマエモコロシテヤル!」

  

  「ひとつ聞かせてくれ。お前には妻と小さい息子が居たか?」

  

  「ナゼソレヲ!?」

  

  「妻は首を切られ、お前は斧や弓矢で傷だらけだった。そして息子は殺された。そう思っていないか?」

  

  「オマエ!?イッタイナニモノダ!?」

  

  「辛かったな。俺、今思い出したよ。復讐なんてしなくて良かったのに。俺生きてるよ?死んでなんかいない、幸せだよ。

  

  父さん。」

  

  「モ、モシヤオマエハ!?」

  

  「あぁ、息子だよ。ありがとな父さん。辛かったな父さん。でも、もう良いんだ。母さんもきっと望んでないだろ?」

  

  「シ、シカシ!ワタシハユルサナイ!アノニンゲンタチヲ!」

  

  「俺が生きてる。それで終わりで良いじゃないか父さん。確かにあの人間達がした事は許されない事だ。しかし関係ない人間を殺すのはまた別だ。それこそあの人間達と同じになってしまう。」

  

  「ダガ!カアサンハ!カアサンハニンゲンヲシンジテイタ!サイゴマデ!コロサレルマデニンゲンニテヲダシハシナカッタ!」

  

  「そうだよな。恨んでもいい筈だ。手を出して殺してもいい筈だ。だが何で母さんが手を出さなかったか分かるか?」

  

  「ワカラナイ!ワタシハワカラナイ!ナゼコロサナカッタノカ!」

  

  「そいつらにも家族が居たからだよ。それでも確かに母さんを殺した事は許されない事だ。でも、母さんはそれを最後まで思ってた。手を出したらその家族が悲しむって」

  

  「ナラワタシタチハナンナノダ!?コロサレテレバヨカッタノカ!?」

  

  「違うよ父さん。父さんと母さんが守ってくれたから俺は今ここに立っているじゃん。もうそれで終わろう?いっぱいいっぱい父さんは傷つけられた。でもその分まで人を傷つけた。それでもう良いじゃないか。」

  

  「…………」

  

  「ありがとう父さん。もう、良いんだ。もう終わった事だ。あんな過去も、父さんの復讐も。」

  

  「オマエハソレデイイノカ?ニンゲンガニククナイノカ?」

  

  「憎いさとっても。でも、でもそれを引きづっていくのはいけない事だ。殺して、殺されて、そんな事繰り返しちゃいけない事なんだよ。」

  

  「ナラ、モウイイノカ?」

  

  「うん。もう良いんだよ。恨みに縛られるのも、過去に縛られるのも。[[rb:現在 > いま]]を生きていかないと。」

  

  「ソウ、ダナ。デモワタシハイキテチャイケナインダ。オマエガモリニニゲタアトワタシハコロサレタ。」

  

  「そん…な!?父さんまで!?」

  

  「スマン、ワタシノチカラブソクダッタ。」

  

  「そんな!いやだ!父さん!」

  

  「オマエガイッテクレタデハナイカ。モウオワッタコトダト。」

  

  「さよ、ならなんだね」

  

  「アァ。サイゴニオマエヲダカセテクレ。」

  

  そういって狼獣人は狼に抱きつく。しかし、狼獣人の身体は徐々に光りの塵になっていた。そして抱きつく前に狼獣人の身体は全て光りの塵となって消えてしまった。

  

  「あり…がと…う。父さん。」

  

  「オオカミさん」

  

  「チクショオォォォォォ!」

  

  狼は地面に拳を叩きつける。

  

  ……現実は残酷だ。とても。

  

  森には狼の叫び声がただただ寂しげに木霊していた。

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