第9話「赤白頑張れ!大運動会」

  [chapter:待ちに待った運動会]

  10月初頭の土曜日。ケモノ界のさいたま市大上区には、澄み渡るような青空が広がっている。

  太ったシマリスの栗田 永雄くん(小学4年生)は、花火の音で目覚めた。

  今日はケモノ小学校埼玉校の運動会。この花火は開催の合図だ。

  洗顔などを済ませた栗田くんは、体操服に着替えた。

  彼は太っているため、お腹は相変わらずシャツから丸出し。一方、ズボンは伸縮性があるためしっかり履けている。

  台所では母親が弁当を作っていた。大きな重箱3個分だ。

  「お母さん、おはよう。

  わあ、おいしそうだな…よだれが出ちゃう!」

  「永雄、おはよう。今日は頑張ってね!そしてお昼をお楽しみに!」

  「もちろん!」

  父親は朝食を済ませ、ニュース番組を見ている。

  「しっかり食べて元気をつけるんだぞ。」

  今日のメニューはココナッツオイルバターを塗ったトースト、ケモッグ社のシリアル、豆乳だ。

  「よーし、食べるぞ!いただきます!」

  栗田くんはトーストをかじりながら、横目でニュースを見た。

  「次のニュースです。射的の屋台で不正な商品を取り扱った虎の男性が逮捕されました。

  53歳の[[rb: 播磨 波瑠> はりま なみる]]容疑者は、今年の川獺祭りや大上夏祭りに射的の屋台を出していました。そこでゲーム機や薄型テレビの箱に発泡スチロールの塊を入れ、景品として並べており…」

  画面に映った筋肉質の虎を見て、彼は驚いた。

  (あっ!夏祭りの時、この虎の屋台にみんなで行ったぞ!あの斑点堂スイッチ、中身は発泡スチロールだったのか…

  あの時稲荷山くんが「軽量化されてるみたい」って言ってたけど、そういう事か…)

  朝食後、ランドセルの代わりにリュックサックを背負って家を出た。

  しばらく歩いた所で、太ったキタキツネの稲荷山 紺助くん(栗田くんのクラスメイト兼親友)と、妹の稲荷山 万梨阿ちゃん(3年生)に出会った。

  「稲荷山くん、おはよう。今日は頑張ろうね!」

  「おはよう。もちろん!赤組の優勝を目指そう!」

  「学年は違うけど、私も頑張るよ!」

  3匹はケモノ小学校埼玉校へ向かった。

  道中で栗田くんはニュースの話題を出した。

  「…というニュースなんだよ。稲荷山くんの斑点堂スイッチはどこで手に入れたの?」

  「ああ、ついにばれちゃったか。あれはお祭りの次の日、お父さんが買ってきてくれたんだ。

  今まで黙っていた理由は、栗田くんを悲しませたくないからさ。確かに中身は外れだったけど、みんなで楽しんだ気持ちを大切にしておきたかったんだ。」

  [newpage]

  [chapter:運動会の始まりだ!]

  ケモノ小学校埼玉校に到着。校門には運動会の看板が立てられ、グラウンドには万国旗や入場門が設置されている。

  「楽しみだ!」

  「練習の成果を出そうね!」

  栗田くんと稲荷山くんは太っているため、運動は苦手。しかし運動会は大好きだ。

  全校児童は300頭で、1学年は2クラス。つまり25頭で1クラスだ。

  1組が赤組、2組が白組となっている。栗田くんと稲荷山くんは赤組だ。

  教室にはクラスメイトの半数近くが来ていた。

  「栗田くんに稲荷山くん、おはよう!」

  「おはよう。今日は頑張ろうね!」

  しばらく話すうち、ハツカネズミの森口 美樹先生がジャージ姿で入ってきた。その頃にはクラスメイトが全員揃っていた。

  「みんな、おはよう。今日は頑張りましょうね!」

  出席確認が済むと全員鉢巻きを締め、椅子を持って校庭に出た。

  全校児童が椅子を置いたため、まるでスタジアムだ。片隅では保護者たちも場所取りを始めていた。

  「わあ、ぼくのお父さんも来てる!運動会に来てくれたのは初めてだよ!」

  「稲荷山くん、良かったね!」

  彼の父親は単身赴任中のため、年に数回しか帰らない。その姿が確認できたため、彼は喜びを感じていた。

  いよいよ運動会の始まりだ。

  まずは入場行進。勇ましい音楽の中、全校児童が歩く。

  しかし、ケモノ界では肥満率が高い。本校でも児童の約半数が太っているため、歩くたびに体操服から覗くお腹が揺れる。足並みも揃っているとは言い難い。

  キタキツネの近藤 四楠くん(6年生)は、学校一の肥満児。大きすぎるお腹で足元がよく見えないため、よろけながらもなんとか行進している。

  行進が終わると、肥満児たちは息切れしていた。

  (もう動きたくないよ…)

  近藤くんは疲れ果てていた。彼にとっては1日分の運動と同等だ。

  開会式では、狼の校長が挨拶をした。

  「本日は大変良い天候になりました。空には雲1つありません。これは皆さんが一生懸命練習をした証です。

  さあ、赤組も白組もお互いに頑張りましょう!」

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  [chapter:100メートルを走れ!]

  ここから競技が始まる。始めは学年別の100メートル走だ。

  1~3年生が走り終わり、4年生の番が来た。

  栗田くんは白猫の金子 真里ちゃん、狼の山田 犬代ちゃん、カワウソの河合 旺太くん、アライグマの新井 美井子ちゃんと一緒に走る。

  河合くんと美井子ちゃんは太っているが、真里ちゃんと犬代ちゃんはスマートで運動も得意だ。

  体型のばらつきが大きいグループだが、これはくじ引きによって公平に決められている。

  (よし、ぼくは3位か4位になろう。)

  栗田くんは誓った。

  柴犬の小山 裕先生(4年2組の担任)が、スターターピストルを構える。

  「位置について、用意…」

  5匹に緊張が走る。

  「ドン!」

  ピストルの音と同時に、5匹は走り出した。

  犬代ちゃんは猛スピードで走り、たちまち1位でゴール。2位は真里ちゃん。その時点で残り3匹は50メートル辺りを走っている。

  栗田くんは全力で走ったが、美井子ちゃんが一足早くゴールした。

  栗田くんも続いてゴール。ビリは河合くんだった。

  (ふう、思った順位になれて良かった。)

  4位の旗に並ぶ栗田くんは、安心して一息ついた。

  次は稲荷山くんの番になった。ドブネズミの遠藤 隆志くん、イタチの鼬川 卯井是瑠ちゃん、シャム猫の西園寺 亜夢くん、うさぎの場丹井 姫子ちゃんと一緒に走る。

  卯井是瑠ちゃんは稲荷山くんの倍近く太っており、4年生で一番体重が重い。

  「1位になるのは絶対にあたいだからね!」

  彼女はろくに練習もしなかったが、得意気だ。

  「位置について、用意…ドン!」

  姫子ちゃんが圧倒的な差をつけて1位になり、西園寺くんと遠藤くんも続いてゴール。稲荷山くんは4位だった。

  (よーし、ビリじゃなかった!)

  後ろを見ると、卯井是瑠ちゃんが息を弾ませながら走ってきた。そのスピードは徒歩とさほど変わらない。

  「やっと…ゴールしたわ…」

  「はい、鼬川さんは5位です。」

  ゴール係の猫田 勝江先生(白猫。本業は保険医)によって5位の旗に案内されると、彼女は怒りの声を上げた。

  「ちょっと!なんであたいが5位なのよ!あたいを1位にしなさい!」

  「いえ、順位は変えられません。」

  「あたいは頑張ったのよ!なのになんで1位じゃないのよ!1位にしないと最後っ屁をかますわよ!」

  「ここでかまされたら困ります。現実を受け入れなさい。」

  「はいはい、わかったわよ!

  それから出べその隙間に詰まった砂を取ってちょうだい!あたいには手が届かないのよ!」

  稲荷山くんたちは呆れた。

  「本当にわがままが過ぎるね…」

  「よくあの性格でここまで来れたわね…」

  5・6年生が走り終わると、1・2年生による玉入れが始まった。それ以外の学年は休憩時間となる。

  「頑張れ、赤組!」

  「白組、ファイトだ!」

  3年生以上の児童たちも、応援に白熱している。

  保護者席も盛り上がっている。

  栗田家からは両親の他、隣の市に住む母方の祖父母も来た。祖父はかなりの肥満体で、祖母はぽっちゃり体型だ。

  「永雄はよく頑張ったわね!」

  「ああ。速いとは言えないが、真剣さはとても伝わったのう。」

  ビデオカメラを構えていた父親は、映像を確認している。

  「よし、ちゃんと撮れてるな。」

  「良かったわ。帰ったらみんなで鑑賞会ね。」

  稲荷山家の両親は、自分たちの子供が出ない間に近況を話し合っている。

  「紺助は最近どうなんだ?」

  「そうね、この前は算数のテストで80点取ったのよ。」

  「そうか。良かったな。」

  「でも紺助が4年生をやるのは3回目なんだから、もうちょっと高い点を取って欲しいのよ。」

  普段もスマートフォンで連絡を取っているが、やはり生で話す方がよく伝わる。

  4年2組の雪見カトリーヌ理沙ちゃん(ホッキョクギツネ。日本とフランスのハーフ)は大金持ち。そのため保護者が大勢来ている。

  両親、母方の祖父母(父方の祖父はパリ在住のため来られない)を始め、執事のグリムズ・スカンダー(イギリス出身のスカンク)とシェフのラトン・ラブーシュ(フランス出身のアライグマ)、うさぎやレッサーパンダなどのメイド6匹。合計12匹だ。

  普段は正装だが、今日は全員がラフな服を着ている。

  「理沙様、頑張っていますね。」

  「運動神経の良さが発揮できる場でしょうね。」

  [newpage]

  [chapter:いろいろな競技]

  次は3・4年生による綱引き。クラスごとに分かれて綱を引き合う。

  栗田くんと稲荷山くんも一生懸命に引いた。

  どちらのクラスも全力を尽くしたが、結果は2回とも白組の勝ち。4年2組の多比 獏之助くん(バク)が力を出したためだ。

  彼も結構な肥満児だが、見た目に反して運動が得意。相撲教室にも通っている。

  席に戻る栗田くんと稲荷山くん。

  「稲荷山くん、赤組は勝てるかな?」

  「どうだろうね。でもまだ競技はたくさんあるからチャンスはあるよ。」

  次は5・6年生の集団行動。肥満児の多いケモノ界では、組体操よりもこちらが主流となっている。

  その次は、3・4年生のダンス。

  ダンス部所属の理沙ちゃんや遠藤くんは、華麗に踊っている。

  栗田くんや稲荷山くんは少しぎこちないが、ある程度は踊れている。

  この競技に得点は入らないが、終了後には達成感が生まれた。

  「稲荷山くん、いい運動になったね!」

  「そうだね、程よく疲れたよ。」

  次は5・6年生による台風の目。

  「わあ、すごーい!」

  「何度見てもかっこいい!」

  興奮を覚えながら観戦する低学年。

  もっとも肥満児には大変な競技で、近藤くんはまともに参加できなかった。

  結果は赤組と白組が1回ずつ勝った。

  その後、放送が入った。

  「以上を持ちまして、午前の部は終了です。ここで中間発表です。」

  校舎3階のベランダに、得点板が用意された。

  赤組 620点 白組 580点

  赤組からは歓声が上がった。

  「わーい!」

  「今の所は勝ってるぞ!」

  「この調子で午後も頑張ろう!」

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  [chapter:おいしい弁当]

  次は60分の昼食休憩。

  栗田くんが家族の元へ走ると、重箱が4つ用意されていた。そのうち1つは祖父母が用意した物だ。

  「永雄、よく頑張ったわね!お腹空いたでしょ?」

  「もちろん!お母さん、もうお腹ペコペコだよ!」

  「お弁当たくさんあるわよ。」

  重箱の中には、料理がぎっしり詰まっている。

  おにぎり、のり巻き、サンドイッチ、卵焼き、唐揚げ、稲荷寿司、煮物…

  「わあ、すごい!」

  「永雄の喜ぶ顔が見たかったのよ。」

  「さあ、早速食べよう。」

  「いただきまーす!」

  栗田くんは夢中で、料理を次々と口に運んだ。

  「どれもこれも本当においしいね!」

  両親と祖父母も微笑ましく見つめている。

  「永雄は本当によく食べるのう。やはりわしの孫は元気じゃ!」

  「そうなのよ。この年頃が食べ盛りのようね。」

  「考えてみれば、お前もあれぐらいの時はよく食べてたのう。」

  「私の血を引いたのかしらね。」

  他の児童も、家族と昼食を楽しんでいる。

  稲荷山一家の弁当は稲荷寿司ばかり。2ヶ月ぶりに会う父親との会話も弾んでいるようだ。

  理沙ちゃんはフランス料理のフルコース。喧噪の中でも優雅に食べている。

  会話を楽しみながら食べるヤマアラシの五十嵐一家。

  重箱5つ分の弁当をガツガツと頬張る近藤くん。

  その横では三毛猫の鈴木 真央ちゃん(5年生。全校の女子で一番の肥満)が、高カロリーな食品ばかりの弁当を頬張っている。

  (見てるだけで胸焼けしそうだ。あれじゃ痩せられないのも当然だね…)

  それを横目で見る、チーターの千田 俊くん(4年2組)。標準体型の彼は健康的な弁当だった。

  休憩が終わりに近づく頃、栗田一家の重箱は空になった。その半分ほどは栗田くんが食べた。

  「あー、食べた食べた!」

  「永雄、満足した?」

  「もちろん。たっぷり食べて元気をつけたから、午後も頑張るぞ!」

  栗田くんは景気づけに、膨らんだお腹をポンと叩いた。

  [newpage]

  [chapter:盛り上がれ!借り物競争]

  午後の部が始まった。まずは全学年による応援合戦だ。

  「勝利だ、赤組!」

  「白組ファイト!」

  2つの組が声を張り上げる。

  「白組、勝利だ…ゲエ~ップ!」

  近藤くんは昼食を食べ過ぎてしまったため、声を張り上げた弾みで豪快なげっぷを出してしまった。

  次は1・2年生によるダンス。低学年は体重の軽い子が多いため、割と普通に踊れている。

  観戦中の真央ちゃんは、スマートな三毛猫の女の子が踊る様子を見て思った。

  (私も昔はあんな感じだったのよね。あの頃の体に戻りたいわ…)

  次は4年生による借り物競争。毎年盛り上がる競技だ。

  1クラス全員で25枚のカードが用意されたテーブルに走り、1枚取る。そこに書かれた物を観客から借りてゴールする。

  2回行われるが、ここでは4年1組のみ紹介する。

  25頭の児童は、カードを手に取った。

  (ぼくは…水筒か。これなら簡単だ!)

  栗田くんは胸をなで下ろした。

  (えーっと…この学校の卒業生?見つけるまで時間がかかるかも…)

  稲荷山くんは少し心配そうだ。

  (私は…メイドさんか。理沙ちゃんの所にいるわね。)

  真里ちゃんは得意げに走っていった。

  その他全員、指定された物を探しに向かった。

  (確かあっちにいたはず…)

  真里ちゃんは雪見家のレジャーシートを見つけると、呼びかけた。

  「すみません、メイドさんを1匹お願いします!借り物なんです!」

  アライグマのメイドが来た。

  「私が行くわ。」

  「ありがとうございます。でも私服だから、メイドさんだってわかるかしら…

  まあ、説明すればいいわね。」

  (よし、ここだ!)

  栗田くんは家族のレジャーシートに戻り、父親から水筒を借りた。

  (さあ、急いで戻るぞ!)

  「すみません、お客様の中に卒業生はいらっしゃいますか~?」

  稲荷山くんが観客席に声を上げながら走っていると、誰かが呼んだ。

  「俺がいるぞ!」

  声の主は肥満体の大柄なコアラだった。大型のTシャツを着ているが、それでもお腹が少し覗いている。

  「俺は新湖 豪。大上高校の相撲部部長だ。妹の優香は知ってるな?」

  「ああ、4年2組の子ですね。知ってます。」

  「そうか。俺は小学校時代からここの相撲部でも活躍したんだぜ。保良先生もその頃にはもういたんだ。」

  「へえ、長いですね…」

  「あ、ため口でいいぜ。相撲部員はみんな仲間だ。」

  「ありがとう!」

  夢中で話し込む稲荷山くん。借り物競争の事は忘れてしまったようだ。

  その頃、ゴールでは…

  (こんな上位の結果は初めてだ!嬉しいな!)

  水筒を借りた栗田くんは2位だった。ちなみに1位は、双眼鏡を借りた姫子ちゃんだった。

  次々とゴールする児童たち。

  ストローを借りた遠藤くん、はがきを借りた河合くん、フォークを借りた美井子ちゃん、太った狐(近藤くん)を借りた犬代ちゃん…

  ほとんどがゴールしたが、稲荷山くんがなかなか来ない。

  割り箸を借りた卯井是瑠ちゃんはビリでなかったため喜んでいるが、栗田くんは心配している。

  (どこへ行ったんだろう…)

  その時、稲荷山くんと新湖くんが走ってきた。

  「ごめんごめん、すっかり話し込んじゃった!あーあ、結構早く見つけたのにビリか…」

  「でも相撲部の後輩とこんなに話せたのは初めてだ。またいつか話そうな。」

  「うん!」

  [newpage]

  [chapter:みんな頑張れ!バトンリレー]

  次は4・5・6年生によるバトンリレー。これは2クラスが同時に走る。

  こちらも4年生のみ取り上げる。

  肥満率の高いケモノ界では、体重の重い順に走るルールが主流だ。

  一番に走る子は、1組の卯井是瑠ちゃんと2組の穴田 熊助くん(ニホンアナグマ)。

  2匹ともボールのような太鼓腹に饅頭のような出べそ、脂肪に覆われた体の持ち主だ。速く走るイメージは感じられない。

  「位置について、用意…ドン!」

  2匹は走り出したが、ほとんど徒歩と変わらない。

  息を弾ませ、全身の脂肪や出べそを揺らしている。コース半周だけで5分もかかった。

  2組の穴田くんが、一歩早くバトンを渡した。

  リレーは順調に続き、半周の速度も次第に上がっていく。

  稲荷山くんが走る頃には、1組がリードをしていた。

  彼は全力で走り──とは言え早歩き程度の速さだが──栗田くんにバトンを渡した。

  (よし、行くぞ!)

  栗田くんの速さもさほど変わらなが、力強く走り無事にバトンをつないだ。

  リレーも終盤に近付いた。アンカーは1組の真里ちゃんと2組の千田くんだ。

  真里ちゃんも全力で走っているが、千田くんの方が圧倒的に速い。走り終わったクラスメイトが声援を送る。

  「頑張れ、頑張れ、千田!」

  「さすがチーターだ!行け!」

  「みんな、応援ありがとう!」

  彼は手を振り返した。ゴールは目の前だ。

  ところがそこまで来た時、転んでしまった。

  「うわっ!そんな…」

  急いで起き上がったが、真里ちゃんに追い抜かれてしまった。

  「やったぞ、真里ちゃん!」

  「すごいわ!まさか勝つなんて!」

  「これで赤組の勝つ確率が上がったぞ!」

  4年1組は大盛り上がり。遅れてゴールした千田くんは泣き出してしまった。

  「ああ、ぼくのせいで白組が…」

  理沙ちゃんが彼をなぐさめる。

  「そんな事ないですわ、千田くん。あなたは十分頑張りましたわ。

  あなたの走る姿は、まさにチーターでしたわ。」

  「ありがとう、理沙ちゃん…」

  [newpage]

  [chapter:最終決戦!大玉転がし]

  いよいよ最終競技。全校児童が参加する大玉転がしだ。

  赤組と白組の150頭ずつに分かれ、大玉を転がす。3年生からは大玉を持ち上げ、最後は6年生2名が転がしてゴールまで運ぶ。

  栗田くんと稲荷山くんは真剣だ。

  「絶対勝とうね!」

  「赤組の勝利はこれで決まるんだ!」

  「それでは位置について、用意…ドン!」

  ピストルが鳴り、森口先生と小山先生が大玉を1年生のエリアまで転がした。

  「わあ、来た!」

  「みんなのお腹みたい!」

  1年生たちは興奮して叫ぶ。

  「はい、みんなどんどん進めて!」

  先生たちの合図で、大玉は進んだ。

  1・2年生を過ぎ、3年生のエリアへ。

  「それっ!」

  大玉が持ち上げられ、3年生たちが順調に運んでいく。

  赤組も白組も同じぐらいの進み具合だ。どちらも熱く燃えている。

  次は4年生。赤組の栗田くんや稲荷山くん、白組の理沙ちゃんも全力で大玉を送った。

  (成功して良かった…)

  栗田くんは胸をなで下ろした。

  

  5年生を過ぎ、6年生のエリアへ。ここまでの進み具合は互角だ。

  ところが、赤組の大玉がキリンの永井 林貴くん(6年1組、ぽっちゃり体型)の首に当たり、外に転がり落ちてしまった。

  「早く、拾って!」

  セントバーナードの乾 奈々ちゃんが声をかける。

  「じゃあぼくが!」

  かなり太ったビーバーの林 海里くんが大玉を取りに行った。

  「それっ…あれ?」

  お腹が突き出ているため、大玉に手を伸ばそうとしてもお腹で転がしてしまう。

  「もう私が行くわ。」

  奈々ちゃんも大柄だが、太ってはいない。割と速く走って大玉をコースに戻した。

  しかし、白組はゴール済みだった。赤組──特に6年生の一部は永井くんを白い目で見た。

  「そ、そんな…ぼくのせいで…ぼくが欠席するか、そもそも生まれていなかったら赤組が勝てたのに!」

  彼はショックのあまり泣き出してしまったが、奈々ちゃんに慰められた。

  「そんなに悲観する事ないわ。失敗は誰にでもあるわよ。」

  「そ、そうだよね奈々ちゃん…」

  [newpage]

  [chapter:運動会が終わる時]

  閉会式が始まった。

  校長先生の話や整理運動などがあり、いよいよ結果発表になった。得点が1の位から表示される。

  「どうか勝てますように…」

  「優勝できるかしら…」

  赤組も白組も手を合わせて祈っている。100の位が表示された。

  赤組 845点 白組 332点

  「よし、赤組の方が上だ!」

  「でも白組の点がさっきより減ってない?」

  栗田くんと稲荷山くんが話し合っていると、1000の位が表示された。

  赤組 1845点 白組 2332点

  その瞬間、白組から歓声が上がった。

  「やった!やったぞ!」

  「努力した甲斐があったよ!」

  「白組ばんざーい!」

  2組の児童は飛び上がって喜び、ハグを交わす子も見えた。

  それに対して、赤組は一気に落ち込んだ。

  「ああ、そんな…」

  「あんなに頑張ったのに…」

  栗田くんと稲荷山くんは肩を落とした。低学年には泣いている子も見える。

  また、卯井是瑠ちゃんはものすごく怒っていた。

  「何よ、あの得点は!赤と白が逆なんじゃないの?もう、あんな得点を表示した奴には最後っ屁ね!」

  椅子などの片づけを終わらせ、下校時刻が来た。

  栗田くん、稲荷山くん、万梨阿ちゃんは一緒に帰った。体や体操服は砂まみれだ。

  「ああ、もうくたくただよ…でもこの疲れは心地いいね。」

  「相撲部の疲れとはまた違うね。」

  「お兄ちゃん、負けちゃったけど楽しかったね!」

  「そうだな、万梨阿。また来年頑張ろう。」

  行きと同様に会話を楽しみながら、それぞれの家に帰った。

  [newpage]

  [chapter:頑張ったご褒美]

  「ただいま。」

  栗田くんが帰宅すると、母親が出迎えてくれた。

  「永雄、お帰りなさい。よく頑張ったわね。

  さあ、シャワー浴びたら一緒にお茶しましょう。」

  「はーい、わかりました!」

  20分後。

  (あー、さっぱりした…)

  シャワーを終えてダイニングテーブルに行くと、両親と祖父母は紅茶を飲んでいた。

  「永雄が来たから始めよう!」

  父親がビデオカメラをテレビに接続して、栗田くんが参加した競技の鑑賞会が始まった。

  「負けちゃったけど本当によく頑張ったわね。これはご褒美よ。」

  母親は冷蔵庫から出したホールのチョコレートケーキを、6個に切った。

  「永雄は特別に2切れ食べていいわよ。」

  「わあ、嬉しいな!ありがとう!」

  栗田くんは満面の笑みでケーキを頬張り、誓った。

  (よし、来年こそは絶対勝つぞ!)

  [chapter:おしまい]