第8話「理沙ちゃんの庶民体験」

  [chapter:プロローグ]

  ここはケモノ界。8月5日の夜、ヨーロッパ方面から日本の上空に旅客機が入ってきた。

  ファーストクラスの座席では、ホッキョクギツネの女の子がくつろいでいる。

  彼女は雪見カトリーヌ理沙ちゃん。ケモノ小学校埼玉校の4年2組に所属する。

  現在はヨーロッパ旅行の帰りだ。

  理沙ちゃんの父親(フランスの貴族)は、座席で眠っている。

  執事のグリムズ・スカンダー(イギリス生まれのスカンク)はシェフのラトン・ラブーシュ(フランス生まれの太ったアライグマ)と話している。

  [[rb:"Laveuch, your family are looked fine." > ラブーシュ、あなたの家族は元気そうでしたね。]]

  [[rb:"Skunder, your family too." > あなたも同じですよ、スカンダー。]]

  夏のヨーロッパ旅行は、雪見家にとって毎年恒例のイベント。観光地の他に理沙ちゃんの父親、スカンダー、ラブーシュの実家も必ず訪れる。

  その間、メイドたちには休暇を出している。

  理沙ちゃんは紅茶を飲み終わると、隣に座る母親(社長令嬢)に話しかけた。

  「ねえ、お母様。」

  「なあに、理沙?」

  「私、もうすぐ庶民の生活が体験できるのが楽しみですの。」

  「お泊まりの事ね。いい勉強になるといいわね。」

  1学期の最終日、彼女は4年1組の稲荷山 紺助くん(太ったキタキツネ)とある約束をしていた。

  [newpage]

  翌日の午前中、稲荷山家にて。

  稲荷山くんと妹の万梨阿ちゃん(標準体型の3年生)が宿題に励んでいると、母親が呼んだ。

  「紺助、理沙ちゃんから電話よ!」

  「理沙ちゃんから?お泊まりの事だね。」

  稲荷山くんは受話器を取った。

  「お電話替わりました!理沙ちゃん、なあに?」

  「確認のため、お泊まりの日程をもう一度伝えますわね。8月9日の午後から2泊3日ですわよ。」

  「ありがとう。ちゃんとカレンダーに書いてるから覚えてるよ。」

  それから3分ほど世間話をして、通話を終えた。

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  [chapter:理沙ちゃんが来た!]

  8月9日の昼食後、母親は仕事のためスーパーマーケットへ。

  「行ってきます。」

  「行ってらっしゃい!帰ってきたら理沙ちゃんが来てるから、夕食は理沙ちゃんの分もお願いね!」

  「もちろんよ。」

  母親は家を出た。

  「さあ、あと1時間ぐらいで来るぞ!」

  「お兄ちゃん、まずは何しようか?」

  「去年の理沙ちゃんみたいに、家の中を案内しよう!」

  「そうだね。」

  その頃、理沙ちゃんはリュックサックに荷物を詰めていた。

  (着替えにパジャマ、宿題、歯ブラシ…お金は5万円ぐらい必要かしら?)

  「理沙、旅行で買ったキャビアの缶詰もお土産にどう?」

  「いいですわね、お母様。」

  1時間後、稲荷山家のインターフォンが鳴った。

  「理沙ちゃんが来たぞ!」

  稲荷山くんは横目でモニターを確認し、元気よくドアを開けた。

  「理沙ちゃん、待ってたよー!」

  「あの、お届け物ですが…」

  そこには黒猫の配達員が立っていた。

  「すみません、友達と間違えました…」

  稲荷山くんは恥ずかしそうに判子を押し、荷物を受け取った。

  「お兄ちゃん、浮かれすぎだよ!」

  「いや、ちょっとはモニターを見たよ。灰色が見えたから夏毛の理沙ちゃんだと思ったんだ。」

  「ちゃんと見ないとだめだよ!今のが強盗だったらどうするの?」

  「ごめんごめん、万梨阿。今度は確かめるよ。」

  程なくして、またインターフォンが鳴った。

  (よし、今度はちゃんと…)

  モニターを確認すると、理沙ちゃんが立っていた。

  「理沙ちゃん、ようこそ!」

  稲荷山くんは大喜びでドアを開けた。

  「こんにちは、稲荷山くん。お邪魔します。」

  理沙ちゃんは玄関に上がった。

  「こぢんまりとした玄関、素敵ですわ。

  さて、まずは手を洗わないと。洗面所はどちらですの?」

  「こっちだよ。」

  「まあ、何もかも小さくて可愛いですわ。ここの石鹸もいい香りですわね…」

  「理沙ちゃん、意外と楽しんでるね。」

  「良かったね、お兄ちゃん!」

  手を洗い終わると、2匹は家を案内した。

  「さあ、ここがリビングだよ。」

  「ここがぼくたちの部屋。」

  「結構狭いと思うけど、気にしないでね。」

  「気にしませんわよ。」

  「理沙ちゃん、ありがとう。」

  [newpage]

  [chapter:お茶の時間と宿題]

  それから、3匹はダイニングの椅子に座った。

  「じゃあ、お茶にしようか?」

  「まあ、お茶?嬉しいですわ。」

  「準備するから待っててね。」

  稲荷山くんは冷蔵庫から麦茶を出して3個のコップに注ぎ、氷を入れた。

  「うん、なかなか涼しげだ!」

  万梨阿ちゃんは棚からせんべいとクッキー、冷蔵庫からチョコレートを取り出した。

  「これで喜んでくれるかな?」

  それらをテーブルに運ぶと、理沙ちゃんを呼んだ。

  「理沙ちゃん、準備できたよ!」

  「まあ、ありがとう!」

  お茶の時間が始まった。

  「それでは、乾杯!」

  3匹はコップを重ね、麦茶を口に運ぶ。

  「ああ、生き返った気分だ!」

  「体の中まで涼しくなるね!」

  「稲荷山くん、おいしいですわ…」

  「ありがとう。クッキーもどうぞ!」

  「いつものとは味が違うけど、こっちも良いですわね。」

  後片付けが終わると、理沙ちゃんを2階の子供部屋に誘った。

  「理沙ちゃん、一緒に宿題しようか?去年は宿題持ってったのに、結局やらなかったからね。」

  「そうですわね。わからない部分は私が教えますわ。」

  3匹は計算ドリルを開いた。

  「理沙ちゃん、この問題はどうやって解くの?4年生3周目だけど、まだわからないんだよね。」

  「私のノートを見て。こうやって解けばいいのよ。」

  「なるほど…よし、解けた!ありがとう!」

  「これはどうやるの?3年生の問題なんて簡単だよね?」

  「万梨阿ちゃん、これはね…」

  理沙ちゃんは教え方が上手で、2匹は問題がすらすら解けた。1時間後には3匹とも計算ドリルを終わらせた。

  「やった!宿題が1つ片付いたよ!」

  「私も終わった!」

  「良かったですわね。今日は十分やったから休憩しましょう。」

  次は遊びの時間。稲荷山家にはゲーム機がないため、ボードゲームや読書を楽しんだ。

  「この本初めて読んだけど、意外と面白いですわね。」

  「良かった。私この本大好きなの!」

  その時、鍵の開く音が聞こえた。3匹は玄関に走る。

  「ただいま。仕事終わったわ。そしてようこそ理沙ちゃん。」

  「お母さん、お帰り!」

  「稲荷山さん、しばらくお世話になりますわ。」

  「今日は理沙ちゃんがいるんだから、いつもより多めにもらってきたわ!」

  「ありがとう、お母さん。さあ理沙ちゃん、夕食だよ!」

  「楽しみですわ。」

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  [chapter:夕食の時間]

  テーブルの上には天ぷら、コロッケ、稲荷寿司を始めとする惣菜が並んでいる。

  「稲荷山くんの夕食はいつもこんな感じなの?」

  「そうだよ。お母さんはスーパーのお惣菜コーナーで働いているから、いつも売れ残ったお惣菜をもらってくるんだ。

  そして、これらがぼくの体重増加に一役買っているんだ。」

  稲荷山くんはシャツから覗く太鼓腹をポンと叩いてみせた。

  「稲荷山さん、お土産があるんですの。キャビアの缶詰ですわ。」

  「理沙ちゃん、ありがとう。こんな高級品もらっていいのかしら…」

  「もちろんですわ。」

  「まあ、嬉しいわ!さあ、万梨阿にはこれもあるわよ。」

  母親が取り出した物はパック入りの赤飯。それを見た理沙ちゃんは驚き、稲荷山くんに小声で聞いた。

  「ね、ねえ、万梨阿ちゃんって3年生ですわよね?」

  「そうだよ。それがどうしたの?」

  「あ、あの赤飯はいったい…」

  「ああ、万梨阿は赤飯が大好きなんだ。3歳の時、七五三で食べてからすごく気に入ってるんだよ。

  だからお母さんは赤飯が売れ残ってると、万梨阿のためにもらってくるんだ。でもそれがどうかしたの?」

  「そうでしたのね。安心しましたわ。やっぱり3年生では早すぎますわよね。」

  「ねえ、それどういう意味?」

  そこで母親が言った。

  「紺助はまだ知らなくていい事よ。もう少し大きくなったら教えてあげるわ。」

  「えー、気になるから今教えてよ!いつになったら大きくなるかわからないから!」

  「…その話は置いといて、夕食を始めるわ。」

  「まあ、そうするか。それじゃ…」

  「いただきまーす!」

  夕食が始まった。理沙ちゃんはスーパーマーケットの惣菜を楽しみながら味わっている。

  「スーパーのコロッケもおいしいですわね。給食のと似ていますわ。」

  「これが庶民のコロッケさ。理沙ちゃんはどんなコロッケを食べた事があるの?」

  「本場のコロッケは、円筒形でワニ肉しか入っていませんわ。」

  「理沙ちゃん、コロッケってフランスの料理なの?」

  「そうですわ。あちらではクロケットと呼びますの。」

  「へえ、知らなかった!本場のも食べたいな…」

  夕食が終わった。

  「ごちそうさま!理沙ちゃん、どうだった?」

  「いつもと違う食べ物でしたけど、すごく良い味でしたわ!ああ、やっぱり庶民の家もいい場所ですわね…」

  「狭い家だと思うけど、喜んでくれて良かったよ。」

  「雪見家の家訓は『決して庶民を見下さない』ですのよ。どんな暮らしをしていても、誰もが同じケモノですから。」

  「いい家訓だね。」

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  [chapter:理沙ちゃんと一緒の夜]

  歯磨きが終わり、また子供部屋で遊んでいると母親が呼んだ。

  「お風呂沸いたわよ!」

  「よし、じゃあ理沙ちゃんからどうぞ!」

  「窮屈だと思うけど、ゆっくりしてね。」

  「いいえ、お気になさらず。」

  理沙ちゃんはリュックサックからパジャマや下着を取り出し、風呂へ行った。

  20分ほどして、理沙ちゃんは風呂から上がった。ピンクのパジャマを着ている。

  「稲荷山くん、とても気持ち良かったですわよ。」

  「良かった。ここのお風呂は理沙ちゃんの所より地味だけど、どうだった?」

  「きれいな白で落ち着きましたわ。壁や天井に絵がないから、その分ゆっくりとリラックスできますの。」

  「ありがとう。」

  「さあ、次は稲荷山くんの番ですわよ。」

  「わかった。万梨阿も一緒に入ろう!」

  「うん!」

  2匹は風呂から上がった。

  「あー、いつもの事だけど気持ちよかった…」

  「お兄ちゃん、そろそろ寝よう。」

  「そうだね。お母さん、おやすみなさい。」

  「おやすみなさい。」

  子供部屋には、布団が3枚敷かれていた。

  「布団で寝るのも初めてかもしれませんわ。私の家はベッドですから。」

  「ぼくはベッドで寝るのに憧れているんだ。理沙ちゃんのベッド、本当に寝心地良かったよ!

  そうそう、明日はお祭りがあるんだ。一緒に行かない?」

  「もちろんですわ。」

  「良かった。じゃあおやすみ。」

  3匹は眠りについた。

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  [chapter:普段より豪華な朝食]

  翌朝。

  「みんなおはよう。今日の朝ご飯はいつもとちょっと違うのよ。」

  テーブルにはご飯、みそ汁、油揚げの他にキャビアも用意されていた。

  「さあ、たっぷり召し上がれ!」

  「わあ、昨日のキャビアだ!」

  「キャビアがあるだけでずいぶん変わるんだね。この油揚げが高級品に見えるよ…」

  「それでは、いただきます!」

  朝食が始まった。

  「ああ、庶民のご飯もほっかほかでおいしいですわ…」

  「理沙ちゃんは何にでも喜んでくれるから、お母さんも嬉しいわ!」

  稲荷山一家はキャビアを最後まで残し、数粒ずつ食べた。

  「こういう高級品は、できるだけ長く楽しまないとね!」

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  [chapter:夏祭りへ出発]

  今日は年に一度の大上夏祭り。

  「理沙ちゃん、お祭りにはお昼から夕方まで行こう!おいしい物がいっぱいあるんだよ。」

  「でも屋台って値段がちょっと高いから、1000円じゃあんまり楽しめないんだよね…」

  「万梨阿ちゃん、1000円って?」

  「毎年お母さんが祭り用にくれるお小遣い。」

  「あ、それでしたら私が1万円出しますわよ!」

  稲荷山くんと万梨阿ちゃんは喜んだ。

  「1万円もくれるの!? ありがとう!いつもの10倍なんて嬉しい!」

  「よーし、今年は食べまくるぞ!理沙ちゃんありがとう!」

  「良かったですわね。5万円ありますからあと2頭誘っていいですわよ。」

  「じゃあ、栗田くんを誘おう!」

  稲荷山くんは電話をかけた。

  数分後…

  「栗田くん行けるって!」

  「良かったですわね。あと1匹は誰にします?」

  「んー、特に思いつかないや。4匹で行くよ。」

  11時頃、インターフォンが鳴った。

  「稲荷山くん、行こうよ!」

  シマリスの栗田 永雄くん(稲荷山くんのクラスメイト。彼と同様の体型)が来た。

  「今日はたくさん食べようね、栗田くん!

  それじゃお母さん、行ってきます!」

  「夕方に帰りますわね。」

  「わかったわ。みんなで楽しんできてね!お金を落としたり、迷子にならないよう気をつけるのよ!」

  「もちろんだよ、お母さん!」

  4匹は大上駅の方に歩いていった。

  (みんな楽しそうね。子供の頃を思い出すわ。)

  母親が室内に戻ると、スマートフォンに着信が入った。誰かがメッセージを送ったようだ。

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  [chapter:夏祭り]

  「栗田くん、最初は何買う?」

  「チョコバナナにしようかな?」

  蝉の鳴き声が響き渡る中、住宅街を歩く4匹。しばらく行くと声をかけられた。

  「ねえ、お祭りに行く所なの?」

  声の主は、かなり太った三毛猫だった。5年生の鈴木 真央ちゃんだ。

  彼女の体重は180kgほどあり、ケモノ小学校埼玉校の女子では最重量。

  「真央ちゃんもお祭りに行くの?」

  「もちろんよ。たらふく食べたいけどお金1000円しかもらってないのよね…

  お母さんが言うのよ。『いい加減ダイエットしなさい』って。今日はたらふく食べて、明日からダイエットするつもりなのに…」

  「それなら1万円あげましょうか?」

  「え、本当にもらっていいの!?」

  「これくらいどうってことないですわよ。うちにはありあまるほどお金がありますから。」

  「ありがとう!理沙ちゃんは太っ腹ね!」

  それを聞いた栗田くんは、笑いながら言った。

  「そう言う真央ちゃんも、かなりの"太っ腹"だよね。」

  「ちょっと栗田くん、それどういう意味かしら?」

  真央ちゃんは彼を睨んだ。

  「アハハ、ちょっとしたジョークだよ…」

  「そんな事をジョークにしないでよね!気にしてるんだから!」

  「はい、ごめんなさい…」

  住宅街を抜けると、屋台が所々に見えてきた。

  「万梨阿、最初はチョコバナナにしよう!」

  稲荷山くんの提案で、5匹は200円のチョコバナナを買った。

  「ああ、チョコレートとバナナの絶妙なハーモニー…素敵な組み合わせですわね!」

  「お祭りぐらいでしか食べられないから、好きなんだ!」

  「今日はまだまだお金があるぞ!」

  5匹は次々と屋台を巡った。たこ焼き、いか焼き、お好み焼き、焼きそば…

  「ぼくのお母さん、よく焼きそば作るんだよ。」

  「まあ、そうなのですね。稲荷山くんには作れますか?」

  「いいや、ぼくはまだ…」

  食べながら歩くうち、大上駅の東口に着いた。

  通りは大賑わい。両脇には所狭しと屋台が並び、食べ放題レストランのフード・キャッスルも屋台を出している。

  「そろそろお腹がいっぱいになりましたわね。」

  「私ももうきついかも…」

  理沙ちゃんと万梨阿ちゃんは、お腹をなでた。

  「ぼくたちはまだまだ食べられるよ。もう少し食べない?」

  「今日はお腹の限界まで食べるぞ!」

  「そうよ。このお腹にはまだまだ入るわ!」

  食べる前から太鼓腹の3匹は、余裕の表情を見せている。

  「ねえ、1時間ほどどこかで時間をつぶしません?その間にお腹を減らしましょう。

  それに涼しい場所に行きたいですわ。夏毛になったとはいえ、今日は暑すぎますから…」

  「いいね!でもどこに行くの?」

  「ゲームセンターにしよう。今日はお金をたくさん持ってるから、ゲームがやり放題だ!」

  「よーし、楽しむぞ!」

  「私にもゲームを教えてくれません?少し興味がありますの。」

  5匹はゲームセンター「タイガーステーション」に入った。

  [newpage]

  [chapter:ゲームセンターで楽しもう]

  タイガーステーションは4階建て。全館冷房完備のため、多くの客で賑わっている。

  5匹は思い思いのゲームへ走った。

  「よーし、まだまだ抜いてやる!」

  レースゲームに熱中する稲荷山くん。

  「ハア、ハア…理沙ちゃん、初めてなのにうまいわね…」

  「これぐらい軽いですわ。」

  ダンスゲームをプレイする真央ちゃんと理沙ちゃん。ダンス部所属の理沙ちゃんは上手だが、肥満体の真央ちゃんはすぐに息が切れてしまう。

  「それ、撃墜だ!」

  栗田くんはシューティングゲーム。かなり白熱している。

  (今日はお金がいっぱいあるんだから、何度でもできるわね!)

  万梨阿ちゃんはクレーンゲームに挑戦。失敗してもくじけずに続け、7回目の挑戦でロッキーのぬいぐるみを入手した。

  ロッキーとは熊のキャラクター。長い歴史を持ち、ケモノ界ではかなりの知名度を誇る。

  「みんな、見て見て!

  やあ、ロッキーだよ!ハハッ!」

  「万梨阿、よく取ったな!すごいじゃないか!」

  「万梨阿ちゃん、お上手ですわね!ゲームもロッキーの真似も。」

  「でも、持ち運びが大変じゃない?」

  「景品を入れる袋があるから大丈夫!」

  「いっぱい動いたらお腹が空いてきましたわね。そろそろ行きましょうか。」

  5匹はゲームセンターを出た。

  「ああ、楽しかった。こんなにゲームをしたのは初めてだよ。」

  「稲荷山くん、良かったですわね。私も初めてですから楽しめましたわ。」

  「さあ、またたくさん食べよう!まだ5000円も残ってるよ!」

  「今度は甘い物がいいわ!」

  真央ちゃんのリクエストで、スイーツ系を中心に回る。

  トルコアイス、ベビーカステラ、かき氷と回った所で万梨阿ちゃんが言った。

  「見て、あの屋台!すごい行列だよ!」

  「えーと、『本場フランスのシェフが作るクレープ』か!行こう行こう!」

  「あそこまで並ぶなんて嬉しいですわ!」

  喜ぶ理沙ちゃんを先頭に、5匹は列に並んだ。

  15分ほど経って、理沙ちゃんの番が来た。

  [[rb:"Bonjour. Y a-t-il des crêpes recommandées?" > こんにちは。おすすめのクレープは何ですか?]]

  店員のアライグマは答えた。

  [[rb:"Les recommandations sont les crêpes à la banane et à la cannelle." > おすすめはバナナとシナモンのクレープです。]]

  その時、店員の表情が変わった。

  「…あ、理沙様じゃないですか!ようこそいらっしゃいました。

  お友達も揃っていますね。皆さん、楽しんでください!」

  これはラブーシュの屋台だった。

  「ラブーシュ、賑わってますわね。」

  「はい、予想以上ですよ!10月には川獺市の祭りにも出店しましょうかね。」

  「良かったですわね…ではバナナとシナモンのクレープをお願いしますわ。」

  [[rb:"Oui, mademoiselle Lisa." > はい、理沙様。]]

  5匹は日陰に入り、クレープを食べた。

  「いやあ、まさか理沙ちゃんの専属シェフがいるなんて思わなかったよ!」

  「今年が初の出店ですのよ。料理の腕を外でも生かしたいと言ってましたわ。」

  「へえ、専属シェフがいるのね。ダイエットメニューも作れるかしら?」

  「ええ、真央ちゃん。ラブーシュに作れない料理はありませんわ。」

  「すごいわね。うちにも来てほしいわ…」

  [newpage]

  [chapter:ゲーム機を狙え!]

  「さあ、次は何をしようか?」

  「お兄ちゃん、あれがいい!まだやった事ないもん!」

  万梨阿ちゃんのリクエストで、射的の屋台へ。店員は筋肉質な虎の中年男性だ。

  「さあさあ、豪華な景品が勢揃いだ!」

  様々な景品が並んでいる。下段はお菓子やチープなおもちゃだが、上に行くほどゲームソフトやラジコンなど大きな物になり、最上段には水筒、薄型テレビ、斑点堂スイッチ(最新のゲーム機)が置かれている。

  「万梨阿、斑点堂スイッチを狙おう。そうなればうちにもゲーム機が来るぞ!」

  「ドキドキするね、お兄ちゃん!」

  稲荷山くんは300円を払い、コルク銃を構えた。1回のゲームでは3発撃てる。

  ゲーム機を狙ったが、1、2発目は外れ。3発目はキャラメルに当てた。

  「ゲームはだめだったけど、1発は有効活用できたぞ!」

  次は栗田くん。彼は1発目をゲームソフトに当てた。

  「あれ、栗田くんはそれ持ってるよね?」

  「稲荷山くんにあげるんだ。もしゲーム機が当たっても、ソフトがないと遊べないからね。」

  「ありがとう!やっぱり君はぼくの親友だよ!」

  残り2発はゲーム機の箱に当てたが、少し揺れただけで倒れなかった。

  次は真央ちゃん。

  「絶対に当ててみせるわ。」

  太い指を引き金に当て、狙いを定める。その時、くしゃみが出そうになった。

  「ハ、ハ、ハ…ハックション!」

  はずみで照準が外れ、コルクは屋台の天井へ。仕切りの棒で跳ね返り、水筒に当たった。

  水筒が倒れて斑点堂スイッチに当たり、それも倒れた。

  「すごいぞ!真央ちゃん、ありがとう!」

  「まぐれだけどやったわ!稲荷山くん、良かったわね!」

  「よーし!万梨阿、これでうちでもゲームができるな!」

  「やっとこの日が来たね!」

  「私はあの水筒をもらうわ。あれでジョギングにジュースを持って行ける!」

  「あれじゃ痩せないよね…」

  万梨阿ちゃんは兄に小声で言った。

  夕日が差し込む中、5匹は帰途についていた。稲荷山くんはキャラメルを配っている。

  「今日は楽しかったですわね。」

  「斑点堂スイッチが手に入って嬉しいよ!理沙ちゃん、帰ったら一緒に遊ぼうね!」

  「もちろんですわよ。」

  「しかし最近のゲーム機って軽量化されてるんだね。軽いから持ち運びが楽だよ!」

  万梨阿ちゃんはロッキーのぬいぐるみに話しかけている。

  「ロッキー、今日は一緒に寝ようね。」

  今日の出来事を語り合いながら歩くうち、住宅街に入った。

  「稲荷山くん、さよなら!」

  「今日は楽しかったわ!」

  「みんな、バイバイ!」

  [newpage]

  [chapter:開けてびっくり!]

  「ただいま!」

  「お帰りなさい。お祭り楽しかった?」

  「もちろん!射的で斑点堂スイッチを取ったよ!」

  「私はクレーンゲームでロッキー取った!」

  「まあ、良かったわね!すごいじゃない!」

  「お母さんも後でゲームやる?」

  「もちろんよ!夕食の後に開けましょうね。」

  夕食のカレーライスを食べながら、3匹は今日の出来事を話した。

  「まあ、栗田くんは優しい子ね!」

  「やっぱりそう思うよね。」

  後片付けが済むと、稲荷山くんは早速斑点堂スイッチの箱を開けた。

  「さあ、遊ぶぞ!…ええっ!?」

  一番に開けた稲荷山くんは、驚きと失望が混ざった声を上げた。

  「どうしたの、お兄ちゃん…こ、これは!」

  「まさか、そんな!」

  覗き込んだ万梨阿ちゃんと理沙ちゃんも、ショックを受けた。

  箱の中身は、発泡スチロールの塊だった。本体や充電器はもちろん、説明書すら入っていない。

  「やけに軽いと思ったらインチキじゃないか!」

  「ああ、残念ですわ…」

  「そんな…ゲームできると思ったのに…」

  「まさか、こっちも…」

  恐る恐るゲームソフトのケースを開けたが、こちらは普通にソフトが入っていた。

  「ああ、良かった。でも本体がなければ遊べないよ…」

  3匹は落ち込んだ。

  「理沙ちゃん、ごめん…あんな屋台に誘って…」

  稲荷山くんは泣き出したが、理沙ちゃんに抱かれて慰められた。

  「大丈夫ですわよ。稲荷山くんは何も悪くありませんわ。それにみんなの心が1つになれたあの時間も良い物でしたわよ。」

  そのうち、彼の涙は止まった。そこへ母親が来た。

  「お母さんがお金を1000円しか渡さない理由がわかったでしょ?外れが少ない食べ物だけで済むようによ。」

  「そうだったんだ…お母さん、ありがとう。」

  それから3匹は風呂に入り、眠りについた。万梨阿ちゃんはロッキーのぬいぐるみを抱きながら眠った。

  [newpage]

  [chapter:最後まで遊ぼう]

  翌朝。残ったカレーライスを食べ終わると、理沙ちゃんが言った。

  「稲荷山くん、万梨阿ちゃん、最後に遊びましょう。」

  「いいね!それで何をする?」

  万梨阿ちゃんが提案した。

  「追いかけっこがいい!」

  「そうしましょう。」

  3匹は庭で追いかけっこを楽しんだ。

  太った稲荷山くんは追う側になれば逃げられ、追われる側になればすぐに捕まってしまう。それでも楽しく感じられた。

  2時間後、3匹は縁側で休んだ。

  「楽しかったですわね。」

  「ぼくもだよ、理沙ちゃん。」

  その後は昼食。メニューはインスタントラーメンだ。

  「短い時間で食べられるなんて素敵ですわね。」

  「ありがとう。あまり時間がないときの食事はいつもこれさ。」

  「そうなんですね。私はこれが気に入りましたわ。」

  食べ終わってしばらくすると、理沙ちゃんの帰る時間が来た。

  「皆さん、お世話になりました。」

  「こちらこそ、楽しい時間をありがとうございます。」

  「理沙ちゃん、またね。」

  「稲荷山くん、万梨阿ちゃん、2学期に学校で会いましょうね。それではごきげんよう。」

  理沙ちゃんはリュックサックを背負い、稲荷山家を出た。

  帰宅すると、スカンダーが出迎えてくれた。

  「ただいま帰りました。」

  「理沙様、おかえりなさい。庶民の生活はどうでしたか?」

  「とても楽しかったですわよ。たまにはあんな生活も悪くありませんわね。」

  [newpage]

  [chapter:エピローグ]

  その後、稲荷山家では…

  「お兄ちゃん、家族が増えたみたいで楽しかったね!」

  「そうだね。ぼくも友達が家族の一員になったみたいで良かったよ。でもまた3匹だけの日常に戻るんだね…」

  すると、母親が言った。

  「あら、また4匹になるわよ。」

  「今度は誰が来るの?」

  「わかるでしょ?紺助と万梨阿が一番好きな…」

  その時、ドアが開いた。

  「みんな、ただいま。今日から1週間過ごそうな。」

  「わっ、お父さんだ!」

  「お父さん、お帰りなさい!」

  それは単身赴任中の父親だった。埼玉には年に数回しか帰れないため、稲荷山くんと万梨阿ちゃんは父親に会う事を心より楽しみにしている。

  「昨日紺助たちがお祭りに出かけた直後、帰るって連絡があったのよ。」

  「紺助に万梨阿、久々だなあ。」

  「こっちも久々だよ!」

  「お父さん、1週間いっぱい遊ぼうね!」

  「もちろんだ、万梨阿。

  そうそう、お土産があるんだ。仲良く遊ぶんだぞ!」

  父親は大きな箱を出した。

  「あっ、これは!」

  「斑点堂スイッチだ!」

  2匹は歓声を上げた。

  「お祭りの射的でソフトを取ってきたんだ。後で遊ぼうね!」

  「おお、準備がいいな!」

  稲荷山家に笑顔が溢れたひと時だった。

  [newpage]

  「理沙ちゃんが泊まりに来たんだよ!まずはね…」

  稲荷山くんと万梨阿ちゃんは夕食時、3日間の出来事を父親に話した。

  「稲荷山家では庶民の家庭生活がよくわかりましたの。夕食はスーパーマーケットのお惣菜で…」

  理沙ちゃんも夕食時、3日間で学んだ事を両親や使用獣たちに説明した。

  どちらの家でも、楽しい夕食の時間が流れていた。

  [chapter:おしまい]