[chapter:プロローグ:相撲部に来た手紙]
ケモノ界のさいたま市大上区に建つ、ケモノ小学校埼玉校。校庭の隅に建つ相撲道場では、相撲部が週に3日稽古をする。
部員は以下の12頭。程度は様々だが、相撲部にふさわしく全員が太っている。
4年生:栗田 永雄(シマリス)、稲荷山 紺助(キタキツネ)、新井 楽(アライグマ)、猫山 苗太(黒猫)
5年生:宇佐山 楽美斗(うさぎ)、柴山 健治(柴犬)、五十嵐 棘郎(ヤマアラシ)、板山 太一(イタチ)
6年生:島田 大河(虎、部長)、林 海里(ビーバー)、大木 上(狼)、原田 本太(狸)
自主トレーニングを毎日する子もいれば、相撲部以外ではろくに運動をしない子もいる。しかし相撲部の活動を楽しみにしている事は変わらない。
2022年1月11日、火曜日。年内初の部活動だ。
「さあ、今年も稽古を始めるぞ!」
「はい、先生!」
顧問の保良 部亜先生(ホッキョクグマ・45歳)が号令をかけ、部員たちが答える。
「さて、まずは準備運動…と言いたい所だが、今日はお知らせがある。
今朝、私の家にある手紙が届いた。大事な話だから、みんなに伝えるぞ。」
保良先生は真面目な顔になり、持っていた手紙を広げた。
「え、何だろう?」
「まさか、廃部のお知らせじゃないよね…」
不安げに話し合う部員たち。手紙の朗読が始まった。
四半世紀以上に渡る我がライバル、保良 部亜。お前も現在は相撲部の顧問になり、児童たちと稽古に励んでいるようだな。
お前の相撲部に勝負を申し込む。日程は1月22日の10時~16時、会場は大上自然公園の総合体育館だ。
お互いの部員を戦わせ、どちらが強いか決める。部員を全員連れて集まるように。
久々の対面が楽しみだ。
獣崎小学校の那須野 善男より
「あの強豪校が!?」
「果たし状だな、これは…」
小声で話し合う部員たち。その中で板山くんは島田くんに聞いた。
「みんな知ってる場所なのか?」
「逆に相撲部員で知らない方が驚きだぞ。あそこの相撲部は、埼玉県の小学校じゃ一番の強豪なんだ!
いろんな大会で優勝した俺も、あそこの部長にだけは勝てなかった。それほど強いんだぜ!」
どうやら、板山くん以外は全員知っているようだ。
保良先生の話は続く。
「那須野 善男はセイウチで、私の5歳年上。彼も私と同じように力士だった。
私と彼はライバル同士。相撲を取った事は何度もあるが、彼に勝った事は一度もない。
そんな彼から誘いが来たからには、私も受けて立つ。
もちろんみんなも全力で戦うんだ!ケモノ小学校埼玉校の強さを証明してやれ!」
「はい、そうですね先生!俺も負けられませんよ!」
「強い相手と戦えるチャンスだ!」
「努力の成果が発揮できるぞ!」
相撲部の全員が、熱く燃え上がった。
[newpage]
[chapter:厳しい保良先生]
その後、準備運動(筋肉ほぐし、四股、鉄砲)がスタート。保良先生の指導は、明らかに普段よりも厳しかった。
「おい板山、もっと強く四股が踏めるだろ!獣崎小学校はそんなもんじゃないぞ!」
「林、鉄砲はバーンと音が響くぐらいに強くやるんだ!それじゃ獣崎小学校に負けるぞ!」
部員たちも普段より力を入れて頑張るが、板山くんと林くんは何度も注意された。
この2匹も力士らしい体型をしているものの、運動不足なため筋肉より脂肪が多く、相撲もさほど強くない。
ぶつかり稽古や取り組みでも、部員たちは何度も注意を受けた。
「それじゃ普段と変わらないぞ!そんなもんでは負けてしまう!
いいか?もっと力を入れて、ドーンとぶつかれ!相手を強い力士だと思い込むんだ!」
とは言え、保良先生も口出しばかりしていたわけではない。土俵に上がり、部員たちの相手になる事もあった。
活動が終わる頃には、どの部員たちも土にまみれ、疲れ果てていた。
「あー、もう動きたくない…」
「くたくただよ…」
柴山くんや大木くんは犬科らしく、舌を出しながら荒い息を吐いている。
部長の島田くんでさえ、ぐったりとしていた。
シャワーと着替えを済ませ、帰宅する部員たち。
「ぼくは8年近く相撲部にいるのに、何度も注意されちゃったよ。そんなにだめだったかな?」
林くんの質問に、島田くんが答える。
「そりゃあ俺たちはもう5年近く年を取っていないから、普通より長く相撲部にいるのは間違いないさ。
でも、普段から運動や自主稽古をしなければそこまで強くなれない。俺の強さは、しっかりトレーニングをしたから身についたんだ。
ほら、俺の腹を触ってみろよ!」
島田くんはシャツから丸出しの太鼓腹と出べそを突き出し、林くんに触らせる。
「どんな感じだ?」
「うーん…柔らかいけど、その奥にしっかりした物が感じられるよ。」
「そう、脂肪の中に筋肉を蓄えているんだ。それに比べて林は…」
島田くんは林くんのお腹を揉んだ。柔らかな毛と、その奥に詰まった脂肪の感触が伝わる。
「…そう、脂肪太りだ。体重は俺よりあるが、そのほとんどは過剰な脂肪による物だな。普段家ではどうしてるんだ?」
「学校から帰ったら、おやつを食べながらテレビを見る。その後は宿題をして、それからゲームや漫画を…」
「運動はしていないようだな。」
「うん。だって疲れるもん。」
「『疲れるから』という理由で運動しないと、ますます太ってしまう。そうなると運動どころか生活まで大変になっちゃうぞ。
強くなりたいなら、普段から適度に運動をするのが一番だ。」
「…今の時点で大変な事もあるよ。着替えにお風呂にトイレ…」
「今からでも遅くはないさ。大会まで10日近くあるから頑張ってみよう!」
「アドバイスありがとう!ぼく、板山くんにも伝えてみるよ!」
林くんは重い体を揺すりながら走り、先を歩いていた板山くんの所へ。
「…という話さ。やった方がいいよ!」
「ありがとう、林くん。」
[newpage]
[chapter:稽古の日々]
その日から、部員たちの自主稽古が始まった。
板山くんと林くんは、島田くんに言われた事を即座に実行した。おやつや漫画を楽しむ前に、ブリーフ1枚で四股を踏む。
(つ、疲れた…でもあと20回…)
普段は休んでいる時間帯に稽古をしたため、すぐに疲れた林くん。日頃から運動不足な彼は、体の衰えを実感した。
しかし、疲れても設定した目標を達成するまで続けた点は進歩していた。疲れた段階ですぐにやめ、おやつを食べ始めた板山くんに比べれば。
土曜日と日曜日も、部員たちはほとんどの時間を自主稽古に費やした。
両親の前で四股を披露する栗田くん。
店の手伝いをする合間に稽古をする柴山くん。彼の家は焼肉屋を経営している。
島田くんはもちろん、五十嵐くん(現役の力士を父親に持ち、庭にも土俵がある)も、普段から自主稽古をしている。その2頭も稽古時間を伸ばした。
もちろん保良先生も例外ではない。妻の由紀子と息子の阿蓮くん(小学3年生)に、四股や鉄砲を披露した。
「あなた、さすがね!」
「パパ、すごいや!」
「ありがとう。ぜひとも勝ってみせるぞ!」
翌週の18、19、21日──相撲部の活動は毎週火、水、金曜日──も、部員たちは相撲道場で精を出した。
「さあ、来い!」
土俵で構える島田くん。相撲部では一番細身(とは言えぽっちゃり体型)の新井くんが、彼に向かって全力で体当たりをする。
その他の部員も、保良先生による熱血指導の下、全力で稽古をした。
相撲部の終了時刻にはくたくたに疲れるほどだったが、帰宅すれば可能な限り稽古を続ける。
かなりのハードスケジュールだが、苦にはならなかった。最強の相撲部とまとめて戦える千載一遇のチャンスを無駄にするわけにはいかない。
21日の終了時刻には、全員で意気込んだ。
「明日は絶対に勝利するぞ、オー!」
一同は明らかに疲れていたが、この返事は気合が入っていた。
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[chapter:大会当日]
1月22日、土曜日。
9時頃、部員たちは校門前に集合した。全員が揃った所で、保良先生が相撲道場から現れた。
「みんな、おはよう。」
「おはようございます、保良先生!」
「全員出席か。みんなが気合を入れている事がわかるよ。さあ、大上自然公園へ行こう!」
住宅街を抜け、大上自然公園へ。
ここは広大な面積を持ち、緑が広がる公園。野原や池、運動場など様々な場所が用意されている。
今回の会場は、そこに建つ総合体育館。相撲が盛んなケモノ界のため、土俵も常設されている。
一行は廊下を進み、ある部屋に到着した。
「ここがみんなの控室だ。相手は反対側の部屋に来ているだろう。
更衣室はそこの角を曲がった所だ。みんなのまわしは、昨日の部活が終わった後で運び込んでおいたぞ。
さあ、もうすぐ始まりだ。心して挑め。」
時刻は9時40分。部員たちは荷物を置き、トイレを済ませると更衣室へ向かった。
まわしを締め終わると、保良先生に案内されて廊下を進む。一行は胸を張り、やる気に満ちた表情を浮かべて力強く歩いた。
可愛らしい見た目の栗田くんや宇佐山くんも、この場では立派な子供力士だ。
扉をくぐり、土俵に到着。こちら側の準備が先に終わったようで、相手側はまだ来ていない。
「いったい、どんな子たちだろうね?」
「大きな種族もいるのかな?」
期待と不安が混ざった声で会話する部員たち。
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[chapter:対戦相手の登場]
9時55分、反対側の扉が開いた。
「あっ、来たよ!」
セイウチの那須野 善男先生を先頭に、次々と現れる獣崎小学校の相撲部員(以下、獣崎小と表記)たち。
「あれが獣崎小学校相撲部…」
「噂通り、強そうだ…」
象、カバ、サイ、シャチ、牛…ケモノ小学校埼玉校の相撲部(以下、ケモ小と表記)と異なり、大型の種族(とは言え身長差は10cmほど)ばかりだ。
「ぼくたち、勝てるかな…」
「あんな大きい相手と戦うかもしれないなんて…」
怖気づき、すくみ上がるケモ小。その中で栗田くんは声を上げた。
「え、えっ!? なんでぼくがあそこに…」
大型種族に混ざって、シマリスの男の子が立っていた。身長や体型も栗田くんとほぼ変わらない。
(ドッペルゲンガーじゃないよね…)
相手も驚きの表情を浮かべている。同じ事を考えているようだ。
栗田くんが相手をよく見ると、自分と異なり出べそだった。
(なんだ、他獣の空似か。でもそっくりだな…)
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[chapter:開会宣言]
保良先生と那須野先生が土俵に上がり、挨拶をする。
「おはよう、那須野。」
「久々だな、我がライバル保良。こうして土俵で顔を合わせるなど、いつ以来だろう。」
「もう詳しくは忘れてしまった…それほど長く経っている。」
「保良よ、あれからより立派になって何よりだ。やはりお前は今でも力士だな。」
「お前も貫禄が付いたな、那須野。部員たちもずいぶんと強そうじゃないか。」
「ああ、私が誇る埼玉一番の小学生力士たちだ。特に部長は負け知らずだよ。」
「我がケモノ小学校埼玉校にとって、絶対に負けられない戦いだ。みんな、頑張るぞ!」
「おう!」
「我が獣崎小学校の名にかけて頑張るぞ!」
「オッス!」
こうして、開会が宣言された。
準備運動を済ませると、2頭の顧問は再び土俵へ。
「保良、まずは前座としてお前と相撲を取る。心して挑め。」
「ああ、望むところだ。努力の成果を見せてやる。」
すぐに取り組みが始まった。部員たちは夢中で見物する。
勝者は那須野先生だった。
「やはり…私の負けか…相変わらずお前は強いな…」
「力士から顧問になっても、力関係は簡単に変わらない物だ。」
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[chapter:4年生の取り組み]
それから、メインの取り組みが始まった。
那須野先生が決めたルールはトーナメント方式。ケモ小と獣崎小の1匹ずつが戦い、勝ち残った部員がさらに戦い続ける。
まずは4年生。1戦目は新井 楽(アライグマ)VS惣田 陸斗(牛)。
惣田くんは脂肪の多い重量級。ぽっちゃりした新井くんとは対照的だ。
保良先生が行司を務める。
「はっけよーい…のこった!」
2匹は力強く組み合ったが、すぐに新井くんが転ばされてしまった。
(努力したけど、やっぱり強豪には勝てないな…)
新井くんは悔しそうに土俵から降りた。
2戦目は稲荷山 紺助(キタキツネ)VS出交 健斗(シャチ)。どちらもそれなりに肉が付いている。
少し緊張を見せながらも、得意げな稲荷山くん。
一方、出交くんはかなり緊張していた。
「え?俺、あいつには勝てないような気がするけどなあ…さっきの新井くんなら勝てそうだから、あいつにもう一度チャンスを…」
那須野先生が一喝する。
「おい、出交!お前も少しは強敵に立ち向かう勇気を見せるんだ!
いいか?野生時代のシャチは、狐の何倍も大きい体をしていたんだ。その時のような力を見せてやれ!」
「野生のシャチと狐が同じ地域に生息していたなんて話、聞いたありませんよ。それに大昔の話じゃないですか…」
「言い訳は無用だ!戦ってみろ!」
「はいはい、戦いますよ。」
彼は相撲部で最弱。やる気はあまりなく、相撲に勝った事も両手で数えられる程度だ。
今度の行司は那須野先生。2頭が交互に努める。
「はっけよーい…のこった!」
組み合う2匹。すぐに決着がつき、稲荷山くんが勝った。
「稲荷山くん、よくやったね!」
親友の栗田くんが褒めてくれた。
「ありがとう。」
「あーあ、負けちゃった…」
出交くんが仲間の所に戻ると、次に参加する楽嶋 優太くん(ラーテル)が呆れ顔で言った。
「まったく、お前は弱いな。やっぱりここでも負けるのか。」
「もう、うるさいな!黙ってくれ!」
「本当の事言われたのに怒るのか?お前はほんとお子ちゃまだな。」
「俺は…そのうち強くなってみせるから…」
「お前、何年もそう言い続けてるよな。笑っちゃうぜ。」
3戦目は栗田 永雄(シマリス)VS楽嶋 優太(ラーテル)。
楽嶋くんは努力家で、普段からトレーニングを欠かさない。
固太りの体、強そうな表情、やや荒い口調…4年生にして貫禄の付いた見た目だ。のんびり屋で柔らかい雰囲気の栗田くんとは、何もかも対照的だ。
(強そうだ…勝てるかな…
いや、怖気づいてはいけない。ぼくは相撲が好きだ。だから絶対に勝つぞ!)
栗田くんは緊張しながらも、勇気を出した。
「はっけよーい…のこった!」
2匹は全力を出し、組み合った。
力自慢の楽嶋くん。のんびりしているが意外と強い栗田くん。お互いまわしをつかみ、力を出し合う。
栗田くんは土俵際まで追い詰められそうになったが、足技をかけて逆転勝ちした。
ケモ小側から歓声が上がる。
「栗田くん、すごいぞ!」
「よく頑張ったね!」
「ありがとう、みんな。これがぼくの実力さ。」
「ああ、この俺が負けるなんて…こんなの認めたくないぜ…」
楽嶋くんはうなだれて、仲間の所に戻った。
4戦目は猫山 苗太(黒猫)VS黒崎 浩介(シマリス)。
黒崎くんの姿は、栗田くんと酷似している。外見で彼と異なる部分は、出べそのみだ。
猫山くんは、黒崎くんよりもやや太っている。
この勝負は、黒崎くんが勝った。
席で見物する栗田くんは、それを見ながら考えた。
(このまま黒崎くんに勝ち残って欲しいな。あの子はぼくよりも強いのかな?)
[newpage]
[chapter:5年生の取り組み]
続いては5年生。5戦目は宇佐山 楽美斗(うさぎ)VS笊元 羊平(羊)。
2匹とも柔らかな毛並みと脂肪が特徴。普段から部員たちによく触られている。
取り組みはそこそこ白熱し、最終的に笊元くんが勝った。彼は可愛らしい見た目に対して、力が強い。
6戦目は五十嵐 棘郎(ヤマアラシ)VS丸島 秀(クズリ)。
五十嵐くんは筋肉質の固太り。丸島くんは筋肉と脂肪のバランスが取れた体型だ。
(あいつと戦ったら、ケガしそうだな…)
針が生えた相手の背中を見て、考え込む丸島くん。
「はっけよーい…のこった!」
五十嵐くんが勢いよく技を仕掛け、丸島くんはなすすべもなく負けてしまった。
(ヤマアラシとの相撲は初めてだったからな…対処法を考えておかないと。)
7戦目は柴山 健治(柴犬)VS石井 縁蔵(ジャッカル)。犬科の対決だ。
柴山くんは脂肪がやや多めで小柄。石井くんは背が高く、相撲部員としては細身だ。
しかし体重が軽い分、動きは俊敏。彼は楽々と柴山くんに勝利した。
8戦目は板山 太一(イタチ)VS時雨 春男(象)。
時雨くんの体は縦横に大きく、力強さを感じさせる。しかし中身は正反対だ。
(あの子のオーラ、すごいなあ…勝てるかな…)
板山くんを前にした彼は、不安を感じていた。彼は気が弱く、自分より強そうな相手には怖気づいてしまう。
時雨くんが感じる通り、現在の板山くんは自信に満ち溢れていた。自主稽古の成果が出ている。
「はっけよーい…のこった!」
気を取り直し、力強く立ち上がる時雨くん。板山くんも自分より大きな相手に立ち向かう。
体は小さく力もさほど強くないが努力を重ねた部員と、体は大きく力も強いが気の弱い部員。正反対の2頭が対決する。
板山くんは、厚い胸に全力で張り手を食らわせた。
「うっ…」
思わずうめく時雨くん。想像以上に力が強かったようだ。
時雨くんはなんとか持ち直し、板山くんを土俵際まで追い詰める。
(しまった…負けちゃう…)
時雨くんは勝ちを確信したようで、少し力を緩めた。
それを感じ取った板山くんは、栗田くんを参考にして足元をすくい、逆転勝利を収めた。
ケモ小側から歓声が上がる。保良先生は特に喜んでいた。
「すごいぞ、板山!お前も強くなったな!」
[newpage]
[chapter:6年生の取り組み]
いよいよ6年生だ。9戦目は原田 本太(狸)VS有田 啓吾(ライオン)。
原田くんは脂肪がやや多めで、狸らしく突き出た太鼓腹が目立つ。
部長を務める有田くんは、かなりの強さを誇る実力者。筋肉と脂肪をバランスよく蓄えた体だ。
この取り組みは、有田くんの勝ち。彼は誇らしげに土俵を下りた。
(やはり部長、さすがだね…ぼくもあんな風になりたいな…)
原田くんは負けて悔しいながらも、感心した。
10戦目は林 海里(ビーバー)VS臼井 礼二(カバ)。
共に脂肪が多い肥満体で、それぞれの相撲部における最重量の部員だ。身長や体重は臼井くんが勝っている。
得意げな笑いを浮かべ、太鼓腹をポンと叩いてみせる林くん。トレーニングの成果が出ているようだ。
「はっけよーい…のこった!」
太い脚で立ち上がり、組み合う両者。
林くんは保良先生の言葉を思い出し、全力で臼井くんに体当たりをする。
彼も負けじとぶつかり、林くんは思わずよろけたが持ち直した。
その後も技をかけ、最終的に林くんが勝利した。
「よくやった、林!」
保良先生も嬉しそうだ。
(まさか、臼井が倒されるとは…あのビーバー、さすがだな。)
見物中の石井くんは、林くんの実力に驚きながらも冷静に分析した。
土俵外における彼はクールな勉強家。他者の取り組みもじっくりと観察している。
11戦目は島田 大河(虎)VS相沢 銀次(サイ)。
相沢くんの方が一回り大きいが、島田くんは自分のパワーを生かして楽々と勝った。
(やはり部長はどこも強いのか…)
負けた相沢くんは、原田くんと同じ事を考えていた。
12戦目は大木 上(狼)VS屋比久 千次郎(マングース)。
屋比久くんは、自分より太っている大木くんを楽々と投げ飛ばした。
(す、すごい力だ…)
彼は沖縄からの転校生。投げ技がメインの沖縄相撲も経験しているため、投げ技が得意だ。
これで双方の部員が全員戦った。勝者は以下の12頭。
ケモ小:栗田、稲荷山、五十嵐、板山、島田、林
獣崎小:黒崎、惣田、笊元、石井、有田、屋比久
[newpage]
[chapter:アクシデント]
続いては、勝ち残った部員たちの取り組み。5戦目まではダイジェストで紹介する。
1戦目:栗田VS惣田 勝者:栗田
2戦目:稲荷山VS黒崎 勝者:黒崎
3戦目:五十嵐VS石井 勝者:五十嵐
4戦目:板山VS笊元 勝者:笊元
5戦目:島田VS屋比久 勝者:島田
6戦目は、林VS有田。
先程の勝利でさらに自信をつけた林くんは、得意満面で土俵に立った。
相手はかなりの強さを誇るが、今の彼には気にならない。
「はっけよーい…のこった!」
力強く組み合う2匹。勝利は有田くんだった。
しかし、土俵外に飛ばされた林くんの様子がおかしい。
「ううっ…足が…誰か…」
右足を押さえようと腕を伸ばしているが、太鼓腹ゆえに手が届かない。
「どうした、林!」
「大丈夫か?」
島田くんと保良先生が慌てて駆けつけた。
「足の骨が…折れたっぽい…」
「それは大変だ!急いで手当てをするぞ!」
林くんは別室に案内された。
「俺も手伝う。俺のせいでケガをさせてしまったかもしれないからな…」
「有田が行くなら、俺も行こう。」
有田くんと相沢くんは親友同士。2頭も後に続いた。
「林くん、大丈夫かな…」
「まさかケガするなんて…」
「あれじゃしばらく相撲できないよね…」
心配そうに話し合うケモ小の部員。栗田くんは自分に言い聞かせた。
(ぼくも気をつけなきゃ。これから決勝戦だから…)
約10分後、有田くんと相沢くんが戻ってきた。栗田くんが真っ先に質問をする。
「あの、林くんは大丈夫ですか!?」
2頭が続けて答える。
「安心しろ、栗田。」
「彼の事なら心配するな。俺たちがしっかり手当てをしておいた。」
その後から、保良先生と島田くんに連れられた林くんが入ってきた。右足には包帯が巻かれ、歩き方もぎこちない。
「林、災難だったな…」
「相撲部員には重大なケガだぜ、こりゃ…」
林くんは少し笑顔を取り戻して答えた。
「ううん、もういいんだ。1回でも勝てたから、努力の成果は出せたよ。
それにもうぼくの出番はないから、ちょうどいいタイミングのケガだったかな。」
[newpage]
[chapter:決勝戦]
いよいよ各学年の決勝戦。3回中2回に勝てば、ケモ小の勝ちだ。
まずは島田くんと有田くん──部長同士、大型猫科同士の取り組み。
「懐かしいな、島田。覚えてるか?ずっと前に大会で一緒になった時、こうして土俵で向き合った時をな。」
「ああ、忘れない。俺が唯一勝てなかった相手だからな。
しかし、俺は…今度こそ勝ってやる。」
「大きく出たな。その勝負、受けて立とう。」
「はっけよーい…のこった!」
2校の顧問と部員たちが、固唾を飲んで白熱した取り組みを見守る。
約1分後、決着がついた。勝利は島田くんだ。
「やった…やった!ついに勝ったぞ!」
喜びの声を上げる島田くん。唯一勝てなかった相手に勝ったため、喜びもひとしおだ。
「まさか俺が負けるとは…お前、強くなったんだな…」
有田くんは打ちつけた腰をさすりながら言った。
次は五十嵐くんと笊元くん。
「ケモノ小学校埼玉校の名にかけて、絶対に勝つぞ!」
「それはどうかな?」
意気込む五十嵐くんに対し、笊元くんは不敵な笑みを浮かべた。
「はっけよーい…のこった!」
こちらの取り組みは割と早く決着がついた。勝者は笊元くん。
(あいつ、可愛い見た目に対して強いな…将来が期待できそうだ。)
五十嵐くんは残念そうな表情を見せていたが、内心では相手の将来を考えていた。
最後は栗田くんと黒崎くん。2匹のシマリスは、へその形を除いて瓜二つだ。
「黒崎くん、同じ種族の君と戦えて嬉しいよ。」
「ぼくも一度小型の種族と戦ってみたかったんだ。ぼくの相撲部は大柄な種族ばかりだからさ。
しかし、その中で鍛えたからこそぼくは強い。君とどっちが上かな?」
見物する一同も、2匹に注目している。
(すごいな、まるで双子だ…)
(これまでの取り組みから推測するに、両者の強さはほぼ同じだろう。)
(結果が楽しみだ。)
「はっけよーい…のこった!」
シマリス同士の取り組みが始まった。2匹のパワーはほぼ同等で、なかなか決着がつかない。
行司の保良先生や見物する一同は、どちらがどちらか判別できなくなってきた。
やがて片方が土俵に投げられ、決着がついた。
(一体どっちが勝ったんだ…)
よく見ると、投げられた方は出べそだった。
「栗田の勝ちだ!」
ケモ小側から歓声が上がった。これでケモ小の勝利だ。
[newpage]
[chapter:まだ終わらない!]
すると、有田くんが笑いを浮かべた。
「フフフ…ケモノ小学校埼玉校の相撲部よ、これで勝ったと思うなよ。
こんな事もあろうかと、俺の知り合いを呼んでおいた。さあ、最強力士の登場だ!」
ドアが開き、5年生の狼が入ってきた。力士としては細身だが、体にはかなりの筋肉が蓄えられている。
「紹介しよう。神奈川県で最強の相撲小学生、広瀬 俊男だ!」
ケモ小側は震え上がった。
「まさかあいつと知り合いだったとは!あいつは大会に出ると必ず優勝する、関東最強の小学生力士だぞ!」
驚きの声を上げる島田くん。
「卑怯だぞ、他の県から連れてくるなんて!」
稲荷山くんは怒りの声を上げた。那須野先生が返す。
「これも一種の戦法さ。他にどんな方法があったと言うのだ?」
「え、ええと、それは…負けた事を受け入れるしか…」
「そういうわけには行かない。我が校はそう簡単に引き下がれないのでね。」
「シマリスよ、お前の力を見せてみろ。」
どうやら、栗田くんと取り組みをするつもりらしい。
取り組みを終えたばかりの栗田くんは少し疲れていたが、力強く言い返した。
「受けて立とうじゃないか!ぼくは負けないぞ!」
「いい度胸だな。かかってこい。」
土俵の両側で構える、栗田くんと広瀬くん。ケモ小側に緊張が走る。
この取り組みで栗田くんが負ければ、ケモ小の負けも確定だ。
「はっけよーい…のこった!」
合図で両者は組み合った。
栗田くんは相手のまわしを全力でつかみ、土俵外に押し出そうとする。
(こいつ、予想よりもパワーがあるな。でも負けないぞ…)
広瀬くんも力を出し、栗田くんを押す。なかなか決着がつかない。
(まさか、あの広瀬が苦戦するとは…)
有田くんは焦りを感じていた。
2校の部員が、応援を始めた。
「行け、行け、栗田!」
「負けるな、広瀬!」
「行け、行け、栗田!」
「負けるな、広瀬!」
「頑張れ!ファイトだ!」
「それ行け!負けるな!」
「頑張れ!ファイトだ!」
「それ行け!負けるな!」
「栗田!」
「広瀬!」
真剣に戦う土俵上の2匹には、それが戦いを鼓舞する歌のように聞こえた。
2匹はより力を出して、戦い続けた。
「エイッ!」
栗田くんは広瀬くんを土俵際まで追い詰め、外へ押し出した。
「おお、やったな栗田!」
「栗田、すごいぞ!」
「よく頑張ったね!」
ケモ小側から、割れるような拍手と歓声が上がった。
「おお、シマリス…元気なリスだ…その調子でこれからも強くなるんだぞ。」
「ありがとう。いい勝負だったよ。」
「だが俺に勝てたからと言って慢心するんじゃない。世の中にはまだまだ強い小学生がいるからな。」
「もちろんだよ。ぼくは将来、力士になるつもりなんだ。」
「俺も同じだ。いつか角界で出会える事を願っている。その時こそお前に勝つからな。」
栗田くんと広瀬くんは、握手を交わした。
[newpage]
[chapter:大会の終わり]
相撲対決は、ケモノ小学校埼玉校の勝利で幕を閉じた。
「いやあ、みんな本当によく頑張った!これは6年近く鍛えた成果だよ。」
嬉しそうに語る保良先生。部員たちもハグやジャンプで喜びを現した。
右足を骨折した林くんも、両手を上げて喜んだ。
那須野先生が声をかけた。
「いい勝負だったな、保良。」
「ああ、那須野。強い相撲部という話は本当だったんだな。」
「お前らの部員も意外と強い事がわかった。悔しいが、今回はそちらの勝ちだ。
さあ、もう大会はお開きだ。最後のお楽しみにしよう。」
獣崎小学校の調理部も呼ばれており、総合体育館の調理室から大鍋に入れられたちゃんこを運んできた。
「みんな、獣崎小自慢のちゃんこ鍋だぞ!」
「さあ、最後に腹いっぱい食おうじゃないか!」
時刻は14時半。有田くんと相沢くんの合図で、少し遅めの昼食が始まった。
野菜や肉、魚が豊富に詰まった鍋。食べると体も心も温かくなるようだ。
ライバル同士の2校も、会話に花を咲かせている。
「…って話があるんだけど、原田くんは知ってる?」
「知ってるよ、時雨くん。確か…」
「へえ、惣田くんもカードゲームが好きなんだ!」
「そうだよ、猫山くん。コレクションしてるんだ。この前なんかレアカードを手に入れたよ。」
「黒崎くん、明日は何をするの?」
「友達と一緒に出かけるんだ。駄菓子屋さんにでも行こうかな。」
栗田くんと黒崎くんも、前から知り合いだったように打ち解けている。シマリス同士気が合うようだ。
林くんは夢中で鍋を頬張る。
「ああ、おいしい…骨折もすぐに治りそうだ!」
思わず立ち上がったが、足の痛みで転んでしまった。それを見た屋比久くんが言う。
「おい、あんまり調子に乗るなよ!今は安静にしないとだめだ。」
「ごめん、そうだね。」
ちゃんこ鍋を食べ終わり、大会は閉会を迎えた。
後片付けや着替えを済ませて体育館を出ると、辺りは夕日に染まっていた。
「終わっちゃったな、相撲大会…」
「うん。でもぼくは忘れないよ。強い相撲部と戦えた事は、きっと一生の思い出になる。
ぼくも黒崎くんも、これからもっと強くなろうね。」
「ああ、次に会う時はもっと強くなってみせる。その時は覚悟しておけ!」
「こっちだって強くなるから、次も負けないぞ!」
栗田くんと黒崎くんは、お互いに誓った。
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[chapter:エピローグ:増えた思い出]
夕暮れの中、2校の部員はそれぞれの家へ帰宅した。
ケモ小は徒歩で、獣崎小は電車で。
(明日は友達に、今日の出来事を話そう。みんな結果が知りたいと言っていたからね。)
黒崎くんは遠ざかる大上駅を眺めつつ、考えていた。
栗田くんは夕食時、両親に大会の出来事を語った。
「…で、ぼくは勝ったんだ!最強小学生を相手に勝てるなんて思わなかったよ!」
「いやあ、すごいな永雄!」
「強くなったわね!おじいちゃんたちにも教えようかしら。」
「うん、ぜひ教えてよ!」
両親に褒められ、嬉しそうな栗田くん。部屋は暖かな雰囲気に包まれた。
栗田くんはまだ知らない。さらなる強敵が現れる事を…
[chapter:おしまい]