[chapter:プロローグ]
ここはケモノ界のさいたま市大上区。
2023年3月7日…冬から春に変わり始めた時からこの話は始まる。
ケモノ小学校埼玉校の4年1組。栗田 永雄くん(太ったシマリス)は昼休みに本を読んでいた。
「栗田くん、これ見てよ!」
彼の隣から稲荷山 紺助くん(太ったキタキツネ)が話しかけてきた。何かの広告を持っている。
「え、何?」
「今日の新聞に挟まっていたんだ。」
栗田くんも広告を覗き込んだ。内容を要約すると、次のようになる。
さいたま小学生スキー教室
日程:2023/3/28(火)~29(水)
会場:長野県 しろくまスキー場
対象:さいたま市在住の小学4~6年生
「稲荷山くん、これに参加するの?」
「まだ決まったわけじゃないけど、そのつもりだよ。
スキーをした事はないから、新しい体験をしてみようと思ってね。良かったら栗田くんも行ってみる?」
「稲荷山くんが行くなら、ぼくも行こうかな。」
「ありがとう。また思い出が増えるね。」
帰宅した2匹は、「スキー教室に行きたい」と家族に報告。すぐに許可が下り、2匹でスキーに行く事が決まった。
それから当日まで、スキーの本を読んだり、動画を見たりしながら、ある程度予習をしておいた。
最も埼玉では雪が滅多に降らないため、実践まではできなかった。
27日の21時、2匹はそれぞれの家でベッドに入った。
(今日までしっかりイメージトレーニングをしておいた。明日からしっかり生かせるといいな。)
考えているうち、眠りに落ちた。
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[chapter:スキーへ出発]
28日の午前5時半。栗田くんはリュックサックと小型スーツケースを持ち、両親と車で大上駅の西口へ。
「それじゃ、楽しんできてね!ケガをしないように気をつけるのよ。」
「帰ってきたら、楽しい話を聞かせてくれ。」
「もちろん!それじゃ行ってきます!」
「行ってらっしゃい。」
両親に別れを告げ、荷物を持って車を降りた。
少し離れた場所に、スキー場行きのバスが見えた。周囲にはさいたま市各地の小学生が集まっている。
「栗田くん、おはよう!」
稲荷山くんは既に来ていた。
「おはよう。どうやってここまで来たの?」
「徒歩さ。うちには車がないからね。」
「こんな早朝から?頑張ったね!」
「ありがとう。楽しい事が待ってると考えればこれぐらいの距離も平気だよ。」
5時50分には40頭の参加者(男女20頭ずつ)が全員集まったため、荷物をトランクに入れてバスに乗り込んだ。
予定表や持ち物を記載したプリントが事前郵送されているが、改めてスキー教室のしおりが配られた。こちらには参加者の名簿も載っている。
それを見ると、ケモノ小学校埼玉校の児童は2匹のみ。周囲は知らない顔ばかりだ。
「ちょっと緊張するね。」
「でもぼくたちは同じ班だから、離れ離れにはならないよ。」
「新しい友達ができるといいね。」
6時、バスのエンジンがかかった。いよいよ出発だ。
朝日に照らされた大上区を抜け、インターチェンジから高速道路へ。
参加者の様子は様々だ。隣の子と話したり、しおりに目を通したり、眠ったり、お菓子を食べたり…
栗田くんは持参したスキーの本を稲荷山くんと回し読みして、直前までイメージトレーニングを忘れなかった。
8時頃、サービスエリアで20分ほど休憩。あまり長くは滞在できないため、ほとんどの参加者はトイレを済ませただけだった。
栗田くんたちがトイレからバスに戻ろうとすると、突然声をかけられた。
「ねえ、君たちって相撲部員?」
振り向くと、マッコウクジラの男の子が立っていた。体は栗田くんよりも大きく、かなりの肥満児だ。
また、毛の少ない種族ゆえにコートやマフラーなど防寒具を多く着けている。
「そうだよ。ぼくと稲荷山くんの事知ってるの?」
「知らないけど、君たちは太ってるからぼくと同じように相撲やってるのかなって…」
「ちょっと、その考え方は失礼じゃないかな?ぼくだって太めだけど美術部員だよ。」
横に立つゴマフアザラシの男の子が口を挟んだ。こちらはぽっちゃり体型だ。
「あ、ごめん…ぼくたちはあの子たちと同じ班になるから、少しお互いの事を知っておこうと思ってさ…」
「そうか、知りたかったんだね。ありがとう。
でも今は時間があまりないし、バスでも座席が離れてたから、じっくり話せるのはスキー場に着いてからだね。」
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[chapter:雪の世界]
9時半、バスはしろくまスキー場に到着。
「すごい、一面の銀世界だ!」
春休みの時期だが、山は雪に覆われている。周囲にはホテルやロッジが数軒建っている。
参加者一同はバスを降りホテルへ。荷物をフロントに預け、そのままロビーで待機した。
10時、開講式が始まった。参加者たちの前で教室主催者のトナカイ(細身の中年男性)が話す。
「さいたま市の皆さん、ようこそいらっしゃいました。
この素晴らしい雪の世界で、皆さんの多くが新たな体験に触れる事でしょう。この2日間でスキーを楽しみ、何らかの形で成長できれば幸いです。」
その後もコーチの紹介などがあり、10分ほどで終わった。
一同はリュックサックもフロントに預け、コーチたちの案内で更衣室へ。大勢の客を想定した造りのため、相撲部のそれよりも広い。
コーチの指示に従ってスキーウェアに着替え、板とストックを持って外に出た。
目の前に広がる大量の雪。埼玉ではたまにしか見られない物が、山や地面を覆いつくすほど広がっている。
ここから班ごとに分かれる。
栗田くんたちの班は5頭構成。栗田くん、稲荷山くん、サービスエリアで少し絡んだマッコウクジラとゴマフアザラシ、ユキヒョウだ。
コーチはホッキョクギツネの青年。スマートで精悍な印象だ。
「みんな、こんにちは。2日間よろしく!」
「よろしくお願いします。」
「さて、まずはスキー用具の使い方だ。君たちが持っているストックは…」
彼の説明は理解しやすく、初心者でもある程度覚えられた。
用具の説明が終わると、次は基礎的な行動の練習。5頭は板を履いて歩いたり、平地をストックの力で移動した。
「なんだか足が大きくなったみたい!」
「不思議な感覚だね。」
初めての感覚に新鮮な気分を覚える一同。ユキヒョウはスキーに慣れているようで、楽々とこなしている。
それ以外は多かれ少なかれ太っているため、重心に気をつけながら練習をした。マッコウクジラは肥満体ゆえに、何度も転んでいた。
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[chapter:新しい友達]
12時になると、昼食休憩。参加者はスキー場内のレストランに移動した。
一般客は食券を買っているが、参加者は別のカウンターに並び、決められた料理を受け取っている。食事代は参加料に含まれているため、ここで払う必要はない。
メニューは大盛りの唐揚げ丼。栗田くんたちの班は同じテーブルに着き、食べ始めた。
「そうだ、まだお互いの事を聞いていなかったね。君たちの事を教えてくれない?」
栗田くんの質問に、ユキヒョウから答え始めた。
「ぼくは春原 氷太。大上小学校の6年生。
スキーが好きで、この教室にも2年に1回は参加している。だからコーチたちとは顔なじみだよ。」
次はマッコウクジラ。
「俺は梶原 京二だぜ。大上小学校の5年生だ。
とにかく食う事が大好き!お前らもいい腹してるじゃないか。」
最後にゴマフアザラシ。
「ぼくは駒沢 椎瑠。梶原くんのクラスメイトで親友さ。
梶原くんはいろいろ失敗が多いから、ぼくがいつもサポート役になっている。今回だって滑れそうにないのに、スキーに参加するなんて言い出したから心配で、ついて行く事にしたんだ。」
「紹介ありがとう。次はぼくたち…ケモノ小学校埼玉校4年生の番だ。
ぼくは栗田 永雄。のんびり屋で食いしん坊で、ゲームや漫画とかが好き!」
「ぼくは稲荷山 紺助。栗田くんの親友で、遊ぶのが大好き!」
それを聞いた3頭は、思い思いの反応を返す。
「こちらこそ紹介ありがとう。仲が良さそうでいいね。」
「なあ、栗田と稲荷山はいつから一緒にいるんだ?」
「赤ちゃんの時かな。まあその時の事はあんまり覚えてないけど…」
「そりゃすごいな!俺と駒沢は小学校で知り合ったから、俺たちより長い関係だ!」
その後も様々な会話を楽しんだ。
1時間で休憩が終わり、またスキーが始まった。コーチが指示を出す。
「みんな、今度は軽い斜面を滑ってみよう。行き先は練習用コースだ。」
先程食事をしたレストランのすぐ下が、リフト乗り場になっていた。機械音を立てながら、次々とリフトが運ばれてくる。
「すごい迫力!」
「まるで工場みたいだ。」
「さあ、黄色い線の所に立つんだぞ。来たらすぐに座るんだ。」
リフトの定員は1名。一同は次々と乗り込んでいく。
梶原くんはリフトに押され、少し転びそうになってしまったが、急いで体勢を立て直した。
練習用コースは斜面が軽いため、すぐに到着。
「ゆるやかな坂道程度の傾斜だ。1頭ずつ滑ってみよう。もちろん僕の補助付きでね。」
「ぼくも楽勝だから、コーチの代わりになるよ。」
狐崎コーチと春原くんの補助を受けながら、斜面を滑る一同。全員が滑り終わるとまたリフトで上り、また滑る。それが3時間も続いた。
始めのうちは少し怖かったものの、次第に慣れ、15時台には補助なしでも滑れるようになった。それでも梶原くんは何度も転んだり、木にぶつかっていた。
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[chapter:ホテルにて]
1日目の講習は16時で終了。一同はホテルに戻り、スキーウェアから私服に着替えた。
荷物を回収して、自分たちの部屋へ移動。
「思ったより広いね。」
「早速くつろごう!」
そこは8畳の和室だった。押入れやテレビ、金庫など一通りの物が揃い、窓からはスキー場が一望できる。
床に寝転がったり、窓際の椅子から景色を眺めたり…思い思いの格好でくつろいだ。
夕食は18時から。それまでの2時間で、班ごとに入浴する。
栗田くんたちは17時から。脱衣所で裸になり、浴場へ入る。
大きな浴槽で温まると、スキーの疲れが消えていくように感じた。
5分ほど温まると、体を洗った。栗田くんと稲荷山くん、梶原くんと駒沢くんはペアを組んでお互いの背中を洗っている。
「春原くんの背中も洗おうか?」
「大丈夫だよ、栗田くん。ぼくは細身だから自分で洗えるよ。」
風呂から上がり、しばらくすると夕食の時間。参加者は食堂に集まり、用意された料理を食べた。
和洋折衷のメニューで、子供が好みそうな品目が多い。
「いただきまーす!」
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[chapter:真実]
その時、隣に座っている稲荷山くんが呼び掛けた。
「栗田くん、起きて!」
「え、何?」
「起きて!あと3分で5時間目だよ!」
栗田くんは目を開けた。そこは食堂ではなく、4年1組の教室だった。黒板の日付も3月7日だ。
彼は読書中に寝てしまい、そのままスキー教室の夢を見ていた。
(長い夢だったな…まあ夢は夢だ。早く授業の準備をしなきゃ。)
5時間目が始まったが、栗田くんには気になる事があった。
(夢に出てきた春原くんたち、全然知らないはずなのに知ってる気がする。なぜだろう?)
考えながら帰宅すると、ダイニングテーブルに新聞が置かれていた。地域面が広げられている。
それを見た瞬間、栗田くんは思わず口に出していた。
「ああ、この子たちだったのか!」
ページの一角には「小学生3頭 迷子を助ける」という見出しの記事が載っている。その「小学生3頭」が春原くん、梶原くん、駒沢くんだった。
掲載されている写真の中央では春原くんが感謝状を持ち、梶原くんと駒沢くんが両側で微笑んでいる。
(そうだ、朝ご飯の席でお父さんが見せてくれたんだ。それが心の底に残っていたのか。
みんな現実でも優しい子みたいで良かった。いつか本当に会えるといいな…)
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[chapter:正夢]
翌日の昼休みも、栗田くんは本を読んでいた。
「栗田くん、これ見てよ!」
稲荷山くんが話しかけてきた。何かの広告を持っている。
「え、何?」
「今日の新聞に挟まっていたんだ。」
(あれ、この展開…正夢!?)
栗田くんも広告を覗き込んだ。そこにはこう書かれていた。
スペシャルモンブラン 新発売!600円
「わあ、すごくおいしそう!食べに行くの?」
「そうしたいけど、今はお金がそんなにないから想像だけで済ますよ。栗田くんと一緒にモンブランの話がしたいから、これを持ってきたんだ。」
「あ、そうなんだ…稲荷山くんはモンブランのどこが好き?」
「上に乗っているマロングラッセかな。それと…」
2匹はしばらくモンブランについて語った。
さらに翌日。栗田くんは帰宅して間もなく、財布を持って家を出た。行き先は大上駅構内のケーキ屋だ。
(スペシャルモンブランを2つ買うんだ。ぼくと稲荷山くんの分を!)
店に着いて列に並んだ。順番が来るまで駅構内を眺めていると、ある姿が目に入った。
(あれって…)
ユキヒョウ、マッコウクジラ、ゴマフアザラシの小学生が、構内を歩いて東口へ出ていった。
(本物だ!夢で見た通りの姿だ!
稲荷山くんが持ってきた広告のおかげで、あの3頭に会う事ができた。その点では正夢と言えるかも。)
栗田くんは嬉しさを覚えた。
[chapter:おしまい]