第5話「世界が終わる日!?」

  [chapter:プロローグ]

  「なんという事だ…」

  「これは防ぎようがありませんな…」

  この言葉から、すべてが始まった。

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  [chapter:いつものような朝…?]

  ケモノ界のさいたま市[[rb:大上区 > おおかみく]]。時は10月のある土曜日、朝7時。

  太ったシマリスの[[rb:栗田 永雄 > くりた ながお]]くん(小学4年生)は、カーテンの隙間から差し込む朝日で目を覚ました。

  (ああ、よく寝た…)

  カーテンを開けると、抜けるような青空が広がっていた。

  (今日は土曜日。いっぱい遊ぶぞ!)

  洗顔や着替えなどを済ませ、1階へ。

  「おはよう…あれ、どうしたの?」

  父の[[rb:純一 > じゅんいち]]と母の[[rb:幸江 > ゆきえ]]は新聞を覗き込み、不安げな表情を浮かべていた。

  「永雄、おはよう。これを見てくれ。」

  紙面を見た栗田くんは、驚きのあまり心臓が止まりそうになった。

  「ええっ、何だって!?」

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  [chapter:絶望する栗田くん]

  該当記事の文面を要約すると、次のようになる。

  「前代未聞の巨大隕石発見

  日本時間で本日21時頃、地球に衝突予想

  地球滅亡の確率は99.9%」

  「昨日の夜発見されたから、まだ対策もできていないのよ。しかも、この近所に落下するみたいなの。」

  「これは夢だ!夢に違いない!ぼくはまだ夢の中にいるんだ!」

  腕をつねったが、目は覚めない。

  「いてっ!…いや、痛みを感じる夢かも…」

  「夢じゃないわ。悲しいけどこれは現実なのよ。」

  栗田くんは絶望して泣き出した。

  「そんな…ぼくはまだまだやりたい事があったのに…」

  父親が語りかける。

  「永雄、世の中には終わりのない物などないんだ。

  大昔に地球上で繁栄した恐竜たちだって、隕石の衝突で滅亡した。ケモノの時代にも終わりが来たんだよ。」

  しかし彼は泣き止まない。

  「この家も、学校も、あれもこれも今日の夜にはなくなっちゃうんだ!そんなの絶対に嫌だー!」

  両親がなだめても無駄だった。朝食の味もほとんどわからないまま飲み込み、自分の部屋に閉じこもってしまった。

  栗田くんはベッドを涙で濡らしていた。

  (ううっ…相撲の道を極めたかったし…海外旅行もしたかった…でもそれもできないなんて…)

  その時、インターフォンが鳴った。1階から母親が呼ぶ。

  「永雄、稲荷山くんが来たわよ!」

  (稲荷山くんか…どうせ今日が最後なんだし、会っておくか…)

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  [chapter:大上区最後の日]

  涙をこぼしながら玄関へ。太ったキタキツネの[[rb:稲荷山 紺助 > いなりやま こんすけ]]くん(栗田くんとは親友同士のクラスメイト)が立っていた。

  「稲荷山くん、もう二度と会えなくなるなんて寂しいよ…」

  「栗田くん、泣かないで。最後の日も笑って過ごそうよ。」

  「こんな状況で…笑えるわけないよ…」

  「世界が終わるからと言って泣いていると、最後の日を悲しく過ごすことになるよ。

  この町も今日で見納めだから、最後に見ておこうね。」

  「そうだね…」

  栗田くんは靴を履き、稲荷山くんと共に玄関を出た。

  2匹は住宅街を歩き、ケモノ小学校埼玉校の前へ。土曜日のため校門は閉まっている。

  「栗田くん、毎日給食が楽しみだったよね。」

  「でも給食はもう食べられない!」

  「…勉強はちょっと難しかったけど、楽しかったよね。」

  「でも勉強ももうできない!」

  「…相撲部は何よりも楽しかった。一番の思い出じゃないかな。」

  「でも相撲ももうとれない!うわーん!」

  稲荷山くんは思い出を語り合おうとしたが、栗田くんは一向に泣き止まない。

  15分ほど歩き、大上駅の近所へ。この辺りには高層ビルや商業施設が並んでいる。

  道路では渋滞が発生し、駅構内も大混雑。各所でケモノたちが騒いでいる。

  実家に帰るため急いでいるヒグマの男性。泣く娘をなだめるカワウソの母親。

  栗田くんはそれらを見てますます恐ろしくなり、一層激しく泣き出した。

  「ああ、今日で本当に何もかも終わりなんだ!信じられないけどこれが現実なんだ!」

  「落ち着いて、栗田くん。他の場所も見ておこうよ。」

  次に向かった場所はキャッスル・オブ・フード。世界各地の料理が揃う食べ放題レストランで、建物は城を模している。

  5月の開店以来、栗田くんは月に2回のペースで訪れている。稲荷山くんも数回訪れた。夏休みには両家合同で訪れた事もある。

  今日は入り口に長蛇の列ができている。

  「これは入るの無理だね…」

  「最後に行きたかったな…」

  「まあ、建物だけでも目に焼きつけておこう。」

  その時、列の中から声をかけられた。

  「おっ、栗田と稲荷山じゃないか!」

  そこには狼の[[rb:大木 上 > おおき かみ]]くん、キタキツネの[[rb:近藤 四楠 > こんどう ふぉくす]]くん、ハイエナの[[rb:左 八一 > ひだり やいち]]くんが並んでいた。

  全員が6年生で、かなり太っている。特に近藤くんは相当な肥満体で、ケモノ小学校埼玉校の児童では最重量だ。

  「君たちも食べにきたのか?」

  「いや、ぼくたちはただ散歩をしてるだけだよ。何時間ぐらい並んでる?」

  「もう2時間半は並んだよ。この分では入店は午後かな。」

  「それじゃあ、かなり時間を無駄にするんじゃない?」

  「まあ、そうなるだろうね。でもこれでいいんだ。」

  「最後に3匹で思いっきり食べるんだぜ!」

  「この腹がいっぱいになってもまだ食べ続けるつもりだ!」

  「そうか…君たちは世界の終わりが怖くないの?」

  「そりゃ怖いけど、最後の日を楽しみたいんだ。」

  「1日を恐怖に震えていちゃもったいないよ。」

  「ああ。今日はがっつり食うつもりだぜ!」

  それを聞いた稲荷山くんは言った。

  「ほら、栗田くんも泣き止みな。」

  「わかった…」

  2匹はその後も各所を訪れ、同級生たちと出会った。

  大上スピードシティ近くのビルには、図書館が入っている。そこでは白うさぎの[[rb:場丹井 姫子 > ばにい ひめこ]]ちゃんが小説を読んでいた。

  「この本、すごく読みたかったの。だから今日読んでおこうと思ってね。」

  近くの公園では、白猫の[[rb:金子 真里 > かねこ まり]]ちゃんと太った黒猫の[[rb:猫山 苗太 > ねこやま びょうた]]くんが日なたぼっこをしていた。

  「最後の日だから、太陽の光を浴びておこうと思ったの。気持ちいいわ…」

  「ぼくも真里ちゃんと一緒に過ごせて幸せだよ。最後の思い出にぴったりだ!」

  ウルフデパートのおもちゃ売り場では、ぽっちゃりしたアライグマの[[rb:新井 楽 > あらい らく]]くんが大量のおもちゃを買っていた。

  「最後の日だから、お金をみんな使うんだ!お小遣いも貯金もありったけ使ったよ!今日の午後はこれで遊びまくるんだ!」

  それらを見るうち、栗田くんの心境が変わってきた。

  「なんだ、みんな怖がっていないじゃん!ならぼくも楽しまなきゃ!」

  「そう、それでこそいつもの栗田くんだよ。」

  彼からは次第に恐怖が消え、帰宅時には既に泣き止んでいた。

  [newpage]

  [chapter:笑顔の戻った栗田くん]

  「ただいま!」

  笑顔で帰宅した栗田くんを見て、両親は安堵した。

  「永雄、やっと落ち着いたようだな。」

  「うん。最後の日も楽しく過ごすぞ!」

  「良かったわ。昼食ができたわよ。」

  「今日はオムライスだぞ!」

  「オムライス?やったー!」

  栗田くんは隕石のニュースを知ってから、初めて素直に喜んだ。

  「いただきまーす!」

  一家は食事の間に、様々な事を語り合った。

  「ねえ、ぼくが生まれたときってどんな気分だった?」

  「ああ、初めての子供だったから親戚一同で喜んだよ。

  そして『長く生きるように』という思いを込めて『永雄』と名付けた。お父さんが命名したんだぞ。

  10年しか生きられないなんて、その時は思いもしなかったよ…」

  「いいんだ。短い一生かもしれないけど、ぼくにとっては長く感じられたよ。

  この世に生まれ、いろんなケモノと出会い、いっぱい遊んで食べて勉強した。満ち足りた一生だったよ。」

  「そんな風に考えられるなら幸せだな。」

  昼食が済んでしばらくすると、電話がかかってきた。栗田くんが受話器を取る。

  「はい、栗田です。」

  「こんにちは。[[rb:雪見 > ゆきみ]]カトリーヌ[[rb:理沙 > りさ]]ですわ。」

  相手はホッキョクギツネの理沙ちゃんだった。

  「理沙ちゃん、どうしたの?」

  「世界が終わるから、今日の夜に晩餐会を開こうと思いますの。良かったら6時半ぐらいに来てくださらない?」

  「いいね!家族で行くよ!」

  通話を終えた彼は、早速両親に伝えた。

  「いいじゃないか!」

  「最後の思い出ができるわね!」

  「ぼくも嬉しいよ!最後においしい物が食べられるからね。」

  [newpage]

  [chapter:最後の晩餐]

  18時15分。栗田一家は自宅の部屋をすべて周り、玄関へ向かった。

  「もう、この家に足を踏み入れることはないんだね…」

  「そうだな。ここで暮らした日々は長いようで短かった…」

  外に出ると、空には星が輝き始めていた。

  「あの星のどれかが、もう地球に迫ってるんだね。」

  「そうだな。あと3時間もしないうちにケモノの歴史は終わる。」

  「数千年の歴史の終わりがすぐそばで見られるなんて、最後の思い出にぴったりね!」

  18時半ちょうど、雪見家に着いた。

  「栗田家の皆さん、ようこそいらっしゃいました。こちらへどうぞ。」

  執事のグリムズ・スカンダー(イギリス出身のスカンク)に案内された大広間では、理沙ちゃんとその両親(父のフィリップ・ルナールと母の雪見 すみれ)、真里ちゃん、猫山くん、稲荷山くんと妹の[[rb:万梨阿 > まりあ]]ちゃん(3年生)が待っていた。

  3匹のホッキョクギツネは換毛が進んでおり、白黒のまだら模様になっている。

  「栗田くん、最後の思い出を作ろうね!」

  「うん!ところでみんなは子供だけで来てるの?」

  真里ちゃん、猫山くん、稲荷山くんが順に答えた。

  「私のお父さんとお母さんは、弟と一緒におばあちゃんの家に行ってるのよ。」

  「ぼくのお父さんとお母さんと弟は、最後は家で過ごすって。」

  「ぼくのお母さんは、単身赴任中のお父さんと電話するんだ。」

  雪見家を初めて訪れた純一と幸江は、室内を見回している。

  「すごい豪邸だな…」

  「最後の思い出作りにぴったりね!」

  しばらくすると、シェフのラトン・ラブーシュ(フランス出身のアライグマ)と6匹のメイド(白猫、白うさぎ、アライグマ、レッサーパンダ、キタキツネ、カワウソ)がワゴンを押しながら入ってきた。

  「さあ皆さん、ごちそうをどうぞ!」

  ワニ肉ステーキ、七面鳥の丸焼き、カレーライス、ブイヤベース、刺身、稲荷寿司、餃子…何種類ものごちそうが、次々と料理用テーブルに並べられた。

  「ありったけの食材を使って、今朝から作ったんですわよ。」

  「皆さん、最後の晩餐のためにありがとうございます。」

  「ぼくたちはこの料理をおいしくいただきます。」

  栗田くんと稲荷山くんは理沙ちゃんにお礼を言ったため、成獣たちは感激した。

  「なんと感心な子供たちだ…」

  「やはり、食への意識が強いようだ。」

  「いただきまーす!」

  最後の晩餐が始まった。今日はスカンダーやラブーシュ、メイドたちも一緒に食べている。

  「スカンダーさんは執事になって楽しかったですか?」

  「もちろんです、栗田様。私は雪見家のためによく働きましたが、もうそれもできませんね。

  今日はロンドンの家族とリモート通話をしましたが、やはり生で会いたかったですね…」

  時刻は19時。隕石衝突まであと2時間だ。

  もう誰も怖がらず、様々な思い出を語り合った。

  19時半には、すべての皿が空になった。

  「さあ、お次はデザートです。」

  10分ほどして、デザートが運ばれてきた。ケーキ、ビスケット、ドーナツ、シュークリーム、クレープ、紅茶、ジュース…またしてもかなりの量だ。

  「さあ、最後だからたくさん食べるぞ!」

  「私も思いっきり食べるわ!もう体重なんか気にしなくていいわね!」

  普段は小食の真里ちゃんも、デザートを頬張った。

  20時45分には、デザートの皿もすべて空になった。

  「ああ、お腹いっぱいだ。これで思い残す事はもうないよ…」

  栗田くんは大きく膨らんだお腹をなでた。

  「ぼくももう食べられないけど、もうお腹に入れる事もないから安心だ!」

  稲荷山くんがお腹を叩くと、特大のげっぷが出た。

  「ちょっと、お行儀悪いわよ!」

  「真里ちゃん、最後の日ですから少しは寛容になりましょうよ。」

  真里ちゃんと理沙ちゃんも、服がきつそうだ。

  猫山くんや万梨阿ちゃんも、パンくず1つ入らないほどお腹に詰め込んだ。

  もちろん成獣たちも例外ではなく、スカンダーは服のボタンが弾け飛んでしまった。

  [newpage]

  [chapter:ついに時が来た]

  「あと10分ですわよ。」

  一同は理沙ちゃんの案内で、3階の部屋に向かった。大型の望遠鏡が用意されている。

  初めに理沙ちゃんが覗いた。

  「もう近くまで迫っていますわよ。皆さん、交代で覗きましょう。」

  「すごい…」

  栗田くんは息を呑んだ。巨大隕石が迫ってくる。

  「みんなも見てよ。こんなの1回しか見られないよ。」

  全員が次々と覗いた。

  「これは美しいわ…」

  「なんて綺麗なんだろう…」

  「最高の眺めですわ…」

  「ああ、ロンドンの家族にも生で見せたかった…」

  20時55分、隕石は肉眼で見える大きさになった。

  「みんな、最後は手をつなごうね。」

  栗田くんの提案に、全員が賛成した。

  隕石衝突まで残り3分。全員が同じ事を考えていた。

  (この地球に生まれて、幸せでした…)

  しかし、衝突の瞬間は恐ろしい。栗田くんは恐怖で目をつぶった。

  しばらくして、轟音が響いた。

  何もかもが一瞬のうちに砕け散り、すべての大陸が破壊された。

  地球は粉々に破壊され、ケモノの歴史は終わりを告げた。

  [chapter:ケモノ小学校埼玉校 完]

  …となるはずだった。

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  [chapter:奇跡]

  しかし、衝突音が聞こえない。

  栗田くんが恐る恐る目を開けると、隕石は軌道を変え、地球を逸れていった。

  「どうしたんだろう?」

  「でも待って。考えてみてよ。軌道が変わったという事は…」

  「そうか、地球は救われたんだ!」

  これには全員歓喜した。

  「稲荷山くん、明日からも遊べるね!」

  「また学校にも行けるし、友達にも会えるよ!」

  「相撲もまたできるね!」

  「私もロンドンの家族に会える!」

  「でもどうしてああなったのかしら?」

  「まあいいじゃないの。救われたのよ!」

  その瞬間は、世界中が喜びに包まれた。

  しかし、真里ちゃんと理沙ちゃんが表情を変えた。

  「待って、こうなるならあんなに食べるんじゃなかったわ…」

  「私もですわ。たくさん運動して、カロリーを消費しないと…」

  栗田くんがフォローする。

  「いっそのことぼくたちみたいな体型になったら?そしたら女子相撲部を作ってもらうように頼んでみるよ。」

  「私は太りたくないのよ!もう、栗田くんったら!」

  「いや、冗談だよ…」

  これには全員が笑い、つられて栗田くんと真里ちゃんも笑った。

  後で判明したが、かなり小さな隕石も少し遅れて地球に向かっていた。それが大きな隕石に衝突し、軌道修正を起こした。

  小さな隕石は跳ね返って地球に落下したが、海の中心に落ちたため大きな被害は出なかった。

  [newpage]

  [chapter:エピローグ]

  それからしばらく、ケモノ界は隕石の話で盛り上がっていた。

  栗田くんや稲荷山くんなどは、休み時間の度に隕石の事を周囲に話す羽目になった。

  「もう何回話しただろうね?」

  「ぼくもだよ…でも良かったね!」

  「うん。奇跡って本当にあるんだね!」

  「これからも相撲ができるし、食事もできる。そして何より親友の栗田くんと一緒にいられる!」

  「ぼくも同じ気持ちだよ。」

  栗田くんと稲荷山くんは、お互いに友情を確かめ合った。

  [newpage]

  一方、新井くんは号泣していた。

  「ああ、ぼくはなんて事をしてしまったんだ!おもちゃはたくさん買えたけど当分は金欠だよー!」

  [chapter:おしまい]