前回までのあらすじ
闇バイトで知り合い、東京の赤坂で宝石店強盗を働いた菊田貴(きくた たかし)、米山(よねやま)みちる、呉茂夫(くれ しげお)。3人は警察の追跡から逃れるうちに、「卯道(うどう)遺伝子研究所」という施設にたどり着く。卯道遺伝子研究所では、所長の卯道辰夫(うどう たつお)と助手の林藤禎子(りんどう さだこ)が人間から動物に変身する技術を開発していた。卯道は3人に、強盗の時効が成立するまでの10年間、自信が開発した「オーダーメイド変身薬」で動物の姿で過ごすことを提案する。3人は卯道の提案を呑む。
・・・卯道からの提案から一夜。変身の時がやってきた。オーダーメイド変身薬のため、どの動物に変身するかは変身するまで不明であり、変身する動物同士で捕食する可能性があるため、変身はそれぞれ別の時間と場所で行った。
まず、変身するのは菊田だった。
「10年逃げ切ろうぜ」呉はねぎらいの言葉を書ける
「辛いかもしれないけど頑張ってね」みちるも声をかける
「う、うん。みんな元気でね」菊田はたどたどしく答える。
2人と別れた後、菊田は今までの人生を振り返っていた。
あれは1年前。大学卒業が迫っていながら、進路について何も考えてなかったときのこと。たまたま見たSNSの広告で「日給3万円」の広告を見て、世の中にはこんな楽な仕事があるのかと思い応募した。実際は、単に世間知らずなだけだった。最初は段ボールやバッグを運ぶだけの仕事だった。後に中身は銃器や違法薬物と知らされた。高齢者からキャッシュカードを預かる仕事をした際、「この国の高齢者は金を全く使わない。俺たちは金を使わせて経済を良くしているんだ」と上司から言われたのを鵜呑みにした。そして、あの宝石店強盗だった。まさか顔写真まで出回っているとは。これから家族はどうなるんだろう。そして、これから動物に変身する自分はどうなるんだろう。
変身の時間がやってきた。変身薬は、注射器に混ぜられ注入するタイプだった。
「では始めるぞ」
菊田は白い布のような服に着替えた
禎子が菊田に変身薬を注入する。早速身体に変化が起きる。尻に突起物ができ、するすると伸び始める。尻尾はまるでもやしのようだ。尻尾には白い毛が生える。尻尾が生えると尻の周辺に白い毛と黒ぶちの毛が生え始める。白い毛と黒ぶちの毛は脚から下に、腹から上に生え始める。
「これは。。。犬?猫?」菊田は声を漏らす。すると
「んっ、んん...!」菊田の耳に信じられないような変化が起きた。丸形だった人間の耳は黒い毛で覆われ、薄く伸ばしたパン生地のようになる。平べったくなった耳は真っ黒に染まり、頭頂部に移動する。
「これはもしかして、ダルメシアン...?」菊田は変身する動物が分かったようだ。
しかし、身体の変化は止まらない。白く、黒縁の毛は腕と足を覆い、ふさふさとしてきた。手の甲まで到達すると、指は太く短くなり、互いに密着する。手のひらには肉球が形成された。腕もだんだん太くなる。
「ううわぁ!」足が逆向きに曲がり、前足と化した手で地面につく。足にも手と同じ変化が起きたようだ。
白く黒ぶちの毛は首に到達する。
「はぁ、はぁ、はぁおん」急な変化に耐えきれず、舌を出す。舌も犬特有の平べったいものに変わる。声も犬のものが混ざっている。
白く黒縁の毛が顔中に覆う。目や鼻は黒く染まり、鼻は丸形に変わる。鼻と顎は前へ前へと突き出る。顔は全体的に丸っこくなり、髪の毛は抜けるか頭になかに収れんされる。
菊田は身体のサイズ以外はダルメシアンに変身した。その後、身体のサイズはダルメシアンと同じものになった。
「わぉん」菊田はダルメシアンに変身した
「なるほど、菊田くんは犬、それもダルメシアンに変身したのか」卯道は驚きを隠せない
「遺伝子的に相性が良かったんですかね」禎子がフォローする。
ダルメシアンになった菊田は地下の実験場から、洞穴に通じるトンネルを通じて研究所を出た。
「では、また10年後に!」卯道が声をかけ、禎子が手を振る
「わん!」菊田は尻尾を振り、その場を後にした。
菊田はその後、山中をさまよっていた。数日間、川の水と木の実で食いつないでた。
そしてある日
「○○号、その調子だ!」男性の声がする。
菊田は声のする方へ向かった。すると、グラウンドで多くの犬、障害物をよけたり、「おすわり」の練習をしている。別の犬は人形に向かって突進している。すると二人の男性が菊田に駆け寄る。
「部長、これ、どこの犬ですか?」若い男性は尋ねる
「分からん。でも、43号が失踪したからちょうどいいかもしれません」中年男性は応える
「ちょうどいい、これを43号の代わりとして警察犬にしよう」
「ワ、ワンワンワン!(そ、そんな!)」菊田は吠えて抗議するも、通じるはずがない。
この施設は警察犬を養成する施設だった。かくして、菊田は警察犬「ロバート」として日々を過ごした。人間の言葉を理解できるため、ロバートは重宝され、数々の訓練や試験にも合格した。
そして、ロバートは警視庁に移動した。
「俺が警察犬とバディを組むのか?」警視庁の刑事、国松時貞(くにまつ ときさだ)は不満を隠せない。国松は動物が苦手だ。
「いや、ロバートは人間の言葉が100%理解できるので、国松さんでも大丈夫ですよ」後輩の刑事はそう返す
「”でも”ってことはないだろう!」国松は後輩の物言いに不満げだった。
しかし、ロバートは国松に従順で、すぐに打ち解けた。家宅捜索や犯人の追跡など、ロバートは数々の功績を立てた。
そして、とある暴力団のガサ入れに国松とロバートは同行した。ガサ入れを行う暴力団は闇バイトで荒稼ぎしているらしい。
暴力団のビルで国松とロバートは見張る。
「ロバート、行け!」国松は指示を出す。ロバートは偵察に出る。犬の姿になってから嗅覚や聴覚がよくなった。
「え、もう辞めたい?お前はもう一線を越えたんだ!」
窓から、聞き覚えがある声がする。
「言われたとおりにキャッシュカードをあの爺さんから持ってこい!」
忘れはしない、自分に闇バイトの指示を出した男、通称「バトラー」だった。今もこうして自分のような若者を闇バイトに勧誘しているのだ。
「(許せない...)」ロバートは怒りに震えた。
「ロバート、異常はないな?」国松が確認し。ロバートはうなづく。
「部長、突入の許可を!」国松が指令を促す。
「突撃!」その一言で、警察が暴力団のビルに押し入る。ロバートと国松も中に入る。ビル内は警察と暴力団の乱闘が始まっていた。ロバートは国松を大丸がいた部屋に導く。
「ロバート、どこに行く!...ってお前は...!」国松もバトラーの存在に気付く。
「これでも食らえ!」バトラーは国松にショットガンを向け、引き金を引こうとする。
「ワォーン!」ロバートがバトラーに突進し、腕に噛みつく。ショットガンの弾は天井に当たった。
バトラーら暴力団幹部は逮捕され、彼らが行った闇バイトの実態も明らかになった。危険を試みず、バトラーに突進したロバート、そして逮捕した国松は警視庁内外でヒーローとして讃えられた。
一方、卯道遺伝子研究所では、別の実験が行われていた。禎子はクリームを鼻に塗っている。
「先生!やはり嗅覚が鋭くなりました!」禎子は報告する。
「やはり、部分獣化クリームは成功だったか」
「警察や災害救助とかにも役立ちますよね...ってあれ?」禎子が異変に気付く。
「嗅覚がさらに高まってる....って変身が進んでいる!?」禎子は鏡を見る。鼻が黒ずみ、三角形から四角形に変わる。鼻と口は前へ真へと突き出る。
「まさかクリームの成分を鼻から吸い込んだからじゃ...」禎子は勘繰る。しかし、変化は続く。
顔には黒い毛が生え、頬には茶色い毛が生える。瞳は茶色に染まる。耳は三角形になり先端がぴんとなりながら、内側は茶色に、外側は黒くなり、頭頂部に移動する。首の表は茶色、うなじを含む裏側は黒い毛が生える。
手のひらも黒ずみ指は太く、密着する。手の甲は茶色の毛で覆われ、腕も同じく茶色の毛で覆われる。手は一つの塊のようだ。足にも同じ変化が起こる。
「あうぉん!」犬の鳴き声が混じった叫び声をあげる。足の間接がカクリと曲がり、両手、いや前足を地面につける。黒い体毛は背中や腹部を覆う。尻に黒い体毛が到達すると短い尻尾が生える。足はつま先立ちになる。
禎子の身体はやがて、ドーベルマンと同じ大きさになった。
「やはり、獣化する成分が多すぎたのじゃな。成分を希釈する必要があるな」卯道は結論付けた。
程なくして、禎子は変身解除薬を飲み、人間の姿に戻った。
研究が終わり、二人はテレビを観ていた。すると
「あれ、もしかして菊田くんじゃないですか?」禎子がテレビを指す。テレビニュースでロバートが暴力団摘発に貢献したと伝えている。
「本当じゃな。まさか、警察に追われる身から追う身になるとは」卯道が皮肉めいたコメントを漏らす。
一方その頃
「ロバート、よくやったぞ!お前の勇気ある行動で暴力団は摘発され、闇バイトのネットワークも解明された」国松は讃える
「ワンワン!」
「でも、赤坂での闇バイト強盗はどうなったんだろう?暴力団側も宝石と売上金を受け取ってないというし、あの三人組の行方は未だに分かっていない」
「(まさか警察犬になっています、なんて言えないよ...ほかの二人はどうなっているんだろう)」
続く