病院の外に出ると、迎えの車が止まっているのが見えた。
俺が出てきたのを見て、千秋さんの部下で専属秘書の清水さんが傘を差して迎えに来る。
「お疲れ様です。
…本日もご自宅でよろしいですか」
ぼんやりと歩き始めた俺に合わせながら歩く、清水さんに聞かれる。
「……(コク)」
今声を出せる気がしなくて、ただ小さく頷くと、清水さんは俺が座ったのを確認して後部座席のドアを閉めた。
「かしこまりました。
では、ご自宅まで送らせていただきます。」
雨の音が鈍く響く車内で、俺はただ窓に流れる雨粒を見ていた。
やがてそれにも疲れ、瞬きをする。
信号待ちで止まった車の外で、俺と同じ制服を身に纏った高校生が騒いでいた。
なんでもない風景。
俺も、この前まで、当たり前に人生を送っていたんだ。
同じ道を同じ制服で歩いていた。
なのに、ある日突然、世界は俺達に背を向けた。
なぁ、何でだよ
どうして千秋さんなんだよ
何で俺じゃないの
俺が事故に遭えば良かった
俺が昏睡状態になって、俺が記憶喪失に…
全部全部俺なら良かったのに
そしたらこんなに苦しい思いをすることもなかったのに
視界が滲んで、俺は靴を脱ぐと膝を抱えて顔を埋めた。
視界を塞いだら、頭に声が響いた。
『記憶喪失だ。』
『少し、臓器の機能が下がってる』
『それはさ、パートナーが目覚めた時に渡してあげな。
きっと喜ぶよ』
『…昏睡状態です…』
『──……ごめんね、君は…誰かな…?』
「っ……うぅ…」
千秋さんの言葉は、俺の心に突き刺さった。
どうしたら良かったのだろう。
何が正解だったのか。
俺は、どうすれば良かったんだ…
俺の小さな泣き声を隠すように、雨音は大きくなっていった。
続く