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何者かには成りたくて、足掻いて気づく欠けた素養。
傍観者のままはイヤだな、面白そうなこと見つけては巻き込んで来たってのに。二人共しおらしくなりやがって急に張り詰めた空気に薄目を開けて見ていたら面白そうなこと俺だけ知らない体で進めているなら何事もなくうんざりしている日常を晴らしたい。町の中心部から離れた家へ大股に歩く、緩やかな坂を上る道中も苦手なりに考えてるんだからきっと変えられる、ハズ。
「危ねぇ」ぶつかりそうになったカーブミラーに映った連なる山々。開けた視界に遠く佇む嶺が朱く染まるまで二人と遊んでいた日々が忘れられない。あの時から俺には無い目標を持っているのにあいつらがこんな途中で腐るワケないもんな、そこに俺が居なくても何とかなるだろうしきっと先走った俺の思い過ごし。
重い玄関の扉を押し開け「ただいま」と声を掛けても返事は無く、代わりに聞きなじんでしまった重低音が迎え入る。親父の趣味で並ぶレコードジャケットを横目に通りリビングに踏み入っても誰も居ない、きっと兄貴は自室に籠っているだろうしお互いに距離を取った方が気楽だろうな。いつも通り食卓に置かれた夕飯を頬張って食器の類を水に漬けたら浴室直行。
濡れるのはイヤだけど朝は限界まで寝たいし今夜は寝れるかもしれないから、面倒でありきたりなものも剥ぎ取るように元から気崩していた制服も脱ぎ去って。裸になりシャワーヘッドから降る生温い水滴が縞々に走る支流に注ぎ込む。共用のシャンプーを泡立てる傍からすすいでいって、段々と満ちてく白い湯気はやがて短いマズルから伸びる髭を雫と伝って落ちる。
「あ」照明を受け輝き落ちるそれを追って下がる視点。太々しくブラブラした尻尾と対照的に下腹部についた芽、運動はしていないのに種族の特性か日に日に大きくなっていく体にそぐわないようにも見える。
「まだ高一だし…大きくなるよな……」ひとりごと、つい呟いて急に顔が熱くなれば「誰も見てないし」と続け冷水に変えたシャワーを頭から被って良く育つように『芽』にも水を掛けてやる。頭を冷やしてぐっしょりと濡れた被毛を何とかしようとブルブルと身震いしバスタオルで執拗に拭う。ドライヤーで熱風を潜り込ませて乾かしてみるけど、肉球の隙間は毛質も違って中々乾かないし。じっと見つめているとザリザリと水気を舌で舐めとった方が早い。
ついでに顔も毛繕いしてやってフキゲンな気持ちもゴキゲンに、喉をゴロゴロ鳴らしてしまう。くしゅん!とくしゃみして鼻を鳴らせば、はと気づく裸の自分。パンツだけ履いて自分の部屋へと歩く。
部屋に入るなり襲う偏頭痛は今に始まったことじゃない。決して薄くは無い壁越しに今も響く重低音、歪ませうねるベースラインは物心つく頃から聞き慣れている。けど、実際にベースを練習しだしてわかった。初心者と上級者の溝は広く深い。
部屋の隅に置いた青縞のベースもきっとこの偏頭痛の素、高校入学直前リビングに置かれていたこいつを少し伸びすぎた爪で弦を弾いて遊んでいたら音も無く兄貴がやってきて「もう俺には要らないからやる」と譲られたもの。左手で弦を押さえて右手の指かピックで弾くといっても弦を押さえるだけでも一苦労で、押さえる指はガサガサと硬くなり指で弾いていた右手も金属弦を弾く繰り返しで毛が抜けてしまった。
途中から昔一狼に貰った石の欠片をピックに使ってみていても跳ね返りが強くて押弦が逃げる。同じ屋根の下で憧れて始めても成長しない、努力したらその分確実に結果が欲しいから楽器や勉強よりゲームに引かれるそんな考え。
ベッドに身を投げ出して、スマートフォンを弄ってみると特段中身の無いクラスメイトのメッセージが溜まってる。さっきカラオケに入ってすぐにSNSに投稿したウチアゲの写真、『相手は~?』とか『俺も行きたかったけど金無かったわ』とか聞いてもいないけど投げ込まれる言葉に一つ一つ「ひみつ」とか中身の無い言葉を宛がってやる。
……ホント何やってんだろ、俺。俺も独りにはなりたくないけど、高校で新しくできたツレなんて目標も無ければ俺に依存している訳でもなくただ群れの中にいる安心感に包まれたいだけなのに。『普通の高校生』から這い出したくてベース弾いたり面白そうなことに巻き込んで来たってのに。渦巻く悩みと定まっていない目標への確かな壁、脈打つ度に刻む痛み。
「眠れない」そんな毎晩、照明落とした天井はいつだったかのプラネタリウムに映し出された偽りの星が張り付いているんじゃ無いかって目を擦っても見えないし。意識を手放しても、ものの一時間で目が覚めるならあまり意味はない気がする。そして夜は明けて行く。
歩いて通える通学路は平坦で面白みが無い。歩く速さでじわり進む進捗は諦めなければ成果で諦めた途端通学拒否。努力は実るまで続けなければ努力と呼べないなんていう成功者サマの戯れ言に付き合っていられるほど従順では無い。
遅刻間近に校門を通り、教室に着いたら昨晩やりとりしていたツレたちが肩を叩いてくる。中学までの『陰気な俺』とは違って誰でも声を掛けてくるようなムードメーカーを演じてると結局誰でもいいその場繋ぎのムードメーカーになるってワケね。名前と顔も覚えてないけどそれはお互い様。
注意を放棄した国語の授業は静かに一コマ丸々眠れて満足。なんだかしょぼくれてる鷲己の奴にちょっかいついでに寝場所を提供してもらおうか、あいつの席は日差しが良くて寝付きが良いからな。元気は無いから適当にあしらって意識を手放した次の瞬間尻尾から走る電流。こんなに力強かったっけ、遠慮する余裕も無かったのかもな。
放課後、音楽室の横を通り過ぎてついつい科学部室に足が向く。あそこには兄貴が居るもんな、どうも比べられるのがイヤで科学部室は落ち着く。図書室と違って薬品臭が消えないけれど特に干渉する奴は居ないし例外も嫌いじゃない。あれ以降視野が狭くなっている一狼をからかうのも飽きてきて、わかりやすく項垂れているからどう引き合わせるかな。
そんな時、人一倍鋭敏な耳が聞き覚えのある足音を拾って口の端が吊り上がる。すぐ近くのこいつもどうやら気づいたようで獲物か何かを求めて走って行った。
入り口で醸された空気に確信をもって笑いをこらえるのもやっとのまま、むくりと体を起こして近づいていく。思った通り向き合って固まっている腐れ縁二人に飛びつき両手でそれぞれの肩に手を回す。
「楽しそうじゃん、俺も混ぜてくれよ」
退屈な日々を覆してくれそうなイベントに目ざとく俺、参上ってね。
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