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ラバーマジシャンのマジックショー【FANBOX試し読み】
[chapter:サンプル]
「……道に迷っちまった」
カラフルな装飾が彩られた煌びやかな空間。そんな場違いな空間に、不良高校生の砂木慎治(すなぎ しんじ)はいた。
彼は日中でも改造した学ラン姿でいるようなこの時代ではやや錯誤気味な男だった。当然ながらハロウィンのようなお祭り事にこぞって参加するような人間ではない。
彼はデパートで服を買うために不良仲間数人と待ち合わせをしていたのだが、時間になってもなかなか来ないため、適当にデパートの中をふらついていた結果、ここに辿り着いたというわけだ。いや、迷い込んだというべきか。
「裕也も宏一も電話出ねーし、適当に歩き回るしかねーなぁ。ま、まだ来てない可能性あっけど……」
持っていたスマホをポケットにやりながら、慎治は『ハロウィンセール』と看板の書かれたコーナーを暇つぶしついでに歩き回る。
そこにはパーティー用の飾り付けやら仮装用のコスプレセットやらが置かれており、どれもそこそこの値段をしていた。
「誰が買うのかね、こんなの」
値札を見て鼻で笑う慎治。大人になっても仮装をして街を歩く人々をこの時期は毎年見かけるが、慎治はそれをガキ臭いと一笑に伏して相手にしなかった。
「こんなんに金使うなら服とか財布買った方がいいだろ。学校でもハロウィンごときに騒いでる奴らばっかだし……ほんとくだらねぇ」
小さな声で悪態をつきながら歩く慎治。この能天気なお祭りムードが、待っていてもなかなか来ない友人達の事が、慎治はイラついて仕方がなかった。
「ちっ!」
慎治はイライラが抑えきれないまま、そのエネルギーを店内の棚にぶつけた。グラグラと揺れ中の商品が一つ二つと床に落ちる。その様子を見て少しだが慎治は自分の中のイライラが消えていくのを感じて満足した。
「ふん、別んとこ行くか……ん?」
その時、棚から落ちた商品に慎治は目が行った。それは真っ黒な色をしたシルクハット。光沢のあるオレンジ色のリボンがあしらわれたものだ。拾い上げてタグを確認してみると、『マジック用シルクハット』と書かれていた。
コスプレ用グッズの類いかと慎治はシルクハットを床に投げ捨てようとした。
(……おかしいな。こんなモン、どうでもいいはずなのに)
慎治はそのシルクハットを何故か手放すことができなかった。シルクハットとは名ばかりで、それはシルクではなくゴムで作られており、リボンもプレゼント包装用のどこにでもある物。そのせいか値段も500円きっかりと、明らかに粗雑なる物であるはずなのに、だ。
慎治はそのシルクハットがいやに魅力的な物であるように思えていた。この世のなによりも高価で貴重で今すぐこの手に取っておきたい代物――安っぽいコスプレグッズであるはずのシルクハットを慎治はそう感じるようになっていた。
(いや、おかしいだろ。こんなクソみてーなシルクハット、誰が欲しがんだよ)
「お会計、500円になります」
「……何で俺はこれを買ってんだ」
今、自分が手に持っている袋を見て慎治は自嘲した。自分の頭を疑ったし、その袋に入っているのはどう見てもあのシルクハットだ。ハロウィンどころかコスプレにすら興味のなかった自分が、どうしてこんな物を買っているのだと自分で自分に質問し続けたが、答えは返ってこなかった。
「……くそっ」
返品する気も起きなかったので、とりあえず慎治は明日にでもそれを売ろうとそれを持ち帰ることにした。その後も友人を待ったが結局来ず、イライラが残ったまま慎治は自分の家へと帰ったのだった。
――その日の夜。慎治の部屋。
「ふぅー」
部屋着に着替えた慎治は父親の部屋からくすねた煙草を吸いながら一人寛いでいた。中学の時に先輩から勧められてそれ以降イライラした日には煙草を吸うのが日課になっていた。
慎治はふと後ろに目をやる。そこにはデパートの袋。その中に入っているのは買った服や靴――それとシルクハットだった。
「ちっ!」
舌打ちをしながらシルクハットを壁に叩き付ける。バウンドして力なく落ちる子供のおもちゃのような黒帽子。そんなものを謎の衝動のまま買ってしまった自分に腹が立った。
「クソッ、これもハロウィンのせいだ……明日は腹いせに誰がぶん殴るか……」
心の中で未だふつふつと沸き上がる苛立ちを自分勝手にぶつける慎治。そんな彼は叩き付けたシルクハットを拾い上げて再び叩き付けようと空中に勢いよく翳した! ……と、その時、窓から一筋の夜風が吹いた。それが不思議なショーの始まりの合図だった。
「うおっ!?」
突如吹いた風に飛ばされたシルクハットは、偶然か必然か、狙い済ましたかのように慎治の頭へとふわりと被さった。慎治はそれに気付いて慌ててシルクハットを外そうとする。が……
「何だ、こりゃっ、何で外れねぇんだっ!」
そのシルクハットは慎治の頭からは決して離れようとしなかった。いくら力いっぱいに上に引き上げてもスッポリとフィットしたかのように頭に填まり外れなかった。数十分とシルクハットと格闘していた慎治は、シルクハットを外す事に夢中になっていた事により気が付いていなかった。
自分の部屋が、自分の周りの空間が、段々と結晶化して別の世界になっていっている事に――
服が、テレビが、机が、窓が、布団が、慎治の部屋の空間全てが次々と材質を変えていき、ガラスと紫水晶を掛け合わせたかのようなものへと変わっていく。その紫のガラス達は、中心にいる慎治を360°全て映すように配置され、慎治の視界はシルクハットを被った自分自身のみを映していた。
「くそっ……ここどこだ、どこを見ても俺ばかり……これはっ、鏡!?」
鏡に映った自分のみが映される部屋で、慎治はただ立ちすくむしかなかった。いつの間にか出口である部屋のドアも鏡に変わっており、開く事も閉じる事もできなくなっていた。もはや逃げる事も叶わない慎治は、ただどうする事もできずに、逃げ惑うしかなかった。
「なんだここっ……ここ、俺の部屋だったよな? それがなんでっ……いくら走っても道が続いてんだよぉ!?」
いくら走っても出口は見えず。目に映るのは鏡、鏡、鏡。光と闇が乱反射する紫色の空間を慎治はただ走るしかなかった。やがて彼は疲れ果て、その足を止めた。
「クソぉ!」
そして苛立ちのままいつものように目の前の鏡に怒りをぶつけた。叩き付けた拳を中心に、自身を映した鏡には罅が入った。鏡が割れたと思い少し気持ちが晴れた慎治だったが、それは間違いなのだとすぐ思い知らされる事となる。
「うおっ!?」
大きな罅の隙間から、紫色の眩い光が勢いよく放たれた。いきなり差し込んだ光は慎治の身体中を覆い、そして余す事なく入り込み、染み込んだ。これから慎治を人間の不良から作り変えるために。
「うっ……」
光が収まって間もなく、慎治は小さく呻いた。股間に違和感を感じたからだ。睾丸にかけてじんわりと熱くなっていき、自慢のズルムケのペニスは固さを持ち始めていた。
「やべぇ、チンコがっ……どうしてこんな時に……」
慌ててズボンとパンツをずり下げペニスを露出させる。その瞬間、ググ、とペニスは宙に向かって上りはじめ、その質量をさらに増していく。
脈動しながら少しずつ大きくなるペニス。その度に慎治の体に不可思議な劣情が沸き上がる。その手で、このペニスを、思い切り扱き上げたい衝動に駆られてしまう。
「ダメだ、こんなとこで……でもっ、ガマン……くそっ、なんだこれっ、やばいっ、どんどん大きくなるっ……!」
いつしか慎治は襲いくる生理的本能のまま大きく固くなり続けるペニスを握り扱きはじめた。グシュグシュと黒ずんだペニスを摩る度に先走りが溢れてきて慎治の興奮をさらに高める。
「おっ、おぉっ……そんな、こんな、ところで……うああああぁぁ……!」
力無い叫び声と共に絶頂を迎えた。腰が抜け地に膝をついてしまう慎治。反り上がるペニスからは真っ白な欲望の証がどぷどぷと溢れて地面を真っ白に汚していく。その量はいつも抜いている精液の量とは比較にならないほどに多かった。
「あっ、あっ、なんっ、これっ、まだ、出る……出るッ!!?」
全身をガクガクと震えさせ快感に喘ぐ慎治だったが、一度出したにも関わらずペニスの勃起は未だ治らない、どころかさらに勢いを増していくレベルで透明な汁を吐き出した。それから時間をかけずに慎治のペニスは再び絶頂を迎えた。
その液体は白ではなかったし、精液でもなかったのだが。
「うおっ、これっ、どういう、やめろ!」
鈴口から放たれたのは黒色の液体。しかも粘性と質量を持った全く別の物質であった。近しいものを挙げるとすればゴム。匂いも質感もそれとよく似ていた。その液状のゴムが慎治のペニスから次々と流れてくるのだ。当然驚いたのは本人だった。しかもその液体は地面に落ちた途端、意志を持っているかのように慎治の全身に張り付いていく。
「くそっ、離れろ! おぉ、うあ!」
そのゴムは慎治の全身を覆うと、着ていた部屋着にも芯まで染み込んでいく。そして首から下がゴム状の漆黒で満たされた瞬間、慎治の服がグニグニとまるでゴムのように伸縮して、その形状ごと変形していった。
「ふっ、服がぁ! くそっ、やめろぉ!」
全身を暴れさせながら変化に抗おうとする慎治。しかしその変化は止まる事なく進行する。いつの間にやらただのシャツだったものは、ネクタイをしっかりと締めた黒のタキシード、体育の授業で着ていたジャージもタキシードとよく似合う黒のスラックスへと変わってしまった。それに呼応するかのように手と足を覆っていたゴムが純白の手袋と漆黒の艶を持った革靴に変形して慎治の服装を整えた。
「クッ……クソッ! どうなってんだよ!」
一瞬にしてタキシード姿になった慎治は顔を真っ赤にして憤る。しかしその足は軽快なステップを踏んでいる。靴を鳴らして鏡の空間に乾いたリズムを響かせている彼の表情は怒りと困惑に満ちたものであった。対してその体自体は虚空に向かってポーズを取っておりどこか上機嫌に見える。そのアンバランスさは慎治の怒りをどこか滑稽なものに変換していた。
「ふざけんな! 戻しやがれこんなの……! ちくしょう、体が動かねぇ!」
悠然と鏡の前へ歩を進める慎治の体。どこからともなくステッキを取り出すと、鏡を二、三回軽くノックするかのように叩く。すると鏡は欠片となり、その欠片は小さなマスクとなる。慎治は宙に浮かぶマスクを手に取ると、そのまま慎治の顔向かって近付けはじめた!
「おい、何してる、やめろっ、やめてくれぇ!」
必死に叫び拒否する慎治。じわじわと顔に向かって近付いていく紫色のマスク。宝石のような輝きを放った金属製のマスクは、妖しげな魔力が感じられる。慎治はそれを身に着けたくなくて、必死に抵抗を続けた。マスクが視界に入る度にそれに身を委ねたくなってしまう衝動に駆られ、意識の輪郭がぼやけて溶融しそうになる。全身を走る心地よさによりタキシードの中のペニスが鎌首をもたげはじめてしまう。
「やだっ、やめ……うおおぉぉ!」
とうとう、慎治の顔にマスクが装着された。その瞬間、慎治の頭の中で快楽の花火が上がった。バチバチとまるで脳を焼き切ってしまうような強烈な火花が散る。喜び、楽しみ、気持ちよさ……そんな作り物の感情たちがカラフルな花火となって弾け、慎治の価値観を破壊し再生していく。
「うぁぁ、あぅう、おっ、んっ。おぁあぁ」
全身を走る快感により足腰の力が抜けガクガクと膝を揺らす。無意識にその足は軽快なタップダンスを踊り、その都度踵の音が辺りに響き渡っている。
ラバー製のスラックスに直に覆われた股座では、慎治のペニスが今までに見ない程大きく勃ちあがっていた。スラックスは彼のペニスにぴったりと張り付き亀頭の形までくっきりと表れている。コンビニで立ち読みしたセクシーなグラビアを見た時以上の勃起が今慎治の股間で起きている。
「おっ、あっ、んっ、出るっ」
ぴっちりとペニスを包み込んだラバースラックスはペニスの巨大化を待ちかねたかのように彼のペニスをギチギチに圧迫しはじめた。その瞬間、慎治は脳内に残存していたパーソナリティの燃え滓が下半身へ吸い上げられていくのを感じていた。
キンタマの中で精子がどんどん作られていく感覚がすると慎治は本能的な恐怖心を抱いた。頭を支配する紫色の劣情に苛まれる中、奥底の理性が『この精子は出してはいけない』と警告する。
しかし肉体的な本能、生殖の本能には塵芥の理性など通用しない。ゴムの圧迫と共に、作られた精子が次々と鈴口に向かって迫り上がっていくのを慎治は感じる。それをせき止めようと必死に息んだが精管を走る濁流は遺伝子の塊となって慎治のスラックスに注ぎ込まれた。
「うっふぅぅぅっ! ほっ、んくあっ、あぁぁぁぁっ」
股を広げながら盛大に射精する。ペニスが脈動しどぷどぷと尋常ではない量の精液をスラックスの中に注ぎ込んでいく。ペニスの先端は使用済みのコンドームのように排出された精液が溜まり球状に垂れ下がった。
喘ぎながら顔を隠す仮面を外そうとするが、まるでその体の一部になったかのように癒着しており、いくら力いっぱい引っ張っても皮がどこまでも伸びるだけで一向に外れる事はなかった。
それ以上に慎治の中では大きな変化が起きていた。それはすぐさま自身の口から放たれる事となる。
「あぁ……盛大に射精をしてしまいました……出してはいけないものだと感じていたのですが……
わ、私の口調が!? 元の言葉を話そうとしても口にする事ができません!」
慎治は先程の科白が自分の口から出た事に驚愕した。『イッちまった。出しちゃいけねぇもんだと思ってたのに』と言おうとしたつもりが、柔らかな口調、しかも全く話した事のない敬語が飛び出したからだ。
(ワケ分かんねぇ……こんなフザけた格好にしやがって! 今すぐ戻しやがれ!)
「理解が及びません……この様な姿にされては困ります! 直ちに元に戻してください!」
心の中で口汚い言葉を叫んでもその正装に相応しい言葉に変換されてしまう。その後も慎治は文句を言い続けたがその全てが丁寧な口調に直されて出てしまった。
「陰茎が熱を帯びはじめました……再び精巣の中で精液が作られているようですね……(チンコがあちぃ……またキンタマの中でザーメン作られてる……)」
大量の射精で冷めていた熱が慎治の中に再び灯りだす。それに応じてペニスがまた勃起して、また精子を作る。そして間もなく精液となってペニスから排出された。
「あぁ……私が、精液に……頭の中が鮮明になってゆくこの感覚……怖い……」
(間違いない。理解できる。“私”という要素そのものが精子に変換され精液となり排出されている……ああ、すでに私の中で元の言語を浮かべる事も叶わなくなっています……)
射精した後は元の口調を想像する事すらできなくなっていた。脳に記憶した単語からその言葉達がすっぽりと抜け落ちてしまったかのように、慎治は不良だった頃の口調をすっかり忘れてしまった。
「あぁ……こ、これは、今の私……」
ふと慎治は目の前を見る。彼の目の前は、周り全ては自らを映す鏡でできている。つまりはシルクハットを被りラバーのタキシードをした仮面の自分が目の前に立っている。慎治は今の自分を目にした瞬間、脳内にインプットしていた元の自分――不良姿の自分の鏡像に罅が入っていくのを感じた。同時にこの姿の自分が現在の自分なのだと強烈に自覚させられる。この自分ではない自分の姿が、素晴らしい自分自身であると、興奮を覚える姿であると。
「美しい……精に溶けた過去の私が愚かに思える程です……
あぁ、興奮が治まりません。もっと射精をしたい……私をもっと『完成』させたい!」
そう宣言した瞬間、慎治のペニスが一気に持ち上がった。まるで自分で勃起をコントロールしているかのようだった。そのまま自分の鏡像に向かって勃起したペニスを擦り付ける。一心不乱に鏡の中の自分と唇を重ね合わせ興奮を促す。
一瞬、ガクガクと膝が痙攣するとスラックスに再び精液が注ぎ込まれた。
「私、昔の私! これからの私には嘗ての自分自身はもう不要です! 全て精液となり排出されるのです! 過去も、思い出も、名前も、ひとつ残さず射精してしまいましょう!」
そんな彼の願いを叶えるように次々と『砂木慎治』が精液に変換され彼の中から抜け落ちていく。彼は親から授かった名前すらも精にして捨て去った。それどころか培ってきた『経験』ですら今の彼には邪魔なものだった。だからそれも精液にして吐き出した。
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